ロケーションとIPをシンクロさせた先に生まれる、体験型エンタメビジネスの新たなカタチ②
2026.06.30


「ピーナッツ」「セサミストリート」「きかんしゃトーマス」「ピングー」などのIPを活用して、キャラクタービジネスを展開するソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)。近年、同社の事業ドメインにおいて急速に存在感を高めているのが、ロケーションベースエンタテインメント(以下、LBE)事業だ。
本記事では、SCPでLBE事業を主導する吉岡達哉が、ロケーション=場とIPをシンクロさせることで生まれるシナジーと、ビジネスの可能性について語る。
前編では、SCPのLBE事業の現在地と、LBEに紐づいて活性化しているマーチャンダイジング事業について聞いた。
目次

吉岡達哉
Yoshioka Tatsuya
ソニー・クリエイティブプロダクツ
執行役員
テーマパークやミュージアム、商業施設など、特定の場所でしか味わえない体験型エンタテインメントのこと。SCPでは東京・南町田の『スヌーピーミュージアム』、東京・京橋の『CREATIVE MUSEUM TOKYO』に続き、2026年7月10日には東京国際フォーラム内に『YURAKUCHO MUSEUM』をオープン。さらに、7月15日からは、東急歌舞伎町タワーで期間限定(2027年5月31日まで)のエキシビション『Sanrio characters Exhibition Hotel Floria Tokyo(ホテルフローリア トーキョー)』を開催。“ロケーション=場”をいかしながら、社内外を問わず、さまざまなIP、アーティスト、クリエイターとのコラボレーションによって、そこでしか味わえないエンタテインメント体験を提供している。
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──SCPの事業ドメインのひとつとして、LBEビジネスが急成長を遂げています。現在、その先導役を務めているのが吉岡さんですが、これまでどのようなキャリアを歩み、どういった経緯でSCPのLBE事業に携わることになったのかを教えてください。
大学時代から“建物をどう活用するか”に興味があり、新卒で不動産関連の総合ディベロッパーに入社。配属先は、観光施設や美術館の展示企画を行なう部署で、人が集まり、その場を楽しみ、体験を通して得た感動を持ち帰ってもらう──今で言うLBEに近い事業に携わっていました。
ここでは、会社が運営する施設でIPを用いた展覧会や脱出ゲームなどの施策を行ない、集客力を高める仕事に大きなやりがいを感じていましたが、さらにエンタテインメントに振り切ったビジネスに携わってみたいと思うようになって、大規模テーマパークを運営する企業に転職しました。
転職先の企業では、マーケティングやアトラクションのプロデュースを担当。圧倒的な没入感、ストーリー性のある世界観など、クオリティの高いエンタテインメント体験が求められるテーマパークという場で、IPとのコラボを中心とした企画立案に加え、どんなお客様にどのような感情体験を提供すれば、集客や満足度の向上につながるのか、リサーチや分析方法も含めて多くのことを学びました。
──その後、SCPに転職したわけですね。
はい。テーマパークは、広大な敷地のなかでIPの世界観を徹底的に作り込めますが、いっぽうで、その場所でしか体験価値を提供できないという側面もあります。テーマパークにおけるビジネスをひと通り経験させてもらったときに、これほどの規模でなくてもいいので、いちからロケーションをプロデュースしてみたい。エンタテインメントの体験施設だけでなく、その周りの環境も巻き込んだ“LBE”に挑戦したいと考えるようになりました。
ちょうどそのころに、SCPが六本木から南町田に『スヌーピーミュージアム』を移転し、さらに京橋の『CREATIVE MUSEUM TOKYO』の構想にも動き出していて、人材を求めていたことから自分に声がかかったんです。
それまでに培った“場を作り、運営する視点”と“高品質な体験をマーケティング視点で事業化するノウハウ”をかけ合わせることで、唯一無二の体験を数多く生み出す。そういう期待を持ってSCPに入社しました。
──SCPに入社後は『六本木ミュージアム』で、さまざまな展覧会の企画に携わっていましたね。
2016年に、六本木にオープンした『スヌーピーミュージアム』は、当初の計画通り2年半の会期を終えて、南町田グランベリーパークに移転することになったのですが、六本木の施設は、それ以降も使用できることになったんです。
そのため、ソニーミュージックグループのヘッドクオーターであるソニー・ミュージックエンタテインメントが、施設の運営を引き継ぐかたちで2019年1月に『ソニーミュージック六本木ミュージアム』をオープンさせ、独自に展覧会を開催することになりました。
その後、2021年4月に施設の運営が改めてSCPに移管されることになり、『六本木ミュージアム』に名称を変更。私もこのタイミングから本格的にSCPのLBE事業に携わるようになり、「約束のネバーランド」や「名探偵コナン」、「美少女戦士セーラームーン」などのIPとコラボをさせていただきながら、従来の展示型ミュージアムにテーマパーク的な体験を加える企画展に複数チャレンジしました。

2021年4月からSCPが施設を運営することになり、『六本木ミュージアム』と名称を変更。最初に開催したのがアニメ「約束のネバーランド」の世界観を再現した「体験ミュージアム『約束のネバーランド』GFハウス脱獄編」となる。写真は、『六本木ミュージアム』内のグッズ売り場
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このときに『CREATIVE MUSEUM TOKYO』の運営にもつながる知見を蓄えつつ、同時に、コロナ禍という不測の事態で苦戦していた『スヌーピーミュージアム』の集客回復にも取り組み、2023年ごろには“LBE”の概念を軸にしてSCPのミュージアムビジネス全般を取りまとめることに。現在は事業本部として組織化されました。
ちなみに、『スヌーピーミュージアム』のオープンから数えると10年以上の長きにわたり、さまざまなエキシビションを開催してきた『六本木ミュージアム』は、土地の使用期限が満了を迎えるため、SCPのオリジナル企画「平成恋愛展」(6月28日で終了)をもってクローズすることになります。
──LBEがSCPの事業ドメインのひとつに成長したのは、やはり六本木で『スヌーピーミュージアム』を展開していたころから積み重ねてきたものが、大きく影響しているのでしょうか。
そうですね。SCPは、2010年に「ピーナッツ」の国内独占エージェント権を取得。IPの価値をさらに拡大する取り組みと、宣伝施策の一環という狙いも含めて『スヌーピーミュージアム』を開設しました。
その後、間にリアルな体験価値の提供が制限されてしまったコロナ禍を挟みながらではありますが、『六本木ミュージアム』や『CREATIVE MUSEUM TOKYO』をオープンし、複数の企画展がヒット。ビジネスとして成長することに伴って、徐々にLBE自体が独立した事業領域へと変化することになりました。2020年に私が入社してからの約6年間は、まさにその転換期だったと思います。
──現在のSCPのLBE事業で、ひとつのIPに絞ったかたちで大きな施設を展開しているのは『スヌーピーミュージアム』のみです。『スヌーピーミュージアム』の好評を受けて、SCPがエージェントを手がける、そのほかのIPでも同じ展開が考えられるのではないかと思いますが、京橋の『CREATIVE MUSEUM TOKYO』、7月にオープンする有楽町の『YURAKUCHO MUSEUM』は、どちらもひとつのIPに縛られず、期間限定でコンテンツが入れ替わっていくポップアップ式になっていますね。
確かにSCPでは、「セサミストリート」「きかんしゃトーマス」「ピーターラビット」などといったキャラクターのエージェントを行なっているため、これらを用いたLBE事業も考えられます。
ただ、それらのIPは、大型商業施設内にビルトインタイプでショップが展開されていたり、作品の世界観を再現した独自の店舗が運営されていたりと、ライセンシーの皆さんのお力もお借りしながら、ロケーションビジネスの一部が既に実現されています。
そして当然ではありますが、ライセンサーの一面を持つSCPとして、そういった既存のベニュービジネスと競合することに意味がありません。のちほどまとめてお話ししますが、「ピーナッツ」で『スヌーピーミュージアム』を始めたのも、ステークホルダーの皆様と競合しないビジネスモデルを構築したうえで行なっています。
我々のLBE事業のフィロソフィーは、SCPが携わっているIPに限らず、さまざまな企業やIPホルダーの皆様と協業して、いろいろな場所で多様な体験価値を生み出すこと。だからこそ、『CREATIVE MUSEUM TOKYO』も『YURAKUCHO MUSEUM』も、ひとつのIPに縛られない運用を行なっています。
──確かに、楽しい体験ができる場所を増やしていくことを考えれば、ポップアップ式のほうが適していますね。
人は、余暇の過ごし方によって人生をより楽しく豊かなものにできたり、日々の仕事や学業の大変さを乗り越えられたりしますよね。そのためには、質の高い体験が必要。我々はLBEで、それを提供していきたいと考えています。
──ここでSCPのLBE事業をまとめたいと思います。既に話にも出ていますが、現在、SCPが直接運営している施設を教えてください。
『スヌーピーミュージアム』『CREATIVE MUSEUM TOKYO』『六本木ミュージアム』の3施設です。そのうち『六本木ミュージアム』は6月で閉館し、7月10日に『YURAKUCHO MUSEUM』がオープンします。
これらのベニューを活用して、自分たちで企画したエキシビションを展開しつつ、内容によっては我々が主催に入らず、他社の方々に場を活用していただくレンタル事業も行なっています。
さらに、東急歌舞伎町タワーの4Fスペースを活用し、サンリオのエキシビション『Sanrio characters Exhibition Hotel Floria Tokyo(ホテルフローリア トーキョー)』を1年弱の期間限定で展開します。
また、現在、強化を続けているのがマーチャンダイジング(以下、MD)です。エキシビションやイベントにおけるビジネス的な成功の原動力として、グッズの売上は非常に大きいものになっています。そのうえでSCPでは、過去の経験からグッズの製造から在庫までを管理するメーカー機能を控える慣習が近年までありました。
ですが、自分たちでエンタテインメント体験を設計し、お客様とダイレクトに接点が持てるLBEでは、体験価値を高める要素のひとつであり、場合によってはその価値を何倍にも押し上げることができるグッズについても、自分たちで責任を持って作るべきではないかと考えるようになったのです。
──SCPのキャラクタービジネスの柱であるエージェント事業においては、SCPがライセンサーとなり、契約を結んだライセンシー各社からIPを活用したグッズが発売されるというスキームが主流でしたが、LBE事業においてはグッズ開発を自社でも行なうということですね。なぜ、この手法になったのでしょうか。
先ほども少しお話ししたのですが、『スヌーピーミュージアム』での成功体験がベースになっています。2016年に『スヌーピーミュージアム』をオープンしたとき、グループ会社のソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)に協力を依頼して展開したオリジナルグッズを『スヌーピーミュージアム』のショップで販売しました。
このとき、グッズ開発のデザインコンセプトにしたのが、「ピーナッツ」というIPのスタイリッシュな世界観をグッズでも表現すること。「ピーナッツ」には、原作者であるチャールズ M. シュルツさんが描いたモノトーンベースの絵柄を、おしゃれにデザインに取り入れることができる特長があるからです。
しかし、『スヌーピーミュージアム』がオープンする前に世の中で販売されていたグッズは、アパレルも含めて、そういったアプローチで作られた商品が少なくて。“おしゃれ”よりは“かわいい”にカテゴライズされる商品が大半でした。
SCPとSMSは、その点に着目してグッズを開発し、ショップの全体のイメージも統一して、大人でも日常的に使えるスタイリッシュなアイテムを多数展開したところ大ヒットしました。さらに、このヒットの流れがライセンシーの皆さんにも波及して、以降、この視点でも多くの商品が開発されるようになり、現在も市場で好評を博しています。加えて、そういった商品が注目を集めることで、「ピーナッツ」というIPの認知度やイメージも向上するという、いい流れを作ることができました。
──正のスパイラルが構築できたわけですね。
はい。そして、そもそもLBEの体験に紐づいたグッズを販売するなら、その場を設計している自分たちがグッズも制作するのが、最適解を導き出しやすいというシンプルな考えもあります。だから、『YURAKUCHO MUSEUM』のこけら落としとなる「可愛いだけじゃない!?ピングー展」では、SCPのMDチームがグッズを手がけ、新しい見せ方で、ピングーのこれまでにない魅力をお伝えするグッズを展開します。
SCPが行なっているのは、ライセンサーであるからこそできるIPの活用法であり、提案です。そして、キャラクターの人気を高めることで、ステークホルダーの皆さんにも利益を還元していきたいという考え方です。
──ライセンサーが積極的に取り組み、キャラクターの魅力を取り入れる方法を提示する。わかりやすいですね。とは言え、ビジネスパートナーであるライセンシーの方々とは、どこかで競合する点が生まれそうです。
そうですね。だからこそ、市場のライセンス商品とミュージアムでの販売商品が競合しないよう、入念な調整を行なっています。例えば、人気が出そうな絵柄はあえて『スヌーピーミュージアム』では使わず、ライセンシー各社にお渡しするといったことだったり、独自に開発したオリジナル商品をメインにしつつも、市場のライセンス商品も一部取り扱ったりといった対応を行なっています。
また、お伝えした「可愛いだけじゃない!?ピングー展」でも、SCPは作品の原点に立ち返り、クレイアニメーションの実写を使った商品を多数制作しています。既存のライセンス商品とはバッティングしないアイテムをご提案し、そのグッズの売れ行きが良ければ、ライセンシーの皆様にも、ぜひ実写を用いた商品を作っていただければと考えています。
どうしてもリスクを背負いづらい、ライセンシーとしては挑戦しづらいようなことにこそ、我々が挑戦して成功体験を生み出していく。さらに、それを皆さんと共有する。これができるのも、やはりそのIPの魅力が集合する場があってこそ。LBEビジネスの真骨頂と言えるのではないでしょうか。
だからこそ、改めて強調したいのは、私たちのビジネスモデルの根底にあるのは“仲間を増やしたい”ということ。SCPのビジネスが伸びれば、IPのファンが増え、ライセンシーの皆様の売上拡大にもつながる。そのための道筋を、もっとたくさん作っていくために、LBE事業でも、いろいろなことを模索しています。
──しかし、自社でグッズを製造する以上、在庫を抱えるリスクも生じるわけですよね。その点はどのように考えていますか。
確かに在庫リスクはありますが、販売場所が限定され、来場者数がある程度予想できるLBE事業では、それなりのリスクヘッジが可能です。
社内でもLBEのMDへの取り組みが知られるようになり、最近は別の事業部から“イベントで物販を行なうために、いつもとは違うグッズを作れないか”といった相談も増えてきています。以前はライセンシーの方々に作っていただく選択肢しかなかったわけですが、少しずつ意識が変わってきていると感じます。
文・取材:野本由起
撮影:干川 修

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