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連載Cocotame Series

エンタメ業界を目指す君へ

ソニー・ミュージックスタジオのトップエンジニア原剛が、超実践的リバーブ活用法を伝授!

2018.11.30

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音楽業界を目指すクリエイターや学生達におくる連載企画「音楽業界を目指す君へ――伝えたいことがある!!」。

連載第3回目は、ソニーミュージックが運営する会員制音楽制作コミュニティサロン「SONIC ACADEMY SALON」(以下、サロン)より、9月19日(水)に開催された、ソニー・ミュージックスタジオのトップエンジニア・原 剛(以下、原)による「原 剛リバーブセミナー」の模様をお届けする。

“ふっくらツヤツヤ、銀シャリサウンド”と称される原のサウンドメイキングのノウハウを、リバーブの活用法を軸に語られた本セミナー。音楽制作専門誌「サウンド・デザイナー」の協力を得て、ハードウェア・リバーブの歴史を紐解きつつ、各種リバーブの活用法をPC上で実演した。

原も使用するハードウェア・リバーブの歴史を辿る

この日、登壇したソニー・ミュージックスタジオのエンジニア・原は、ソニーミュージック信濃町スタジオ時代から、20年以上のキャリアを持つトップエンジニアだ。現在は乃木坂スタジオで制作を続けており、ふくよかで艶やかななサウンド作りに定評がある。

司会を務めたサロンの仕掛け人でメンターのひとり、SMEプロデューサー・灰野一平は、「ふっくらツヤツヤ、銀シャリサウンド」と原サウンドを例えている。手がけてきたアーティストやジャンルも非常に幅広く、その中でも加藤ミリヤ、JUJU、YUKI、松田聖子、May J.など、ボーカルものは社内外で高く評価されている。

左:灰野一平 右:原剛

今回は、原が得意とするリバーブの活用法を実践を交えて伝授するセミナー。そもそもリバーブとは、人工的に空間の響き(=残響)を作り出すエフェクトのこと。空間全体の残響――壁に当たった音の反射や反復が繰り返されることで生じる自然な残響効果を再現し、余韻を演出。原音を山びこのように細かく遅らせて慣らすことで奥行きを演出するディレイやエコーとは、異なる効果を生む。

本セミナーではまず、ハードウェア・リバーブがレコーディング技術や機材の進化により、どう発展していったかが、当時の実機写真とともに紹介された。

1940年代は、残響を収録するための響きの良い部屋「エコーチェンバー(エコールーム)」を用意し、そこで演奏音源をマイクで直接録音していたが、‘50年代後半にはドイツのEMT社が、畳1畳ほどの鉄板に音を共鳴させて残響を作り出す「プレート(鉄板)リバーブ」の名機「EMT140」を開発。世界中のレコーディングスタジオで使用されるようになったという。

EMT140

「EMT140」は実際に原もソニーミュージック信濃町スタジオ時代から使用しており、専用の部屋に設置されている姿は壮観で、「ホールを意識させる極めてナチュラルな残響を作れるため、今も現役で使われている」と紹介した。

‘70年代に入ると、重く、空調が管理された設置場所が必要なプレートリバーブのデメリットを解消する「スプリングリバーブ」が普及した。これは、バネ(スプリング)の振動を使って擬似的なリバーブ効果を生み出すもので、オーストリアのAKG社が開発した「AKG BX-20」が代表選手だ。原によればスプリングリバーブは「シルキーでキレイな音が作れる。信濃町スタジオには5~6台あったが、今の乃木坂スタジオには現存しない」そうだ。

さらに‘70年代は、もうひとつ大きな変革があった。それは「デジタルリバーブ」の台頭だ。世界初のデジタルリバーブ「EMT250」の後には、イギリスAMS社が「RMX16」を発表し大流行。「RMX16」によるゲートリバーブ・サウンドが一世を風靡したそうだ。

RMX16

原によれば「RMX16」は未だ現役で、「ザラザラした感じが出て、音中でも残響が見える分かりやすい音」が出せるため、ドラムなどにかけることが多いとか。デジタルリバーブでは、ソニーが開発した「DRE-2000」も特筆すべき名機で、ソニーサウンドを牽引する名エンジニア・吉田保氏が手がけた山下達郎の名曲「クリスマス・イブ」などで、ナチュラルで美しいリバーブサウンドが確認できると紹介した。

DRE-2000

ハードウェアとしてのデジタルリバーブは、透明感あふれる音で一世を風靡し、世界中のスタジオで今も活躍する「LEXICON 480L」を頂点として進化を続けた。

LEXICON 480L

しかし2000年以降は、デジタルで音声の録音、編集、ミキシングなどが可能なDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)の普及により、アナログレコーディングで使用されていたハードウェア・リバーブは衰退。現在は、PCで作業するDAWのプラグインとして、発展を続けているそうだ。

そして会場では、原氏が用意した「EMT140」「RMX16」「DRE-2000」などの現存するハードウェア・リバーブを使った音源を聴き比べ。さらに、代表的なDAWシステム「Pro Tools」に付帯する基本プラグイン「D-Verb」を使用して、「プレート系」「ホール系」「ルーム系」「ギミック系」といったリバーブをタイプ別に分け、それぞれの特徴や、原が実践している効果的な使い方についても丁寧に解説された。

「J☆Dee'Z」の楽曲を例にリバーブテクニックを実演

リバーブについての基礎知識の紹介が終わると、灰野がプロデュースするボーカル&ダンスグループ「J☆Dee'Z」の楽曲音源をサンプルとして、「各楽器や歌にどうリバーブをかけたらいいのか?」を、より具体的にティーチングした。

「ドラムは基本的にキック(バスドラム)にはリバーブをかけず、スネアにプレートリバーブを長めにかけ、ルーム系を足して雰囲気を出す」、「ベースはリバーブをかけると音がぼんやりするので、あまりかけたくない」、「ギターはカッティングと、オブリガードやソロではリバーブを使い分け、ルーム系とプレートリバーブをミックスすることで音像感を調整する」、「ピアノのようなサスティンが長い楽器はリバーブをかけるのが難しいため、ノンリバーブも効果的」など、プロのエンジニアならではの実践的なテクニックが詳細に語られた。

なかでも原が強くこだわっているのが、ボーカルだ。基本的にはプレートリバーブを使用し、他の効果を交ぜつつ微調整するそうだが、「歌は最もデリケート。オケ中でのボーカルと、ボーカル単体を常に聴き返して、ミックスダウンの最後の最後まで微調整を繰り返している」と言い、1曲のなかでもAメロやBメロ、サビなどセクションごとにリバーブを調節。

リバーブの種類、かける深さ、併用するディレイのかけかたを変えるなど、さまざまなテクニックを駆使して自然で美しい音像を模索しているそうだ。メインボーカル同様に、コーラスにもさまざまな微調整を施しているという。

また原は、現在レコーディング現場の主流となっている「Pro Tools」を使ったミキシングは、音が硬質で歌が違って聴こえるため、あまり好みではないそう。今もコンソール+ハードウェア・リバーブを使ってミキシング作業をするのが基本だが、それでもToolsミックスも全体の2/3まで増えたとか。ちなみにコンソールミックスには、「EMT140」「RMX16」「LEXICON 480L」などをよく使用しているそうだ。

原は、「今はPro ToolsなどDAWを使ったレコーディング環境が一般的だが、ぜひ卓も触ってみてほしい。直感的で扱いやすいと思う」と語り、実践的テクニックが満載の「原 剛リバーブセミナー」を締めくくった。

エンジニアを目指す人へのメッセージ~原剛インタビュー

――もともと原さんは、どのような経緯でソニーミュージックのエンジニアになられたのですか?

原:僕は日本工学院を卒業し、ソニーミュージック信濃町スタジオに入りました。ソニーミュージックが初めて専門学校に求人をかけた年に、運良く入社できたんです。そこからエンジニアは専門学校生を採用するようになったと聞きましたね。

――エンジニアとして独り立ちされたのはいつ頃ですか?

原:僕の場合は、他の方よりちょっと早かったんです。入社2年目の24歳ぐらいのときに、「おまえ、アルバム1枚録ってみろ」と言われて「えっ!?」と(笑)。いきなりだったので驚きました。

――初めての担当アーティストは?

原:G-クレフというインストゥルメンタルバンドの『G-クレフⅣ/ハッピー・ボックス』(1991年)でした。

――今回のセミナーは、「リバーブ」テクニックに特化した講座でしたが、原さんご自身がエンジニアというお仕事全体を通じて、こだわっていること、大事にされていることは何ですか?

原:言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、いわゆる和声、アンサンブルを良く聴こえるように、バランスを整えることが一番かなと思います。そのためにイコライジングを工夫する。音質をいじるというよりは、和音をいじると言ったらいいのかな?……和声のバランスをいじる感覚ですね。例えばドラムとベースでも和音のバランスは大切。僕のミキシングはすべてそうですね。最終的には「歌」にこだわりますから、録りもミックスも歌に最も時間をかける。ずーっと考えています(笑)。

――やはり、「歌をより良く聴かせる」ことに神経を研ぎ澄ますのですね。

原:そうですね。とくに歌は、ミックスによって「不自然な歌い方」「自然な歌い方」が変わってくるんです。録り方から違って聴こえてしまう。強く歌っているところはより強く出してあげたいし、弱く歌っているところは優しく聴かせてあげたい。その抑揚が自然になるように、バランスを取ってあげることが、いちばん大事だと考えています。

――トップエンジニアを目指すには、どのような勉強をしておけばいいでしょうか?

原:1曲を集中して研究するのも良いのですが、世の中にはさまざまなジャンルの音楽、さまざまなミキシングのやり方があるので、いろいろな楽曲を聴くのが一番ですね。ミキシングで一番やってはいけないことは、思い込みを持つこと。冷静なほど良いミックスができる。

ですが、冷静すぎて感動をなくすようなミックスもダメ。アーティストが放つ感動はそのままに、頭だけは冷静にミキシングを考えることが大切だと思います。僕もおよそ30年、この仕事を続けていますが、未だに100%すべて納得がいくことがない(苦笑)。ずっと勉強の毎日です。

今はPCがあればDAWも気軽に導入できて、いわゆる“宅録”、個人のレコーディング/ミキシング環境も進化しています。プロのエンジニアを目指す方は、まずは機材をいじり倒してみてほしい。少しでも多くの経験を積んで、さまざまな音楽に対応できる感覚を身につけていくことが、大切なのではないかと思います。

SONIC ACADEMY SALONオフィシャルサイト(新しいタブで開く)

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