連載

『SONIC ACADEMY SALON』音楽プロデューサー伊秩弘将と保本真吾(CHRYSANTHEMUM BRIDGE)による対談【連載第2回】

音楽業界を目指すクリエイターや学生達におくる連載企画「音楽業界を目指す君へ――伝えたいことがある!!」。

連載第2回目は、ソニーミュージックが運営する会員制音楽制作コミュニティサロン「SONIC ACADEMY SALON」(以下、サロン)より、7月5日(木)に開催された音楽プロデューサーの伊秩弘将氏(以下、伊秩氏)と保本真吾氏(CHRYSANTHEMUM BRIDGE 以下、保本氏)による対談セミナー「プロデューサー対談Vol.2 伊秩弘将×保本真吾」の模様をお届けする。

SEKAI NO OWARIやゆずの楽曲を手がける保本氏とSPEEDのプロデュースや渡辺美里らへの楽曲提供で知られる伊秩氏が、互いのプロデュース・ワークやクリエイター論について、さまざまな実例を交えながら語り合った。

伊秩氏は小学生の時から作曲、保本氏は38歳でチャンスを掴む

音楽クリエイター専門誌『Sound & Recording Magazine』編集長の篠崎賢太郎氏が進行役を務めたこの日の対談は、伊秩氏と保本氏がそれぞれ音楽業界に入ったきっかけから語られた。伊秩氏は小学生の時から作曲を始め、高校の頃にはあらゆるレコード会社にみずからアポを取ってディレクターにデモを手渡すことで、相手に顔を覚えてもらい、それがやがて森高千里や渡辺美里への楽曲/歌詞提供に繋がっていったのだという。

一方の保本氏がチャンスを掴んだのは遅く、なんと38歳の頃。楽曲コンペは通ったことがなく、ゲームの音楽やライブのSE制作などの仕事をしながら音楽を続けてきた彼は、SEKAI NO OWARIのライブSEを担当したことがきっかけで、彼らの楽曲制作に関わるようになったそうだ。保本氏は「サロン」のメンバーに向けて「チャンスは必ず巡ってくる」「ただし仕事を選んではダメ」と、自身の経験を踏まえつつ語った。

互いのプロデュース・ワークについて

続いては、伊秩氏の代表的なプロデュース・ワークのひとつであるSPEEDの話題へ。プロデュースの話を持ちかけられた当初は、どんな曲を書けばいいのか分からなかったとのこと。しかし、メンバーがレッスンをしているビデオを見た瞬間にスピリットを感じ、当時流行っていたユーロビートとは逆の生バンドを主体にしたソウル感のあるサウンド、ネオンとは逆の太陽のイメージで作り上げたのが、1stシングル「Body & Soul」だという。

また、SPEEDの曲にはハモりがなく、島袋寛子と今井絵理子によるユニゾンを徹底した理由について、ふたりを競い合わせることで互いの力を高めて、ふたりの声でひとつのキャラにしたかったと説明。

技量面では「White Love」が転機となり、それまではキッズらしいストレートなパワーを前面に出していたが、同曲で初めてファルセットを導入することによって女性らしさも表現できるようになったとのことだ。

ほかにも、「STEADY」の歌詞はメンバーの実年齢よりも背伸び感のある内容を心がけ、何年か成長しても自分の気持ちとして歌えるように工夫していたという。「Wake Me Up!」の歌詞も例に挙げ、ティーンの感覚を思い出しながら歌詞を書くことが、時代の共感を得られる結果になったのではないかと分析した。

一方の保本氏は、自身がアレンジに関わったSEKAI NO OWARIの「RPG」の裏話を披露。アバンギャルドなアレンジのため反対意見も多くあったが、それを押し切る想いの強さや自分の音楽に対する自信が結果に繋がったことを明かす。

音楽に正解はないので難しいところではあるが、自分自身の音楽を信じ、その良さや魅力を客観的にプレゼンできるかどうかが、音楽家として仕事を続けていくうえでのポイントだと語る。

さらに保本氏は、バンドであるにも関わらずバンドらしからぬサウンドで挑戦を続けるSEKAI NO OWARIを例に挙げ、他に追従者の現われないようなことを行なうのは難しいことでもあるが、誰かがやっていないことこそ認められると大きな膨らみが生まれ、成功につながると説明。人の意見の多くは変わってしまうことが多いし、責任を持てる人も少ないので、まずは自分の思うことを貫くことが大事だと語った。

その後、保本氏と伊秩氏がサロンメンバーからの質問に応じ、ストリーミング時代における音楽のあり方から、音楽活動に対する悩みへの的確なアドバイスまで、さまざまな話題で盛り上がる。

そして最後は、この日会場を訪れた人のためにふたりがスペシャルセッションを披露。保本氏のアコースティックギターをバックに、伊秩氏がSPEED「White Love」をセルフカバーするという貴重極まりないパフォーマンスで、この日の催しは締め括られた。

対談後インタビュー

――まずは対談を終えていかがでしたか。

保本:僕はもともと伊秩さんと対談したくてお声がけしたので、実現できて嬉しかったですし、すごく勉強になりました。伊秩さんがこういう場に出てくること自体あまりないので、引っ張り出すことができた時点で僕の大勝利だと思っています(笑)。

伊秩:こうやって保本くんと話してみると、共通するところが多いことを確認できましたし、普段は語ろうと思って音楽を作っているわけではないから、いろいろ話すことによって自分の中で整理できたのが良かったですね。

――対談したことで何か実りはありましたか?

保本:歌詞を書く際の〈時代の作り方〉という目線は、自分の中にない発想だったので、すごく参考になりました。

伊秩:僕はアレンジが出来ないので、保本くんみたいにアレンジしたいなと思いました(笑)。本来、僕みたいなタイプは全部自分でやったほうがいいんだろうけど、すぐ次の曲にいきたくなっちゃうんですよ。それに才能のある人に頼んだ方が、突拍子もないアイデアがきたりしておもしろいですからね。もちろん組む相手とよく話し合うことが大事になってきますけど。

――今回のように作曲家やクリエイターが語る場を設けること自体に、どのような意義を感じますか?

保本:こういった「サロン」に来る人たちは、みんな音楽で何かをやりたいと思っていて、いろんなことに期待してチャンスを求めてると思うんですよ。僕はかつてここに集まってくる人たちと同じようなところにいたので、そういう人たちにちゃんと希望があることを伝えたいと思ったんですね。だからこそ自分から「SONIC ACADEMYで何かやりたい」と提案したんです。それに伊秩さんのような活躍されてる方に、テレビやラジオといった表向きの場では語れないような経験談を語っていただける場というのは、それだけですごく貴重だと思います。

伊秩:今日来ていただいた方も受け身の人が多かった印象なので、そういう人たちに火を付けてあげたいんですよね。受け身のままだと絶対にこの業界で飯を食っていけないですから。僕も未だにいつ食っていけなくなるかと緊張感を持っているし、ベテランになっちゃいけないと思ってるから。若い人たちのほうが可能性があるので、積極的にチャレンジしてほしいと思います。

保本:たしかに自分から発信することが大事で、自分の作った曲に対して否定的なことを言われてもすぐに曲げちゃダメだと思うんですよ。そのためには常に考えることが大事で、何か目標や目的がある人も、ちゃんと意志を持ってやってほしいですね。それがあればいつか絶対にチャンスを掴めるので。

――最後に、クリエイター志望の人にメッセージをいただけますか。

保本:音楽を作っている側の人たちと、そうではない人たちが接点を持てる機会は本当に少なくて、そういう意味でもこの「サロン」はすごく貴重なんですよ。だから会員になった人はそれで満足するだけじゃなく、有効活用したほうがいいと思います。

それとこれは制作も含めすべてに言えることですが、クリエイターを目指す人はとにかく何か動いて発信してほしい。それを続けていたら、いつかチャンスは平等に来るんですよ。僕の場合はビッグチャンスが来たのが38歳でしたから。そのチャンスを虎視眈々と狙いながら、準備を整えていただければと思います。

伊秩:大切なのは主観性と客観性のバランスですね。独りよがりではダメだろうし、ビジネスなのでちゃんと客観性を持ってないといけない。だけど客観性ばかり高いと人のコピーになってしまうので、そこのバランス感覚やセンスが最終的には大事なんだと思う。

あとは自分の作品に適したターゲットは自分でちゃんとわかってないといけないですね。どういう層に受けるかというのは今後どんどん細分化されていくでしょうから。ただ、みんな若くていいなあと思いますよ(笑)。それだけはみんなが羨ましい。あと10年ぐらい失敗したって大丈夫だから(笑)。

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