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連載Cocotame Series

50年の歩み~meets the 50th Anniversary~

50周年を迎えた世界初のレトルト食品「ボンカレー」誕生秘話

2018.05.14

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2018年は、ソニー・ミュージックエンタテインメントが生まれて50年という節目の年。本連載「50年の歩み ~meets the 50th Anniversary~」は、同じく50年目を迎える企業、商品、サービスを取り上げ、その歴史を紐解くことで、「時代」を浮き彫りにするという特別企画だ。

今回、シリーズ2として取り上げるのは、今年50周年を迎えたレトルトカレーの祖「ボンカレー」。世界初のレトルト食品の誕生秘話と「ボンカレー」が“国民食”にまで駆け上がっていくサクセスストーリーを、訊く。

誰にでも作れるカレーを目指して前人未踏の「レトルト」技術に挑戦

大塚食品株式会社 製品部ボンカレー担当アシスタント プロダクト マネージャー 中島千旭さん

大塚食品株式会社 製品部ボンカレー担当アシスタント プロダクト マネージャー
中島千旭さん

── まずは大塚食品と「ボンカレー」のなりたちについて教えてください。今から50年前、最初の『ボンカレー』はどのようにして産まれたのでしょうか?

1968年初代ボンカレ-甘口・辛口

1968年初代ボンカレ-甘口・辛口


中島:
1964年、大阪でカレー粉や固形ルーなどを作っていた食品製造会社を大塚グループが引き受けることになり、大塚食品が誕生しました。そんな大塚食品が、当時、すでに“国民食”となっていたカレー市場で生き残っていくために、とことん悩み抜いて生み出したのが1968年に発売された世界初のレトルト食品『ボンカレー』となります。商品コンセプトは「一人前入りで、お湯で温めるだけで食べられる、誰でも失敗しないで作れるカレー」。また、開発においては「常温で長期保存が可能であること」と「保存料を使わないこと」が絶対条件となっていました。

── 「世界初の一般向けレトルト食品」ということですが、そのヒントはどこから得たのでしょうか?

中島:アイデアが産まれるきっかけのひとつとされているのが、アメリカのパッケージ専門誌「Modern Packaging」に掲載されていた軍用携帯食の写真。ソーセージを真空パックにしたものだったのですが、この技術がカレーに転用できるのではないかと思い付いたそうです。また当時、大阪の市場では、大鍋で作ったカレーを袋詰めにして売るという文化があったそうで、それもヒントになったのではないかと言われています。

── パッケージ専門誌の記事が発想のきっかけということですが、そこには製法などが記されていたわけではないんですよね?

中島:そうなんです。しかも、発想の元になった携帯食が軍隊向けのものですから、調べても情報が出てこなかったそうです。幸いなことに、大塚グループ内に点滴液を作っている会社があったので、滅菌に関する技術とノウハウはあったのですが、柔らかい袋に入ったカレーを、ガラス瓶に入った薬品と同じように加圧殺菌することはできません。カレーを作る釜も専用のものを作るなど、何もかもが試行錯誤の繰り返しだったと聞いています。

── ほとんど、ゼロから作り出したようなものだったんですね。すると、レトルト食品に関する特許などは一通り大塚食品が取得しているということなんですね?

中島:それが実は……、当時のトップの判断で、特許は一切取っていないんです。レトルトパウチ(レトルト食品を封入する袋)はすばらしい技術だから、これをもっと広めていかなければならない、そのためには大塚食品がこの技術を独占してはならないという思いがあったようです。

── それは驚きです。でも、その英断がなければ、日本でこれほど多彩なレトルト食品文化は生まれなかったのかもしれませんね。

ボンカレーの味付けはお母さんの手作りカレー

── ボンカレー誕生秘話をもう少し教えてください。初代『ボンカレー』の味付けはどのように決めていったのでしょうか?

中島:目標としたのは「お母さんの手作りカレー」。イメージキャラクターに松山容子さんを起用したのも、その点を強く打ち出すためでした。たまねぎ、にんじん、じゃがいもと、具材がしっかり入っていることや、牛肉100%にもこだわっています。当時はまだ牛肉が高価だったのですが、「ごちそう」感を出すためにもそこは譲れないだろう、と。

── 発売後の市場の反応についても聞かせてください。

中島:「レトルト食品」という言葉もなかった時代に、『ボンカレー』の商品性を理解していただくのが大変でした。確かに、カレー粉や固形ルーが一般的だったところに、急にアルミの袋に入ったカレーが出てきても、どう食べればいいのかわかりませんよね。実際、発売当初は『ボンカレー』のほかに、具になる肉や野菜を一緒に買っていくという方も多かったそうです。

そこで発売直後には『ボンカレー』がどういう商品なのかをわかりやすくアピールするために「牛肉 野菜入り」と書かれたホーロー看板を用意し、当時20人ほどいた営業マンが、全国の販売店を回り、『ボンカレー』を置いてくださることになったお店に看板を打ち付けていったそうです。ちなみに1日のノルマは15枚だったそうなので、本当に朝から晩まで、何十軒ものお店を回ったのだと思います。

1968年ボンカレ-(透明パウチ)ホーロー看板

1968年ボンカレ-(透明パウチ)ホーロー看板


── そうして生まれた『ボンカレー』ですが、当初は関西でしか売っていませんでしたよね。これには何か理由があったのでしょうか?

中島:発売当初、阪神地区限定だったのは、最初期の半透明パウチの賞味期限が、夏季2ヶ月/冬季3ヶ月と短かったためです。それでも当時の保存期間としては画期的な長さだったのですが、全国展開するには不安があるということで販売地域を絞り込むことにしたそうです。ただ、その後、すぐに保存性や耐久性を向上させたアルミパウチの開発に成功し、賞味期限を2年間に伸ばすことができたため、翌年の1969年からは全国展開をしています。

── お客さんからはどういった声が上がっていたのでしょうか?

中島:それまで、1~2日程度でダメになるのが当たり前だった食品の賞味期限が、急に2カ月、3カ月になったので驚かれたでしょうし、それが翌年には2年になったというので、にわかには信じてもらえなかったようです。保存料や防腐剤がたくさん入っていて、身体にも悪いんじゃないかという声がたくさん上がったと聞いています。そういうものを入れずに長期保存できるのがレトルト食品の強みなのですが、当然、そんなことは誰も知りませんので。

── 確かに、今では想像もできませんね。

中島:それが実は今でもそう思われている方がいらっしゃるんです。4、5年前から「ボンカレー」のパッケージに大きめの文字で「保存料・合成着色料不使用」と記載するようにしたのは、そういった方にも安心して手に取っていただきたいからなんです。レトルト食品を生み出した企業として、そのメリットをきちんとお伝えしていかねばならないなと使命感を持って取り組んでいます。

発売後、わずか5年で年間販売数量1億食を達成!!

『ボンカレー50』

『ボンカレー50』

── 消費者とのコミュニケーションという点でいうと、「ボンカレー」は広告戦略も巧みな印象があります。

中島:「お母さんの手作りカレー」というコンセプトから女優の松山容子さんを起用したというのは先にもお話しましたが、その最初のTV CMのシナリオは、松山容子さん=お母さんが出かけた後、留守を任されたおじいさんとお孫さんが『ボンカレー』を食べて、「嫁の手作りよりも美味いな」と感心するといったものでした。お母さんがいなくても、誰でも作れて、しかも美味しいということを訴求したかったのです。

── そう言えば、手塚治虫さん原作の人気漫画『ブラック・ジャック』でも、主人公のブラック・ジャックが「ボンカレーはどうつくってもうまいのだ」と言っていました(笑)。

中島:はい。そして、『ボンカレー』が生まれて5年目となる1973年には『子連れ狼』の拝一刀に扮した落語家の笑福亭仁鶴師匠が『ボンカレー』の手軽さをアピールするというCMも放送されました。これで、3分間湯煎するだけで美味しいカレーができあがるという魅力が広く周知され、この年、ついに年間販売数量1億食を達成します。

── その後も、読売ジャイアンツの王貞治選手や、タレントの郷ひろみさん、田村正和さんら、その時代を代表する方々をCMに起用されていきましたね。

中島:ええ、最近ですと2013年に『ボンカレーゴールド』が電子レンジ調理に対応した時には、女優の鈴木京香さんをCMキャラクターに起用しました。

── わずか5年で1億食を達成したとのことですが、50年目の現在、「ボンカレー」ってトータルでどれくらい売れているのでしょうか?

中島:おかげさまで、現在までの累計販売数量は約30億食となっています。国内だけでこの数字を達成しているんですよ。

── すごい、まさに“国民食”ですね!

発売からわずか5年で“国民食”とまで言われるようになったレトルト食品「ボンカレー」。次回は2000年代以降、どのように成長・拡大していったのかを聞く。

ボンカレーの公式サイト(新しいタブで開く)

取材/文:山下達也(ジアスワークス)
撮影:松浦文生

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