特集

日本の運営部隊が提供するジャパンクオリティとは?【特集第6回】

特集第5回と6回では、イベント開催の裏側に迫る。前回は主催者のAniplex of America(アニプレックス・オブ・アメリカ、以下、AOA)インタビューをお届けしたが、今回第6回は『Fate/Grand Order U.S.A Tour 2019 in Los Angeles』(以下、『FGO U.S.A Tour 2019』)の開催を日本から支えたソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の松岡賢太郎にインタビューを行ない、運営・施工など制作について話を聞いた。

SMSが持つ日本のイベント制作力をアメリカへアウトバウンド!

──『FGO U.S.A Tour 2019』におけるSMSの役割を教えてください。

松岡:SMSの役割は、イベントを主催したAOAから依頼を受けて、本イベント全体の運営・施工、ステージイベントの制作・進行の全体管理、パンフレットやステッカーなど来場者への配布物のデザインと印刷などを担うことです。

AOAと最初にお仕事をしたのは、2017年の『Anime Expo(※)』(以下、『AX』)からで、当時は施工を請けおっておらず、『Fate/Grand Order(以下、FGO)』のコーナーが中心ではありましたがそのほかも含め運営のサポート、ブースのデザインと管理業務をお手伝いさせていただいておりました。その後はAOAが北米を中心に出展する様々なイベントブースにおいて『FGO』コーナーの運営・制作を日本からサポートさせていただいています。今回の『FGO U.S.A Tour 2019』では、施工も含めてサポートする中で、AOAの意向をどうすれば実現できるのか、予算の制限がある中で一緒にアイデアを出し、考えながらプロジェクトを進めていきました。
※毎年7月4日の週末にアメリカ・ロサンゼルスで4日間開催される、北米最大の日本アニメイベント。昨年は延べ35万人を動員した。

──SMSからはどのようなアイデアを提案しましたか?

松岡:私自身約4年前から日本の『FGO』関連イベントを担当し、毎年3月に東京ビッグサイトで行なわれる『AnimeJapan』や、日本の単独イベントなどで制作や施工を行なってきました。そこで培ってきた制作ノウハウや感覚を活かしつつ、北米初の単独イベントということを念頭に置きながらアイデアを提案していきました。

中でも最もAOAと意見が一致したのは、アメリカ独自の色を出すということです。『FGO Fes.』は過去に日本と中国で行なわれていますが、それを完全になぞるのではなく、アメリカならではの制作物や企画内容を持ち込んではどうかと提案して、ディスカッションしました。1Fの入口に展示した第1部完結時の宝具展開の場面再現、13Fの入口付近に展示した坂田金時(ライダー)のバイクは、世界初の展示物です。




入口付近のインパクトはとても重要です。この2つは、日本や中国のイベントでも作ったことがなく、アメリカ独自の大きな目玉展示物となりました。キービジュアルも含めて『FGO U.S.A Tour 2019』のオリジナリティはしっかり出せたと思います。

初の北米単独イベントは約半年の制作期間で作り上げた!

──イベント開催に向けて、どのように進めていったのでしょう。

松岡:2018年7月にAOAからの正式なオファーがあり、8月からプロジェクトの定例会議がスタートしました。AOAのオフィスはロサンゼルス、SMSは日本なので、時差が16時間(サマータイム時。標準時は17時間)ある中、時間を調整しながらテレビ会議を行なっていきましたが、10月に会場がCalifornia Market Center(カリフォルニア・マーケットセンター、以下、CMC)に決まったので、そこから図面を引き、会場内の配置決めていきました。11月にはSMSの施工チーム、運営チーム、ステージチームでロサンゼルスまでロケハンに行って、会場の担当者や現地LAの運営協力会社とも打ち合わせをし、一気に作業が進んでいきました。本番直前の1月中旬に再度ロサンゼルスに飛び、最終確認を行ないました。

──制作物の進行について、具体的にはどのような流れだったのでしょう?

松岡:日本のイベントの場合は、1ヵ月前に制作物が完成すれば間に合いますが、日本で制作したものをアメリカに輸送しようとすると、2ヵ月半から3ヵ月前には完成させなければなりません。物によって違ったのですが、今回は工程を2パターンに分けました。一つは、会場で配っていたパンフレットで、SMSが日本でデザインをして、AOAがアメリカで入稿しました。もう一つは、来場者特典のステッカーで、制作から入稿までSMSが日本で行ない、完成品をアメリカに輸送しました。




『FGO』は制作物ひとつひとつに作品の世界観やストーリーを盛り込めないかとこだわりをもっているため、『FGO』プロジェクトとして、納得のいくクオリティラインを超える為には、日本の印刷技術でなければ作れないものもあります。また、アメリカの場合、データを入稿してから物が出来上がるまでのリードタイムが非常に長い場合があります。この辺りの条件を加味しながら、アメリカと日本で入稿するものを棲み分けました。

──2回もロケハンに行っていますが、やはり現場をみることは重要なのでしょうか。

松岡:かなり重要ですね。現場を見ないとわからないことはたくさんあります。電気工事をどこからやった方が良いか、Wi-Fiはどこから飛んでいるか、搬入経路はどうなっているかなど、確認する点は多岐に渡ります。CMCはファッション用の商業施設で、普段から様々な業者が搬入を行なっていると聞いていました。今回はイベントが始まる2日前に制作物を持ち込みました。2日前ですと、CMCに入居している他の企業も通常営業を行なっているので調整が必要だったのですが、これも事前にロケハンに行っていたからこそ気づけたことです。無事搬入することができました。

また、今回アメリカへ運搬した制作物は一旦ラスベガスの工場に入れ、本番と同じように組み立て上げたのですが、1月の最後のロケハン時に、その工場にも立ち寄りました。クオリティに問題がないか、この制作物で施工に問題がないかなどの確認するためですが、事前に本番と同じものを組み立て上げるのも、アメリカ独特の文化だと感じました。

文化の違いがもたらすイベント開催への高いハードル

──SMSは日本において制作・施工・運営などを含めてイベントのエキスパートかと思いますが、アメリカでの開催において準備段階で苦労したところはありますか?

松岡:アメリカでのイベント開催には、前述したように2017年の「AX」から関わらせていただいており、それから2年近くが経ちますが、日本とアメリカの文化の違いがイベント運営に大きな影響をもたらしているということを徐々に理解し始めています。

アメリカでは週末はしっかり休みますし、長期間のホリデーも取ります。日本人の働き方を想定していては上手くいかない部分が多くあり、そこはかなり気を遣いました。また、アメリカはイベントスタッフの人件費が非常に高く、予算を圧迫するので、制約がある中でどうやってクオリティ管理していくか、AOAと何度もディスカッションを行なう必要がありました。

そして言語の壁もあります。英語がわからず通訳を介して話をしていると、自分の説明の細かいニュアンスがどこまで伝わっているのかさえわかりません。あとは、メートルとインチの表記の違いや、アメリカ独特の資材など、例を挙げればキリがありません。ただ、今回の単独イベントの準備を通じて、ようやくどう進めていけばいいかの全体的な雰囲気を掴んできました。『FGO U.S.A Tour 2019』は今年まだ続きますし、今回の経験は次回以降に上手く活かしていきたいなと思っています。

入場口や物販コーナーで想定外のことが続出!

──イベントを運営する上での苦難はありましたか?

松岡:アメリカのイベントでは入場口に金属探知機を設置します。日本のイベントではチケットをもぎるだけで入場するので、1人5秒で入場させることが出来ます。アメリカでは電子チケットがかなり浸透していますが、それでもその後に金属探知機でのボディチェックを行いますので、想定以上に時間がかかることがイベントをスタートしてわかりました。1人30秒時間を要すると、1分間でお客さんを2人しか入れ込むことが出来ません。初日のプレナイトは3時間で1,100人を入場させる必要がありましたが、入場ゲートと金属探知機の数を踏まえてもこれは想定外でした。

また、イベントにおける重要な収益源である物販コーナーでも想定外のことが起きました。SMSではこれまで、アメリカのイベントで物販コーナーの運営に携わったことはなかったのですが、「AX」のAOAブースで物販を購入されたお客様のSNSでの反応を見ていたので今回、物販コーナーの運営補助を申し出ました。

初日は、1,100名中980名ほどが物販コーナーで何らかの商品を購入してくださったのですが、オペレーションは欲しいものをオーダーシートに記入をして、速やかに決済を行なうという日本方式を取り入れました。ところがアメリカではレジ前に来て、スタッフに商品の詳細を確認するファンの方が多くいらっしゃるのです。全てのお客様の購入までに想定以上に時間がかかってしまいました。

アメリカ人は日本人と比べて待つことに寛容な文化があるとは言え、長時間お客様をお待たせするわけにはいきません。初日が終わった後に、私を含めて現地にいたSMSチームで緊急のミーティングを行ない、夜通しで修正案を出しました。修正案が上手く機能し、翌日は非常にスムーズに運営ができ、アメリカでのイベント運営のコツを掴んだ気がしました。

──実際どのような修正を行なったのですか?

松岡:物販に関しては整理券を発行し、指定の時間に購入してもらう形に変更しました。待つことを苦にしないという文化的な違いはあるにせよ、ここはジャパンクオリティのサービス提供をしようと話し合った結果、入場口の金属探知機でのボディチェックもスムーズに進み、2日目はお客様を待たせることなく運営することができました。

アメリカのファンに向けて必要なカスタマイズとは

──日本とアメリカの『FGO』ファンに違いを感じるところはありましたか?

松岡:日本の『FGO』ファンは、展示物だけの写真を撮るのが好きですが、アメリカのファンは自分も写真に写り込みますね。あと、体験型のアトラクションが好きという印象です。SMSのMITENE(ミテネ)と言う、デジタルサイネージ機能にARを組み込んだ技術を使ったフォトスポットはかなり人気でした。

ボードゲームの『Fate/Grand Order Duel -collection figure-』も大人気で、ゲームプレイに必要なフィギュアの販売もかなり好調でした。

──今後『FGO U.S.A Tour 2019』をどのようにしていきたいか、イメージはありますか?

松岡:AOAや『FGO』チームと定例会で話をしているのは、MITENE(ミテネ)のコーナーをもっと目立たせようとか、宝具体験コーナーの展示規模や方法を調整しようとか、今回のロサンゼルスの単独イベントで得た知見を活かしてブース制作に取り組んでいます。

──最後にSMSとして『FGO U.S.A Tour 2019』への抱負を一言お願いします。

松岡:SMSがイベント制作に入る意味は、アメリカ人が好むジャパンクオリティを提供するためだと思っています。アメリカの文化を理解して、アメリカの『FGO』ファンに寄り添いながら、日本発信の『FGO』の魅力をしっかりと具現化していきたいと考えています。海外のイベント制作・運営・施工に携わることができるのは非常に貴重な機会だと思っているので、ご依頼いただいている以上のクオリティで実施運営できるべく取り組んでいきます。

『FGO U.S.A Tour 2019』の旅路はまだまだ続く

『FGO U.S.A Tour 2019』として、アメリカで行なわれるアニメイベント内で開催される予定。
北米でも勢いを増す『Fate』の今後の展開からますます目が離せない。

今後のスケジュール

7月4日-7月7日:Anime Expo(カリフォルニア州ロサンゼルス)
10月31日-11月3日:Anime Weekend Atlanta(ジョージア州アトランタ)
11月15日-11月17日:Anime NYC(ニューヨーク州ニューヨーク)

「Fate/Grand Order U.S.A. Tour 2019」オフィシャルサイト

©TYPE-MOON / FGO PROJECT ©TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT

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