ビリー・ジョエルらが認めた日本独自の企画盤『ジャパニーズ・シングル・コレクション』制作秘話【後編】
2024.07.23


ビリー・ジョエル、ブルース・スプリングスティーン、アース・ウインド&ファイアー、ホイットニー・ヒューストン……。ソニーミュージックグループに所属する名だたる洋楽アーティストを特集し、国内の洋楽CD市場で突出した人気を見せている日本オリジナル企画盤『ジャパニーズ・シングル・コレクション‐グレイテスト・ヒッツ‐』。このヒットシリーズを立ち上げたディレクターに、本作の成り立ちとそこに込められている思いを聞く。
目次

佐々木 洋
Sasaki Hiroshi
ソニー・ミュージックレーベルズ
特定の洋楽アーティストの日本でリリースされた全シングル曲と、過去に発表された全ミュージックビデオを収録する、日本オリジナル企画盤。2018年にリリースされたチープ・トリックから始まり、アース・ウインド&ファイアー、ワム!、ビリー・ジョエル(写真)、ブルース・スプリングスティーンなど、ソニーミュージックグループを代表する洋楽アーティストのCD+DVDがこれまで全13作発売されている。7月24日に、1980年代の人気ガールズバンド2組、バングルスとノーランズが発売される。
記事の後編はこちら:ビリー・ジョエルらが認めた日本独自の企画盤『ジャパニーズ・シングル・コレクション』制作秘話【後編】
──佐々木さんが企画した洋楽コンピレーションのヒットシリーズ『ジャパニーズ・シングル・コレクション』ですが、本作の立ち上げまでに、佐々木さんはどのようなキャリアを辿ってきたんですか?
私が洋楽にハマったのが1980年代で、特に1986年から1990年ぐらいまでの楽曲をがっつり聴いていたんです。なかでもUSのヒットチャートものが大好きで、その後の自分の音楽の好みもその辺に根付いてます。
私は1996年にソニーミュージックに入社したんですが、そのころはUKロックやアシッドジャズが流行っていて、どちらかと言うと、レーベルのなかでも1980年代の音楽は古いとかダサイっていうイメージだったんです(笑)。
そこから、宣伝と制作担当を経て、2007年にマイケル・ジャクソンの担当になり、2008年に『スリラー』25周年記念盤などを担当して。その後、2009年にマイケルが亡くなった前後の時期から、1980年代の音楽的DNAを継ぐアーティストが非常に評価されるようになってきたんです。
そうしたなかで、今なら自分の血肉になった音楽のプロダクツをファン目線で作っても、ちゃんとフィジカルパッケージのビジネスとして成立させることができるという感覚がすごくあって、何かできないかと考え始めました。
──佐々木さんの好きな80'S前後のアーティストの企画作品を売れる商品として作れる時代が到来し、それが『ジャパニーズ・シングル・コレクション』につながるわけですね。その第1弾はチープ・トリックでした。
2018年4月4日に発売しました。アルバム『チープ・トリックat武道館』発売40周年で来日が予定されていたときです(※2018年4月の公演は中止となったものの同年10月に振替公演を実施)。2018年ごろは、既にストリーミングが普及し、カタログの旧譜作品やアーティストのCDで売り上げを立てるのが難しくなってきていた時期だったんです。
そんななかで、アーティストの来日公演というのは洋楽としては非常に大きなセールスのチャンスなので、毎回しっかりと企画した商品を出そうという狙いがありました。
ただキャリアのあるアーティストは、既に何枚もベスト盤が出てるんですよね。しかもファンは何枚も持っていたりする。そうしたなかで、どんなものを作ればファンが手に取ってくれるんだろう? というのが、『ジャパニーズ・シングル・コレクション』を企画したきっかけでした。
──日本盤シングルのコンピレーションになったのはなぜだったんですか?
実は、大方のベスト盤って、本国で選曲されたものなので、日本人的には「なんであの曲が入ってないの?」って思ったり、コアなファンの方から「この曲が入ってないのは残念」といったご意見をいただくことが多いんです。
ですが、日本でリリースされたシングルをまとめたものっていう切り口であれば、日本の音楽マーケットでウケた曲や、本国ではヒットしてないけど日本では知られてる曲をかなり網羅できるんですね。
もうひとつは、膨大な数の楽曲から収録曲を取捨選択しなくてはならないときに、“これは日本で出たシングルだけを集めた作品”という筋の通ったエクスキューズができるんです。そうしたところから『ジャパニーズ・シングル・コレクション』の形に固まっていきました。
──アルバムには、音源を収録したCDだけでなくミュージックビデオ(以下、MV)集のDVDもついてますよね。
はい。チープ・トリックを制作していたときに、過去のアーカイブを調べていたら、VHSでMV集が出ていたのがわかったんです。それまでも、“80'SヒットMV集”みたいな映像コンピは何作か出てたんですが、1組のアーティストに特化して、デビューからのMVがすべて収録されているものは作られていなかったので、日本のシングル集にMVが全部入ったDVDがついてきたら自分でも欲しいなって思ったんですよね。
それもやっぱり、自分が1980年代当時、『ベストヒットUSA』やMTVなどで、テレビで見るMVにワクワクして育ったというのがあったからで。それで、この形で本国に申請したらOKが出て、じゃあこのフォーマットで行こうとなったのがシリーズの始まりでした。
──1980年代の再評価やCDの売り上げの減少傾向といった状況下で購買欲を掻き立てられるものとして、このシリーズが生まれたんですね。オリジナル企画の制作許諾を得るのは簡単ではないと思いますが、アーティストへはどのようにアプローチしていったのでしょうか。
これは、洋楽のカタログアーティストのマーケティングに大きく関わることなんですが、いわゆる、今、積極的に新作のオリジナルアルバムをリリースしているフロントラインアーティストではない、カタログアーティストやベテランアーティストというのは、おのずと稼働が少なくなります。
そうなるとマーケティングの機会というのを、レーベル側が自ら創出しなければならない。そこで、私はテーマとして“自家発電と便乗”というのを掲げまして。
──“自家発電と便乗”というのは?
例えば、今年はマイケル・ジャクソン没後15年であるとか、ビリー・ジョエル『ピアノ・マン』発売50周年とか、生誕、没後、リリース、ソロデビュー、結成、初来日と、ありとあらゆる記念日を見つけて、アニバーサリーものとしてプロモーションの機会にしていかなきゃいけないということです。特に、来日というのは大きいですね。
記念日制定というのも我々が独自に行なっています。10月10日を語呂合わせで“TOTO(トト)の日”、シングル「ピアノ・マン」がリリースされた11月2日を“ビリー・ジョエル「ピアノ・マン」の日”、アース・ウインド&ファイアーの楽曲「セプテンバー」の歌詞にある日付、9月21日の“アース・ウインド&ファイアー「セプテンバーの日」”などです。
──アーティスト側も、アニバーサリーは大事なセールスポイントと捉えますよね。
そういったタイミングだと、アーティスト側から良い返事が返ってくることが多いです。『ジャパニーズ・シングル・コレクション』のオファーをする際も、「あなたは日本のファンに何十年以上も愛されてます。あなたの日本における軌跡をまとめた、新しい魅力を持ったパッケージ商品として、日本のファンに届けることができます」「これを出すことによってツアーのプロモーションにもつながります」などと伝えて、これはいわゆるベスト盤ではなく、日本のマーケットにおける活動の記録であり、ファンにとっては青春のサウンドトラックになりえるものなんだ、という説明をしています。
──『ジャパニーズ・シングル・コレクション』のジャケットは、日本の7インチ盤のジャケットがずらっと配置されていますよね。これもかなり貴重です。
ジャパニーズ・シングル集と謳うのであれば、当時のジャケットを全部集めようと思ったんです。これも自分の経験ですが、中学生当時のお小遣いではなかなかアルバムが買えず、700円でドーナッツ盤を買ってたんですよね。
それで、オーディオセットの前に座って、紙のジャケットの裏の解説を読みながらいろいろ想像をめぐらせて聴いてました。もちろん、シングル全部は買えなかったんで、『ジャパニーズ・シングル・コレクション』でコンプリートした気になれるんじゃないかなと思ったんです。
それに加えて、当時のシングルのジャケットって、そのときの担当ディレクターが、このアーティストをどういうイメージで売りたいか、この曲の世界観をどう見せたいか、練りに練って考えたものがすべて表現されているんですよね。邦題やタイトルのフォントを見ても「昭和だな~」と思えるし(笑)。
当時を知っている人から見ると懐かしいし、知らない世代から見ると貴重なエモいレトロ資料みたいになる。それを並べてアルバムジャケットにして、復刻したジャケット写真をブックレットにまとめて封入するのは、すごく良いなと思ったんです。
それと、実は、当時の日本盤のジャケットには、アーティスト本人も知らないアートワークがあったりするんです。実際に商品を見せると、そのアーティストが、“日本でオレのシングルはこんな感じだったのか”みたいな反応をしてくれて、それも非常に楽しいですね。
──ただ、音源や映像だけでなく、当時のジャケット写真を全部集めるとなるとかなり大変な作業ですよね。
周りからはよく「この作業は忍耐強くないとできないね」って言われます(笑)。実際の作業でいうと、まずいろんなデータベースを調べるところから始めます。
このアーティストは7インチシングルをどういう順番で何枚出してるかなどをインターネット上のミュージックデータベースや世界中のマニアのデータベースで調べます。
そのうえで、日本ではどの曲がどの順番でシングルリリースされていたかをリストアップし、今度はその商品の品番を元に、ソニーミュージックの倉庫に保存盤が残っているかを調べて取り寄せます。
ただ、全部が揃っていることはほぼないですね。そこから、日本のみならず、世界中の売買サイトや中古レコード店にあるかどうか探します。いろいろ手を尽くして集めたもののなかから、状態の良いものを採用して、ようやく素材が集まるという感じです。
確かにしんどい作業ではありますが、それがだんだん楽しくなってくるんですよね。作業中、ソニーミュージックのグローバルデータベースを根気よく探していくなかで、“こんな音源があるんだ!”“こんな映像もあるんだ!”という発見があると、やっぱり手が抜けないなと思います。
後編では、制作上の苦労や、シンディ・ローパー、ボズ・スキャッグスら、アーティストの実際の反応などを語る。
文・取材:土屋恵介
撮影:荻原大志
バングルス『ジャパニーズ・シングル・コレクション -グレイテスト・ヒッツ-』
デビュー40周年を記念するベストアルバム。1984年~1991年に日本でリリースされた、スザンナ・ホフスのソロ名義曲も含む全シングル曲と、全14曲のMV(うち世界初DVD化3曲/日本初DVD化2曲)を収録するCD+DVDの2枚組。
ノーランズ『ジャパニーズ・シングル・コレクション -グレイテスト・ヒッツ-』
デビュー50周年を記念するベストアルバム。1980年~1982年に日本でリリースされた全シングル曲と、全9曲のMV(うち世界初DVD化2曲/日本初DVD化1曲)を収録するCD+DVDの2枚組。
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