ファンの心を動かすグッズはどうやって生まれる? LBEビジネスを支えるグッズ開発の裏側➁
2026.10.14


ロケーションベースエンタテインメント(以下、LBE)は、テーマパークやミュージアムなど、特定の場所でしか体験できない価値を提供するエンタテインメントビジネス。そのなかでグッズは、来場者の体験価値を高める重要な要素になっており、来場時の感動を持ち帰るモノとしてだけでなく、施設との継続的な接点を生み出す役割も果たしている。
『スヌーピーミュージアム』や『CREATIVE MUSEUM TOKYO』、『YURAKUCHO MUSEUM』、『Sanrio characters Exhibition Hotel Floria Tokyo』(以下、『ホテルフローリア トーキョー』)などでLBEビジネスを展開するソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)は、どのような考えのもとでグッズ開発を行なっているのか?
本記事では、商品企画担当者6人へのインタビューを通じて、SCPのグッズ制作のプロセスや開発への思い、LBEビジネスにおけるマーチャンダイジング(以下、MD)の重要性を紐解く。
前編では、これまで手がけてきた事例を振り返りながら、ファンの心を動かすグッズはどのようにして生まれるのかについて語る。
目次

高橋 亮
Takahashi Ryo
ソニー・クリエイティブプロダクツ

今井清貴
Imai Kiyotaka
ソニー・クリエイティブプロダクツ

中平青知杏
Nakahira Cettia
ソニー・クリエイティブプロダクツ

池内侑香
Ikeuchi Yuka
ソニー・クリエイティブプロダクツ

中庭香乃
Nakaniwa Kano
ソニー・クリエイティブプロダクツ

沖田頼人
Okita Raito
ソニー・クリエイティブプロダクツ
後編はこちら:ファンの心を動かすグッズはどうやって生まれる? LBEビジネスを支えるグッズ開発の裏側➁
──皆さんが在籍するLBE事業本部 MD事業部は、どのような部署でしょうか。
高橋:SCPのLBE事業本部では、東京・南町田の『スヌーピーミュージアム』、東京・京橋の『CREATIVE MUSEUM TOKYO』、東京国際フォーラム内にオープンした『YURAKUCHO MUSEUM』などのベニューを運営しています。
また、東急歌舞伎町タワーで開催中の『ホテルフローリア トーキョー』をはじめ、さまざまなエキシビションにも携わっています。
そのなかでMD事業部は、各ミュージアムや展覧会で販売するグッズの企画、開発を行なう部署です。その原点となったのが、2016年から2年半の間、六本木で運営した『スヌーピーミュージアム』でした。
同じソニーミュージックグループであるソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)に協力を仰ぎながら、これまでの“かわいい”路線とは一線を画す、大人も楽しめるグッズを開発し販売。そのラインナップが人気を集め、『ピーナッツ』の認知拡大、ブランド力向上にもつながる結果となりました。これをきっかけに、SCP内でもMD事業を拡大する動きが加速したんです。
──現在は商品企画だけでなく、商品の製造を発注して在庫の管理まで行なうメーカー機能も担っているそうですね。
高橋:SCPの事業ドメインにおいてLBEビジネスが急速な成長を遂げるなか、MD事業を拡充させる流れが自然と広がっていきました。
詳しいことはのちほどお話ししますが、キャラクタービジネスの一環としてLBEビジネスを展開するのであれば、収入源の核となるMD事業を疎かにしてはいけないという考えで、メーカー機能も持つことになったんです。
実際に『可愛いだけじゃない!?ピングー展』(以下、『ピングー展』)と『細田守の原点/展』では、多くのアイテムで企画から発注、在庫の管理まで一気通貫で手がけました。
大事なことは、LBEというお客様と直接接点が持てる場を、キャラクターのマーケティング視点でもブランディング視点でも最大限いかすこと。
お客様のキャラクターや作品の世界観に触れたい欲求を起点に、展示内容でその欲求を満たし、グッズによってその余韻を最大化して、キャラクターにもっと愛着を持っていただく。同時に新規のファンエンゲージメントも掘り起こしていく。
LBEとMDがエンジンとタイヤになって、キャラクタービジネスをさらに加速させたいというのが、我々が考えていることの本質です。
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──皆さんのこれまでの経歴とMD事業部での役割を教えてください。
高橋:私は玩具メーカー、テーマパークの運営会社を経て、SCPに入社しました。入社当初は『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』などの展覧会で企画、制作を担当していましたが、現在はMDチームを統括する役割を担っています。
今井:以前はアパレルのバイヤーを務めており、2026年5月にSCPに入社しました。現在は、『スヌーピーミュージアム』の商品戦略を担当しています。商品開発に入る前段階で、どのようなターゲットに向けて、どういった施策を打つべきか、分析などを行なうのが主な役割です。
中平:もともとはアニプレックスとSMSで、MD関連の業務に携わっていました。SCPでは、『スヌーピーミュージアム』の担当を経て、現在はMDの戦略を担っています。
池内:前職はグラフィックデザイナーでした。SCPでは『ピーナッツ』のライセンスビジネスにおけるクリエイティブ担当を経て、現在はLBEビジネスの商品開発を担当しています。
中庭:私は異業種からキャラクター系のデザイン会社に転職し、その後SCPに入社しました。当初はグッズ担当ではなかったのですが、もともとキャラクターグッズが大好きだったこともあり、MD業務を担当することになりました。現在は、『スヌーピーミュージアム』と『ホテルフローリア トーキョー』の商品開発を担当しています。
沖田:前職は、キャラクター雑貨のメーカー兼卸の会社に勤務していました。SCPに入社してすぐに『ピングー』のポップアップストアを担当し、現在は大阪に会場を移した『細田守の原点/展』を中心に商品開発を手がけています。
──先ほどの高橋さんの話からすると、展覧会やミュージアムにおけるグッズの役割は“LBE体験の一部”であり、通常の商品企画とは異なる点が多いのではないかと思います。キャラクターショップなどで販売されるグッズとは、ターゲットも異なるのでしょうか。
高橋:そうですね。お伝えした通り、ミュージアムや展覧会はキャラクターを好きになってもらうきっかけの場であり、お客様とキャラクターとの距離が縮まるタイミングでもあります。だから、商品企画においてもその点はすごく意識しています。
また、お客様がグッズを購入するタイミングが、基本的に展示を鑑賞したあとであることもポイントで。展示を見終えたときに、どういった気持ちでショップに向かうのかを想像し、その気持ちに寄り添いながら開発することも大事にしています。
グッズを購入することで見終えた気持ちが余韻となり、それがそのお客様に定着するように……だから、LBEビジネスで展開するグッズは、おのずと展示内容とのかけ合わせを意識することになりますね。
──商品を企画する段階から、展示の企画、制作スタッフと密にやり取りしながら進めているのでしょうか。
高橋:そうですね。まずは展示のコンセプトを起点に、その世界観をしっかり詰めたうえで商品を企画します。
ただ、展示内容の制作よりも先に商品開発に取りかからなければいけないことも多く、コンセプトカラー、キービジュアルなど、詳細がまだ固まっていない段階で商品を企画することもあります。そういった場合は、テーマやコンセプトなど決まっているものに基づき、先を見通して制作しています。
──ひとつの展覧会で、どれくらいの準備期間が必要ですか?
沖田:展示内容や商品ラインナップによって異なりますが、半年から1年ほどかかります。特に、金型を必要とするものや縫製品は制作期間が長くなりますね。
──音楽ライブではTシャツやタオルが定番グッズですが、展覧会やミュージアムにおける定番アイテムはありますか?
沖田:マスキングテープ、ポストカード、トレーディングアイテム、クリアファイルなどが定番アイテムとして人気ですね。
池内:ただ、定番アイテムや会場限定グッズの需要も以前とは変化していて。これまでにはなかったマニアックな商品や、自分でカスタマイズできるものなど、新たな発想やレパートリーの豊富さが求められているように感じます。
──品目数も、かなり多くなっているのではないでしょうか。
中平:そうですね。『ピングー展』『細田守の原点/展』では、それぞれ150点近くのアイテムを展開しました。
──続いて、個別の取り組みについても聞いていきます。まずは『スヌーピーミュージアム』のMDについて教えてください。
中庭:『スヌーピーミュージアム』では、今年初めてスヌーピーのバースデーグッズを販売しました。スヌーピーの誕生日である“8月10日”が印字されたアイテムを数種類販売したところ、多くのお客様に喜んでもらえました。“スヌーピーの誕生日を『スヌーピーミュージアム』でお祝いしたんだ!”と、お客様にとって記憶にも記録にも残るものになったと思います。
今井:『スヌーピーミュージアム』は、ファンの方が継続的に足を運んでくださる場なので、常に新しいアイテムを追加しており、新作を含めるとラインナップは500点以上になりますね。
なかにはグッズを目当てに来場してくださる方もいますし、何より『ピーナッツ』は世代を超えて長年愛されているIPだからこそ、さまざまなグッズに触れてきた方が多いです。皆さんに喜んでもらえるようなグッズを作るために、数カ月ごとのサイクルで開催する企画展とはまた違った考え方で商品を開発していく必要があると考えています。
──『スヌーピーミュージアム』で、最新の注目アイテムはなんですか?
今井:『スヌーピーミュージアム』のコアなファンの方は、グッズを楽しみにしていることも多いので、その期待に応えられるよう、グッズ開発には特に力を入れています。キャラクターのぬいぐるみやアパレル雑貨はもちろん、インテリア用のラグなど高単価の商品もラインナップしています。
また、最近は『スヌーピーミュージアム』の入口にある大きな口を開けたスヌーピーをモチーフにした“WELCOME ART”というシリーズも人気です。キーホルダーやタオルなど来場記念のお土産になるようなグッズが多く、なかでもクッキーはよく売れていますね。1枚ずつ違う絵柄がプリントされており、個包装なのでお土産としても好評です。
ほかにも、お菓子類は安定の人気を誇っています。これらも食べたら終わりではなく、入れ物をポーチとして日常使いできるなど、食べ終わったあとも楽しめるモノも含めた、幅広い商品を販売しています。
──『ピングー展』についてはいかがでしょうか。
池内:『ピングー展』の企画運営を行なうプロジェクトチームが、“『ピングー』の魅力を改めて伝える展覧会にしたい”というテーマを掲げていて、実際に展示内容も原作であるクレイアニメーションを多く観てもらう構成になっていました。
だから、MDもその展示を観たうえで欲しくなる商品を手がけるべく、例えばぬいぐるみであれば、多くの人のイメージに残っている黒と白のカラーリングだけではなく、クレイをイメージしたグレーの生地のぬいぐるみも用意しました。
中平:加えて、イベントのタイトル通り、“可愛いだけじゃない!?”という点も意識しましたね。
最近、SNSを中心に『ピングー』が話題を集めることが増えてきていますが、実際にユーザーの方々の投稿を見てみると、口が伸びていたり、変なポーズをしていたりと、ユニークなものが人気な傾向にあります。
このことから、“ピングーの面白いところが好き”“この変顔をしたピングーが好き”という方も多いはずと予測して、実際にいろいろな表情やおかしなポーズをするピングーのグッズを制作しました。
──特に人気だったアイテムはなんですか?
中平:いろいろな表情のピングーを立体的に表現した「ラバーマスコットキーホルダー」ですね。さまざまなクレイモデルの展示を観たあとにショップに足を運んでいただくため、平面的なグッズよりも立体物のほうに親近感を持ってもらえたのではないかと思います。
それに加えて、面白い表情のピングーを身につけられるという点も人気につながったのではないでしょうか。
──続いて『細田守の原点/展』はどうでしたか?
中平:細田監督の作品性を支持するファンだけでなく、作品単位のファンも多く来場することが予想されたので、作品やキャラクターごとの商品を多数用意しました。
また、ほかのキャラクターと違い、細田監督作品のグッズは劇場公開がないときは、それほど多く展開されていなくて。だからこそ、この展覧会を機に好きなキャラクターや作品をもっと身近に感じてほしいと思い、マスコットやキーホルダー類など身につけられるアイテムを数多くラインナップしました。
『ピングー展』と同じように、“自分はこの作品、このキャラクターが好き”と、さりげなくアピールできる商品ですね。
いっぽうで、コアなファンの方も多いので、皆さんが身につけたい、欲しいと思うグッズは何か? リサーチを行ない、ニーズをしっかり捉え、幅広いラインナップを考えていきました。
池内:展覧会オリジナルグッズは、細田監督作品を象徴する“青空”をモチーフにオリジナルアートを制作し、さまざまな商品に落とし込んでいきましたね。
──どのグッズが人気でしたか?
中平:人気のキャラクターをマスコットにしたアクリルチャーム付きマスコットぬいぐるみですね。購入したものをバッグにつけて楽しんでいるお客様がたくさんいました。

「アクリルチャーム付きマスコットぬいぐるみ」(全10種)©2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS ©2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会©2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS ©2021 スタジオ地図©2025 スタジオ地図
──バッグにたくさんぬいぐるみをつけて、“自分はこれが好き”とアピールする推し活ですね。
中平:はい。グッズが展覧会などでよく売れている理由のひとつとして、推し活文化の浸透があると思います。自分の好きなものを集めたり、身につけたりして楽しむ人も多いですし、“私はこれが好き”という自己表現の手段になっていると感じます。
──『ピングー展』『細田守の原点/展』ともに、完売商品が多かったと聞きました。予想を上回る反響があった商品を教えてください。
沖田:『細田守の原点/展』では、「OZ パタパタクロック」が人気でした。ほかのアイテムと比べると高単価商品でしたが、予想を上回る売れ行きになりましたね。
──なぜ売れ行きが良かったのでしょうか。
池内:『サマーウォーズ』の「OZ」の世界を表現した商品だった点が、人気を集めた要因だと思います。時計から作品の世界観が感じられ、そこに惹かれて購入された方が多かったのではないでしょうか。
──逆に、開発段階では期待していたものの、売り上げ面では想定と異なる結果になったケースはありましたか。
高橋:それはなく、むしろ『ピングー展』も『細田守の原点/展』も、予測を大きく上回る売り上げとなりました。そもそもどちらの展覧会も来場者数が想定を大幅に上回りつつ、『ピングー展』はキャラクターのリバイバルヒットが後押しになり、『細田守の原点/展』では細田監督作品のグッズに希少性があったことで、お客様ひとりあたりの購入単価も大きくなりました。
とはいえ、グッズの反響が大きいと売り切れてしまうこともあり、“欲しかった商品が買えなかった”という声をいただくこともあります。過去の展覧会で蓄積してきた来場者データなどを参考に、商品企画や製造数を検討していますが、予測はなかなか難しいものです。それでも、できるだけ多くのお客様の期待に応えられるよう取り組んでいきたいと考えています。
©2026 Peanuts Worldwide LLC
©2026 JOKER.
文・取材:野本由起
撮影:干川 修

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