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連載Cocotame Series

エンタメ業界を目指す君へ

作曲・編曲家&サウンドプロデューサー・福田貴史に楽曲制作のノウハウを聞く

2019.02.28

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音楽業界を目指すクリエイターや学生達におくる連載企画「音楽業界を目指す君へ――伝えたいことがある!!」。
連載第4回目は、西野カナ、乃木坂46、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEなど有名アーティストへの楽曲提供で知られる、ソニー・ミュージックパブリッシング所属の作曲・編曲家、サウンドプロデューサー・福田貴史(以下、福田)へのインタビューをお届けする。福田の音楽のルーツや楽曲制作のノウハウを聞いた。

音楽一家で育った幼少期

――福田さんが作曲家になったきっかけを教えてください。ご実家が音楽一家だと伺いましたが。

福田:音楽一家といっても、今僕が携わっているような音楽ではなく、父が民謡の尺八奏者なんです。兄も尺八の道に進んだのですが、僕は和楽器でご飯を食べさせてもらったのに、子どもの頃から和楽器はそんなに好きじゃなかったんです(苦笑)。もちろん、尺八などの和楽器も魅力的な音楽なんですけど……。

――福田さんご自身は、伝統的な邦楽より西洋音楽に興味を持ったんですね。

福田:そうですね。兄が邦楽の古典を吹くのを聴いていても、あまり興味を感じられなくて。純邦楽はとても奥が深い音楽なのですが、ちょっととっつきにくい。僕にはバッハやショパンのほうが、今聴いても音楽がスッと体に入ってきます。

――楽器経験でいうと、小さい頃からピアノを習われていたとか?

福田:はい、4歳から20年ほどですね。そもそもは、父親が尺八を続けていく上で、いわゆる西洋音楽の楽譜が読めなくて、とても苦労したそうなんです。そこで、どんな音楽をやるにしても子どもたちが困らないよう、一番手っ取り早く譜面が読めるようになるピアノを習わせたと母親が言っていました。

そういう理由で始めたこともあって、僕自身はそんなに熱心にピアノに取り組んでいたわけでなかったんです。ただ、高校時代にレッスンを受けていた先生が、テクニックも含めて素晴らしい方で。その先生に影響されて、僕も音楽大学のピアノ科を目指してみようと思いました。

――その頃から、将来は音楽で身を立てようと考えていたのですか?

福田:高校時代には、既にそう思っていましたね。ポップスの作曲をやりたいなと。ただ、ポップスが良いなという想いはずっと心のなかにあったんですけど、クラシックを長くやっていたので、その道から外れることができなくてピアノの道を選んだのですが……結局、受験に2度失敗してしまい、親戚にコンピュータミュージックの専門学校を勧められたんです。

――鍵盤が得意でポップスの作曲に興味がある人には、とても良い選択ですね。

福田:今思えばそうなんですけど、当時はクラシック畑でも、現代音楽家がMacとDTMツールを使って作曲をしているんだということすら知らなかったんですよ。もともと僕の実家はアナログで、パソコンを使ったこともなかったですし。なので、そこからですね、作曲とDTMを本格的に始めたのは。

――ピアノを続ける過程で、作曲も並行して勉強されていたのかと思っていましたが、違うんですね。

福田:僕の場合は、やはりコンピュータミュージックとの出会いが大きかったです。専門学校で基礎的なDTMを学んで独学で曲を作っていました。その後着メロの耳コピーのアルバイトをして、そこでいろんな曲を聴いて分析しなければいけないので、とても作曲の勉強になったと思います。

クラシックをベースに流行りのポップスを聞いて育つ

――ちなみに、リスナーとしては、どんな音楽を聴いてこられたんですか?

福田:基本的にはクラシックがベースです。といってもみんなが知っているような有名な曲しか好きじゃない。あまりマニアックなのは得意じゃないですし、ピアノ曲も、名曲集に挙げられるようなものが好きです。一番好きなのはショパンかな。超絶技巧の曲は、自分で弾けないですしね(笑)。

――ポップスだと?

福田:小学生の頃から、さだまさしさんは大好きでしたね。好きになるきっかけは覚えてないですが、メロディだけではなく、アレンジの良さにすごく惹かれました。他にも例えばCHAGE&ASKAや槇原敬之さん、Mr.Childrenやサザンオールスターズ、DREAMS COME TRUE、小田和正さんやMISIAさんなど、ヒットチャートを賑わせている音楽がメインです。

小学生の頃も、bayFMで毎週土曜日の夕方にバッキー木場さんがDJを担当されているチャート番組(KEIYOGINKO POWER COUNTDOWN JAPAN HOT 30)や、FM NACK5のカウントダウン番組をチェックして、流行りの曲を聴くのが大好きで。洋楽もバックストリート・ボーイズやブリトニー・スピアーズなど、マックス・マーティンが手がけていそうなベタなやつが好きでした。

――よりキャッチーな音楽が好みなんですね。

福田:そうですね。今思うと、メロディの良さ、キャッチーさはもちろんですが、楽曲の構成やバックトラックの演出要素にはより注目していた気がします。ドラマの劇伴なども、服部隆之さんのアレンジがすごくキャッチーで大好きなんです。映画音楽だとエンニオ・モリコーネ、ジェームズ・ホーナー、ハンス・ジマーも好きですね。

楽曲イメージ作りは、音を消したミュージックビデオがカギ

――そして福田さんは専門学校卒業後、クリエイター向けオーディション「Sony Music Creators Audition」を受け、2000年後半から作家活動が本格的に始まったそうですね。作曲・編曲家、サウンドプロデューサーとして様々なアーティストに楽曲提供を行なっています。アーティストに曲を書くときは、どうやって楽想を膨らませていくのですか?

福田:僕はそもそも、散歩をしていたりシャワーを浴びているときに、メロディがふと閃いてくることはなく(苦笑)。何かが“天から降ってくる”天才型ではないので、作曲・編曲するときはキーボードを弾きながら、それを繋いだPCに張り付いて、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)ツールでコツコツと作業している感じですね。

――楽曲の最初のイメージ作りはどのように?

福田:アーティストへの楽曲提供の場合は、まずそのアーティストの既存のミュージックビデオ(以下、MV)を観ながらですね。音を消して、映像を観ながら曲を作っていくと、上手くハマるんです。やはり、歌う人が誰かが見えていたほうが、楽曲は作りやすいです。

――福田さんは、クールなダンスミュージックから華やかなアイドルソング、アーティスト性の高いポップスまで幅広く創作していらっしゃいますが、ご自身ではどんなジャンル、テイストが得意だと考えていますか?

福田:やはり鍵盤がフィーチャーされた音楽だと思いますね。打ち込み系のダンスミュージックも最近多く作るようになりましたが、もともとピアノをやっていたこともあり、基本的には電子音楽よりもアコースティックな曲のほうが得意です。

――バラードとか?

福田:そうですね。バラードは何も考えずに自然に作れます。生楽器が入る曲の方が、悩まないですね。逆に、打ち込み系の音楽は、盛りこみたい要素を考えながら構成していくので、今はこういう要素が旬だから導入してみようとか、勉強しながら作っていく感じですね。

――具体的にはどのように作業を進めていますか?

福田:まずは鍵盤を弾きながら、メロディから作っていきます。最近は、ダイナミックマイクを使ってメロディラインを自分で歌ってみてから、ベースラインやリズムパターンなどの骨組みのほうを決め込んでいきます。そしてデモ音源の段階で、バックトラックを完成形に近い形で追い込んでいきます。

――1曲のなかでどのパートからメロディを考えていくのでしょう?

福田:それはまちまちですね。イントロから作る場合もあれば、Aメロから順に作って行く場合もありますし、サビから作り始めることも多いです。

――先ほども好きな音楽でアレンジへの言及がありましたが、編曲家として作曲でもデモ音源の完成度にこだわるなど、とてもアレンジャー気質に感じます。

福田:そうかもしれないですね。おそらくですが、メロディ先行のコンポーザーはそこまでトラックにはこだわらないと思うんです。僕が最初からトラックを作り込んていくのは、曲の構成やアレンジにこだりがあるからなんでしょうね。自分ではあまり考えたことがなかったですが。

――J-POPを作曲・編曲する際には旬の音楽を意識されるということですが、新しい音楽をどうやって見つけることが多いですか?

福田:YouTubeが多いですね。今の音楽は「映像にしたときに映える」ことも重要です。YouTube だとMVも同時に観られるので、楽曲のイメージ作りにも役立ちます。あとサブスクリプションサービスも活用しています。

――曲作りでこだわっていることは多々あると思いますが、あえてひとつ挙げていただくと、何でしょうか?

福田:意識しているのは、ドラマティックであることですかね。“感動的に”と言ってしまうと大袈裟ですが、なるべく感情に訴えかける構成には、こだわっています。

西野カナ「Happy Time」の制作エピソード

――ご自身が手掛けられた楽曲について伺わせてください。2018年11月に発売された西野カナさんのベストアルバム『Love Collection 2 ~mint~』に、Mayu Wakisakaさん作詞、福田さんとMayu Wakisakaさんが曲を共作し、福田さんが編曲を担当された「Happy Time」が収録されました。

福田:「Happy Time」は、ライティング・セッションから生まれた楽曲でした。「大きなステージでタオルを回しながら歌うことにが似合う」「夏らしいトロピカルハウス」というテーマをいただいて、Mayu Wakisakaさんと一緒に作っていきました。ライティング・セッションの際は、事前に僕のほうで楽曲をイメージしたトラックを作り込んでからセッションに臨むので、まずは西野カナさんのライブのタオル曲「sherie」の映像を観て、西野さんらしいキラキラした感じを入れつつ、イメージを膨らませていきました。

――実際に、福田さんも全国アリーナツアー2018『LOVE it Tour ~10th Anniversary~』で歌われた「Happy Time」をご覧になったそうですね。

福田:はい。実際にライブでお客さんの反応を見るのは、すごく勉強になりますね。どのアーティストさんでもそうなんですが、自分が携わった曲が演奏されると、お客さんがどういう表情で、どんなノリ方をして聴いてくれるかは、とても気になりますね。
「Happy Time」は、お客さんが楽しそうに聴いてくれていて、とても嬉しかったです。

でも、どの曲もそうなんですが、テレビやライブで歌われるのを聴いても、自分の曲じゃないような気がするんですよ。ライブで盛り上がったり、リリース後のチャートアクションがすごく良くても、「あ、あの曲、売れたんだな」と客観的に見てしまう。1曲出来上がるまでに、いろいろな人が関わっているので、「これは自分の曲だ!」という感覚を、僕は持ちにくいタイプなんでしょうね(苦笑)。

でも、楽曲が完成したとき、コンペを勝ち抜いたときの達成感はとてもありますし、アーティストはもちろん、たくさんの方に自分が携わった曲を聴いてもらえるのは、本当に嬉しいです。この仕事の醍醐味を感じますね。

音楽業界を目指す人へのアドバイス

――最近は、自分で音楽を発信するアマチュアの方も多いですし、それを足がかりにプロの作曲家を目指す人もいるかと思います。福田さんが先輩としてアドバイスするとしたら?

福田:他人に左右されずに、自分が好きな音楽をまずは信じることですね。そのなかで、自分を客観的に見れると、もっと良いと思います。それと、僕もそうでしたが、やはりDTMは扱えるようになっていたほうが良いと思います。僕は「Nuendo」を使っていますが、業界で使われている主要ツールのどれかは、使えるようにしておいたほうが良いですね。今はツールもどんどん進化していて、特別な知識がなくても作曲・編曲が可能です。気軽に試してみてほしいですね。

――音楽的な知識やセンスを養うには、どうしたらいいですか?

福田:自分が好きだと思う曲は誰にでもあると思うんです、有名でも無名でも。その曲の構造を深く分析してみたら、勉強になるし、とても面白いと思います。なぜ自分がその曲を好きなのかと何度も聴いてみて分析してみる。コード進行、リズムパターン、メロディの進行など、具体的なところが分かってくると、自分が音楽を作る際にもきっと良いものができると思います……と、著名なソングライターの方がおっしゃっている記事を、若い頃に雑誌で読んで僕も実践していました。

コンペに参加する機会があったら、まずは参考になりそうな曲のインストを聴いて、バックミュージックがどういう作りになっているかを研究したり。趣味ではなく、仕事として曲を作るためには、そういう勉強はとても役立つので、ぜひ実践してみてください。

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