イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

READING HIGHHYPNAGOGIA~ヒプナゴギア~

山寺宏一、大塚明夫、林原めぐみが夢の競演! 音楽朗読劇『HYPNAGOGIA』公演初日をレポート

2018.07.20

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

2018年7月7日(土)~8日(日)、東京・六本木のBillboard Live TOKYOにて、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)が、演劇人・藤沢文翁と立ち上げた音楽朗読劇「READING HIGH」の第2弾公演『HYPNAGOGIA〜ヒプナゴギア〜』が開催された。

山寺宏一、大塚明夫、林原めぐみが夢と現(うつつ)の狭間で織りなす、ミステリアスでファンタジックなストーリー。その初日、夜公演の模様をお伝えする。

Billboard Live TOKYOで音楽朗読劇の幕があがる

海外ミュージシャンや国内アーティストのスペシャルライブが行なわれることでおなじみのBillboard Live TOKYOが、朗読劇の会場になるのはこの日が初めて。そして音楽朗読劇「READING HIGH」のシリーズでも、“プレミアム”と位置付けられた本公演のチケットは、高額であったにも関わらず即完売。幕開け前のステージには、声優界を代表する名優たち――山寺宏一、大塚明夫、林原めぐみの登場を待ちわびる観客の静かな期待感にあふれていた。

そして会場の入り口には、昨年上演された「READING HIGH」第1弾『Homunculus~ホムンクルス~』と同様に、「READING HIGH」公式アプリで読み取ると、会場限定のお楽しみコンテンツがダウンロードできるQRコードも用意。今回は、藤沢文翁が演劇を学んでいたロンドンで『HYPNAGOGIA〜ヒプナゴギア〜』が初演された時、会場となったパブシアター写真と藤沢の思い出を綴ったエッセイ、山寺による本作の紹介ボイスが観客にプレゼントされた。

会場内に入ると、いつもはミュージシャンが居並ぶステージ中央に、鍵盤を重ね乗せたグランドピアノに寄り添うように、もう1台のキーボードとチェロが置かれているのが見える。その楽器類を取り囲むように、赤いラグの上に豪奢なチェストとクラシカルなテーブルが3つ配置されている。場内に流れているのは、静かに続く雨音。

この雨音による音響演出は、『Homunculus~ホムンクルス~』にも登場した、作・演出を手がける劇作家・藤沢文翁の音楽朗読劇ではおなじみ。上演前から、会場に足を踏み入れた観客を、日常から切り離されながらもどこか日常と地続きである異空間=劇空間へと誘う巧みな技だ。時折響く雷鳴が、これから始まる物語へのプロローグを奏でているようにも思える。

“音楽”朗読劇にふさわしい音楽と音響による演出はさらに続く。開演まで10分を残す頃、ステージにいつの間にか姿を表わしていたふたりの演奏家――本シリーズの音楽監督であり作曲家、チェリストの村中俊之とピアニストのtatsuyaがジャジーなメロディーを奏で始め、山寺宏一と林原めぐみのふたりが舞台裏から生でおもてなしのトークをスタートする。

この『HYPNAGOGIA〜ヒプナゴギア〜』が初めて演じられたのは小さなパブシアター。そして物語の主人公であるピアニストは、場末のバーでピアノを弾いていた過去を持つ男。ジャズバーの雰囲気を感じさせる音楽とトークによる演出は、そんな本作の裏に流れるストーリーを、開演前からも味わわせてくれる、粋なはからいだったのだろうか。

そして村中とtatsuyaが改めてチューニングを始め、壮大なテーマ曲「HYPNAGOGIA THEME」を響かせると、重厚な教会の鐘の音とともに『HYPNAGOGIA〜ヒプナゴギア〜』の物語は、忽然と姿を現わすのだった。

村中俊之
tatsuya

3人の声優とふたりの音楽家が紡ぎ出すステージ

軍医として都を離れていた医者(大塚明夫)が、終戦から3年後に都に戻り、偶然足を運んだコンサートホール。そこで医者は、行方不明と思われていた幼なじみであり親友の男(山寺宏一)が、巷で大人気のピアニストとしてステージに現われたことに驚き、声を掛ける。ピアニストは3年前、街外れのバーで天才的なピアノの腕と作曲の才能を突如開花させ、今ではホールを連日満員にする人気者となっていたと聞いた医者は、思いがけない再会と親友の大成功を喜びながらも、彼の体の様子がおかしいことに気づく。体は痩せ、顔色も悪い。そして、ピアニストを我が子のように可愛がってくれた、亡き医者の父の思い出話に花を咲かせながらも、どこかよそよそしい態度を見せるピアニストは、医者の前で突然、倒れてしまう。

医者は、元は教会だった自分の診療所にピアニストを担ぎ込んで看病し、診察をすると、彼がまるで多臓器不全にでもなったかのように衰弱し、死に近づいているようだと分かる。彼の「天才」と「衰弱」の関係を問い詰める医者。自分はどこも悪くないと言い張っていたピアニストだが、彼を心から心配する親友に、ある事実を告白する。

それは……ちょうど3年前、才能のなさゆえピアニストになる夢を絶たれ、何日も眠れぬなかで、ある日、夢にひとりの女(林原めぐみ)が現われたこと。その女が彼にピアノを教え、夢の中で美しい曲を数々作り、ピアニストはその曲をバーで弾いたことから爆発的な人気を得て、天才ピアニストとしてもてはやされるようになったこと。

そして、今も毎晩、ピアニストは夢の中の女に恋し、会いに行き続けているということ……。そんな衝撃的な告白から、医者とピアニストの現在とピアニストが女と過ごす夢の中を行き来するという、謎に満ちたストーリーは、切なさに満ちたクライマックスに向かい加速していく――。

たった3人の役者の声の演技のみで紡がれる不思議な物語は、朗読劇でありながらも様々な情景を観客の前にありありと浮かび上がらせ、魂を揺さぶる。それは、声優界きっての実力派である山寺、大塚、林原の見事な演技力あってこその匠の技だ。

ピアニスト役の山寺は、軍人一家に生まれながら軍人にはなれなかったことをコンプレックスとして抱えている、音楽を愛するピュアで心やさしい男を、若々しさに満ちた演技で魅せてくれた。林原演じる夢の中の女とのやりとりで見せる、彼女への好意を隠さずに子どもっぽくはしゃぐ姿は、恋する青年そのもの。だが、ひとたび夢から覚めると、夢に埋没すればするほど死が迫るという現実に苦悩するシリアスな男が顔を出す。そのギャップは、物語が進めば進むほど深くなり、山寺は夢の中の女への想いの強さと人間の弱さを、見事な感情の起伏であぶり出していた。

山寺宏一

物語の語り部でもある医者役の大塚は、夢と現の狭間で揺れ動く親友を、現実へと引き戻そうとする人間味あふれる男をどっしりとした演技で熱演。ピアニストの告白を初めて聞いた瞬間は夢の中の出来事を信じず、夢の中の女を頑なに否定する医者だが、次第にピアニストの心をさらっていく女に嫉妬心を抱き、激しく憎むようになる。そんな感情の変化を、大塚は切々と形にしていく。夢の中の女にのめりこんでいくピアニストに、あふれる感情を剥き出しに涙ながらに説得する姿には、心打たれずにはいられなかった。時折覗かせる、オチャメで自信家な一面も、じつに魅力的だ。

大塚明夫

そして、ピアニストを夢中にさせる、夢の中の女を演じた林原も、じつにキュートでチャーミング。彼女が本当は何者なのかは、医者によって明らかにされるのだが、そこに至るまでの序盤、林原は、まるで幻のような儚い演技で謎めいた存在としてピアニストを翻弄。だが、ピアニストとのやりとりが深まっていくと、次第にわがままで口が悪いがけっして憎めない、人間らしい顔を覗かせ、愛らしさを見せつける。医者は最後に、ピアニストを夢の中の女と引き離すため、ある巧妙な罠を張り巡らすのだが……林原の素晴らしい演技によって、幻ではなく(観客にとっても)たしかな存在となっていた彼女の切なさ、ピアニストの切なさが、クライマックスでは深く胸に響いた。

林原めぐみ

それらの素晴らしい演技を、より心打つものとして演出していたのが、村中俊之とtatsuyaが奏でる音楽の数々である。脚本と完全に連動して作曲され、演奏された『HYPNAGOGIA〜ヒプナゴギア〜』の音楽は、役者の呼吸とも見事にシンクロしていたのが印象的だ。映画のフィルムスコアリングのごとく、キャラクターの不安、安堵などの心情変化や場面の転換を予感させながら進んでいく音楽と物語のアンサンブルは、観客の感情もナチュラルにのめり込ませる絶妙な効果を生んでいた。そして今回、最大の聴きどころとなったのは、村中がチェロを離れ、tatsuyaとふたりで繰り広げた激しいピアノ連弾だ。ふたりのテクニカルな音の掛け合いは、圧倒的な迫力で、鳥肌が立つほどの興奮を味わせてくれた。

藤沢文翁作品の持ち味のひとつは、巧妙に伏線を張り巡らした見事な作劇と、聞き手に違和感を感じさせずに、心地良く流れていく練り込まれた台詞たち。そして、劇空間に身を置く喜びや驚きを存分に堪能できるファンタジー性にあると感じる。彼の劇作家としての原点である『HYPNAGOGIA〜ヒプナゴギア〜』は処女作でありながら、それら藤沢朗読劇の魅力のすべてが、ぎっしりと詰まった完成度の高い作品だ。

このレビューでは、描かれた物語の半分程度しか紹介していない。あっと驚き、なるほどと納得し、切なさが胸を打つ物語の結末と素晴らしい音楽は、本公演中に2018年11月28日のリリースが発表された、公演音声CD『音楽朗読劇「HYPNAGOGIA~ヒプナゴギア~」』【デラックス・エディション(完全生産限定盤/通常盤)】でぜひ体感してもらいたい。

READING HIGH
音楽朗読劇『HYPNAGOGIA~ヒプナゴギア~』CD

発売日:11月28日
レーベル:SACRA MUSIC

【デラックス・エディション(完全生産限定盤)】
価格:9,720円(税込)
■CD(2枚組)
■レプリカ台本
■スペシャルブック
■スペシャルパッケージ

【通常盤】
価格:4,320円(税込)

©READING HIGH

連載READING HIGHHYPNAGOGIA~ヒプナゴギア~

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!