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大回顧展「DAVID BOWIE is」デジタルコンテンツ発売! NY制作スタジオに聞く「VR/ARで再現する展覧会」【特集第2回】

特集第2回は、デヴィッド・ボウイの大回顧展「DAVID BOWIE is」のデジタルコンテンツを制作するプロダクションスタジオPlaneta(プラネタ)へ。

NY、イースト・ヴィレッジにあるオフィスを訪れ、同社のファウンダーであるニック・デンジャーフィールド(以下、ニック)にインタビューを試みた。

ボウイの住んだ街で生まれるクリエイティブ

――Planetaのスタジオはいつオープンしたんでしょうか。

ニック:6年前に、このイースト・ヴィレッジにオープンしました。ちょうど2012年の秋、NYで「ハリケーン・サンディ」という災害が起きたころで。当時はソーホーに住んでいたんですけど、この2ブロック先くらいまで、完全に浸水してしまっていたから、走ってここを見に来たりしたんです。

――大変な時期だったんですね。イースト・ヴィレッジは、もともとアーティストやクリエイターが多く住んでいる地区なのでしょうか?

ニック:そうですね。イースト・ヴィレッジはダウンタウンで、60年代後半からクリエイターが多く住み始めました。それ以降、80年代はもちろん、今も多くのクリエイターやアーティストが住んでいます。

ソーホーも同じようにアーティストが多く住んでいた地域なんだけど、どんどん不動産の価値が上がってしまって、みんな自分のロフトとか売って引っ越してしまっているんです。それで、今は高所得者が住む地域になってしまった。でも、このあたりの地区は、行政のルールとしても買収から守られていて、家賃もあまり釣りあげられることがなく、昔の契約のまま住めたりするから、昔ながらのアーティストがそのまま住んでいるし、良いバランスなんじゃないかな。ここは食べ物もおいしいし、住みやすいと思います。なんでもそろうスーパーマーケットがあって、納豆とか、日本食も充実しているんですよ。

――Planetaは、どのようなお仕事に取り組まれているんでしょうか。

ニック:この会社を始める前に、別のチームで似たようなことをやっていたんですけど、NYに移ってきて、初めて開発したのが携帯型デジタルオーディオプレイヤーの「PLAYBUTTON(プレイボタン)」(2011年発売)です。日本だと安室奈美恵さんや浜崎あゆみさんのアルバムがヴィレッジヴァンガードなどでも売られていて、流行りました。

――ああ!「PLAYBUTTON」ですか。缶バッジにアルバム1枚分の音源が入っているんですよね。バッジとして洋服やバッグなどに付けられて、イヤホンをさして聴くっていう。

ニック:そう。このガジェットは、私たちが何をやっているかを象徴しているんです。「基本的な考え方は、とてもシンプル」っていうね。「PLAYBUTTON」は、当時CDというものがだんだんなくなってきていて、さらに、iTunesなどの普及もあって、自分で曲をセレクトしたり、順番を決めたりする「プレイリスト」のような感覚が出てきていたときだったんですが、アーティストはアルバムをひとつの作品として作っていて、「この曲順で聴いてほしい」という思いがある。そういうアルバムのコンセプトを尊重して、曲をスキップはできるけど、中身も曲順も自分では変えられない仕様で、フィジカルとしての形態も保っているという、おもしろい発想なんです。

――「アーティストの意図をどう正しく伝えるか」というような?

ニック:まさしく。今、消費者側はいろんなチョイスがすでにあって、いろんなことが手軽に手に入れられるようになっているから、僕は、音楽や芸術家の立場から考えて「どう正しく伝えるか?」「手軽にどう届けるか?」ということを考えているんです。Planetaは「テクノロジー×アート」「テクノロジー×音楽」のように、テクノロジーと結びつけたプロダクトをたくさん作ってきているけど、最先端の技術を使ってやることが重要ではなくて、消費者レベルでも興味が持てる、どう有効なテクノロジーかのほうが大事で。それにはもちろん、優れた技術者が必要なんだけど、自分にはテクニカルなバックグラウンドはないし、デザインもできないし、エンジニアでもないんです。プロデューサーとして、その道の優秀な人材と一緒にさまざまなプロジェクトを進めていて、それは「作品を作る」ように、エンドレスに楽しいことなんです。

――大回顧展「DAVID BOWIE is」のデジタルコンテンツ化プロジェクトを進めているソニー・ミュージックエンタテインメントの小沢暁子さんは、このアプリの開発をPlanetaに依頼したのは、そうした芸術に対する考え方と、そのものの良さを一番引き出すセンスが抜群だからだとおっしゃっていました。

ニック:あとはね、暁子がこのスタジオのわりと近所に住んでるっていうのもポイントだったんじゃないかな(笑)。しかも、デヴィッド・ボウイ・アーカイヴ(デヴィッド・ボウイのコレクションを管理する財団)の責任者、サンディも本当にすぐそこに住んでいるんですよ。

――プロジェクトの主要メンバーが、全員近所に住んでいるってすごい……すべてこの界隈で起きているんですね。

ニック:だから、暁子も朝からスタジオに来てくれたり、僕らが夜中まで仕事していたり、外で話していたりすると、サンディがのぞいていくんだ。「調子どお?」とか「遅くまでお仕事偉いね」って。細かい確認やアプルーバルをとるのも、すぐに来てもらえて助かってます。

新たな試み、展覧会のデジタルコンテンツ化!

――ニックさんは、大回顧展「DAVID BOWIE is」には?

ニック:ブルックリンで。もちろん、楽しんでも観ているんですけど、アプリ開発の下調べも含め、何度も観ています。もしかしたら、誰よりも観ているかも(笑)。

――どの作品が一番良かったですか。

ニック:彼の絵ですね。コンサートやミュージックビデオなど、表に出ているものは何度も観てきたけれど、これまで公開されなかった、彼の手から実際に生まれた絵を近い距離で観ることができた。その絵から彼の内面が出ているように感じて、彼の本当の姿というのを垣間見た気がしたんだ。彼が亡くなる1カ月前に描いた、最後の2ページ、そこが一番でしたね。

――『★』(ブラックスター)のセクションですよね。東京では公開されていないんですよね。

ニック:そこがベスト。とても美しかった。東京の展覧会では展示物に合わせて展示空間を作り上げていたので、次の空間に進むと次の世界が広がっていくようなインパクトがあったと思うんですよね。ブルックリンの展覧会は、もともとあるアートスペース(美術館)でやっているから、部屋の大きさも順路も決まっていて、東京のような展開のインパクトは少なかったとしても、新たに追加されたものが『★』(ブラックスター)以外にも100点以上あって、そして何より、彼の絵にインパクトがあった。

――すばらしい展覧会をデジタル化するにあたって、どのように取り組んだのでしょうか。今回、VRに先行して、スマートフォン(以下、スマホ)向けAR(拡張現実)アプリが発売されますね。

ニック:実はAR化って難しくて。あの大規模な大回顧展を小さなスクリーンでどう見せるかというのはとてもチャレンジングなことなんです。例えば、展覧会の最後に、ボウイの映像に包まれて、あたかもライブ・パフォーマンスを体験しているような感覚になる「ショウ・モーメント」のセクションがあって、VR化する場合はありのままの空間を再現することで解決できるんだけど、ARの場合はスマホの小さなスクリーンで、実際、ボウイの映像に囲まれるみたいな体験を再現することは不可能だから、全て作り変えなければならないということなんです。もちろん、絵や衣装のセクションで画面をクローズアップして、ディテールを近い距離で見て知識欲を満たすような場合に、ARは最適なんですけどね。ARとVRにはそれぞれ違った良さがあるってことかなと。

――技術スタッフはどのようなチームなんでしょうか?

ニック:それぞれのプロフェッショナルがいるんですが、それぞれクリエイティブな人たちが多くて、全員の意見を取り入れてやっています。

(前列左より)アビー、ローラ、ニック、ジョー、ケルシー、ケンスケ (後列左より)ジミ、セス、ダン

(前列左より)アビー、ローラ、ニック、ジョー、ケルシー、ケンスケ
(後列左より)ジミ、セス、ダン

ローラは才能があって、ダンはアイデアが満載で、ディスカッションをしていると強烈にいろいろ言ってくるんだ。セスは、舞台オペラのステージデザインに関わってきて、そのライティングを経験しているので、今回のプロジェクトだと、一つひとつの展示品をスキャンしていく際に「どういう照明でスキャンしていくか」ってリアリティを追及するには大事な部分だったから、このチームに参加してもらった。

すごく大変だったけど、照明はステージデザインに近い考えかたも取り入れている。こういうARアプリで表現されていない新しいアイデアにたくさんチャレンジして、失敗したらまた新たなチャレンジ。それを何度も繰り返してきました。

――ボウイ本人の表現自体が、多岐にわたっていて、全てにチャレンジングでしたしね。

ニック:そうですね。彼こそベンチャー精神がある人だった。だからこそ、今回のようなAR/VRで展覧会を再現するという新しい試みが似合うよね。題材がボウイということもあるから、ものすごくチャレンジングな上、プレッシャーもあって。どうおもしろく見せるかという部分と正しく伝えなければならないという部分のせめぎ合いだった。さらに全てが初めての試みだから、みんなが手探りだったんです。

――いくらデジタル化の技術があっても、どうアウトプットするか、ですよね。そこにアナログな舞台照明の考え方が生かされているのがおもしろいですね。そこにセンスが宿るというか。

ニック:そうですね。AR/VRを開発していく場合、平面のスクリーンというものを介して、見たり読んだりしていくわけですけど、AR/VRの場合、立体を感じたり、空間を取り戻すことなんですね。スマホで写真を見るときって、バックライトが必ずあるから、空間があることによって、光をどう当てるかによって写真の見え方が変わってしまうんです。それは小さなことのようで、すごく大きな違いが出てくる。それが450アイテム以上あるっていう!

ボウイに通じる、心を動かす表現

――そういう繊細な部分こそ、ダイレクトに心に響いてくる部分かもしれないですね。今回のように、今まで誰もやったとことがない展覧会のデジタルコンテンツ化もそうですが、ボウイが愛したNYのメディアアートシーンはどういうことが起きていますか?

ニック:新しい試みとしては、NYより日本のほうが進んでいるように思います。YCAM(山口情報芸術センター)とかもあるしね。NYは、ギャラリーがどういうものを欲しているかというところでアートマーケットが成立しているし、ニューメディアの居場所はない状態。アーティスト個人ともどんどんかけ離れている感じがするんですよね。だから、個人的な興味としては、ネット上でいろんな国の個人が、自分の寝室とかでちまちま作ったアートが、世界中に広がっていく、そういう状況のほうがおもしろいと思っています。

2013年に「to be」という若者たちが自分たちのアートを好きなように投稿できるプラットフォームを作ったんですけど、そこでは、15、6歳の子たちがいろんなニューメディアを使って、やりたいことにすぐ手をつけて大胆に表現しているんです。ムービーでもコラージュでも愛くるしくて心を動かされる。彼ら自身が出ていて、とてもすばらしいんだ。

――なるほど。ボウイの絵にも通じますね。人は、アーティスト自身が垣間見られる表現に心が動かされるっていう。

ニック:そういう作品こそ、美しいと思うんだ!

『David Bowie is』アプリのダウンロードはこちら(iOS)
『David Bowie is』アプリのダウンロードはこちら(Android)

スマホ向けARアプリ「David Bowie is」のティザー映像公開!

スマホ向けARアプリ「David Bowie is」アプリ公式サイトにて、ティザー映像が公開。

(以下、テキスト訳)

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カルチャー史上最も影響力のあるアーティスト、デヴィッド・ボウイの生涯と作品を展示し、世界で記録的成功を収めた大回顧展「DAVID BOWIE is」がデジタル化され、永遠不滅の作品として甦る。

ボウイ72回目の誕生日であった日に、「David Bowie is」のスマホ向けAR(拡張現実)アプリ(iOS・Android対応)が発売されることが決定した。

高解像度で記録された400点以上の作品(ボウイの衣装、スケッチ、メモ、手書きの歌詞、ミュージックビデオ、絵画)などが、はっとするような臨場感あふれるAR(拡張現実)の環境で体験可能になったのだ。巡回展では展示されなかった数十点以上の作品もアプリのために追加されている。

「David Bowie is」スマホ向けARアプリでは、ショーケースのガラスや他の観客を気にすることなく、より身近な環境で展覧会の一部始終を鑑賞することができる。自分の自由なペースに合わせて鑑賞し、お気に入りの作品に直接飛ぶこともできるのだ。アプリ内のお気に入り作品をコレクションして保存することも可能だ。そう、このアイコニックな展覧会は永久にあなたのものとなるのだ。
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