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連載Cocotame Series

ミュージアム~アートとエンタメが交差する場所

「だいたいぜんぶ展」で表現したかったこと

2019.03.13

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大好評を博した「スヌーピーミュージアム」跡地に1月11日より「ソニーミュージック六本木ミュージアム」が開館している。

Cocotameでは、5月12日まで開催されている「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」(以下、「だいたいぜんぶ展」)に注目。特集第2回、では、「ソニーミュージック六本木ミュージアム」の企画展第一弾「だいたいぜんぶ展」の企画を担うデザイン&グラフィックマガジン「MdN」の本信光理、乃木坂46のプロデューサー 今野義雄、菅雅子に企画展のコンセプトやアイデアについて語ってもらった。

    • 本信光理

      Motonobu Hikari

    • 今野義雄

      Konno Yoshio

      ソニー・ミュージックレーベルズ

    • 菅雅子

      Suga Masako

      ソニー・ミュージックエンタテインメント

 
――「だいたいぜんぶ展」開催に至るまでの経緯を教えていただきたいのですが、本展の企画者を務めている本信さんは、ご自身が編集長を務める「MdN 2015年4月号」(vol.252)にて乃木坂46のアートワーク特集を組んでいますね。

本信:自分はもともとアイドルに興味があったんですね。2001年にモーニング娘。や松浦亜弥にはまって、そこから気になるアイドルを見てきました。そういった中で、自分としては乃木坂46のCDジャケットやミュージックビデオ(以下、MV)、衣装などのクオリティは、グラフィックデザイン誌の編集者として驚くほど高いと思ったんです。一貫した美学のある芯の通ったアーティストだと思いました。そんなアイドルがやっと現れた! という気持ちがあったんですね。




 
そこで特集記事をやりたいと思ったのですが、ただコネクションがまったくなかった。CDジャケットを掲載する際にソニー・ミュージックコミュニケーションズ(SMC)のデザインチームに連絡をしたことがあるくらいでした。なので、SMCに「特集をやりたいんです」とオファーしたら今野さんにつないでくださったんです。それくらい付き合いのない存在だったので、「特集はむずかしい」と言われるかな、と思いながらプレゼンに行ったら、「どうぞ好きにやってください」っておっしゃっていただいて。

最初は30ページくらいの特集のつもりが、結果的に68ページにも渡って組ませていただきました。“アイドルのわりにすごい”とかではなく、芯の通ったアートワークをクリエイティブとして取り上げ、デザイナーや美大生などクリエイティブに関わる人たちにもしっかりと届けたいという想いで特集を組んだんです。

――今野さんは、乃木坂46のジャケットや映像、衣装、振り付けなど、視覚表現にフォーカスを当てた特集を組みたいというお話を受けて、どう感じましたか?

今野:乃木坂46は、デビュー当初からAKB48の公式ライバルグループであるというコンセプトの下、佇まいひとつ取ってもAKB48と違ったアプローチをするためにはどう打ち出せばいいのかということを徹底的に考えていました。「乃木坂46」というアーティストの匂い付けをどうやってするか。ひとつには、組むメディアさんによって色付けをしていくという方法があります。乃木坂46を、アイドルでありつつアーティスティックにも見せていきたい、そのためには、サブカルチャーを扱うメディアや、アート系の人たちからいいねって言ってもらえるようになったら理想的だな、というふうに思っていました。レコード会社の人間にとって“いろは”みたいな作業だと思うのですが、そういった部分は大切になってくるんです。

そんな中、「MdN」というグラフィックデザインの専門誌の方から「特集をさせてほしい」とお話をいただいたので、「これはまさかの奇跡が来た! 願っていたものがここから始まる!」と思いましたね。だから「好きにやってください」とお話したのですが、本信さんからすると業界ノリで「あ、いいよ~」みたいな感じに受け取られたのかもしれない(笑)。でも、それはそういう理由だったんです。

――実際に雑誌を発売した時の反響はどうでしたか。

本信:自由にクリエイティブに作らせてもらったので、アイドルファンにとっては地味になっていやしないかとやや不安でした。でも表紙をAmazonにアップした段階で、熱狂的に受け入れられて、発売前重版になりました。びっくりしましたね。自分は、乃木坂46はアートワークがすごいとは思っていましたが、実はグループとしての世の中でどれほど人気あるのかは恥ずかしながら把握してなかったんですね。

今野:まず、なかなか見ることができないデザインの裏側というか、いろんなクリエイターの思いを拾うという視点が面白かったですし、その頃にはもう、乃木坂46のファンは今度の作品は誰が監督するのかということを楽しめる文化が生まれていたので、ファンにとってもこれは楽しめるものになるだろうなと思っていました。

特集を見て本信さんのすごさを感じたのは、写真のセレクトやレイアウトです。衣装の写真1つ撮るにしても、気を遣っているか遣っていないかは一発でわかることなのですが、写真とレイアウトだけで、恐ろしいほどの気の遣いようが見えてきて。記事から伝わってくる熱量が、ファンの熱量に全然負けないなと思いましたね。そういった見せ方は、「だいたいぜんぶ展」にもつながってくるのですが。

――菅さんは乃木坂46にどのように関わっていたのですか?

菅:私はかつてレーベルに在籍していて、今野の部下として宣伝を担当していたのですが、ソニーミュージックグループの新規ビジネスを立ち上げる部門に異動して、大回顧展「DAVID BOWIE is」や「スヌーピーミュージアム」などが立ち上がる流れの中で、自分たちの財産であるIPを活用した展覧会は絶対面白いものになるって思っていました。そこで今野に「乃木坂46で展覧会を開催したら面白いと思うんですけど」って話したら、「いいからこれ読んで」って渡されたのが「MdN」だったんです。じっくり読んで、最初に思ったのは、「この人、けっこうクレイジーだな」ってことですね(笑)。

今野と、展覧会のプロデューサーを本信さんにお願いしようということになって、お会いしたのが今からちょうど1年前くらいです。

――本信さんは、雑誌の編集者であってキュレーターではないと思うのですが、乃木坂46の展覧会をやってほしい言われた時はどう思いましたか?

本信:今野さんこそクレイジーだなと思いました(笑)。一般的には実績のある展覧会プロデューサーに声をかけると思うんですが、今野さんは直感的に恐ろしい采配をされるんですよね。でも、今野さんの大胆な判断で自分に声をかけてもらったのであれば、応えなければと思いましたし……出来るかどうかはわかりませんでしたが、なにか「死ぬほど頑張ればどうにかなるんじゃないかな」って思って(笑)。

今野:自分の中では、やりたいことがおぼろげに見えているんですが、一番近い答えを具体的な形で作ってくれそうな人は、本信さんしか思い当たらなかったんです。ただ、結果的に秋元康先生によかったって言ってもらえるかどうか、そこが一番難しくハードルが高い。
本信さんと一緒にいくつかのアイデアを検討して、展示プランを提案しましたが、見事に玉砕。「あまり面白いと思わない」と言われてしまいました。そこで何度か練り直して、ようやく「本信さんの持ってきたアイデアとデザインは面白いと思う。彼に賭けてみるのはアリかもね」と言っていただけて。OKが出たんですね。

本信:自分としては、秋元先生には痛いところを突かれた感じでした。「あ、そこが欠けていたか」と気付かされましたし、プレゼンして伝わりづらい部分は一般の人にも伝わりづらいんだろうなと素直に反省しました。考えるきっかけになりましたね。

――その後はどのように進行していきましたか?

今野:ここまで来れば、あとは本信さんが夢中になるレベルのものができれば成功だろうと思っていたので、しばらくボールは本信さんに預け、「こういうことをやろうと思ってるんです」ということを待ちました。

本信:今野さんは、具体的なことを何も言わず、「とにかく本信さんが夢中になって、面白いと思うものをやってくれればいいですから」ということしかおっしゃらなかった。自分が面白いと思うものをやるって、自由度が高いからこそ一番プレッシャーですよね(笑)。でも、自分が最も結果を出せる時でもあると。そういうボールの放られ方でしたね。

――本信さんのイメージはどのようなものでしたか?

本信:みんなが見たことのないものや、驚くようなものを展示したいとは思いましたが、極端に言えば「メンバーの部屋を見せる」といったファン垂涎の切り口みたいな斬新さではなく、乃木坂46のクリエイティブ面で見せたいと思っていました。となると、ちょっと言い方が難しいんですけど、グループの誠実で丁寧なクリエイティブの足取りを見せることになり、展示物自体は派手なものにはならないだろうなと。なので、まずは面白いタイトルを考えようと思いました。僕の経験則で、内容に派手さがないときは、面白いタイトルを考えるしかないという。でも、そのタイトル付けで煮詰まってしまって……。

そこで、以前、「MdN」に在籍していた編集者・野口尚子さんに声をかけ、企画に入ってもらったんです。何度目かの打ち合わせで、彼女から「『乃木坂46だいたいぜんぶ展』とかどうですか?」って言われたんです。その瞬間「あ、もうそれで作れるわ」って思って。「だいたいぜんぶ展」っていうタイトルから紐づくように倉庫が思いつき、その倉庫の中にいろんなものが置いてあるというように、タイトルに合わせていろんなものを引き上げていくような作り方をしましたね。

――菅さんはそのアイデアを受けてどう感じました?

菅:それを受けて私たちは、下支えと言いますか、ジャケットや衣装の数とか、アートワーク全般の資料を確認していく作業に入って。それを突き合わせては、「タイトルこれどうでしょう?」「中身どうしていきましょう」「ちなみにジャケットはどれくらいあるんですか」など、何回かミーティングでさせてもらって、外枠から少しずつパート(ジャケット、MV、衣装)が埋まっていった感じですね。

今野:いつの時代もそうですけど、プレゼンされてパッと見た瞬間、ストライクゾーン入ってきちゃうものが本物ですよね。1時間くらいかけていろいろ話をされても、何やりたいんだかよくわからないという打ち合わせもあるんですけど(笑)、「『だいたいぜんぶ展』でいこうと思います」と言われた瞬間に、“これはもうできてるな”と思いましたし、「大丈夫ですね。あとは好きなようにやってください」って感じでしたね。

話は逸れるかもしれませんが、このサイトはソニーミュージックの制作マンも見てくれていると思うので、少しお話させて下さい。ゼロから物を作る時、特に立ち上がりの時期はすごくデリケートだと思うんですよね。この時の本信さんは、いろいろなアイデアを考えては取捨選択をしていて、産みの苦しみの時期だったりするんです。そのことを僕としては理解しているつもりなので、自分なりに思うことがいっぱいあったとしても、まずは本信さんの中である程度のものを組み立てるまで見守るべきだという意識が強くて。企画の軸ができて、それが本信さんの中である程度形になった段階になれば、こちらから「ここはこうだと思う。ああだと思う」という話をしても大丈夫なんです。

駆け出しの頃はそこを間違えてしまうことが多々あります。クリエイターが一番悩んでいるデリケートな時期に「これは無理です」「それをやられると困ります」と下手に口を出すとクリエイターをつぶしてしまうことになりかねない。物事を作るには順番があるんですね。立ち上がりの段階では、クリエイターにはじっくりと向き合ってもらって、納得するものができるまでは、我々の立場にいる人間はそれを見守る。その次の段階で、一般の人の感覚になって、冷静に見直してみましょうっていう作業がある。そういうことを若手制作マンには学んでもらえたら、と思っています。これは、おじさんからのアドバイスです(笑)。

――あはははは。本信さんはどう感じてました?

本信:今野さんにも菅さんにも、あんまり突かれませんでしたが、さすがに具体的なアイデアを出さないとまずいなっていう段階になって(笑)。それも見切り発車的に「これでどうですか」というものではなく、「面白いね」って顔が明るくなってもらえるレベルのものを出さなければと。

何年かに1回、いよいよ何も出ない時があるんですけど、そういう時って死のうかなって思うような追い詰められ方をするんですよね(笑)。いや、極端に言えばですよ! でも久々にそういう追い込まれ方をしました。

――タイトルとコンセプトが決まり、遠かったゴールは見えてきましたか?

本信:いや、最後まで見えなかったですよね。明らかに自分の能力外のことをやっているから、最後まで見えないまま当日の朝までやっていましたね。

菅:会社として、乃木坂46というそれなりに大きな影響力のあるIPを活用した大きなビジネスをするわけなので、絶対の失敗はできないという恐怖感はそれなりに感じていましたし、逆にやるからには絶対成功させたいとも思っていました。でも、何をもって成功とするのかはすごく難しいですよね。展覧会始まって2ヵ月が経ちましたが、入場者数なのか、物販の売上なのか、正直よくわからないんですよね。ただひとつ、日々、TwitterやInstagramでのユーザーからのリアルな感想などを見ていると、やってよかったんだなっていうのはあります。

今野:私が思う「だいたいぜんぶ展」の成功の見極めは2つ。内容的にきちんとクリエイティブなことをやっているかどうか。あとは、それで利益を出せているかどうか。意外とよくありがちなのが、がんばったけど赤字……でもまぁ「ナイスファイト!」みたいな。そういうの、よくあるじゃないですか(笑)。

菅:確かに。ありますね(笑)。

今野:今回は、エンタテインメントとしてもまったく新しい方向性をひとつ作ることができましたし、ビジネス的にも、菅を含め、相当食らいついて成立させようと頑張ったおかげで、結果的に大成功となりました。これは大きい自信になるんじゃないでしょうか。

――エンタメの新しい方向性としては、視覚表現を多方面から生で体験できるという素晴らしい形になっていましたね。

本信:展覧会というのは、場合によっては展示だけでなく、グッズもしっかり楽しめて、カフェに来てくれた人には見た目も味も満足してもらうという、隅々まで行き渡るサービスをトータルで体験してもらう場として、総力戦なんだということに気づきました。とくに「ソニーミュージック六本木ミュージアム」はそういう場所なんだと改めて思いましたね。

菅:一番印象的だったのは、メンバーが「行きたい」って言ってくれたことですね。三期生は一期生二期生が作ってきた7年近い歴史を、もっと言えば乃木坂46のロゴが決まったヒストリーも知らないんですよね。だから、ミュージアムに来て、食い入るように見た後に、「先輩たちが築いてきてくれたものを私たちも受け継げるように頑張ろうって思った」と言葉にして発してくれた時は、ビジネスの成功とは違う軸で、やってよかったなって思いました。

歌や踊り、握手会とは違う部分でも、発信できるものを作ってきたんだっていうことを知ってもらうこともすごく大事だし、この先メンバーが卒業して、ひとりの女優なのか、モデルなのか、アーティストになった時に、やっぱり自分たちが歩いてきた乃木坂46という歴史に誇りを持ってほしいなと思いますね。

本信:4ヵ月の会期中、定期的に展示を替えて、衣装やフードについても話題性のあるものを提供して、いろいろな体験をしていただけるようにしていきたいですね。

今野:ストックとフローのものをうまく混ぜていかないとダメだっていうことですよね。それは、展覧会に限らず、我々のエンタテインメントすべてそうかもしれない。

――今後の展開予定も聞かせてください。

菅:長年パッケージビジネスを主としてきた会社がそんなに簡単に新規事業を立ち上げるなんて、難しいって思っていたんですが、今回、乃木坂46というコンテンツを使って展覧会を開いてみて、自分たちとは違う視点で見てくださる方々とお仕事をすることができて、同じコンテンツでもさまざまな見方やとらえ方があるってことがわかって、すごく新鮮でしたね。近くにいるとどうしても保守的になってしまうところがあることにも気がついて。こういったビジネスを通して新しい方々とお仕事をさせていただきたいなってすごく思いますね。

本信:それにしても、自分のような部外者に対して、よくこんなに助けてくれるというか、支えてくださるな、と感じました。「こういうことがやりたいんですよ」って言った時に、菅さんを中心にソニーミュージックのさまざまな人がすごい勢いで調整してくださったりして。ソニーミュージックの実働部隊の底力のすごさを目の当たりにしましたし、展覧会を開催する状況を整えてくれたことに本当に助けられました。

今野:今回、SMCには相当助けてもらいましたね。また、これまで各クリエイターの方々が乃木坂46の作品を作る際、申し訳ないことに僕が納得できず、膨大な再提出案をお願いしていることに関して、この場を借りてお詫びします。

本信:あ、その膨大な案出しの結果、展示できるものがたくさん存在しているので、それに関しては僕が御礼申し上げます(笑)。

菅:(笑)。たしかにそうですね。私からもお詫びとお礼を申し上げます(笑)。

ソニーミュージック六本木ミュージアムオフィシャルサイトはコチラ(新しいタブで開く)

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