連載

『SONIC ACADEMY SALON』売れるロックバンドを育てる秘訣とは? “最強”のバンド・プロデュース法!【連載第1回】

音楽業界を目指すクリエイターや学生達におくる新連載企画「音楽業界を目指す君へ――伝えたいことがある!!」。

連載第1回目は、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)が、昨年5月に立ち上げた会員制音楽制作コミュニティサロン「SONIC ACADEMY SALON(※)」(以下、サロン)より、6月28日(木)に行なわれた、ONE OK ROCKやTHE ORAL CIGARETTESなど数々の人気バンドを手がけるA-Sketchディレクター・伊藤一則氏(以下、伊藤氏)による「“最強”のバンド・プロデュース法」講座の模様を、セミナー終了後の伊藤氏へのインタビューとともにお届けする。

※業界の最先端を担うレーベルプロデューサーやクリエイター陣と実際にコミュニケーションをとりながら、作詞、作曲、編曲、ボーカルなど、制作におけるテクニックの共有や情報を提供。次世代の音楽業界を担うクリエイターが育ち、巣立つ環境を作ることも目的としている。

「“最強”のバンド・プロデュース法」

A-Sketchディレクター・伊藤一則氏

講師:伊藤 一則
株式会社A-Sketch
アーティストプロデュース本部
制作ルーム

◆経歴◆
1996年 株式会社BMF(ビーイング)入社
1997年 Sony Music OO Records(ダブルオーレコード)入社
2001〜2004年 フリーランスディレクター&アレンジャー
2004年 株式会社アミューズ入社
2008年 株式会社A-Sketchに転籍

 

今回のイベントは、司会進行にSME プロデューサーの伊藤和彦、聞き手にサロンの仕掛け人でメンターのひとり、SMEプロデューサー 灰野一平を迎えて、まずは伊藤氏の経歴が紹介された。

伊藤氏は、いまや世界的バンドとなったONE OK ROCKや「SUMMER SONIC 2018」ほか大型フェスにも引っ張りだこのTHE ORAL CIGARETTES、伸び盛りのフレデリック、話題沸騰の新人バンド・パノラマパナマタウンなど、日本のロックシーンを牽引する人気バンドを数々世に送り出している音楽プロデューサー兼ディレクター。彼はアメリカの音楽大学で作曲を学び、帰国後、日本の音楽業界で様々なアーティストを育ててきた。芸能プロダクションのアミューズに在籍する前にはインディーズ時代のPerfumeのA&Rも担当していたそうだ。

左から、SMEプロデューサー 灰野一平、A-Sketchディレクター・伊藤一則氏、司会進行にSME プロデューサーの伊藤和彦

A-Sketchの設立以前、インディーズ時代から音楽制作を担当してきたONE OK ROCKとのエピソードも紹介された。英語詞の楽曲がメインのONE OK ROCKは、今でこそその英語力と洋楽感あふれる音楽性で海外でも大活躍中だが、インディーズ時代は日本語の歌詞ではないことがセールスにも影響するため、英語で歌うことにこだわっていたボーカル・Takaと伊藤氏は、歌詞を日本語にするかしないかで大喧嘩したことも度々あったという。

最終的に伊藤氏はTakaのこだわりを尊重したのだが、伊藤氏は英語で歌うには日本人の“なんちゃって英語”が一番格好悪いと、徹底的にTakaに英語の発音指導を行なったと話していた。

伊藤氏のバンドプロデュースへのこだわり

伊藤氏が手がけるバンドは、それぞれの個性や曲作りのペースに合わせて、プロデュース方法を変えていくのだという。楽曲や制作方法のアドバイスを与えることはもちろんだが、バンドマンは基本自分たちの音楽を変えられることを嫌うため、より売れる良い楽曲にするために、メンバーを上手く導いていくことも大切な仕事だ。そのためには、エンジニアをチョイスすることも大事。THE ORAL CIGARETTESに関しては、他のバンドと音の差別化を図るため、2014年の1stシングルからアメリカのミックスエンジニアを起用していたという。

A-Sketchディレクター・伊藤一則氏

楽器や歌のレコーディングは日本で行ない、音源を海外のミックスエンジニアやマスタリングエンジニアに託す手法はONE OK ROCKでも活用してきたそうだが、伊藤氏が外国人のエンジニアを起用する理由は「僕らはアディショナルプロダクションという言い方をしますが、外国人エンジニアは単にミキシングだけでなく、曲がより魅力的に聴こえるように楽器要素を足す、構成を変える等アレンジ的なことをもしてくれる」というのも大きな要因。

実際、THE ORAL CIGARETTESの1stシングル「起死回生STORY」のミキシングを依頼した外国人エンジニアは、イントロ部分を9小節もカットして仕上げてきたそうだ。ときには意外性がありすぎるアレンジを施す人もいるが、それもエンジニアの個性。伊藤氏は欲しいサウンドによって様々なエンジニアに声を掛け、ベストな楽曲作りを探っていくのだという。

海外エンジニアによる楽曲の変化を視聴!

ここからは、伊藤氏が直近に手がけた6月13日リリースのTHE ORAL CIGARETTESの4thアルバム『Kisses and Kills』の楽曲を実際に聴きながら、海外エンジニアにミキシングやマスタリングを依頼することで楽曲がどう変化していったかが紹介された。

◆「もういいかい?」

紹介された音源は、日本でレコーディングされた生楽器とボーカルのEditチェック用音源→トム・ロード・アルジによるミックス音源→テッド・ジェンセンによるマスタリング音源の3つ。トム・ロード・アルジ、テッド・ジェンセンともに数々の大物アーティストを手がけ、グラミー賞を何度も受賞している世界的巨匠だ。

レコーディング音源を音のバランスやドラムサウンドの変化によって曲中に場面転換を施し、すっきりと仕上げたトム・ロード・アルジのミックス音源が、テッド・ジェンセンのマスタリングによってより音量と迫力を増し、臨場感あふれるロックサウンドへと進化していくことが実感できた。

◆「Ladies and Gentlemen」

こちらのミックスを手がけたのは、ONE OK ROCKのエンジニアもしたことのある、グッド・シャーロットやブリンク182のミキシングで有名な、ジョン・フェルドマンのスタジオ出身ザック・サヴィーニ(以下、ザック)。THE ORAL CIGARETTESをぜひやりたいというザックからの希望もあり、伊藤氏は「ジョン・フェルドマンは、ドラムやパーカッションのサンプルネタを多用するアディショナルプロダクションが得意なので、ザックもそうしてくれることを前提に依頼」、英語のコーラスもアメリカで録音し追加してもらったそうだ。

ここで紹介されたのは、レコーディング後のラフミックス→ザックのミキシング音源の2種類。ミキシング音源では、音圧がグッと上がり、ボーカルもエフェクタブルに処理され、様々なサウンドが追加されて、ゴージャスな仕上がりになった変化がよく理解できた。

◆「What you want」

こちらもザックがミキシングを手がけたナンバーで、ミキシングによってとんでもなく曲が変わった例として紹介された。レコーディング後のラフミックス→1stミキシング→ファイナルミキシングの3種類を聴かせてくれたのだが、1stミキシングでは、Aメロの伴奏がカットされていたり、メンバーがとてもこだわっていたドラムのキックパターンやベースが丸ごと変えられてしまったので、納得できる状態まで5回以上、ミックスをやり直させたのだそうだ。

なお、あまりにも曲が変わってしまった1stミックスは、「これを聴いたらさすがに怒ると思い、メンバーには一度も聴かせていない」レア音源だった。

ほかにも会場では、伊藤氏が現在手がけているフレデリックやパノラマパナマタウン、ONE OK ROCKの音楽作りや新人バンドの育成方法についてもたっぷりと話された。そしてA-Sketchが多数の人気バンドを輩出し、成功している秘訣は「やはり歌の良さ」だという伊藤氏は、自身の音楽制作でも「信念としてこだわっているのは、歌のハーモニー。歌をいかに分厚くするかを常に考えている」という。

そしてイベントの最後に、音楽制作ディレクターへのアドバイスを聞かれた伊藤氏は、「バンドはデビュー後、それまでのレパートリーを出し尽くしてしまい、初めてプロとして曲を作らなくてはいけないというプレッシャーからスランプが必ず来る。そこをいかに助けられるかが重要。曲ができなくても責めずに、楽器を弾きながら説明したり、ただの言葉ではなく具体的な音楽を示しながら会話で伝えることが大切だ」と言い、「人の真似を嫌がるアーティストは多いが、 “~のような”と他アーティストの名前を出して言われるようにならないと、そのバンドは売り難い。真似を気にしないようにさせるのも大事だ」と、人気バンドを育てる極意を語ってくれた。

『SONIC ACADEMY SALON』売れるロックバンドを育てる秘訣とは? “最強”のバンド・プロデュース法! 受講者たち

「自分のセンスを使わないこと」
伊藤氏が音楽業界を目指す人に向けたメッセージ

講座終了後、伊藤氏は音楽業界をめざす人に向けて、次のようなメッセージを残してくれた。

「音楽ディレクターと一口に言っても、人それぞれでやっていることが違うのがこの世界です。最近は、宣伝やプランニングが得意な人のほうが、レコード会社には重宝される時代なので、僕のように音楽制作に特化したディレクターは、珍しいタイプかも知れません。ミュージシャンと一緒に音楽を作ることは楽しいですが、プレッシャーも大きい。僕が手がけたことで、バンドがダメになるかもしれないし、“もし売れなかったらどうする?”という責任はいつも感じます。バンドにも人生がありますからね。

だからこそ、携わったバンドをちゃんと音楽のプロにしてあげたい。そのためには、やはりバンドの曲を売れる曲、誰が聴いても良い曲にしてあげることが、僕の最も大切な仕事だと思っています。ただし、僕がディレクターとして自分に課しているのは、そこに“自分のセンスを使わない”こと。バンドには、個人の好み=センスではなく、一般性のある“こうしたら良い曲になる”セオリーを、客観的に提示してあげることが僕の信念。バンドの良さを活かして、いかにポップな形で昇華するかを、常に意識しています。

A-Sketchディレクター・伊藤一則氏

日本の音楽シーンは、音楽としてのダイナミクスよりも『歌』や『歌詞』がリスナーに重視され、そこにライブでの『カリスマ性』が加わると、物販もCDも売れる。世界には見習うべき様々な独特の文化があり、だからこそ僕は、海外のエンジニアとコラボレーションすることで日本のオーディエンスに“世界にはこんな音もあるんだよ”という、音楽の豊かさや幅広さを伝えたい。ある程度のレベルに到達したバンドには、それをどんどん実現していき、「どうやってこの音楽を作っているんだろう?」とリスナーに思わせたいですね。

とくにロックは、やはり日本よりもアメリカが本場。今はテクノロジーの発達により、海外ともオンラインで一緒に仕事ができる環境になっています。幸い、僕は英語が話せるので、海外とも直接やりとりができるのがメリット。これから音楽業界で幅広く活躍するためには、英語は絶対にできたほうがいいと思います。そして、自分が得意だと言える分野に自信を持って、音楽業界に入ってきてほしいと思います」。

連載バックナンバー

連載2回目 音楽プロデューサー伊秩弘将と保本真吾(CHRYSANTHEMUM BRIDGE)による対談

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