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連載Cocotame Series

AR/VR版『DAVID BOWIE is』

大回顧展「DAVID BOWIE is」デジタルコンテンツ発売! 立役者に聞くデジタルアーカイブ化の背景

2018.11.30

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世界中で大きな功績を残したデヴィッド・ボウイの大回顧展「DAVID BOWIE is」の日本展は、2017年1月8日から4月9日まで、品川・寺田倉庫G1ビルにて開催されたが、今回、その大回顧展は、デジタルコンテンツ化という新たなビジネスに発展、スマートフォン向けAR(拡張現実)アプリ「DAVID BOWIE is」(iOS・Android対応)として2019年1月8日(なんとデヴィッド・ボウイの誕生日!)に発売されるという。そこでCocotameでも特集を展開。

第1回は、同展覧会の日本展を招致し、さらにデジタルコンテンツ化のプロジェクトを立ち上げた、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SMEJ) 海外事業推進グループGマーケティングルーム チーフプロデューサー 兼 NYオフィス マネージャーの小沢暁子に話を聞いた。

展覧会から発展! デジタルコンテンツ化

──大回顧展「DAVID BOWIE is」は、英ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(以下、V&A)にて2013年に開催され、トータルで世界12都市を巡回し、200万人以上の観客動員数を記録しました。日本は、アジア唯一の開催国となり、SMEの招致は大きな実績となりましたね。

小沢:そうですね。もちろん、他のアジアの国々も手をあげていましたし、よく東京に持ってこられたなというのはありました。SMEJは、日本の総合エンタテインメント企業として、音楽関連のビジネスはもちろん、それ以外のエンタテインメントにまつわるあらゆるビジネスを多面的に展開しているので、会社が「トライアルとしてやってみたら?」という判断を出してくれたことは大きかったです。また、デヴィッド・ボウイ(以下、ボウイ)側もゆかりの深い日本での展覧会を最初から望んでいましたので。

 

──実際、展覧会の手応えは? 「デートで行ってみる!」なんて、コアファンのみならず一般層にも伝わっていたと思います。

小沢:そこはすごくうれしいことでした。私がイギリスのV&Aであの大回顧展を初めて観たとき、コアファンだけじゃなくても楽しめると一瞬で思いました。「この展覧会には音楽から期待できるすべてがある」って。

ヒット曲を聴きながら数百点に及ぶ衣装や映像、手書きの歌詞、絵画などを鑑賞できて、楽しいっていうシンプルさももちろんありましたが、生み出された作品の発想の元や、そこに至る過程が、あれだけ見事にまとめられている展覧会は今までなかった。裏側を見ると、普通はちょっとみっともないと思うようなことが、かっこいいに変わる瞬間があり、常識がひっくり返って、勇気づけられる。それは、ミュージシャンや芸術家、デザイナーはもちろん、さまざまな人たちにも刺激的だったと思うし、どんなバックグラウンドの人に対して何かしら肯定してくれるところがあると。

最終都市のNYの大回顧展では、小学校の課外授業で訪れていたボウイをまったく知らない子どもたちが、口々に「今日は人生で一番楽しい授業だった」と(笑)。大人ならば躊躇しかねないのですが、「パントマイムが超かっこいい。習いたい!」とか(笑)、何の偏見もなく素直にインスパイアされていて。そういう、刺激を受けるハイライトというか見どころが100人いたら100パターンある展覧会っていうのはすばらしいですよね。

©Eikon / G.Perticoni

©Eikon / G.Perticoni

——実際の大回顧展の功績や反響は?

小沢:12都市、200万人以上が観たというのは、それだけで大きな功績ですが、実際、あの大回顧展は「ゲームチャンジャー」とも言われています。関わった美術館も関わった人も、これに関わる以前と以後で必ず大きな変化があった。すべての美術館が当時の動員記録を塗り替えていて、開催実績がひとつのブランドになりました。アーティストの展覧会はそれまでは“ファン向けのお楽しみイベントの延長”的な位置付けで決して高くない評価だったのが、やり方を間違えなければアーティスト展覧会もこのレベルまで高められるということを、証明して見せました。

©Eikon / G.Perticoni

©Eikon / G.Perticoni

実際にこれ以降、アーティストの展覧会が非常に多く開催されるようになりました。ザ・ローリング・ストーンズやビョークも展覧会を開催し、ピンク・フロイドに至っては、ボウイの大回顧展と全く同じチームで同じ会場(V&A)にて展覧会を開催しました。今回の「DAVID BOWIE is」大回顧展のメイン・ビジュアルに使用されたブライアン・ダフィー(イギリス人・写真家)の写真は、それまではボウイの作品のなかでは“幾つかの有名な写真のうちのひとつ”でしたが、開催以降は世界中で彼の写真による展覧会ポスターが露出されたことにより、ボウイで最も有名な写真になりつつあります。振り返ると、あらゆる常識を覆す展覧会だったのと同時に、関わったほぼ全員が一段ステージを上げている、という。

——デジタルコンテンツでアーカイブ化しようと思ったきっかけは?

小沢:そもそもデヴィッド・ボウイ・アーカイヴ(※)の最も重要な役割は、貴重な品を人々に見せることではなくて、それらを後世に伝えるためにコンディションを最良に保ちつつ、できるだけ長く保存していくことです。例えばアメリカの美術館のルールでは、衣装を3カ月程度展示したら、クリーニングをして防虫して、温度と湿度を管理した場所で、最低8~10年は休ませる必要がある……とされています。こういう地道なことが後世に伝えるためには必要なんですね。いかに状態を良く、事実として残して、100年後200年後まで伝えていくか。

※デヴィッド・ボウイのコレクションを管理する財団

© Victoria and Albert Museum

今回、大回顧展「DAVID BOWIE is」は、5年間巡回し続けたこともあり、もう「展示する」ということに関しては限界に達していました。デヴィッド・ボウイ・アーカイヴとしては一日も早く手入れをして、この貴重な品を倉庫に仕舞う必要があったわけです。

一方、全世界12都市で200万人以上が観たと言っても、実際は展覧会のタイミングでその都市に居てチケットを買えたラッキーな人だけが見ている……とも言い換えられるので、このままこの大回顧展が終了してしまうのが個人的にもったいない、耐えられないって思いまして。さらに、ただ残すという発想ではなくて、せっかくならば「大回顧展そのものをプレザーブする?」という思いつきで。「VR/ARで再現する展覧会」というのは誰もやったことがないし、すばらしいのでは? いかがでしょう? というところから始まりました。

——ARアプリがVRに先行して発売されますが、紙の図録ともまったく違う発想でのアーカイブですよね。

小沢:1月8日にリリースされるスマホ向けARアプリは、スマホの画面越しに立体を体験することができる、図録とリアル体験の中間のようなものです。ARで楽しめる大きな要素としてひとつ大きいのは、この大回顧展で「音」が果たしていた役割の大きさがあります。ボウイは、何をやるにも、成功しようがしまいが関係なく、誰もやっていない新しいことを最初にトライするのが好きだったと思うので、「デジタルで再現する展覧会」もボウイは絶対喜ぶと思いました。

まったく新しいビジネスの創出

——デジタルの時代に、あらゆるジャンルでアーカイブ化は重視されているテーマですよね。

小沢:そうですね。伝えるために残さなきゃいけないのに、常に展示し続けることが叶わないという大きなジレンマがあるんです。私たちは大回顧展の最終地、NY・ブルックリンの展示が終わった後、7月16日から10日間ですべての展示物をスキャンしたのですが、展示物というのは確実に、「今日」、「今」が一番新しいんです。なので、こうして倉庫に戻る前の時点での一番新しい状態をデジタル化することで、アーカイブのジレンマだった見せ続けられないものを、リアルに極めて近い形で見せ続けられる。

しかも、それをパッケージにして、ひとりでも多くの人に届けることができるというのはうれしい限りです。「DAVID BOWIE is」は、ある種、最高地点に到達した展覧会ではありましたが、それも今の時代におけるひとつの解釈であって、20年後にまた違うボウイの展覧会が開催されるとしたら、それもまたデジタル化して残すといいし、最初にやっておくのは大きな意義があるかなと。

© Frank W Ockenfels 3

© Frank W Ockenfels 3

——可能性が広がりますね。

小沢:そうですね。特にアメリカは日本よりもVRが普及しています。まだまだゲームが主流のなか、ノンゲーム・コンテンツの可能性はより注目されてきており、私たちエンタテインメント業界が担う部分って大きいと思います。実際、病院で寝たきりの生活を余儀なくされる人たちでも、こういう展覧会をAR/VRで体験をできる時代が来ますよね。今回はとにかくスキャンするアイテム数が多く、絹や毛などの素材によってもスキャンにかかる時間も読めない。10日間という時間との戦いで、死ぬほど大変でしたけど、そのスキャンしたものを、今度は音と視覚と空間認知というところで組み立てて、新しいエンタテインメントを提案できるということには、すごく可能性を感じました。

——すごいことですよね。遠くない未来で、夢がある。

小沢:そう! まあとりあえず、なんでも言うだけはタダ! なんです(笑)。「展覧会を日本に持ってきたい!」とか「デジタルアーカイブ化したい」っていうのも、言うだけタダの精神でしたし。美術界のプロではないし、ARのプロでもないし、わからないことしかなかったですが、迷ったらその道のプロに聞けばいいし、いろんな人に「助けてください」って言うの、私は全然恥ずかしくないんです。

現在、一緒にプロジェクトを進めているのは、デヴィッド・ボウイ・アーカイヴなのですが、パートナーとして直接お仕事させていただけるのは、SMEJとしても大きな財産になると思います。まず最初は、聞くだけタダの精神で企画を持ちかけました。彼らには、コンセプトとしての「残すこと」「伝えること」というところに納得してもらえました。もちろん、誰もやったことがないことだから、お互いに手探りなのですが、デヴィッド・ボウイ・アーカイヴも「『DAVID BOWIE is』大回顧展を他の国は美術館が招致したけれど、日本は展覧会をやったことがない君たちSMEJが招致して、音楽の会社にもかかわらず成功させてるからね。任せても大丈夫だろう!」って信用してくれたのは何よりもうれしかったです。

——実際、進めていくにあたっては、さまざまな許諾取りなどで……大変だったのでは!?

小沢:大回顧展では衣装や展示物にボウイの曲を紐づけて見せる手法を取っていましたので、今回のARでも、ボウイの曲は数十曲使用しています。当然、ヒット曲はほぼ全部入っています。そういう音の許諾のほか、展示品にまつわるさまざまな許諾取りがあって、いろんなかたのお力添えをいただきました。

でも、今後、続くアーティストが自分の表現としてARやVRで何か作品などを表現していくときに、ある種の指標となるコンテンツになることは間違いないと思うので、この規模の曲数の原盤及び出版をAR/VRのなかで使用する許諾を頂けたというのは、今後の希望にもなるのかなと思います。

——このデジタルアーカイブ化は、各方面でとても意義が大きいんですね。

小沢:結果的にそうなっていったというのは大きいと思います。今回のデジタルアーカイブ化については、デヴィッド・ボウイ・アーカイヴとSMEJが共同で権利を持ちます。今後このデジタルコンテンツを全世界で発売する権利を日本の会社であるSMEJが永久的に握ったというのは、とても新しいし大きな意味をもつと思います。

例えば、ボウイの音源に関する販売権は、10年後には違うレーベルに移る可能性もあるかもしれませんが、このデジタルコンテンツに関しては、さらに未来に現れてくるであろう、ARやVRに取って代わるどんなデバイス、メディア用に開発したものでも、永久にSMEJがリリースできるということなので。

権利者と直接パートナーになるという新しいビジネスモデルですよね。今回のようなまったく違う体験を共有していくビジネスを経験したということは、今後、全然違う事業に取り組む際の指標になると思います。可能性としてはすごく大きいと思います。

ARアプリのリリースは1月8日に!

——VRに先行して、スマホ向けARアプリが1月8日に発売されますね。奇しくもデヴィッド・ボウイの誕生日という。

小沢:そうなんです。最初はホリデーシーズンに出す予定でいましたが、アプリなら1月がいいかもという話になって。レコード会社の常識だと、1月はビジネスが本当にスローなので避けるものなのですが、アプリ業界においては実はクリスマスプレゼントとしてギフトカードがものすごい量出回り、そして1月にそれを使う人が多いらしくて。えっ? 1月!? ……こうして、誕生日リリースになるのも運命なのかなって。日々、いろんなことが起きて、おもしろいですよね。

——ご本人も、すごく喜ぶでしょうね。

小沢:はい。面白がっていただけてたら嬉しいです(笑)

——それが、どんどん形になっているというのもおもしろくて?

小沢:ざっくり全体的に「たまたま」なんですけどね(笑)。でも、これってボウイが仕組んでいるのかもしれないとも思っています(笑)

——あはは。ステキな考え。

小沢:動かされていますよね。私は大きなマスタープランの一部で、リモートコントロールされているくらいな感じでしょうか。彼の意のままに動かされているというか(笑)。この展覧会自体、最初ロンドンではじまって、彼のゆかりの地、ドイツや日本をはじめ、いろんなところを巡回して、最終的にNYにたどり着きます。彼の人生と重なっているところがありますよね。彼はこの大回顧展の巡回中に、NYで亡くなりましたが、最終地のNY・ブルックリン展には、彼の最後のアルバム『★』(ブラックスター)の展示が追加されていて、亡くなる1カ月ちょっと前に描いたミュージックビデオのコンテもありました。

それは「Ashes To Ashes」のころのコンテとまったく同じく、最後の最後まで、自分の手で絵コンテを描いて自分の世界観に忠実に作品を作り上げていた姿勢が伝わってきて、それを見たときは、思わずぐっと来てしまいました。他にもNYならではとも言えるローリー・アンダーソンとのコラボ作品などを含め、100点くらい追加されていました。この大回顧展のプロジェクトが始まったころはお元気だったボウイが、星になっていった。最終地のNYでは、その「星」のパートも加えられて、美しく完結していて。そんな日本では公開できていない、展覧会の図録にも載せられていない部分も含めて、「完全版」をアーカイブとして残せるのも本当に良かった。

2016年1月8日、69回目の誕生日を迎えた日にリリースされたアルバム『★』(ブラックスター)

2016年1月8日、69回目の誕生日を迎えた日にリリースされたアルバム『★』(ブラックスター)

今回の大回顧展の招致〜デジタルコンテンツ化って、今のソニーミュージックグループでなければできなかったプロジェクトだと思います。大回顧展が完結し、このプロジェクトのすべてが行なわれたNYにたまたま駐在していたことも含め……私、今となってはこれをやるためにソニーミュージックに入ったような気すらしています(笑)。

『David Bowie is』アプリのダウンロードはこちら(新しいタブで開く)(iOS)
『David Bowie is』アプリのダウンロードはこちら(新しいタブで開く)(Android)

スマホ向けARアプリ「David Bowie is」のティザー映像公開!

スマホ向けARアプリ「David Bowie is」アプリ公式サイト(新しいタブで開く)にて、ティザー映像が公開。

(以下、テキスト訳)

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カルチャー史上最も影響力のあるアーティスト、デヴィッド・ボウイの生涯と作品を展示し、世界で記録的成功を収めた大回顧展「DAVID BOWIE is」がデジタル化され、永遠不滅の作品として甦る。

ボウイ72回目の誕生日であった日に、「David Bowie is」のスマホ向けAR(拡張現実)アプリ(iOS・Android対応)が発売されることが決定した。

高解像度で記録された400点以上の作品(ボウイの衣装、スケッチ、メモ、手書きの歌詞、ミュージックビデオ、絵画)などが、はっとするような臨場感あふれるAR(拡張現実)の環境で体験可能になったのだ。巡回展では展示されなかった数十点以上の作品もアプリのために追加されている。

「David Bowie is」スマホ向けARアプリでは、ショーケースのガラスや他の観客を気にすることなく、より身近な環境で展覧会の一部始終を鑑賞することができる。自分の自由なペースに合わせて鑑賞し、お気に入りの作品に直接飛ぶこともできるのだ。アプリ内のお気に入り作品をコレクションして保存することも可能だ。そう、このアイコニックな展覧会は永久にあなたのものとなるのだ。
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©Shintaro Yamanaka(Qsyum!)

連載AR/VR版『DAVID BOWIE is』

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