連載

甲田まひる――ジャズ・ピアニストとファッショニスタ、ふたつの顔を持つ16歳の実像<前編>【連載第4回】

今後さらなる注目を集めるであろう、気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「Artist Profile(アーティストプロファイル)」。連載第4回は、天才と称されたバド・パウエルをこよなく愛しまもなく17歳を迎えるジャズ・ピアニスト、甲田まひる。

デビューアルバム『PLANKTON』は、若きトップドラマー石若駿、King Gnuのベーシスト新井和輝を迎えたピアノ・トリオ作品。自身のルーツであるビバップの名曲を中心に、甲田まひるのオリジナルも2曲収録している。

Mappyの愛称で知られる彼女は、世界中に14万人を超えるインスタグラム・フォロワーを持つファッショニスタでもある。分野を軽々と超え、自由に羽ばたく才能はどう育まれたのか。その生い立ちからアルバム完成に至るまでの道のりをインタビュー。前後編の2回に渡ってお届けする。

音楽とファッションというふたつの表現方法

──デビューアルバム『PLANKTON』の完成おめでとうございます。16歳でジャズ・アルバムをリリースされるという、まずその事実に驚かされます。

甲田:本当にそうですよね、自分でも想像していなかったです。今はやって良かったなっていう気持ちが大きいんですけど、やる前は真逆で、本当に作っていいのかなってずっと迷っていました。ライブ経験もそれほどあるわけじゃないので。

──どんなアルバムを作ろうと思いましたか。

甲田:自分のずっとやってきたビバップと、自分がやりたいことを記録したいと思っていました。せっかく作るチャンスがあるならちゃんとやりたいと思ったし、自分の中で到達したいレベルもあるので、いろいろ考えてチャレンジして、プレッシャーや緊張感をずっと感じていましたね。

──甲田さんはMappyとして、モデルのキャリアもありますよね。その活動と音楽は密につながっているものですか。

甲田:音楽とファッションは私の中ではすごく近くて、表現方法がふたつあるという考え方なんです。ピアノを5歳で始めたんですけど、ヤマハのジュニア専門コース(数多くの音楽家を輩出するヤマハ音楽教室の特別コース)にいたので、コンクールや発表会に出る機会が多くて、そういう時におしゃれな服を着るのが大好きだったんです。

その頃から人前で演奏する時はファッションもこだわるっていう意識が自分の中にあって、それを将来ずっとやっていきたいと思っていました。だからファッションの仕事をしようと思っていたわけじゃなくて、私の中では音楽とファッションは一緒のものとしてあります。

──確かにピアノの発表会って、普段着ないようなフワフワのドレスを着ますね。

甲田:そうですね、でも周りと似たようなものは嫌だったし、よくあるクラシックの発表会っぽいドレスが嫌で、着るものには自分なりのこだわりを持っていました。パンツスタイルの時もあったし、小物や髪型で個性を出したり、メイクしておしゃれしてピアノを弾くのがすごく楽しくて。

──私も小さい頃ピアノを習っていましたが、発表会にはあんまり良い思い出がなくて。緊張、失敗、ヘコむ……みたいな。

甲田:私も緊張してましたよ! 舞台に上がって弾いちゃえば楽しめるんですけど、本番前は緊張しちゃってムリ。だからテンションを上げるためにもおしゃれをするんです。服がないと音楽もできないって感じで、私の中ではどっちも大事。

──人と同じファッションは嫌というのは、いつ頃から?

甲田:幼稚園の頃くらいかな。小学校の時は特に人と違う格好がしたかったです。

──それはお母さんの影響で?

甲田:好みはまた違うんですけど、お母さんはもともと古着が好きで、そこは影響を受けました。お母さんは、できるだけ安く買って、カッコ良く見せるっていう考えがあったので、私も小学校の高学年ぐらいから古着を着るようになって。古着との出会いは大きかったですね。私に合うちっちゃいサイズを見つけられるし、一点物とか、人と違うものが探せる。個性を出すには古着がいちばん良いなって思います。

──ただ、女の子って幼稚園の頃には「○○ちゃんと一緒がいい」みたいな意識が芽生えるじゃないですか。そこで人とは違う道を行くのに躊躇はなかったですか。

甲田:それはなかったですね。特におそろいのものを持つとかは嫌でした。でも、友達とは仲良かったです。ふざけるのが好きで、基本的に男の子たちと遊んでいるので、ずっとくだらないことで笑いあって盛り上がって、そういう時間がいちばん好きでした。

家族、友達との関係性

──ピアノが弾けると、学校で合唱の伴奏を頼まれたりしませんか。

甲田:そうなんです、いつも伴奏していました。私の通っていた中学は合唱が強くて、すごく気合いが入っていたんです。私も合唱コンクールとかめっちゃ燃えるタイプなので、中学では毎年、金賞を獲りました!

──おお、それはすごい。

甲田:コンクールは課題曲と自由曲があるんですけど、自由曲を決める時、いつも私がやりたい曲が通りませんでした。私は「親知らず子知らず」とか「野生の馬」とか、難しいけどカッコ良くて、攻めてる感じが好きだったんですけど。私、普段からけっこうダメなところが多くて、友だちに「もう〜」って笑われちゃうんですけど、その時も一人だけ「こっちがいい!」ってずっと言ってて笑われてました。

──「またおもしろいこと言ってる」と?

甲田:そうそう。とにかく、やるからには絶対優勝したいと思って、やる気ない人にも「やりましょう!」って声をかけて、張り切ってました。

──良い仲間たちですよね、相当渋い趣味を持った甲田さんを「あの子変わってるから」と否定するのではなくて、おもしろがっているのがいいなあ。お兄さんとはどんな関係なんですか。

甲田:お兄ちゃんは9歳上で、昔は特に趣味の話をしたりすることはなかったし直接影響を受けたことは少ないですが、上の子がいるとやっぱり大人びるというか、いろいろなことを早くから知っていたかも。性格が真反対で私はおしゃべりでうるさいからよくうざがられてたんですけど、お互い大人になって、最近は音楽の話とかもするようになりました。日本のラッパー聴いたりとか。

性格も真逆なんですけど、下の子って大人びるのが早いじゃないですか。私のほうがお喋りでうるさくて、最初はうざがられたけど(笑)、最近お互い大人になってきて、音楽の話とかもするようになりました。唯一の共通項が日本語のラップなんですけどね

──そういえば先日Instagramに、これから『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日のヒップホップMCバトル番組)を観るって書いていましたね。

甲田:これまでそんなに日本語ラップに興味なかったんですけど、色々聴くようになってハマって、それから『フリースタイルダンジョン』も時々家族で見たりしますね。あと私、朝が弱くて、お兄ちゃんがときどき起こしにきてくれるんですけど、すごいクセのある曲を大音量で流し始めたりするんですよね。最高です。

──ファンキーなお兄ちゃんですね。

甲田:普段はおとなしいけど、テンションが上がるとおもしろくて、大好き。家族みんな自由で、楽しいんですよ。

──自分のファッションを発信するようになったのも家族の影響ですか。

甲田:影響は受けてないですね。小学6年生の時にインスタ(Instagram)を始めたのがきっかけなんですけど、元々年上の友達と遊ぶのが好きで、たまたまお兄ちゃんの同級生の友だちと遊んでた時に、インスタをやっている人がいて、私も遊びで登録してもらって始めてみたんです。

ちょうどその頃、古着に出会ったり、雑誌の「装苑」とかを見てモード系のコレクションを調べるようになって。それまでずっと絵を描くのが好きで、洋服をデッサンしたり、雑誌を作ったりしてたけど、それを発信する場が出来たんです。

自分のイラストや私服の写真をアップしていたら、スナップのサイトのほうからいきなりDM(ダイレクトメール)が来て、「今度撮らせてください」と言ってくれて。そのきっかけで撮ってもらうようになって、同時にブログを始めて、自分のファッションのことやコレクションを観た感想とかを書いていたら、そのうち呼んでもらえるようになったり。そんな感じでファッションの仕事を始めました。

──小6でインスタ! エピソードが今どきですね。

甲田:たまたまなんですけどね。インスタって今はひとつの発信方法だけど、当時はまだ流行ってなかったので。好奇心旺盛だったので、パソコンとかも恐れずに触ったりするからできたことかなって思います。

ジャズとの出会い

──絵はずっと描き続けていますか。

甲田:今はあんまり書かなくなりましたね。ジャズに出会うまではイラストレーターになりたかったんですけど、8歳でジャズと出会って、その後本格的にジャズ・ピアニストになりたいって思ってからは、なかなか絵を描く時間がなくて。。

──なんて早熟な……。それからヤマハでジャズを学ぶように?

甲田:いえ、5歳からクラシックピアノをやっているんですが、現代曲が好きな先生で、発表会で湯山明さん(※)の曲を弾かせてくれて。その中にジャズっぽい曲がけっこうあって、難しいんですけど、「私はこっちがいい!」ってそういう曲を弾きたがりました。あと先生がクラシックの曲をラテンやジャズにアレンジしてくれて、それをアンサンブルのコンクール用に弾いたり。その中でだんだんとジャズが好きになりました。
※湯山明……作曲家。ピアノ曲や合唱曲、童謡など数々の名曲を発表。

──個性的な先生ですね。

甲田:それからお母さんに言ったらCDを借りてきてくれて、一緒に聴いて、マネして弾いて、もう夢中でしたね。

──ジャズの何にビビっときたんでしょう?

甲田:ヤマハのピアノコースにはアンサンブルのクラスがあって、同い年のみんなとアンサンブルするんです。そういう時はロック系とかブルースっぽい曲とか、楽しくアンサンブルできる曲が多くて、そこでいろんなジャンルを自然と覚えるんですけど、そういうノリのいいものが好きでした。

あと、湯山さんの曲や先生のアレンジした曲を弾く中で、普通の和音にテンションが乗っかって鳴る、ジャズの響きが心地よく自然と惹かれていきました。でも先生には「ちゃんとクラシックをやらないとジャズはできないよ」と言われていたので、最初はなかなか弾かせてもらえなかったけど、わからないながらも家では耳コピで弾き始めました。

──わからなくてもやっちゃう行動力がすごいですね。

甲田:やりたいと思ったことはやりますね、全然わかんないことでも。ただ、そういうことができたのもヤマハで絶対音感を鍛えられたおかげだし、今となってはちゃんとクラシックをやったほうがいいっていう先生の言葉がすごくわかります。

後編では、デビューアルバム『PLANKTON』完成に至るまでを語ってもらった。

連載5回目の甲田まひる『PLANKTON』ふたつの顔を持つ16歳の実像<後編>はこちら

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『PLANKTON』

2018年5月23日リリース

01. ウン・ポコ・ローコ
02. クレオパトラの夢
03. インディアナ(テイク1)
04. インディアナ(テイク3
05. ルビー、マイ・ディア
06. プランクトン
07. セリア
08. テンパス・フュージット
09. レディ・バード
10. ラメント
11. アスク・ミー・ナウ
12. マイ・クラッシュ

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