イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

ミュージアム~アートとエンタメが交差する場所

連載開始30年――『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』で辿る華麗なる作品の軌跡【前編】

2022.08.19

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

連載企画「ミュージアム ~アートとエンタメが交差する場所」では、アーティストや作品の魅力を最大限に演出し、観る者の心に何かを訴えかける空間を創り出す人々にスポットを当てる。

今回は、12月30日(金)まで「六本木ミュージアム」で開催中の『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』をクローズアップ。連載開始から30年の軌跡を辿る同展では、原作者・武内直子氏の描き下ろし新作原画を含む、貴重なカラー原画を過去最大規模で展示。ほかにも、過去最多の700点近い秘蔵資料を集めたコレクション展示、没入型体験シアターやホログラム原稿展示などを通じて、作品の世界に深く入り込むことができる。

本記事では、展覧会の模様をお伝えするとともに、連載開始当初からの担当編集者である講談社 小佐野文雄氏、同展を企画したソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)の担当者に話を聞いた。

前編では、『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』の開催経緯と展示内容の見どころについて語ってもらった。

  • 小佐野文雄氏

    Osano Fumio

    株式会社講談社

  • 吉岡達哉

    Yoshioka Tatsuya

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

  • 高橋 亮

    Takahashi Ryo

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

美少女戦士セーラームーン ミュージアム

『美少女戦士セーラームーン』は、講談社の月刊誌『なかよし』で、1991年から連載が始まった武内直子氏原作の少女マンガ。原作単行本は17の言語に翻訳され、アニメーションシリーズは40以上の国と地域に展開。国内外で社会現象を巻き起こした。
 
連載30年を記念した『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』では、武内氏のカラー原画を計180点展示。会期ごとに全作品が入れ替わり、7月1日(金)~9月4日(日)のVol1は原作第1部/第2部、9月10日(土)~11月6日(日)のVol2は原作第3部/第4部、11月12日(土)~12月30日(金)のVol3は原作第5部とそれ以降の原画が、60点ずつ展示される予定になっている。
 
さらに、アニメの設定資料、グッズ、ミュージカルなどで着用された衣裳なども展示され、30年の歴史をさまざまな角度から堪能できる。オリジナルグッズを販売するショップ、作品にちなんだメニューを味わえるカフェも併設されているため、展示を鑑賞したあとも心ゆくまで作品の世界に浸れるのもうれしい。

懐かしさと新しさの共存を目指して

──まずは『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』が開催されることになった経緯を教えてください。

吉岡:2022年に「六本木ミュージアム」で開催する展覧会を検討していたときに、『美少女戦士セーラームーン』が連載開始30周年だと気付きました。しかも、「六本木ミュージアム」は、作品の舞台のモチーフになっている麻布十番にほど近い立地。タイミングも場所もちょうど良いと考え、講談社のご担当の方に企画をご提案しました。

──小佐野さんは、最初に『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』の企画を聞いたとき、どんな印象を持たれましたか?

小佐野:当初の企画は、武内直子先生の原画を中心とした展覧会でした。武内先生の原画、なかでも1990年代に描かれた原画は、これから先、紙の劣化や退色が進んで、今後、皆さんに見ていただくチャンスはなかなか設けられないだろうと思っていたんです。それと2016年にも六本木ヒルズで『美少女戦士セーラームーン展』を開催したんですが、そのときに「もっと原画をお見せできたら」「資料となるグッズをもっと整理してお見せできたら」という反省点があったんですね。

それらがあった上で、今回は連載30周年ですし、確かに原画をご覧いただくには良い機会ではないかと思いました。とは言え、開催するには非常に手間もかかりますので、正直不安もありましたね。細かいところまで丁寧に作り込まなければ、武内先生もファンの方々も納得してくださらないと思いましたから。

ただ、吉岡さんも高橋さんも過去に『美少女戦士セーラームーン』の関連イベントに携わっていらっしゃって、予備知識と経験がありました。また、私は「六本木ミュージアム」の前身である『スヌーピーミュージアム』に何度も足を運んでいて、SCPの皆さんが丁寧な仕事をされているのを知っていたので、安心して原画をお預けできますし、いろいろなご苦労があっても乗り越えてくださるだろうという信頼がありました。

──吉岡さん、高橋さんの『美少女戦士セーラームーン』の関わりについて教えてください。

吉岡:自分はSCPに入社する前、2016年の『美少女戦士セーラームーン展』に一部関わっていました。その後、テーマパークで展開するアトラクションでも『美少女戦士セーラームーン』を扱ったことがあったんです。そして高橋さんは、そのアトラクションのメイン担当。『美少女戦士セーラームーン』というIPを扱う大変さはわかっていたので、今回は高橋さんをはじめ、SCP側も経験値の高いメンバーを集めることにしました。

──どのような苦労が予想されたのでしょう。

小佐野:今回は原画をメインにした展覧会であり、原作と密接に結び付いた内容です。武内先生も、原画の見せ方、展示内容について相当こだわられるだろうということが予想されました。準備期間が限られているなかで、先生の要望を聞いていただいて、ファンの方たちが喜ぶクオリティの高い展示にするには、相応の苦労があるだろうと思いましたね。

──原画をメインにしつつ、アニメ、グッズ、ミュージカルの衣裳など幅広い展示内容になっています。企画全体をどのように固めていったのでしょう。

小佐野:2016年の『美少女戦士セーラームーン展』はアニメなども含む総合的な展覧会ということで、原画の展示は30点ほどだったんです。だから今回は、原作にスポットを当て、原画を丁寧に見せるということを主眼に置きました。ただ、途中から「やっぱりアニメも見せたい」「ミュージカルも外せない」といった意見が上がり、要素を追加しながら今の形になっていきましたね。

高橋:最も大事にしたのは、連載30年の軌跡を辿る展覧会として、『美少女戦士セーラームーン』の歴史をしっかり感じてもらいたいということです。目玉となる原画の展示は、どうすれば感動を生み出せるかを考えつつ、懐かしさと新しさが共存する見せ方を目指しました。

一般的な原画展は、いわゆるホワイトキューブで白い壁に額を飾り、順路に沿って作品を見ていきます。しかし今回は、来場されたお客様の心に響く展示を目指し、武内先生のリクエストで天井から宝石が下がり、キラキラ反射する壁に武内先生のカラー原画を並べました。懐かしいだけでなく、新しい『美少女戦士セーラームーン』の世界も同時に感じていただける展示になったのではないかと思います。

吉岡:原画エリアだけでなく、最初のシアターでアニメをベースにした映像をスクリーンで見せたり、原稿エリアもキラキラしたホログラムで見せたりと、新しい手法にチャレンジしています。もともと“原作をより深く楽しんでいただく”というテーマでスタートした展覧会ですが、アニメやグッズなどの要素が加わっても、原画を展示する空間演出などに当初のコンセプトが表われていると思います。

ギリギリまでこだわり抜いた新作イラスト

――今回の『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』では、原作者の武内直子先生が3点の新作イラストを描き下ろしされています。こちらの制作エピソード、見どころについてもお聞かせください。

小佐野:『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』は、武内先生の原画をメインにした展覧会ですが、全180点の原画を長期間、一度に展示するのは劣化が生じる可能性があるため難しいと考えました。

そこで3期に分けることになり、その時点で新作イラストを3点描き下ろしていただくことが決まったんです。私は会期がちょうど3つに分かれているので、各期に1点ずつ発表していくのかと思いましたが、武内先生もSCPの皆さんも一度で全部楽しんでいただきたいというお考えだったため、3点を一気に見せる運びになりました。

展示してあるカラー原画は水彩ですが、描き下ろしイラスト3点はデジタルで制作されています。そしてデジタルは、いつまでも修正が可能、つまりいつまでも未完成のままなんですね。先生からは「もうちょっと手を入れたい」「少し手直ししたい」という連絡が次々に来て、私もどれが一番新しいイラストなのか混乱することがありました(笑)。だからこそ完成度の高いイラストを展示することができましたが、これに対応するSCPの皆さんは大変だったのではないかと思います。

高橋:3点のなかでも、私が印象に残っているのは「セーラー10戦士」のイラストです。展示されたイラストは黒い背景に上下二段に分かれて「セーラー10戦士」が描かれています。

武内先生が最初に提出してくださったイラストは、作品の世界観、魅力が伝わってくるとても感動的な作品でした。でも、武内先生はそれでは満足されず、そこからさらに変更を加えられて。そうして、アップデートされていったイラストを見ていると、自分が知っている『美少女戦士セーラームーン』が新しいものに進化していく感じがしたんですね。最終的な完成作品が展示されたときには、自分が想像していた枠の外へ連れて行ってもらったような感覚を味わいました。「セーラー10戦士」のイラストは外壁と館内双方を見比べることで、お客様にもそういう感動を味わっていただけるのではないかと思います。

吉岡:私も同じことを感じました。武内先生から描き下ろしの修正版があがって来るたび、最初は「え、こっちの方向に行ったんだ」「これで良いのかな」と思っていたんです。でも、実際に展示してみると「あ、やっぱりこっちのほうが良い」と感じることばかり。小佐野さんが会場のライティングや装飾、全体的な雰囲気などを先生にお伝えいただき情報がアップデートされるたびに、先生がアジャストしてくださっているんだと感じました。しかも、それがことごとく私たちの想像を超えているんですよね。

──長らく二人三脚で武内先生と歩まれてきた小佐野さんは、アナログからデジタルになったことで武内先生の作風がどのように変化したと感じていますか?

小佐野:1990年代のカラーイラストは一発勝負でしたが、それでもモノクロページの原稿は何度か描き直していたんですよね。それは手塚治虫先生や麻宮騎亜先生も同じだったそうです。サグラダ・ファミリアを作ったガウディのように、マンガ家の先生たちはいつまでも絵を直したいという欲求があるんですね。より良いものにしていくことに果てがない。今回の3点の原画制作で、改めてそれを強く感じました。

ただ、武内先生は単に気が変わったから、いつまでも描き直しているわけではありません。例えば「セーラー10戦士」のイラストも、ミュージアムの外壁を飾る絵はお客様が遠くから見ることになります。でも、館内に同じ絵を展示するときは、近付いてみることができる。そうなったときに、武内先生は「近くで見たときに楽しめるものを」と考え、描き直していたんです。どのような明るさ、光の色で、どれくらいの距離から見るのか、吉岡さんたちの説明を受け、もっとも映えるイラストになるよう、何度も手直しされていましたね。

──ちなみに、武内先生がアナログからデジタルに切り替えたのはいつごろですか?

小佐野:21世紀になったぐらいですね。実を言うと、先生はあまりパソコンやデジタル機器は触らないようなのですが、IllustratorやPhotoshopなど、作画のためのアプリケーションソフトは完璧に使いこなされています。

しかも、デジタルに移行することで作風が変わってしまうマンガ家さんも多いなか、武内先生のイラストはデジタルもアナログもほとんど同じに見える。シームレスに移行されていったのが、本当に素晴らしいなと感じました。

180点のカラー原画を3期に分けて展示

──『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』は、会期が3回に分かれています。それぞれ60点の原画が展示されますが、各期の見どころは?

小佐野:現在開催中のVol1では、原作第1部、第2部の原画を展示しています。いわば、『美少女戦士セーラームーン』との出会いですね。やがて社会現象にまでなっていく作品の伸びやかさ、時代の息吹を感じていただけるのではないかと思います。

その後、人気が頂点を迎え、「セーラー10戦士」が出揃ったあたりがVol2です。原作第3部、第4部にあたり、豪華絢爛な素晴らしい原画が増えていると思います。

Vol3では、最終章にあたる第5部と21世紀以降に描かれた原画を展示します。技術的に変化しつつも、変わらない武内先生の作品性が見どころではないかと思います。変わらないけれど、成長、進化している『美少女戦士セーラームーン』を見られるという意味では、実は一番お得な会期なのではないかと私は思っています。

高橋:全3期をすべて楽しんでいただくと、過去30年の、そしてこれからの『美少女戦士セーラームーン』を体験できると思います。そのサブプロダクトとして、グッズやカフェも大きな楽しみのひとつです。展示する原画に合わせて、「セーラー10戦士」が揃うグッズ、まだ商品化していない描き下ろしを使ったグッズも販売する予定です。カフェでも、原画の展開に合わせて追加メニューを出していこうと考えています。

小佐野:原画の入れ替え以外にも、ミュージアムの変化を感じていただけますよね。なかでもグッズは注目していただきたいです。『美少女戦士セーラームーン』はグッズの人気が高く、武内先生もこだわりを持っています。店内装飾も、先生がパリでウインドウショッピングしたときのイメージを、五十嵐 LINDA 渉さんに実現していただきました。さらにカフェにも先生のこだわりがあり、連日行列ができるほど大盛況です。

──武内先生の反応はいかがでしたか?

小佐野:原作の舞台のモチーフが麻布十番ということもあって、準備から何度も足を運んでくださいました。「このエリアはOK」「ここは想像以上によくできている」と、先生が細部までチェックしてくださり、一つひとつエリアができあがっていくのは僕もうれしかったです。

──現在、最初の会期が始まっていますが、反響はいかがでしょう。

吉岡:原画や過去のグッズの展示をご覧になったお客様が感極まって泣きそうになっているのを見ると、ファンの方たちの思い入れの強さを感じます。しかも、原画やアニメ、グッズなど好きなエリアがお客様によって違うんですよね。幅広い展開をして、それが根付いているんだなと感じますし、来場者数も非常に好調です。

私は自分が関わったイベントは、ネットでキーワード登録しておくんです。SNSでどれくらいコメントが投稿されているかチェックしたところ、これまでに私が携わったイベントの比ではなく、1日何百件、何千件と話題に上がっているんですね。それだけ注目度の高さを感じました。

──来場されるのはどういった層の方が多いのでしょうか。

吉岡:20~30代の女性層の方が最も多いですね。また、こうした時期ではありますが、外国のお客様もお見掛けします。

高橋:うさぎちゃんの格好をした娘さんとお母さんをお見掛けしたことがあります。原画を1点ずつ見ながら、どこが素敵か親子で話していてとても幸せそうだと感じました。このミュージアムをきっかけに、お母さんからお子さんへ『美少女戦士セーラームーン』ファンが広がっていく効果もあるのではないかと思います。

後編につづく

© Naoko Takeuchi

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

開催情報

『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』
 
開催期間:2022年7月1日(金)~12月30日(金)
【Vol1】7月1日(金)~9月4日(日)
【Vol2】9月10日(土)~11月6日(日)
【Vol3】11月12日(土)~12月30日(金)
休館日:9月5日(月)~9日(金)、11月7日(月)~11日(金)
開館時間:10:00~18:00(※最終入館17:30)
会場:六本木ミュージアム(東京都港区六本木5-6-20)
入館料:一般・大学生:2,000円(前売)/2,200円(当日)
中学・高校生:1,200円(前売)/1,400円(当日)
小学生:600円(前売)/800円(当日)
※すべて税込
※小学生未満は無料、障がい者手帳をお持ちの方は各半額となります。
 
混雑緩和のため日時指定の前売券、当日券を販売します。
前売券はイープラスにて購入できます。
当日券は館内の滞留人数に余裕がある場合のみ、イープラスまたはミュージアムの窓口にて販売します。
 
チケット購入はこちら(新しいタブで開く)

関連サイト

『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』公式サイト
https://sailormoon-museum.com/(新しいタブで開く)
 
『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』公式Twitter
https://twitter.com/sailormoon_ex(新しいタブで開く)
 
『美少女戦士セーラームーン ミュージアム』公式Instagram
https://www.instagram.com/sailormoon_museum/(新しいタブで開く)
 
『美少女戦士セーラームーン』30周年プロジェクト公式サイト
http://sailormoon-official.com/(新しいタブで開く)

連載ミュージアム~アートとエンタメが交差する場所

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!