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連載Cocotame Series

ソニー・ミュージックスタジオがアナログレコード製造用のラッカー盤カッティングマシンを導入

2017.05.25

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ソニー・ミュージックスタジオ(Sony Music Studios Tokyo)が、今春からアナログレコード製造用マスターのラッカー盤カッティングマシンNEUMANN VMS70を導入し、カッティングマスターの制作を開始しました。

日本国内では近年、レコードが再注目されており、廉価でおしゃれなレコードプレーヤーも登場するなど、若い世代からの関心も高まっています。

そうしたなかで、課題になっているのは、制作インフラの整備と流通量の増加です。プレス工場の数はもちろん、そこでのレコード製造の元になるマスターを作るカッティングマシンの数も少ないのが実情です。

「デジタル技術と組み合わせ、新しいレコードの音作りに挑戦」

そもそも、ソニー・ミュージックスタジオがアナログカッティングマシンの導入を検討したのは、2015年。

「世間でレコードが見直され、外部でのカッティングやプレスが進む中で、やるからにはより良い音のレコードを作りたいという要望が、スタジオに多く寄せられるようになりました。我々としても、良い音を作ることは命題ですので、まずは状態のよいカッティングマシン探しから始めました」(ソニー・ミュージックコミュニケーションズ スタジオカンパニー スタジオオフィス 次長 宮田信吾さん)

ソニー・ミュージックスタジオの広報も担当する宮田信吾さん

ソニー・ミュージックスタジオの広報も担当する宮田信吾さん

そして同年末、アメリカで現行使用されていたカッティングマシンを購入。同時に、スタジオ内に専用ルームを新たに設け、ビルの躯体と一体化させた土台を設置することで、超重低音の振動を抑えるなど、質の高いカッティング環境の整備を進めました。

その一方で、カッティング技術を身につけたエンジニアの育成も必要ということで、かつてカッティングを手がけていた同社OBに加え、外部のエンジニアにも協力を仰ぎ、まずは、ソニー・ミュージックコミュニケーションズ スタジオカンパニー スタジオオフィス マスタリング・ルームの堀内寿哉さんが、カッティング技術を習得。堀内さんはもともとCDのマスタリングエンジニアですので、その技術を生かしながら、現在はカッティングの専任担当者となっています。

ソニー・ミュージックスタジオのマスタリングエンジニアの堀内寿哉さん

ソニー・ミュージックスタジオのマスタリングエンジニアの堀内寿哉さん

「昨年夏、マシンの調整段階から本業務に加わり、まったくゼロの状態から、マシンの使い方、そしてカッティング技術を学んでいきました。カッティングは身体で覚える要素も多いので、毎日作業を行い、音に自信を持てるようになった今年の2月にマシンの導入を発表しました」(堀内さん)

ソニーミュージックが見定めているのは、昨今のレコード人気を一過性のブームにさせず、リスナーに根付いた“音楽の聴き方”にすること。「今回のカッティングマシンの導入もその1歩」と宮田さん。だからこそ、単にかつての技術を再導入するではなく、最新デジタル技術と組み合わせた新しいレコードの音作りにも挑戦しています。

「レコードは、高い音圧や逆相成分が多いミックスだと物理的にカッティングできないなど制約が非常に多い。ただ今は、そうした制約をコントロールできるデジタル・エフェクトがたくさんあるので、昔は不可能だったデジタル世代のカッティングが行えるようになりました」(堀内さん)

スタジオ内にカッティングマシンを設置。その場で音の確認も可能

さらに、レコードのプレス工場ではなく、スタジオ内にカッティングマシンを設置したのもこだわりの一つ。海外を含め、プレス工場にマスターを持ち込んでカッティングする場合、テストプレスが届くまで、その音を確認することはできません。

「でも、スタジオ内でカッティングを行えば、エンジニアと一緒に作業ができ、早く、かつ正確に意図を伝えられ、望む音を作ることが可能です」(宮田さん)

「また、元となるCDを手がけたエンジニアが同じスタジオ内にいますから、直接話をして、CDの音はこうだけど、レコードにするとこうなる、それがいいのかダメなのか、その場で判断していけます。もちろん、アーティストに音を聴いてもらいながら調整していくことも可能です。レコード化すると、CDの音とは違った音になりますが、レコードを作ろうとするアーティストは、CDと同じ音を望んでいるのではなく、その音の変化、つまり“アナログらしさ”を求めていると思うので、そこを活かしながら、アーティストが意図するレコードの音に近づけていける点は、我々の大きな強みだと考えています」(堀内さん)

2月の導入発表以降、社内外から相当数の問い合わせが来るなど、その注目度の高さが伺えます。そして、この春、いよいよ商品のカッティングもスタートしました。「ハイレゾが音楽の裾野を広げたように、レコードは音楽の聴き方の裾野を広げていると感じています。アートワークを含め、欧米でこれだけレコードの人気が高いということは、日本国内ではもっとポテンシャルがあるはず。やるからには、良い音で、最良の物を作り、率先して音楽業界を盛り上げていきたいと考えています」(宮田さん)

現在、音楽は、CD、ハイレゾ、サブスクリプション、そしてレコードと、ライフスタイルに合わせ、さまざまな楽しみ方を選択できるようになりました。今回のカッティングマシンの導入は、そうした多種多様な音楽の聴き方に対応するための挑戦ともいえます。今後も、懐古性やファッション性を超えて、“デジタル世代のレコード”という新しい音文化を育むべく、チャレンジが続きます。

(文:布施雄一郎)

レコード製造用マスターのラッカー盤カッティングマシンNEUMANN VMS70。スタジオ内に専用カッティングルームを新たに整備し設置

レコード製造用マスターのラッカー盤カッティングマシンNEUMANN VMS70。スタジオ内に専用カッティングルームを新たに整備し設置

質量の大きなターンテーブル上に空気圧で吸着させたラッカー盤に切削針(写真中央:黄色い△の部分)で音溝を掘る。また、音溝の切削状況の確認は、左側の顕微鏡カメラで壁面のモニターに拡大表示して行う

質量の大きなターンテーブル上に空気圧で吸着させたラッカー盤に切削針(写真中央:黄色い△の部分)で音溝を掘る。また、音溝の切削状況の確認は、左側の顕微鏡カメラで壁面のモニターに拡大表示して行う

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