『ピングー』にリバイバルヒットの兆し――SNSマーケティングをフル活用するチームの挑戦②
2026.07.11


クレイアニメから生まれたコウテイペンギンのキャラクター『ピングー』が、じわじわと人気を集めている。国内のSNS総フォロワー数は、2026年4月時点で約50万人に達し、2025年10月と比較すると約10万人増加。ポップアップストアの売れ行きも好調で、企業とのコラボレーション企画も盛んに行なわれている。
その背景には、“休眠ファン”の再燃や新規ファンの掘り起こしを促したSNSプロモーションがあった。本記事では、ソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)と『ピングー』との歩みを振り返りつつ、『ピングー』が再び注目を集める要因となったSNSプロモーションについて、3人のキーパーソンにインタビュー。
前編では、『ピングー』が改めて注目されるようになったきっかけと、スピード感を重視したSNS戦略について語る。
目次

田中春奈
Tanaka Haruna
ソニー・クリエイティブプロダクツ

大仁田弘志
Onita Hiroshi
ソニー・クリエイティブプロダクツ

白石佑佳
Shiraishi Yuka
ソニー・クリエイティブプロダクツ
『ピングー』は、スイスのアニメーターであるオットマー・グットマンによって生み出されたペンギンのキャラクター。1980年にストップモーションアニメのテストフィルムとして原型が制作され、その後、1987年のベルリンフィルムフェスティバルでパイロット版を上映、大きな注目を集めた。日本では1992年にテレビ放送を開始。南極に住むピングーと仲間たちが繰り広げるコミカルで温かみのある日常描写が多くの人びとに親しまれている。
──まずは、皆さんの略歴と『ピングー』プロジェクトでの役割を教えてください。
田中:私は、SCPにキャリア採用で入社し、8年間ライセンス営業を担当していました。3年半ほど前から『ピングー』のブランドマネージャーを務めており、ブランドやクリエイティブの方向性決め、プロモーション施策の策定、チームの進行管理など、ビジネス全体の統括をしています。
大仁田:僕は、同じグループ会社のソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)のクリエイティブ部門に所属していたのですが、2024年にSCPに異動。異動後すぐに担当することになったIPが『ピングー』でした。現在は、新規IPの開発に携わりながら、『ピングー』のクリエイティブディレクターも務めています。
業務内容としては、SNS用のクリエイティブの制作、イベントやポップアップショップの装飾デザイン、ライセンシー各社から上がってくるデザインの監修、ピングーの新しいアートの開発など、『ピングー』に関するクリエイティブ全般の統括を担当しています。
白石:私は、2000年に新卒でソニーミュージックグループに入社してSCPに配属されたんですが、一身上の都合で、2005年に退社。海外生活などを経て、フリーランスのデザイナーとして活動を始めました。
その後、2012年ごろから『ピーナッツ』関連の雑貨のデザインを手がけるようになったのをきっかけに、SCPとのご縁が再びつながり、2025年に業務委託のかたちでSCPに在籍することになりました。
今は『ピングー』のキービジュアルの開発やイラスト制作を担当していますが、実は、新卒で入社したとき、最初に担当したのが『ピングー』でした。
──新卒で担当した『ピングー』に、20年以上の時を経て改めて携わるというのも、すごいご縁ですね。
本当にそうだと思います。今振り返ると、新卒で入社したときには『ピングー』というIPに対して、まだまだ出来ることがあったなと後悔のようなものを感じていました。なので今、その想いをかたちにしてIPに貢献できたらと日々取り組んでいます。『ピングー』らしさも大事にしつつ、今の時代にも合ったデザインづくりを意識するようにしています。
──『ピングー』は、1980年に当時画期的だったストップモーションアニメとしてテストフィルムが制作されたそうですが、SCPが国内のエージェントとして関わり始めたのはいつからでしょうか。
白石:1991年にライセンス契約を結んだそうです。当時のスタッフが海外の展示会で資料送付を依頼したところ、届いたパンフレットのなかで『ピングー』が紹介されていて。その後、改めて取り寄せた映像を見て、そのかわいさに惚れ込み“日本で展開したい”という話になったと聞いています。
田中:日本でのTV放送がスタートした1992年から、キャラクタービジネスも本格的に始まりました。1993年にはソニーの「ウォークマン」のTVCM、1997年には住友生命保険のイメージキャラクターに起用され、さらに1999年からはミスタードーナツとのコラボキャンペーンも行なっていました。
盛り上がりをみせていた1990年代はSCPでも積極的に商品開発を行なっていて、さまざまな展開があったようです。
──当時は中高生を中心に人気があった印象があります。
白石:そうですね。当時のメインターゲットは中高生だったようです。『ピングー』が生まれたスイスの公用語のひとつであるフランス語をコピーに使用するなど、海外のおしゃれなキャラクターという位置づけで、世界観づくりをしていたそうです。当時のファッション誌で人気だったフレンチカルチャーの空気感とも重なり、グッズを持っているとちょっとおしゃれに見えるようなキャラクターだったと思います。
──1990年代に話題を集めたあとは、どのような状態だったのでしょうか。
田中:2000年代に入り、人気が下火になった時期がありました。資料を見ると、2007年に開催された全国巡回展「南極発!ピングーからのメッセージ 『環境が学べるアート展』」が最後の大きな展開で、その後は露出が少なくなっていきました。アニメーションの新作が作られていなかったこともあり、新たな話題を作るのが難しかったのだと思います。
──そんな『ピングー』が近年、再び注目を集めています。再浮上のきっかけは何だったのでしょうか。
田中:SNSの影響が大きいですね。私は、ライセンス営業をしていたころから、“『ピングー』はもっと現代的にアップデートできるはず!”とイメージが湧いていて。「もしブランドマネージャーをやるなら『ピングー』を担当したい」と言い続けていました(笑)。
──どのような点に可能性を感じていたのでしょうか。
田中:単純に私が『ピングー』というキャラクターを好きだったということもありますが、原作であるクレイアニメーションの面白さをSNSで展開すれば、その魅力が伝わるはずだと思ったんです。そこでSNSプロモーションに注力し、新しいコンテンツを継続的に発信していくことにしました。
グッズも、以前はファンシーなものが多かったんですが、白黒のシンプルなデザインをいかして幅広い世代に支持されている『ピーナッツ』のように、『ピングー』にもファンシー路線とは違う方向性もあるのではないかと考え、時間をかけて変えていきました。
また、“『ピングー』はこうあるべき”という世の中の既成概念を崩すために、新たに若手スタッフもチームに加わってもらったことも大きかったと思います。
白石:『ピングー』チームは風通しが良く、意思決定のスピードも速いです。キャラクターの魅力を表現できる面白い施策なら積極的に挑戦しようという空気がありますし、そうした柔軟さがあるのは、若手スタッフを率いる田中さん、大仁田さん、ふたりの存在によるところも大きいと思っています。
──具体的に、どのようにして『ピングー』をリブランディングしていったのでしょうか。
田中:イメージを一新するというより、もともとの魅力をいかしながら、時代に合わせてアップデートしていくという方針で行ないました。
特に力を入れたのが、お伝えした通りSNSです。Xでは大喜利企画など、ユーザー参加型のコミュニケーションを展開しています。
Instagramでは動画の切り抜きや漫画投稿、トレンドを取り入れたコンテンツ、商品紹介など幅広い発信を行ない、最新情報が最も集まる場所でありながら、気軽に楽しめるコンテンツにも触れられるアカウントを目指しました。
いっぽうTikTokでは、あえて商品紹介は行なわず、ショート動画に特化したコンテンツを発信しています。
大仁田:『ピングー』は、もともとSNS上でミーム化されやすいキャラクターだったので、こちらが発信しなくても、ユーザーの皆さんが勝手に遊んでくれる存在だったんです。だったら公式もその輪のなかに入って、同じ目線で一緒に楽しんでみようと。
そうすると“公式も一緒に遊ぶんだ!”という空気が生まれ、ユーザーの皆さんのUGCを発信する熱がさらに高まるという、いい循環が生まれました。“これ、本当に公式アカウントからの投稿?(笑)”とツッコまれることも多いのですが、僕らは、これを最大の褒め言葉だと思っています。
加えて、クリエイティブの強化にも取り組みました。これまでの『ピングー』のイメージに捉われすぎず、原作の魅力をいかした、いろいろな表現や見せ方を積極的に試したことで『ピングー』のクリエイティブのイメージが変わり、SNSの発信もより面白くなり、それによって風向きが変わったように思います。
──SNSのフォロワー数が伸びましたが、具体的にはどのような施策が功を奏したのでしょうか。
田中:とにかく、コツコツとネタを投稿し続けたのが良かったのではないか、と分析しています。フォロワー数の伸びが停滞したら、違うコンテンツにチャレンジしてみるというかたちで、チームスタッフそれぞれがネタを集めながら、日々投稿をし続けました。
また外部のパートナー企業で、20代の若手の方々が中心になって活躍するSNSのコンサル会社との出会いも大きかったですね。
最終的な監修や内容の確認、実際の投稿は自分たちで行なっていますが、コンテンツ制作や、投稿する動画のスタイル、デザインのアドバイスといったSNS発信に関する提案をいただいています。そのおかげで、ものすごいスピードで移り変わるSNSの変容に置いていかれることなく、コンテンツを発信できています。
大仁田:社内だけですべての判断をしないようになったことが、いい結果を生んだように思います。
僕らの感覚だけでは、若い世代が“今、何を面白いと感じているのか”を完全には把握できません。その世代の人たちの意見をしっかりと取り入れ、それをアウトプットにつなげるようにしたことは、とても良かったと感じています。
──“ユーザー目線で遊ぶ”という話がありましたが、とは言え、公式としてどこまで攻めるのか、そのバランスも難しいのではないかと思います。SNS運営で意識していることはありますか?
大仁田:大前提としているのは、ピングーたちを傷つけるようなことは絶対にしないということ。そのためには、僕ら自身が『ピングー』という作品に愛情を持ち、ファンの皆さんと同じ目線で一緒に楽しむことが大事。その想いが伝わるコンテンツであれば、ファンの皆さんにも受け入れていただけると思っています。
田中:もっと『ピングー』のかわいさを知ってもらいたくて、SNSに取り組んでいます。社内でも“これは確かに面白いけど、ちょっとピングーがかわいそうだから変更しよう”といった話はよく出ますし、常にキャラクターへの愛情を前提にアイデアを考えています。
──『ピングー』のアカウントを見ているとわかりますが、SNSのトレンドも非常に素早く取り入れていますよね。
大仁田:それは田中さんが本当にSNSをよく見てくれていて、“今これが流行っているらしいよ”とすぐにアイデアを出してくれるんです。それを僕たちがかたちにする。そのチーム連携がうまく機能しているからだと思います。
田中:Xで話題になっているネタを、チームメンバーたちがすぐに『ピングー』に合わせたデザインに起こしてくれて。“できれば1週間以内に投稿したいんですけど……”みたいな無茶ぶりにも、しっかり対応してくれるので本当に助かっています。
世界で一番元気なペンギンさん🐧 pic.twitter.com/ax3VPJSzLh
— pingu_jp (@pingu_jpn) November 4, 2025
白石:チームの全員が、制作物に対するリアクションが早くて、かつポジティブな意見が多いので、作っていてすごく楽しいんですよね。SNSは流行に乗ることが大切なので、迅速に対応するように心がけています。
──権利元からは、日本でのこうした取り組みに対して、どのような反応がありますか?
田中:権利元であるマテル社は、アメリカを代表する玩具メーカーですが、近年は玩具だけでなく、IPビジネスにも力を入れています。そのため、各国、各地域でのローカライズにも非常に前向きですし、日本独自の施策についても応援してくれています。
実際、日本以外でも思い切った取り組みが行なわれていますし、そもそも本国の公式アカウントの発信が、かなり攻めている内容で。むしろ「日本も、もっと攻めていいよ」と言われるくらいです(笑)。
大仁田:僕が引き継いだ当初は“ルールを守ってIPを守る”という印象がありましたが、それぞれの国と地域での成功事例が増えるにつれて、“もっと挑戦していこう”という機運が生まれてきました。
そのおかげで、僕たちも新しい施策やデザインに挑戦しやすくなっていますし、とてもいい関係性が築けていると思います。
──現在の『ピングー』のファン層はどのような構成になっているのでしょうか。
田中:メインは30~40代の女性層なのですが、徐々に変化してきています。2020年に開催した40周年の展覧会では、来場者のほとんどが30~40代の女性層だったのに対して、2026年の現在は10代をはじめとする若年層のファンも増えてきています。
大仁田:加えて、SCPが手がけているIPでは珍しく、男性層のファンが多いというデータもあります。デザインがファンシーすぎないうえに、ミーム的な面白さから興味を持ってくれる人が多いからだと考えています。
──先ほど、大仁田さんから“クリエイティブの強化”という話がありました。ユニークなイラスト表現や、これまでにない商品展開など、近年の『ピングー』には新しいクリエイティブの動きが感じられます。どのような方向性を目指しているのでしょうか。
大仁田:僕はSMSから異動してきたので、SCPにおける従来のクリエイティブの進め方を知らない状態で担当を始めました。
そのうえで、クリエイティブディレクターには、デザイン制作や監修などを行なう際、指示に徹するタイプと自分で手を動かすタイプのふた通りがあって。自分は、SMS時代から圧倒的に手を動かしたいタイプ(笑)。
ディレクターではありますが、制作チームとしてデザインもしますし、映像も作ります。例えば、ライセンシーから上がってきたデザインに対しても、単にOKかNGかをジャッジするだけではなく、“こういう打ち出し方なら、こんなデザインはどうでしょう”という提案を行なうこともあります。
SNSに投稿する画像や映像も、みんなで手分けして作業し、離れていてもリアルタイムでチャットで意見を出し合いながら、自分たちがいいと思うものをかたちにしていく。アイデアが浮かんだら、1日、2日で素材を制作して投稿までできる。こうした連携のスピード感は、『ピングー』チームならではですね。だからこそ、トレンドを抑えつつ、ファンの皆さんの反応を見ながら軌道修正もできる。この機動力は大きな強みだと思います。
──『ピングー』のプロジェクトにおけるSNS活用や、スピード感のあるチーム運営は、SCP内のほかのIPにも波及しているのでしょうか。
田中:私が『ピングー』を担当し始めた当時、Instagramのフォロワー数は約10万人でしたが、現在は39万人を超えました。フォロワー数が大きく伸びたことで売上も大きく伸び、その相関関係を社内でも共有するようにしています。
SCPでは伝統的なプロモーション方法が主流でしたが、『ピングー』の事例から、“もっとSNSにも力を入れるというべき”という声が、かなり強くなったと思います。私も、ほかのIPのSNS戦略について相談を受けることが増えてきました。
後編では、昨年行なった『ピングー』の45周年施策を紹介するとともに、7月10日から「YURAKUCHO MUSEUM」で開催する『可愛いだけじゃない!?ピングー展』の見どころに迫る。
文・取材:野本由起
撮影:冨田 望
©2026 JOKER.
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