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連載Cocotame Series

アーティスト・プロファイル

湧き上がる衝動を“SYO”で表現し続けるアーティスト・吉川壽一【前編】

2019.11.15

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古来より伝わる“書”という芸術活動。その常識を打ち破る創作を続けているのが、唯一無二のSYO ARTIST・吉川壽一だ。書家の肩書きでは納まらない、世界を向こうに回したアーティストとしての挑戦は、大胆かつ繊細なエネルギーに満ちた普遍のメッセージを現代人に提示し続けている。

自らをSYO ARTISTと称する吉川壽一とは何者なのか? なぜ吉川壽一の作品は世界を魅了するのか? 気鋭のアーティストに密着し、その作品性や人間性を深掘りする連載企画「Artist Profile」では、吉川壽一の創作に込められた幾多の想いと斬新さを紐解きながら、SYO ARTISTの深淵を全3回にわたりお伝えしていく。

シリーズ第1回は、SYO ARTISTを紐解く序章として、吉川壽一の主な作歴を振り返りながら、近況の創作活動やこだわりを映像にまとめてお送りする。

※映像は記事の最後でも観ることができます。

何ものにも縛られず自らの表現衝動を追求するSYO ARTIST

SYO ARTIST 吉川壽一

“メイド・イン・ジャパン”のカルチャーが世界で注目を集めるなか、アートのフィールドでも日本人アーティストの活躍がめざましい。現代アートで挙げれば草間彌生、村上隆、近年ではハイテクノロジーとアート、そしてエンタテインメントが融合したメディアアートの分野において、真鍋大度率いるライゾマティクスや、テクノロジスト集団・チームラボが注目され、西洋文化にはない新規性と繊細かつ大胆な作風を持つジャパニーズ・アーティストが、折に触れて喝采を浴びている。

そんななか、日本古来の文化を強く感じさせる“書”のフィールドにも、世界を視野に入れた創作活動に打ち込むアーティストが存在する。

それが、NHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』やマンガ『バガボンド』(井上雄彦/原作 吉川英治『宮本武蔵』より/講談社刊)、『ジパング』(かわぐちかいじ/講談社刊)などの題字を手掛けたことでも知られ、海外においても精力的な活動を続けるSYO ARTIST・吉川壽一だ。

“書”をしたためる芸術家=書家というと、一般的には格式高く構え、その表現は、現代人には読むことすら困難な中国古来の筆跡を、いかに巧みに書くかを極める世界だと連想しがちだ。しかし、吉川壽一は違う。むしろ、その伝統からはみ出していくのが彼の真骨頂だと言えるだろう。

また、吉川壽一は、自らを“書家”と称さず、ワールドワイドで通じる“SYO ARTIST”という。そこには旧態依然を良しとせず、伝統を次の世代に託しつつも、そのしがらみには縛られず、常に自分だけの表現方法とは何かを求め続ける吉川壽一の意思が表われている。

今年はじめ、本サイトのインタビュー「SYOアーティスト・吉川壽一が挑む新しい“書”の世界」で吉川壽一本人が、「“書”の世界は伝統的な徒弟制度のなかで、それぞれの立場がある。でも自分がやりたいことはそれじゃない。(中略)芸術家として開かれた存在でありたい」と語っていたように、何にも縛られない吉川壽一の創作スタンスは、限りなく軽やかで、自由なのである。

SYOINGを武器に、日本から世界へ飛び出す

そんな吉川壽一の自由な作風は、彼の歩んできたヒストリーからも伺い知ることができる。

吉川壽一は、上田桑鳩氏、宇野雪村氏、稲村雲洞氏、川崎一照氏といった著名な現代書家に師事し、’64年には現代書、前衛書で権威のある「奎星賞」を受賞。以降、毎日書道展グランプリや毎日書道顕彰など数々の賞を受賞し、海外での作品展にも出品するなど、前衛書家としての才能を世に知らしめてきた。

だが、彼は若くして日本の“伝統的な徒弟制度”のなかだけで活動する従来の書家の在り方に疑問を抱き、どこまでも自由な発想と自らの表現衝動を源とする優れた企画によって、より大きなスケールの芸術活動を突き詰めていくことを決意する。

目を向けたのは、自身で“SYOING”と命名した揮毫。アートの世界では“ライブペインティング”や“ライブドローイング”と呼ばれるような、いわゆる“書”のライブパフォーマンスである。

この“SYOING”で最初に注目されたのは、1983年、1984年に行なった彼自身の故郷・福井県福井市での大揮毫だ。’83年は東尋坊に畳30畳のステージを作ってライブパフォーマンスを行ない、1984年には長さ1,000mの白布に今も自身のライフワークとなっている「般若心経」276文字を一気に書き上げるという、前代未聞の挑戦を行なった。

1983年に東尋坊で行なわれた揮毫パフォーマンス。【提供写真】

1984年は、長さ1,000mにわたり『般若心経』を書き綴った。【提供写真】

その後も、1988年には巨大な白布100枚に書いたさまざまな書体の「福」の文字を、福井城址(現・福井県庁)の堀に浮かべるという「百福水上」展などを開催。それまで誰も想像すらしなかった“書”の表現と魅力を、独自の手法で作品にし、発表してきたのである。

1988年の「百福水上」展。【提供写真】

そして吉川壽一の創作活動は、1990年代以降、いよいよ世界へと広がっていく。1990年には中国・天安門の革命博物館にて「百福萬福書法」展を開催。同時に、前庭にて重さ65kgもの大筆を振るって45m×15mの大揮毫を3,000人の観衆の前で披露している。1993年にはフランス・パリで個展を開き、1994年には高級ファッションブランドのスカーフ図柄を制作するなど、“SYO ARTIST”としての活躍を続けた。さらに1900年代に入ると、よりダイナミックな海外創作活動にも踏み出していく。

中国・天安門の革命博物館で開催された「百福萬福書法」。【提供写真】

‘04年のパリへの再訪では、エッフェル塔下の広場でフランス語を交えた「愛・AMOUR」を披露し、ルーブル美術館広場では「神通力」という“SYOING”を行なっている。さらに’06年には、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ赤沙砂漠にて、大型の作品を砂漠の上に並べ、観客はヘリコプターで上空から鑑賞するという、ダイナミックな展覧会を開催。世界への挑戦もまた、吉川壽一のライフワークと言えるのだ。

エッフェル塔の広場では「愛・AMOUR」の揮毫を披露。【提供写真】

UAEでは作品をヘリコプターから鑑賞するという企画を実施。【提供写真】

そうしたスケールの大きな海外での創作活動を通じ、2010年代以降は国内でもアーティスティックでエンタテインメント性の高いSYO ARTIST・吉川壽一の名は、堅苦しい書の世界には馴染みのない若い世代や、より開かれたジャンルにも浸透。ファッションブランドTAKEO KIKUCHIやプロバスケットリーグ「B.LEAGUE」とのコラボレーションは記憶に新しく、さらには、子どもに大人気のミニカーシリーズ「トミカ」の車体に書をしたためた「トミカ 書」が発売されるなど、新たなエポックもあった。

男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」の2018-19シーズンにおいて、シーズンテーマである「超」をシーズン開幕カンファレンス会場で“SYOING”している。【提供写真】

恒例となっているタカラトミーの「初春トミカ」シリーズに『トミカ 書(2018年12月発売/生産終了)』として吉川壽一の作品が起用された。【提供写真】

30万字の「般若心経」が福井の「永平寺」に並ぶ

吉川壽一の自由闊達な作風は、従来の“書道”のイメージをはみ出した作品へのチャレンジと同時に、トラディショナルな“書”に対しても吉川壽一流の表現方法で新しい息吹きを与え、これまでに例のない展覧会を開催していることにも表われている。

2016年には、世界遺産である京都の「下鴨神社」糺ノ森と国の重要文化財「舞殿」に作品を展示。同年には、同じく世界遺産の京都「天龍寺」、国の史跡・特別名勝指定「曹源池庭園」にて25mの「龍」を揮毫。2018年にも下鴨神社とは「舞殿ぐるっと四周トリコロール十二支~幸運をもたらす八咫烏~迎新展」で2度目のコラボレーションを果たしているが、世界遺産で書の展覧会が開かれること自体、極めて希なこと。それだけ吉川壽一の書には、多くの人々の心に訴えかける大きな感動が宿っている証拠だ。

2016年と2018年に京都の「下鴨神社」で作品を展示。【提供写真】

その吉川壽一の最新ワークスは、11月6日(水)~20日(水)まで地元・福井市の曹洞宗大本山「永平寺」の傘松閣で開催される「行行・空空・途上展」で目撃することができる。今回、吉川壽一は、2016年の京都「天龍寺」での個展で約3年間かけて書いた「般若心経」の多くの書に、さらに枚数を加えて展示している。

2016年、京都「天龍寺」で行なった揮毫。【提供写真】

最も初期の一大ライブパフォーマンスでも書かれた「般若心経」は、吉川の書にとって長年とても大切にしているテーマのひとつ。吉川壽一を知る人には、SYO ARTISTとしての進化を。吉川壽一と初めて出会う人には、SYO ARTISTの真髄をぜひその目で確かめてほしい。

276文字の「般若心経」の中心には、「般若心経」のなかで登場する一字がダイナミックに書かれ、ところどころに滲みを入れることで1枚1枚が違った表情を見せる。吉川壽一の作品は、そのデザイン性に注目して鑑賞するのも面白い。

現代アートの発信地・ニューヨークへ

中国、パリ、アラブ首長国連邦と世界を股にかけて活躍する吉川壽一が、次に揮毫パフォーマンスを展開しようとしているのが、現代アートの発信地と言えるニューヨークだ。

吉川壽一が、アーティストとしてなぜニューヨークを目指すのか。映像でその真意をご覧いただきたい。

次回は、吉川壽一を知る人物たちによる、吉川壽一というSYO ARTISTの考察をお届けする。

中編につづく

文・取材:阿部美香
ロケ撮影:冨田望

曹洞宗 大本山 永平寺
傘松閣 160畳大広間と周囲空間
SYO ARTIST 吉川壽一
魔訶般若波羅蜜多心経への一途
「行行・空空・途上展」

会期:2019年11月6日(水)~20日(水)
住所:福井県吉田郡永平寺町志比5-15
時間:8時30分~17時 ※行持の都合により、時間が変わる場合があります。
観覧料:無料 ※永平寺への入場料500円が必要です。

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