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連載Cocotame Series

クリエイター・プロファイル

コンポーザー・Ayaseと担当A&Rが初めて語り合う「YOASOBIの音楽の作り方」

2020.09.17

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注目のクリエイターにスポットを当て、その感性や思考プロセスを掘り下げる連載企画「Creator Profile(クリエイタープロファイル)」。

今回は、“小説を音楽にするユニット”として数多くの音楽チャートを騒がせるYOASOBIのコンポーザー・Ayaseをフィーチャーする。美しくもトリッキーなメロディ展開、謎めいた歌詞とそこから生まれる小説と変わらない読後感。新しい音楽体験を生み出す、YOASOBIのクリエイティブの核となる彼の創造性はどのように形成されたのか? 

Ayase本人へのインタビューに加え、YOASOBIのA&R(アーティスト&レパートリー)を務めるソニー・ミュージックエンタテインメントの山本秀哉にも加わってもらいながら、小説から新しい音楽を生み出すというYOASOBIの試みの可能性と彼らの独特な音楽制作の裏側に迫る。

YOASOBIがスタートしてから、このふたりでの対談は初! お見逃しなく。

  • Ayase

    コンポーザー、ボカロP、歌手。バンド活動を行なうなか、2018年よりボカロPとして活動し注目を集める。2019年11月より、コンポーザーとして「小説を音楽にするユニット」YOASOBIに参加。

  • 山本秀哉

    Yamamoto Shyuya

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

    YOASOBIの立ち上げから携わっているA&R。楽曲の制作ディレクターも務める。

ファーストコンタクトはインスタのDMより

“小説を音楽にするユニット”――YOASOBIの誕生は、小説投稿サイト「monogatary.com(モノガタリードットコム)」の企画がきっかけだった。毎年実施されている「monogatary.com」の小説コンテスト「モノコン2019」で選ばれた小説を楽曲、ミュージックビデオ化するという「ソニーミュージック賞」が設けられたのだ。

そこで大賞を受賞した作品は『タナトスの誘惑』(作者・星野舞夜)と『夢の雫と星の空』(作者・いしき蒼太)の2作。この小説を音楽化するために、YOASOBIが結成されたのである。

山本:「monogatary.com」の「モノコン2019」はすごく面白い企画だと思ったんですけど、当初は僕も屋代(陽平/「monogatary.com」プロデューサーのインタビューはこちら)もふわっと考えていました。そもそも「小説を音楽にする」というやり方も明確なビジョンがあったわけではなく、「モノコン2019」が始まった時点では、どんなアーティストで、どんな曲にするのか? 何も決まってなかったんです。長い目で見て、ゆっくり大きく広げていければ良いな、ぐらいに思っていたところもありました。

YOASOBIのA&Rを務める山本秀哉がA&Rという職業の面白さを語る記事はこちら

そうこうしているうちにいよいよ楽曲化の動きが本格化したので、まずは曲をかける人から当たって。ボカロPのなかで注目していたAyaseに声をかけてみようとなったのが、YOASOBIが結成されるきっかけですね。ちなみに、Ayaseとのファーストコンタクトはインスタ(Instagram)のDMです(笑)。

Ayase:僕はボカロPとして駆け出しで、オフィシャルの連絡先を設定していなかったのでしょうがないんですけど、インスタのDMに連絡があったのは驚きましたね。インスタのDMなんて毎日チェックしないですし、「なんだ、この怪しい誘いは?」と思いました。せめてTwitterのDMだったら良かったんですけど(笑)。

山本:で、怪しくないことを理解してもらいつつ、まずは会って話しましょうと。

Ayase:最初は単発企画という話でしたね。僕も小説から音楽を作ることができるのか、やったことがないのでわからないし、まずはやってみましょう、という感じでした。

音楽を作る現場の生々しいやりとり――「夜に駆ける」誕生物語

その後、ソニーミュージックの新人育成に所属していた幾田りらをボーカル・ikuraとして迎え、YOASOBIは小説から音楽を生み出すために、本格的な活動を開始することになった。最初の作品は小説『タナトスの誘惑』。そこから生まれた楽曲がスマッシュヒットを記録した「夜に駆ける」である。

「夜に駆ける」

Ayase:良い音楽を作るということが大前提としてあって、最初は小説を題材にすることにあまりとらわれず、曲調やテンポを試行錯誤するところから始めました。良い曲ができたところで、歌詞を中心に小説の世界観を表現していこうというアプローチでしたね。

山本:最初に彼が作った曲をいくつか聴かせてもったんですが、少しマニアックな話として「Bメロがすごく良いな」と思ったんです。いわゆるサビ前に来るメロディですね。サビのメロディに力を入れる作曲家は多いですけど、彼はそのサビにつながるメロディをすごく綺麗に作っていて、サビにつながるフックになっている。

僕はこれまで、あまりBメロを重視していなくて。あくまでメインディッシュを際立たせる前菜ぐらいにしか考えていなかったんですが、彼のBメロはそんな先入観を壊してくれる強さがあり、そこをいかせるといいなと感じました。

Ayase:こんなこと言ってますけど、普段、山本さんが僕の曲を褒めるなんて滅多に……と言うか、今まで一回もないですからね! 楽曲制作が始まった当初は「この人メチャクチャ言うじゃん!」と思ってました(笑)。

それと僕も長いことバンドをやってきて、そこでは思うような結果を出せていなかったので、良い転機だと思って、人から指摘されることを一回受け止めてやってみようと。それで山本さんから言われたことを全部やってみたんです。そうしたら、なるほど言いたかったことはこういうことか、と腑に落ちました。

デモを作っては、ディスカッションを繰り返し、修正と調整を重ねる日々。結局、Ayaseは「夜に駆ける」の完成までに30曲近いデモを作った。しかし、この試行錯誤の日々によって、小説から音楽を生み出す試みは、しっかりと形になっていったという。

山本:良い曲を作るための方程式はないと思いますが、それでも正解を導き出すためには何度もやるしかない。彼は根性があるし、見返してやりたいという気持ちも強かった。みんなを驚かせるためには、どんな要素が必要か、小説の世界観に寄り添うにはどうしたらいいかと話し合いを重ねながら楽曲を形にしていってもらいました。

Ayase:山本さんは、いわゆる“大衆の耳”を持っている人だと感じていて。僕は今まで音楽を作っていると作業に没頭し過ぎてしまって、人の耳に届くときにはエゴの塊のような曲になっていることが多かったんです。

でも、山本さんのフィルターを通すことでわかりやすいものになるという実感がありました。「ここはわかりにくいよ」と指摘されたところを直していくことで、僕の感性をいかしたまま、多くの人に受け入れられる曲として世間に出せるようになったんです。今は、すごく良い関係じゃないかと思っています。

山本:彼はハードコアバンドをやっていたり、R&Bを聴いてきているので、最初のころはその趣味性が色濃く出ちゃっている部分がありました。デモのときは、完成した「夜に駆ける」よりももっとテンポが速かったですしね。

Ayase:山本さんに「もっとテンポを落とそう」と言われて、めちゃめちゃBPM(Beats Per Minute)を下げたんですよ。バンド活動やボカロPの経験から言わせてもらうと「え、これでもまだ速いんですか?」という感じで。「まだ早い、もっと落とそう」というやりとりは何度もありましたね。

山本:彼の好きな音楽性を良いカタチでアウトプットさせたいなと思っていました。完成した「夜に駆ける」は、今まで彼が培ってきたR&Bのビートを刻む、キレの良い感じやバンドっぽさがすごくいきているなと思います。あと「夜に駆ける」に関してはメロディの種類がすごく多いんですよね。

Ayase:僕はメロディが好きなんです。一曲にたくさんのメロディが流れていることが楽しいと思うタイプなので、「夜に駆ける」でも、いわゆる歌メロ(ボーカルが歌う主旋律)の裏でピアノのメロディがたくさん流れています。山本さんの辛口なアドバイスもたくさんいただきましたが(笑)、曲のベースはかなり僕のわがままで作らせてもらいました。

山本:彼ならではの音楽性を感じたのは「夜に駆ける」の最後の転調です。いわゆる半音上げて盛り上げる形ではなく、半音下げて、そこから1音半上げているんですよ。これはすごく新鮮に感じました。ただ、歌い手のikuraは大変だろうなと(笑)。でも、このセンスは絶対にいかすべきだと思いましたね。

Ayase:僕は「究極のJポップを作ってやろう」という気持ちが常にあって、「感覚的に良い」と思った曲を追求した結果が、今の楽曲になっています。結果として、歌うのが難しくなっても、チャレンジしたいと思ってくれる人がたくさんいてくれたのは、予想外でありながら、すごくうれしかったですね。

小説を音楽にする上で、歌詞は重要なパートとなる。原作『タナトスの誘惑』は、「夏の夜、君と僕の焦燥。」というテーマで描かれた小説。悲しい選択をする彼女を止めようとする主人公の心情を描いている。『夜に駆ける』は、この登場人物たちの視点を借りつつ、小説とは違った切り口で原作のストーリーを紡いでいる。

Ayase:『タナトスの誘惑』は短編なので、小説のテキストを並べなおして歌詞にしたとしても、テキストの分量が足りない。単純な作業にしたとしても、補足が必要だと思いました。また、そのままだと面白くないという気持ちもあったので、曲には自分の視点を混ぜていこうと。俯瞰的な視点や僕が読み取った主人公の感情を入れていきました。

小説は読者が文章からシーンをイメージするものですけど、音楽ではそこを歌詞という言葉にして伝えています。ただし、答えは出さない。小説も音楽も余白が用意されていて、小説と音楽を照らし合わせたときに答え合わせになる。そういう面白さを結果として出すことができたかなと思います。

山本:僕は、歌詞の細かいところに目を配りました。彼が伝えたいことが、歪曲して伝わらないように。ノイズになりそうな部分を削ることは、積極的にやったことです。Ayaseはメロディと言葉のハマり方についてはすごく良い感覚を持っているので、そこは彼を全面的に信頼していますね。

ミュージックビデオがアニメーションになった必然的な理由

『夜に駆ける』は、2019年11月16日にYouTubeでMVとして発表された。アニメーションを手掛けたのは藍にいな。さまざまなアーティストの映像を手掛ける彼女を推薦したのはAyaseだ。藍は、色鮮やかなキュートさと血のようなグロテスクさを併せ持つ「ピンク」をベースにドラマチックな映像を作り上げた。

山本:“小説を音楽にする”と考えたときに、できるだけ想像力を限定したくなかったんです。実写MVだと制約が出てくるけど、アニメーションだったら幅の広い映像が作れると思ったので、MVは必然的にこの方向性になりました。

Ayase:各アニメーションを作ってくれるクリエイターの方のアイデアに委ねるところも多かったですね。「この作品を好きに表現してください」とお願いして、一緒に作りましょうと。そのなかで細かいチューニングをこちらからお願いしたという感じです。

小説を音楽にするのは僕だけじゃなく、誰にでもできること

「夜に駆ける」を発表後、YOASOBIは活動の幅をどんどん広げていった。2020年1月に、いしき蒼太による小説『夢の雫と星の花』から「あの夢をなぞって」をドロップ。続いて橋爪駿輝による小説『それでも、ハッピーエンド』から「ハルジオン」、しなのによる小説『たぶん』からミドルテンポバラード「たぶん」をリリースしている。そして2020年9月1日には、山口つばさの漫画『ブルーピリオド』に着想を経て「群青」を発表した。

過去のインタビューでAyaseはこんなことを発言している。「どんな小説でも音楽にできる」――小説や漫画は人間がはるか昔から現代まで作り上げてきた、ひとつの文化だ。古典、現代、恋愛、ミステリー、SF、ノンフィクション、歴史……そのジャンルは幅広い。小説や漫画を音楽にする可能性を、いまのAyaseはどのように考えているのだろうか。

「あの夢をなぞって」

「ハルジオン」

「たぶん」

アルフォート×YOASOBI Special Movie 「群青」 inspired by ブルーピリオド

Ayase:例えば、人の嗜好や思想は物語として捉えることができると思うんです。どんなヒト、コト、モノにもエピソードがあるわけで。その物語を入れる箱が“小説”という形だと思うんですよね。僕らはその物語を“音楽”という形にしているだけなんです。

例えば、森山直太朗さんは「うんこ」という曲を書いている。そして、そこにはきっと「うんこ」の物語があるんです。僕が「どんな小説でも音楽にできる」と言っているのは、“僕だけができる”ということではなく、“誰にでもできる”という意味で言っているんです。

山本:『たぶん』を作っているときに、Ayaseは「小説を読んでいるときにメロディが生まれた」と言っていましたね。

Ayase:『たぶん』はそうですね。僕は小説を読んだあとに、テーマとなる色が見えてくることがあって、その色にハマるメロディは何だろうなと考えるんです。でも、小説『たぶん』を読んだときは、読みながらメロディがあふれてきて、小説を読み終わったときには頭のなかで『たぶん』のメロディや構成ができあがっていました。一番早く作れた楽曲だと思います。

山本:リテイクもほぼなかったですね。Ayaseは曲を作るたびに、リテイクがどんどん減っています。

Ayase:原作ごとに音楽の作り方が変わっていくので、“小説を楽曲にする”ということに慣れることはないと思うんです。でも、そこには毎回挑戦があるので、面白いなとも思っています。

Ayaseのメロディの発想法は「神様のプレゼント」

YOASOBIの楽曲は、“歌ってみた”というファンが楽曲を歌った姿を動画で発表する投稿ジャンルで人気を集めている。多くのファンが“歌いたくなる”美しいメロディは、どんなところから生まれているのだろうか。Ayaseにメロディメイカーとしての発想法を聞いてみた。

Ayase:メロディは、何も考えていないときに思いつくことが多いですね。「よし、作ろう!」と意気込んでPCに向かっても、良いメロディを作れたことは今まで一度もなくて……。煮詰まってきて一息ついたそのときに、ふとメロディが浮かんできて、あわててPCの前に戻るというパターンが多いですね(笑)。メロディは神様がプレゼントしてくれるものだと思っています。

山本:結局、良い曲というのは急にできるものじゃなくて、日々考えていることの延長でしかないと思うんです。日々、音楽にどれだけ向き合っているか。日々、何を考えているか。それが音楽に出てくるのだと思います。だから僕は、彼が良い音楽を作れるように日常の何気ない生活のなかで、着眼点を磨いてインプットが少しでも増えるようなサポートを心がけています。

こんな映画を観たら、こういう視野が広がるんじゃないかとか。こういう小説を読むと創作の種になるんじゃないかなとか。いろいろな話をしています。

Ayase:取材の合間とかに「歌詞のここで悩んでるんですよね」なんて言うと、山本さんが日常のなかのヒントを話してくれる。「床のラグのしわで歌詞をつくってみる?」とか(笑)。「郵便ポストで歌詞ができないか」とか。そういうことを、この人は日常からすごく深く考えている人なんですよ。そういう山本さんのヒントから、「たしかにこんな言い回しの歌詞もできるな」と、僕にはなかった発想が生まれるんです。

1年前と全く違う景色――それでも変わらない作り手としての想い

活動を始めてまもなく1年、現在YOASOBIは多くの注目を集めている。さまざまなクリエイターからも声がかかり、コラボレーションの企画も進行中だ。1年前とは全く違う景色を見ている彼らは、今後どんな活動をしていくのだろうか。最後にこれからのビジョンを伺った。

Ayase:外から見たときの状況はいろいろと変化しているように見えますが、僕らとしては何も変わっていないんです。

山本:Ayaseもikuraも、そして僕らスタッフも個々の成長や変化はあったと思います。例えば、もともと歌が上手かったikuraはいろいろな場を経験して表現力が増し、シンガーとしてさらに磨きがかかった。実際、3曲目、4曲目のレコーディングの時間もどんどん短くなっていきました。こちらが求めていることをより深く理解してくれるようになったし、彼女自身が表現したいことも広がっている。どんどん良い関係になっていると思います。

Ayase:ikuraが前に立ち、僕は曲で支える。山本さんや屋代さんがYOASOBIの方向性を定めて、後押ししてくれる。僕らはそういうユニットだと思っています。山本さんと話をすることで勉強になるし、ボーカリストに僕の作った楽曲を歌ってもらうことで新しいものが見つかる。僕はYOASOBIで成長できていると感じますし、このまま行けるところまで行きたい。YOASOBIで成し遂げたことを、さらに個人の活動でも広げていくことが理想ですね。

山本:YOASOBIというユニットを通じて、新しいことを発信できているなという実感があります。YOASOBIが楽曲をつくった小説が小説集として発売されたり(『夜に駆ける YOASOBI小説集』双葉社刊)、コミカライズもできました(LINEマンガ『夢の雫と星の花』(原作・いしき蒼太/作画・kanco)。“音楽に感動してもらって人を動かす”だけでなく「YOASOBIをきっかけに小説を読むようになりました」という感想をいただけたのも新鮮な喜びでした。

音楽のフィールドから、多くの人の価値観を変えていくようなことがもっともっとできる可能性があるなと思っています。YOASOBIは小説だけでなく、いろいろな物語を音楽にすることができる。このチームでさらなる広がりを生んで、熱量のあるファンの方々にしっかり届けていきたいと思っています。

文・取材:志田英邦
撮影:冨田 望

関連サイト

YOASOBI オフィシャルサイト
https://www.yoasobi-music.jp/(新しいタブで開く)
 
Ayase
Twitterアカウント
https://twitter.com/Ayase_0404(新しいタブで開く)
 
Instagram アカウント
https://www.instagram.com/ayase_0404/(新しいタブで開く)

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