平井一夫が「プロジェクト希望」で取り組む子どもたちの体験格差の縮小と未来への種まき①
2024.09.30
2018年12月9日でデビュー20周年を迎えるアーティスト・宇多田ヒカル。
その音楽活動の軌跡を、ハイレゾ音源を交えながら制作関係者によって語られるトークセッションが大阪、東京、名古屋の3都市のソニーストアで催された。
ここでは東京・銀座のソニーストアで行なわれた2回の視聴会の模様をレポートしながら、彼女がつくり出す作品の魅力に迫る。
1998年12月9日、『Automatic』で鮮烈なデビューを飾った宇多田ヒカル。2018年にデビュー20周年を迎えるにあたり、アニバーサリーイヤーとして様々なプロジェクトが動き出している。
12月8日には映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』テーマソング、またソニー「ノイキャン・ワイヤレス」CMソングに起用された最新曲『あなた』を配信開始。また、9日には『あなた』を含めたこれまでの宇多田ヒカルの日本語詞を集めた歌詞集『宇多田ヒカルの言葉』を上梓。さらに、2018年にはニューアルバムやコンサートツアーも予定されているという。
『ノイキャン・ワイヤレス 宇多田ヒカル編 Special Edition:WF-1000X』の動画はこちら
そのデビュー20周年イヤーの一環として、各地のソニーストアでは12月8日から10日に渡り「宇多田ヒカル Special 3DAYS」を開催。『あなた』を始めとする宇多田ヒカルの楽曲をハイレゾ音質で試聴できるなど、20年目の幕開けを盛り上げた。
中でも注目されたのは、東京・銀座、大阪・名古屋の3都市で行なわれた「ハイレゾトークセッション」。宇多田ヒカルの音づくりを支え続けてきたキーマンたちが、その裏側を語り合うというスペシャルイベントだ。
12月9日、銀座ソニーストアにおけるトークセッションの登壇者は以下の通り。
宇多田照實氏
宇多田ヒカル所属事務所 U3MUSIC(ユースリーミュージック)代表取締役社長、プロデューサー。
三宅彰氏
宇多田ヒカルのデビュー時からのプロデューサー。
沖田英宣氏
株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ エピックレコードジャパン ゼネラルマネージャー。宇多田ヒカルのデビュー時からの制作ディレクター。
小森雅仁氏
アルバム『Fantôme』より全曲のボーカルレコーディングを担当する宇多田ヒカルのレコーディングエンジニア。
小室弘行氏
ソニービデオ&サウンドプロダクツ株式会社 V&S事業部 トークセッションのモデレーター。
トークは、それぞれに思い入れのある宇多田ヒカルの楽曲を軸に行なわれる。もちろん、その音源はすべてハイレゾ音質。そのため、会場にはソニーのフラッグシップ級ハイレゾ再生機器が用意された。
■3ウェイ・スピーカーシステム『SS-AR1』
応募によって選ばれた観客の拍手の中、登壇者が続々と入場。トークセッションの幕が上がる。
小室氏の進行に促され、沖田氏が口火を切る。
沖田:きょう12月9日は、まさしく宇多田ヒカルがデビューした日です。みなさんのご支援のおかげで、ここまで来ることができました。本当に感謝しています。
アニバーサリーイヤーということで、これから派手に、華やかにいろいろなことをやっていきたいと思っています。まずは昨日(12月8日)、新曲『あなた』の配信が開始されました。
そして本日から書店で『宇多田ヒカルの言葉』が発売されています。彼女がデビュー以来書いてきたすべての日本語歌詞が収録された歌詞集です。
■歌詞集『宇多田ヒカルの言葉』
価格:1,400円(税別)
仕様:360ページ/四六判/並製
発売:エムオン・エンタテインメント
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どうです!? この飾りっ気のない表紙(笑)。宇多田ヒカルらしいでしょ。これも彼女自身の発案なんです。
歌詞集といっても、ただ彼女が綴ってきた歌詞を載せただけのものじゃありません。まず宇多田ヒカル自身による前書き、これはぜひ読んでいただきたい! 彼女がどういった思考と想いをもって歌詞を紡いできたかが垣間見える内容です。
また、糸井重里さんや小田和正さんといった宇多田ヒカルにゆかりのある、錚々たる面々に寄稿していただいています。もちろん歌詞そのものも、曲として聴くのと、本として読むのとでは違った発見があります。こうしたカタチで読む『ぼくはくま』なんかすごい破壊力ですよ。これはひとつの現代詩だと感じました。
そして、来年はいよいよアルバムを出します! さらに久しぶりのコンサートツアーも発表しました。ぜひ、みなさんに宇多田ヒカルの20周年イヤーを応援していただきたいと思います。
そしてトークは、参加者一人ひとりが選んだ宇多田ヒカルのナンバーをハイレゾ音質で聴きながら、その曲にまつわるエピソードを語る流れとなった。
●三宅彰氏・選『traveling』
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三宅:この曲のミックスはパリで行なっていて、私も合流するために成田に向かったんですが、ちょうど湾岸戦争が始まってしまったときだったので会社から渡航禁止令が出て行けなくなってしまったんです。
しかたなく日本で待機していたんですが、その後あがってきた音を聴いても、どうも納得がいかない。でも、自分が現地に行けなかったわけだし、しょうがない、諦めようと思っていたら、ヒカルから「ミックスをやり直したい」と電話が来て。内心、“やった!”って思って(笑)、ミックスをやり直したんです。
これは大事なことなんですが、レコーディングするときのアーティストの声って「瞬間」なんですよ。日常の中では気づかないですが、人の声というのは毎日少しずつ変わっていて、それこそ「今日は気分がいいな」とか、逆に「なんだか乗らないな」という気持ちの変化だけでも声質が変わります。
それとシンガーソングライターの場合、たいてい歌詞が一番最後にできて曲が仕上がり、マイクの前で新鮮な気持ちで曲と向かい合った時、歌い手がどう歌おうか、どうアレンジしようかと悩んで、悩んで、悩みぬいて、登り詰めていったところを捕まえる。それがレコーディングの醍醐味だと思っています。
『traveling』はコーラスもすべてヒカルがやっていますが、そこには70人の宇多田ヒカルがいます。ハイレゾでは、ボーカルはもちろん、コーラスの声にも注目してもらって、その「瞬間」でしか録れない彼女の声の息吹きや、そのときのテンションを感じてもらえたらと思います。
それと皆さんは『traveling』というと、あの色彩豊かなミュージックビデオを連想されると思うんですが、実は逆で、この曲自体がカラフルだから映像が強烈に印象に残っているんです。音の情報量が多いハイレゾ版を聴いていただけば、それがより鮮明に伝わると思います。
沖田:聴いていただければわかると思いますが、宇多田ヒカル独特のブレスがものすごくきれいに感じられます。ボーカルの息づかいや、コーラス一つひとつが立ち上がってくる。そこがハイレゾの魅力ですね。
●宇多田照實氏:選『Passion』
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沖田:このトークセッションにあたって全員がひとつずつ曲を選ぶということになって、宇多田さんにも聞いてみたんですが、宇多田さんいわく「選べない」と。まあそれもその通りだと思うので、私から『Passion』を提案させていただきました。
というのも、ご存知のとおり宇多田ヒカルは「Utada」名義でワールドワイドに展開していて、この曲はちょうど宇多田ヒカルとUtadaが並行して活動していたころの作品なので、そのあたりのエピソードをぜひ宇多田さんからお聞かせ願えれば、と思ったんです。
宇多田:ヒカルが小さいころ、クラシックピアノを習いたいというので教室に行かせたんですが、1日行っただけで辞めたいと言い出しました。どうしたのか聞くと「あんまりおもしろくなかった」と。これで音楽が嫌いになってしまったらかわいそうだと思って、辞めさせることにしました。
その後、また自分から習いたいと言ってきたのでレッスンを再開したんですが、クラシックピアノにはコードというものがないので河野圭さん(プロデューサー・キーボーディスト)をご紹介いただいて、コードについて学ぶようになり、それからTRITONというキーボードを使って自力でプログラミングまで覚えるようになったんです。
ヒカルが自分でデモテープをつくり、それを僕らがああだこうだ言っているうちにどんどんプログラミングが上達していき、機材もプロ仕様のものを使いこなせるようになりました。
ちょうどそんな時期に海外展開の話が来て、僕とヒカルと旧知のエンジニアの3人だけで作品づくりを始めたんです。
それは新しい挑戦でもあったのでよかったのですが、せっかくヒカルがプログラミングに取り組んでるのだから専用の部屋を用意したいとスタッフに相談したら、会社の経理の部屋なら空けられると(笑)。そんなわけで、経理の書類が置いてある中で機材をセットアップして、ヒカルはそこにずっとこもって作業していました。
ただ、やはりヒカルひとりでプログラミングを全てやるのはまだ無理だ、ということになり、サポートに専門のプログラマーを呼びました。ところがこの人がなんだかいつもしょんぼりしていて、周りのテンションを落とすんですよ。で、話を聞いてみたら、彼は今まさに奥さんと離婚協議の真っ最中だと(笑)。
やっぱり仕事より家庭が大事でしょ、と言って彼には帰ってもらおうとしたんですが、ヒカルがつくったデモテープを彼が聴いたらいきなり奮起して、「これは本当に彼女ひとりでやったのか? こんなすごいものをつくれるなら自分は仕事に専念する。離婚協議なんてどうでもいい」って(笑)。それからふたりの本格的なプログラミングが始まりました。
Utadaとしての展開にあたって、これは洋楽にもなるんだから、聴く人たちがハッとするような印象に残るセクションをどこかに入れようと考えました。ヒカルも交えて「これこれ、こんな感じ!」などと話し合って、そのときは少人数だからこそのチーム力を実感しましたね。
いろいろと実験的ではありましたが、この経験でヒカルはひとりでも曲づくりができると自信がついたと思います。サウンドデザイナーとして開花した時期ですね。
沖田:『Passion』、かっこいい曲ですよね、これ12年前のナンバーですよ。私の個人的な意見ですが、音楽にはいつまでも古くならないものと、年月とともに古びてしまうものがあると思います。その違いは何かというと、その曲の魅力が正しく録音されているかどうかだと思います。
宇多田:そのためには、その曲のために適切な機材をきちんと用意しなければいけないと考えています。今ここにあるのがこれしかないからこれでいいや、などという妥協は一切しない。新しい機材、試したい機材があれば、レコーディングの途中からでも使ってみる。宇多田チームが宇多田ヒカル自身と共有するこの探究心は、いつまでも失われません。だから僕は過去の曲から選べないんです。なぜなら「好きな曲は、常に今つくっている曲」だから。
小室:次におかけする曲は門外不出、とてもレアな音源です。曲目は『Automatic』なんですが、2001年のMTVジャパンでオンエアされたアンプラグドライブでのバージョンになります。
先にお聴きいただいた曲も、後ほど聴いていただく曲もすべて96kHz/24bitのハイレゾ音源ですが、この曲は当時ソニーが導入していたスーパーオーディオCDのフォーマットで録音されたものです。
これはリニアPCMではなくDSDという非常にアナログに近いデジタル録音が可能な技術で、これを宇多田チームのみなさんに紹介したところ、せっかくのアンプラグドだからぜひこれを使ってみたいとおっしゃっていただきました。
ただ当時はまだ生まれたてのフォーマットだったため、DSDでは8トラックしか録音できなかったので、それらを宇多田ヒカルさんのボーカルとギター、ストリングスに限定して使用しています。
その後、2013年からソニーはハイレゾに対応したオーディオ製品の開発を行なってきたわけですが、実はこのアンプラグド版『Automatic』の音源は、音質設計の際のリファレンス音源として社内で使われています。
そしてこの音源は、今まで社外に出たことはなく、このような形で皆さんにお聴きいただくのも今回が初ということになります。ライブの模様はDVDとして発売されていますが、それをご覧になった方も音の違いに驚かれると思います。
(楽曲再生後)拍手の臨場感やストリングスのクリアさ、宇多田ヒカルさんの声の美しさ、それらが手に取るように感じられたのではないでしょうか。実はよく聴くとジーッという音が入っているんですが、これは照明用の発電機のノイズです。そんなものまで拾ってしまうんですね。
この音源がオリジナル同様にクリアに聴こえて、初めてソニーのハイレゾ製品は世に出ることになります。それだけ特別な曲を、今回はみなさんに聴いていただきました。
●沖田英宣氏:選『Forevermore』
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沖田:この曲を選んだ理由をお聞かせする前に、ひとつ皆さんにお伝えしたいことがあります。今年の2月、「宇多田ヒカル移籍」のニュースが飛び交って、中には驚かれたり心配されたりした方もいらっしゃると思います。けれど、申し上げておきたいのは、これはデビュー以来ずっと宇多田ヒカルと曲づくりをしてきたスタッフ全員揃っての「お引っ越し」であって、宇多田ヒカルに関わる環境にはいっさい変わりはありません。ですからどうぞご安心いただき、これからも引き続き応援をよろしくお願いいたします。
宇多田:ヒカルと一緒についてきてくれた皆さんに大感謝です。
沖田:さて、ソニー・ミュージックレーベルズ エピックレコードジャパンに移籍してから、『大空で抱きしめて』、『Forevermore』、そして最新曲『あなた』の3曲をリリースしてきました。その中から、『Forevermore』をハイレゾで聴いていただきたいと思います。
アルバム『Fantôme』以降、宇多田ヒカルは生楽器を多用したアレンジに進むようになって……あ、皆さんご存知でしょうか? 実は宇多田ヒカルはストリングスの編曲も彼女自身の手でやっているんですよ。そんな彼女の目が隅々まで行き届いたサウンドデザインを感じていただくのに、この曲はふさわしいと考えて選びました。
●小森雅仁氏:選 『あなた』
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沖田:『Fantôme』から、ミックスエンジニア(個々のボーカルや楽器などの要素を最終的に左右2チャンネルにまとめるエンジニア)として新たにスティーブン・フィッツモーリスさんという方に参加していただいているんですが、それも宇多田ヒカルの音楽にプラスの効果を与えていると思います。この点はエンジニアの小森くんが語ってくれるでしょう。
小森:ハイレゾというのは情報量が多いとか、可聴範囲外の音まで記録できるとか様々な特長があるんですが、じゃあ情報量が多いとどのような効果があるのかと言うと、大きい音から小さい音までの範囲を非常にきめ細かくキャプチャできる、特にごく小さな音がきれいに聴こえるという点があります。ブレスや、声が消えてゆく瞬間の余韻が非常に豊かに感じられるというのが、僕が考えるハイレゾの醍醐味です。
マスターのデータをCDに落とす場合、どうしても情報は圧縮されます。聴く側の再生環境というのは多種多様ですから、どのような音づくりを目指してデータを取捨選択するのかがとても苦心するところです。でも原音に近い再生が可能なハイレゾであれば、ある程度そこから自由になれる。そこも強みですね。
僕が選んだ『あなた』にしても、先ほどの『Forevermore』にしても、ほぼ全編が生楽器で、それら一つひとつの余韻まで楽しめるのが聴きどころだと思います。
ハイレゾで音楽を聴くにあたって、どんな曲でもハイレゾならいいかというと必ずしもそういうわけではなくて、いろんな音が同時にたくさん鳴っているような曲はハイレゾで聴くうまみを感じにくいこともあります。
それに対して宇多田さんの音楽は、必要最小限の要素で構成されていて、どの音がひとつ欠けても成立しないアレンジなんですね。それで、さっき沖田さんの話にも上がったミックスエンジニアのスティーブン・フィッツモーリスなんですけど、彼も楽器の音の自然な響きをすごく大切にしていて、ボーカルや楽器一つひとつのディテールにこだわり、今その場で奏でられているような音づくりを信条としている人です
だから宇多田さんの音数が少なく引き算で構成されるようなアレンジと、スティーブンの方向性というのが素晴らしい相乗効果を生んで、ハイレゾで聴くうまみの強いサウンドになっていると思います。特に生楽器の音に注意して聴いていただければ、より楽しめるでしょう。
三宅:スティーブンのミックスは本当に素晴らしいけど、付け加えておくと小森くんの技術も素晴らしいんだよ。ただチームの中で、実は彼だけが唯一ヒカルより年下なんだよね。だから「ヒカルさん」さんと呼ぶのも彼だけ(笑)。
こうしてハイレゾ音質による宇多田ヒカルの楽曲と、それにまつわるトークセッションは終了した。セッション後には観客からの質問コーナーも設けられ、「宇多田ヒカルさんのTwitterの投稿が最近止まっているようですが、どうされましたか?」との問いに対して宇多田氏は、
「今はもう宇多田ヒカル20周年のことで頭がいっぱいで、そちらに注力するためにお休みしています」
と答える一幕も。
12年ぶりとなるコンサートツアー、そして移籍後初となるニューアルバムと、いくつもの期待をうかがわせながら始動した宇多田ヒカルのデビュー20周年イヤー。
マルチプルなサウンドクリエイターとして成長を続けた20年から、次なる未来へとその進化は止まらない。これからの宇多田ヒカル、そして彼女とともに歩むチームが紡ぎ出す音世界から目が離せない。
宇多田ヒカル オフィシャルサイトはこちら
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