イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

音楽カルチャーを紡ぐ

奥田民生「カンタンカンタビレ(アナログ盤)」の生産現場に潜入! レコードの生産工程とは

2018.09.26

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

ソニーミュージックグループでは2018年1月より約29年ぶりにアナログレコードの自社生産を復活。東京・乃木坂にあるソニー・ミュージックスタジオに「ラッカー盤カッティングマシン」を、静岡にあるソニーDADCジャパン大井川工場に「スタンパー製造用メッキ設備」と「アナログレコード用のプレス機」をそれぞれ導入し、生産を開始している。

今回の特集では、マスター音源ができあがった後、アナログレコードが完成するまでの「1.ラッカー盤制作」、「2.スタンパー作成」、「3.プレス~セット作業」という3つの生産工程を、9月26日に発売される奥田民生のニューアルバム「カンタンカンタビレ(アナログ盤)」の製造現場でチェックしていこう。

さらに、「ラッカー盤制作」では立ち合いにきていた奥田民生本人と一緒に追うことに。アナログレコード製造現場の最前線をお届けしよう。

1.ラッカー盤制作

7月某日、ソニー・ミュージックスタジオにて、奥田民生「カンタンカンタビレ(アナログ盤)」のラッカー盤制作が行なわれ、奥田民生(以下、奥田)が立ち会いに訪れた。

ラッカー盤はアルミの板に速乾性の高い塗料を均等に塗りつけ、そこにサファイヤやルビーを付けた針で溝を彫りつけて音を刻むもので、アナログレコード制作における一番最初の作業となる。

ソニー・ミュージックスタジオに導入されたラッカー盤カッティングマシン

ソニー・ミュージックスタジオに導入されたラッカー盤カッティングマシン

レコーディングされたマスター音源を溝に刻んでいく作業のことをカッティングと呼び、カッティングされたラッカー盤は静岡のDADCジャパンへと運ばれて、マスターを作成する際の原盤となる。

しかし、アルミ板に塗料を吹き付けただけのラッカー盤は非常に柔らかいため、再生するたびに削れてしまい、音質が劣化してしまうので、何度も再生することはできない。

*実際にカッティングをしている様子

今回、ソニー・ミュージックスタジオの堀内寿哉がカッティングを行ない、奥田からでる様々な質問に答えながら、作業を進めていった。

奥田:アナログレコードの自社生産を復活させるために、カッティングエンジニアに指名されたんですよね。カッティング技術を習得するのにどれくらい時間がかかりましたか?

堀内:ソニーミュージックのOBのカッティングエンジニアの方に教わったのですが、3年はかかると言われました。でも、カッティングマシンも導入され、リリースも決まりつつあったので、会社からは3カ月でマスターしろと言われて(笑)。必死になって覚えました。

奥田:レコード針はダイヤモンドを使っているものが多いですが、カッティングの針もダイヤモンドなんですか?

堀内:昔はそうでしたが、カッティングの針をダイヤモンドで作る技術が途絶えてしまって、現在はサファイアかルビーを使うようになっています。ここではサファイアの針でカッティングしています。

奥田:レコード針は製造できても、カッティングの針はダメなんですね。

堀内:ダイヤモンドを加工する技術自体はあるのですが、カッティング針にするには特殊な処理が必要でそれが難しいらしく、世界中を探しても見つからなくて、サファイアかルビーを代用して使っています。

奥田:ラッカー盤自体はソニーミュージックで作っているんですか?

堀内:いえ、軽井沢にある会社が製造していて、そこから仕入れたものを使っています。世界的にもラッカー盤を製造する会社は減っていて、軽井沢の1社と、海外に2社あるだけになっています。

奥田:このカッティングマシンは何台ぐらいあるんですか?

堀内:日本では5、6台ぐらいしか残っていないと思います。これの後継モデルも2、3台ぐらいしかないと思うので、非常に貴重なものですね。

奥田:無理をさせずに大切に使わないとですね。カッティングマシンがなければプレス機も動かせないわけですし、レコード自体が作れなくなる。

堀内:はい、マシンも換えがないですが、パーツも同様で、例えばこのカッターヘッドのコイルを焼き切ってしまうと修理にものすごく時間がかかりますし、費用もびっくりするほどかかるんです。細心の注意を払いながら大切に使っています。

奥田:ちなみにカセットデッキをつなげて、その音源でカッティングできたりもするんですかね?

堀内:やろうと思えばできます。カセットテープのダイレクトカッティングですね。

奥田:できるかもしれない!ならば、いつかやってみたいですね(笑)。

カッティングの現場を見学した奥田に感想を聞いた。

「とにかく、壊れないでくれという一心ですね。今回の『カンタンカンタビレ』はアルバム自体がアナログ録音なんです。オープンリールで録音して、ノーマルのカセットテープに落としたものがマスター音源なので、それをレコードにカッティングしてもらっているというのは何とも無駄なような気もしますが(笑)。どのように仕上がってくるかはわかりませんが、楽しみでしかないです。音の味わい深さは出そうですね。

今回、ソニーミュージックでカッティングマシンとプレス機を導入して一貫生産できるようになったことで、選択肢が増えたことはアーティストにとってすごくありがたいです。戻ってきてくれたことに感謝します。職人芸が必要な技術が継承されていくというのは良いものですよね。堀内さんをはじめ、静岡工場の方々も気楽に扱えない機械の操作などいろいろ大変だと思いますが、どうかよろしくお願いいたします!」

カンタンカンタビレとは?

アナログレコーディング最盛期に大活躍した名機で、現在は入手困難という“8トラックオープンリールテープレコーダー「TEAC 33-8」”、“アナログミキサー「TASCAM M-208」”を使用して行う、宅録スタイルのDIYレコーディングプロジェクト。

ギター・ベース・ボーカル・コーラスなどの録音作業から、音のミックス作業までのレコーディング工程が、奥田の作業部屋(へロスタジオ)で行われており、そのレコーディングの模様のみならず、奥田自らが視聴者へ向け、作業について丁寧に解説している様子などがYouTube(新しいタブで開く)で公開中。希少なレコーディング機材が映像の随所に登場し、アナログレコーディングの楽しさを伝えており、完成した楽曲はミックス作業の終了後に最速配信している。

機材提供協力:GIBSON、TEAC、TASCAM、ONKYO、KRK、BOSS、HOSHINO GAKKI CO.,LTD.

2.スタンパー作成

ソニー・ミュージックスタジオで作られたラッカー盤は、静岡にあるソニーDADCジャパン大井川工場に届けられ、アナログレコードをプレスする際の金型とも言うべきスタンパーの作成が行なわれる。

ソニーDADCジャパン大井川工場

ソニーDADCジャパン大井川工場

スタンパーを作成するために、まずはメタルマスターを作成する。溝が彫られたラッカー盤を転写してできるのがメタルマスターだが、凹状態のラッカー盤が反転するので、メタルマスターは凸状態になる。しかし、ラッカー盤に約0.1μmの薄さで銀を塗装し、さらにニッケルメッキを塗布して定着させたメタルマスターは酸化しやすいので大量のプレスには向いていない。

そこでさらに転写した凹状態のメタルマザーを作成。プレスするには凸状態ではないといけないので、メタルマザーをさらに転写したものがスタンパーとなる。どの作業もホコリなどが付着しないようにクリーンルームで作業が行なわれる。

スタンパーの作成が行なわれるクリーンルーム 

スタンパーの作成が行なわれるクリーンルーム

メタルマスター

メタルマスター


出来上がったスタンパーの裏面を平らにする為に、専用の機器で研磨する。



そして、決められたサイズのセンターホールにするために余分な部分を打ち抜く。


余分に長くなった外周部分をカットし、その後内外周をフォーミング処理(内外周を少し反らせる)し、スタンパーが完成。


3.プレス~ジャケットセット作業

スタンパーが完成すると、いよいよプレスの工程に入る。

こちらがソニーDADCジャパンに導入されているアナログレコード用のプレス機。取材した週にもう1台導入されて、現在は2台稼働している。

アナログレコードの原材料は、ペレット状(球状の塊のこと)になった塩化ビニール材で、そのペレットを高温で熱して溶かして、大きな塊(ケーキ)を作成する。


【プレス工程①】
熱したA面とB面のスタンパーの間に“ケーキ”と“レーベル(ラベル)”が設置される。

【プレス工程②】
上下から圧縮プレスを行ない、同時にスタンパーの溝が円盤状に形成された“ケーキ”に複写され、“レーベル”も一緒に圧縮プレスされて貼られる。

*プレス工程①②動画Ver.

【プレス工程③】
プレスした際にはみ出た余分な部分をカッターでカット。

【プレス工程④】
決められた枚数ごとに溝が彫られていない盤を挟み、冷却してアナログレコードの状態を安定させるために一定の時間、保管される。

完成したアナログレコードは1枚ずつ手作業でのセット作業にうつる。

【セット作業①】
1枚1枚、目視でキズなどがないか確認される。

【セット作業②】
プレス機が1時間稼働するごとに、プレスされたアナログレコードを任意で抜き取り、ノイズがないかを試聴してチェック。万が一、ノイズがあった場合はその箇所の時間を記入して報告し、スタンパーにノイズの原因が無いかを確認する。

【セット作業③】
検査を終えたアナログレコードを、1枚1枚手作業でビニール袋に入れていく。


【セット作業④】
ビニール袋に入ったアナログレコードをジャケットにセットしていく。どちらの作業もホコリや異物などが付着しないように細心の注意を払って行なわれる。

【セット作業④】
アナログレコードをセットしたジャケットを外袋に入れていく。


【セット作業⑤】
外袋のシールも位置が変わらないように1枚1枚丁寧に貼られる。

商品として完成!

【セット作業⑥】
歪みなどが発生しないように頑丈に作られた特注のダンボールに入れて出荷される。


そして、発売日前日の9月25日(火)店頭に並び発売日を迎えた。

タワーレコード新宿店

また、タワーレコード新宿店では、普段『ヘロスタジオ』にいる『ヘロ・ディギンさん』の特設展示が行なわれていた。

「ラッカー盤カッティングマシン」「スタンパー製造用メッキ設備」「アナログレコード用のプレス機」の再導入によって、ソニーミュージックで一貫生産できるようになったアナログレコード。今回の見学で強く感じたのは音への飽くなきこだわりと徹底した品質管理だ。プレス1時間ごとに音質のチェックを行なうなど、手間と丁寧なものづくりが日本のレコードの確かな品質と音質を物語っており、価格面でもむしろリーズナブルに感じられる。日本のアナログレコードの価値を再び世界へとアピールすることになっていきそうだ。

9月26日(水)発売 セルフカバー&レコーディング企画アルバム
「カンタンカンタビレ」

奥田民生「カンタンカンタビレ」CD
【CD】
紙ジャケ仕様 / ヘロさんのぬりえ入り
¥3,000(税抜)RCMR-0008
購入はこちら(新しいタブで開く)

奥田民生「カンタンカンタビレ」アナログ盤(12inch)

【アナログ(LP)盤】
完全生産限定盤
ヘロさんのぬりえ入り/ プレイパスつき
¥3,500(税抜)RCMR-4003
購入はこちら(新しいタブで開く)

奥田民生「カンタンカンタビレ」カセットテープ

【カセットテープ】
完全生産限定盤
プレイパスつき
¥3,500(税抜)RCMR-4004
購入はこちら(新しいタブで開く)


<収録曲>

01.トキオドライブ(アルバムバージョン)
02.俺の車(アルバムバージョン)
03.モグラライク(アルバムバージョン)
04.悪い月(アルバムバージョン)
05.フィルモア最初の日(アルバムバージョン)
06.プールにて(アルバムバージョン)
07.BEAT (アルバムバージョン)
08.嵐の海(アルバムバージョン)
09.SUNNYで!(アルバムバージョン)
10.スロウサーフィン(アルバムバージョン)
11.R.G.W. (アルバムバージョン)

奥田民生オフィシャルサイト(新しいタブで開く)
RCMR オフィシャルサイト(新しいタブで開く)
RCMR Twitter(新しいタブで開く)
RCMR Facebook(新しいタブで開く)
RCMR Instagram(新しいタブで開く)
RCMR YouTube Channel(新しいタブで開く)

連載音楽カルチャーを紡ぐ

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!