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レントゲン写真がレコードに! 冷戦時代の必死の表現を伝える「BONE MUSIC展」開催

4月27日〜5月12日、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)が展覧会「BONE MUSIC展 ~僕らはレコードを聴きたかった~」(以下、BONE MUSIC展)を東京・渋谷BA-TSU ART GALLERYにて開催する。文化も国の検閲下にあった冷戦時代の旧ソビエト社会主義共和国連邦(以下、ソビエト 現ロシア連邦)、音楽を愛してやまない人々の間には、禁止された音楽をレントゲン写真に録音したレコードが出回っていた。

今回、ボーン・レコードに詳しい編集者の都築響一(写真:右)と、同展覧会を招聘したSMEのナタリア・ウスチノワ(写真:左 以下、ナタリア)に、抑圧のなかで生まれたボーン・レコードのストーリー、そしてその魅力を聞いた。

レントゲン写真を使ったボーン・レコードとは?

ボーン・レコードは肋骨レコードとも呼ばれ、レントゲン写真(X線フィルム)に音楽を刻んだソノシートのレコード盤のこと。1940年代から1960年代の冷戦時代、ソビエトでは音楽を含む全てのカルチャーが国家によって検閲され、コントロールされていた。

禁止されたのは、アメリカのジャズ、ロックンロール、そして一部のロシア音楽。それらの音楽を求める人々は、病院で不要となったレントゲン写真に自作のカッティング・マシーンを使って録音したボーン・レコードを取引していた。当局に見つかれば、刑務所行きという過酷な環境のもと、アンダーグラウンドのカルチャー、ボーン・ミュージックが誕生したのだ。




──「BONE MUSIC展」を招聘したナタリアさんはロシアのご出身です。ボーン・レコードとの出会いを教えてください。

ナタリア:2017年、モスクワの現代美術館「ガレージ」で開催されていた「BONE MUSIC展」が出会いです。冷戦時代に全カルチャーが検閲されていたことは知っていましたが、音楽ファンが大きなリスクを負って、レントゲン写真を使って作ったレコードで音楽を聴いていたことをそのとき初めて知って、それが展覧会として伝えられていることにすごく感動しました。ただ、一番びっくりしたことは、私たちと同じ年代の友達がこの事実を「知らない」ということでした。その後、日本で働くことになり、SMEに入社しましたが、日本にも「BONE MUSIC展」のすばらしさを伝えたいと思い、今回こうして実現に至りました。

ボーン・レコード 過去、海外での展示風景

2017年、ロシア・モスクワ「Garage Museum of Contemporary Art」

──都築さんはどういうきっかけで知ったのでしょうか。

都築:十数年前だったかな? NHKでドキュメンタリー番組があったんですよ。サックス奏者の坂田明さんがモスクワに行って肋骨レコード(ボーン・レコード)を探す番組です。当時はまだネットが普及していなくて、現地のラジオ局で「日本から肋骨レコードを探している人がいます」と放送してもらって、見つけた人のところに聴きに行くわけですよ。僕も興味を持ちましたが、日本では当然見つからず。その後、サンクトペテルブルク在住の方がやっている通販サイトを見つけて、買ったのが最初ですね。そこからモスクワに遊びに行って、フリーマーケットで探したり。今はコレクションとしていろんなところから出品されて、ビンテージとして高く売られたりしているものもあります。

ナタリア:そうですね。フリーマーケットやeBayとかで売られているのを見かけます。

アンダーグラウンドシーンから生まれた音楽の力

ボーン・レコード
ボーン・レコード

──ボーン・レコードのどこに魅力を感じましたか。

都築:その存在感ですよね。写っているのが「骨」っていう。体の一番奥から出てくる音楽とでも言いますか。あとはソビエト時代には、アレクサンドル・ソルジェニーツィンのような文学をはじめ、さまざまな作品が今でいう小冊子とかジン(自主制作の出版物)のようなもので発表されていたというアンダーグラウンドシーンがあったんですよね。地下発行物を集めた展覧会がドイツのフランクフルトで開催されていて感動したことがありましたが、音楽にもこういう形が存在するということも興味深いですし、そういうローカルなカルチャーが外国の人によって発見されるのも良い。日本の浮世絵だってそうですしね。

ナタリア:そうですね。「BONE MUSIC展」のキュレーターであるスティーヴン・コーツさんもイギリス人なんですよ。

スティーヴン・コーツ(「BONE MUSIC展」キュレーター)

都築:日本にも発禁(発売禁止)の音楽というものはありますし、昔から状況はどこも同じということですね。

──検閲下から生まれたカルチャーは、世界的に存在しますしね。

都築:ただね、今、こっそり発禁されているCDを売りましたっていうのとでは比べものにならないほど、冷戦時代のソビエトでは罰が重かったんです。特に作っている人たちは、見つかったら逮捕されて何年も収容所送りみたいな、大変な処罰を受けていたそうです。今の時代、そこまでして聴きたい音楽があるかっていうと、僕らには多分「ない」。そういうところから生まれた音楽の力ってすごいなって思います。

ナタリア:人々の思いこそ、すばらしいですね。

都築:そうなんですよ。しかも、音質が悪いわけですよ。音質とか言っている場合ではなく、本当にこっそり聴いていた。そこがまた良いですよね。すごく良いコンディションで、すごく良い音質の音楽を聴くことだけがベストの体験ではないんですよ。聴きたいと思う気持ちのほうが大事だとすごく思わされますよね。


ボーン・レコード


ザ・ビートルズ、T.REX、淡谷のり子のボーン・レコードも

──実際、どういう音楽が録音されていたのでしょうか?

都築:レコードを密輸して、そこからソノシートの要領でレントゲン写真に直接カッティングするわけですが、いろんなものがありますよ。ロシアのポピュラーソングから、ザ・ビートルズもあるし、サイトで見つけた一番新しいものではT.REXもありました。

──都築さんのボーン・レコードのコレクションにはどんな音楽が?

都築:僕のはね、ロシアのポピュラーミュージックや淡谷のり子とかもありますよ。

──え! 日本の音楽も録音されていたんですね。

都築:そうなんですよ。多分、ダンスミュージックということで禁止されたものですよね。昔は、淡谷さんもマンボとかポルカを歌っていたので。今はもう作られていないから、ロシアでも貴重になって、探している人たちがたくさんいるんじゃない?

ナタリア:そうですね。あるコレクターは5,000枚くらい持っているらしいです。

都築:それはすごいなー。

ナタリア:ソビエトは今のロシアだけではなく、いろんな国の連邦でしたので、東ヨーロッパのいろいろな国でボーン・レコードが作られていて、各地に存在するようですね。

都築:エストニアとかバルト三国でもね。普通にレコード会社で作ることができた西ヨーロッパとは違いますよね。

──ちなみに、「これは良い感じの骨だね」といった視点もあるんでしょうか。

都築:あるある。良い感じの骨とか、頭蓋骨は高いとか。状態が良いと高いとかね。あとはね、僕が聞いた話では偽物も多かったみたいですよ。やっぱり、商売人がいるから、「ビートルズの新譜が出ました」って喜んで買うと、最初の5秒しか入っていないとか、全然違うものが入っていたとか。裏ビデオというから買ってみたら相撲の取り組みがずっと録画されていて大人を知るっていう、そういうようなことが結構あったと聞いてます(笑)。

今の時代に届けるべきメッセージとは?

──実際の展覧会はどんな様子ですか?

ナタリア:ボーン・レコードのコレクションを展示していますが、会場のBGMはボーン・レコードの音を流していますので、お客さんにはその雰囲気を感じてもらえると思います。

──ボーン・レコードにはマテリアルとしての魅力もありますね。

都築:「BONE MUSIC展」に出ているボーン・レコードは、めちゃくちゃかっこ良いものなんですけど、大したことのないものもいっぱいあるの。決してかっこ良いから作ったわけではなくて、手に入る一番安い材料がレントゲン写真だったから使っていただけなの。本人たちはかっこ良さを求めて作っているわけではないというのは重要なところですね。

ナタリア:1950年代のソビエトの病院には、いらないレントゲン写真がいっぱい存在したんですよね。

都築:処分に困っていたんだよね。当時のフィルムって可燃性だったので、管理も大変だったと思うんですよね。病院としては引き取ってもらえてOKですし、やむを得ずこうなったものが、50年くらい経って、豊かな世の中から見てみると「かっこ良いじゃん」となっていたわけです。だから、これを今、再現しても意味が違うんですよ。強調したいのは、必要から生まれた美しさがあるというところ。作り手に「かっこ良いものを作ろう」という意識が何もなかったところがすばらしいんです。

ナタリア:そこが、すごくロマンチックなストーリーですよね。

都築:こういう機会に若い子たちにも考えてもらいたいし、刺激になってくれたらいいと思いますよね。今「レントゲン写真に~」って、コピーするってことじゃないんです。その思想のほうに刺激を受けてもらいたいということですよね。

ナタリア:そうですね。日本では、アナログレコードがトレンドになっていますし、ボーン・レコードは若者たちにも、おもしろく響くと思っています。私が、この展覧会を見て、日本にもってきたいと思ったきっかけは、そこも大きかったですね。

──今の時代にも通じるメッセージがあるからこそ。

都築:そうね。でも、わからないじゃないですか。ソビエトのように表立った規制はないけれど、今が良い時代だとは限らないですよね。そういうときに、何ができるかと考えるきっかけになると思いますね。だから、この展覧会をレコード会社が主催しているというのもね、刺激的なことなんじゃないかなと。音楽業界で忙しくしている人たちにとっては、考える良い機会になったらいいなと。音楽業界の人にこそ見てほしいって思いますよね。

ナタリア:私がよく考えるのは、明日起きて、好きな音楽を聴くことができなくなったら、どういう風に生活が変わるんだろうって。こういうストーリーに興味がわきます。

都築:いろいろ考えられますよね。

──それは、自分を見つめ直すことでもありますね。

都築:本当にそう。だから、何か刺激になると良いよね。表面的に真似をすることよりも、今を考えるきっかけになればと思います。だってさ、音楽を持っているだけで捕まるってすごいよ。でも、今でもそういう聴いちゃいけない音楽がある国っていっぱいあるわけじゃない。そういうなかから、必死の表現って生まれるんですよ。そういうことを考えるきっかけになるんじゃないかな。日本で「めっちゃ良い曲作ったけど、レコード会社に見向きもされない」とか怒っていることがいかにぬるま湯か、良い機材がないとか、ギターがビンテージじゃないとか言ってるのがいかにかっこ悪いかってことですよ!

ボーン・レコード Photography: Xray Audio Project / Paul Heartfield
展覧会風景の写真 Photo: Ivan Erofeev © Garage Museum of Contemporary Art
その他撮影:山本佳代子

「BONE MUSIC展 ~僕らはレコードを聴きたかった~」

【開催期間】
2019年4月27日(土)〜 2019年5月12日(日)

【会場】
BA-TSU ART GALLERY
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-11-5

【開館時間】
11:00〜20:00 ※最終入場は閉館の30分前
但し、5月2日(木)はイベント「BONE MUSIC展 パネルディスカッション」(本展キュレーターのスティーヴン・コーツ、ブロードキャスターのピーター・バラカン、DJのLicaxxxが出演)開催するため17:00閉館。

入場料、イベントの詳細は公式サイトより
公式サイト

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