『ホテルフローリア トーキョー』が示すLBEビジネスの可能性➁
2026.09.15


2026年7月、東急歌舞伎町タワーに期間限定でオープンしたサンリオキャラクターズの体験型エキシビション『Sanrio characters Exhibition Hotel Floria Tokyo』(以下『ホテルフローリア トーキョー』)。
このエキシビションは、韓国で話題を呼んだ『Hotel Floria』(原題)を日本に“輸入”したもの。クリエイティブは、デジタルメディア技術を用いたコンテンツ開発により、革新的な空間体験を創造するデザイン&アートカンパニー・d'strict(ディストリクト)が手がけ、日本での開催にあたっては、d'strict、サンリオグループ、ソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)の3社が協業している。
本記事では、各社の関係者に『ホテルフローリア トーキョー』を日本で開催することになった経緯、見どころなどに加え、ロケーションベースエンタテインメント(以下、LBE:テーマパークやミュージアム、商業施設など、特定の場所でしか味わえない体験型エンタテインメントのこと)事業の可能性について聞いた。
前編では、『ホテルフローリア トーキョー』を開催することになった経緯と、東急歌舞伎町タワーが会場になった理由を語る。
目次

イ・ソンホ氏
SEAN LEE
d'strict
CEO

澤出大樹氏
Sawade Daiki
株式会社サンリオ
LBE事業室

中野橘花氏
Nakano Kikka
株式会社サンリオエンターテイメント
ビジネスディベロップメント本部 クリエイティブ・デザイン課

吉岡達哉
Yoshioka Tatsuya
ソニー・クリエイティブプロダクツ
執行役員

所 雅俊
Tokoro Masatoshi
ソニー・クリエイティブプロダクツ
ハローキティ、マイメロディ、シナモロールなど、サンリオの人気キャラクターたちが考えた“夢のホテル”をテーマに、新感覚の“ホテルルームツアー”を提供する体験型エキシビション。チェックインカウンターでルームキーを受け取ると、d'strictが手がけるシックなデザインと、サンリオキャラクターズの“かわいい”世界観が相まったフォトジェニックな没入空間が目の前に広がる。独自の物語性と、来場者自身がキャラクターとともに特別な瞬間を作り上げるインタラクティブな仕かけにより、すべての瞬間が思い出になる、心躍る体験を楽しめる。
■イベント概要
開催期間:2026年7月15日(水)~2027年5月31日(月)※会期中無休
営業時間:10:00~20:00(最終入場 19:30)
会場:東急歌舞伎町タワー 4F(東京都新宿区歌舞伎町一丁目29番1号)
チケット料金:
[平日]一般・大学生 2,400円/中高生 1,600円/小人(4歳~12歳・小学生)1,000円
[土・日・祝日]一般・大学生 2,600円/中高生 1,800円/小人(4歳~12歳・小学生)1,200円
記事の後編はこちら:『ホテルフローリア トーキョー』が示すLBEビジネスの可能性②
──はじめに、皆さんの『ホテルフローリア トーキョー』プロジェクトにおける役割を教えてください。
イ:私たちd'strictは、サンリオのIPを活用させていただいて、韓国で体験型エキシビション『Hotel Floria』を企画、制作しました。
韓国ではクリエイティブに加え、主催と運営まで行なっていましたが、日本ではSCPとの共同プロジェクトとなり、運営やマーケティングはSCPの皆さんに担ってもらい、私たちは展示内容の演出を中心に、東京会場に合わせたクリエイティブディレクションやメディアコンテンツの制作、調整を担当しており、その一環として新規グッズ開発にも携わっています。
澤出:私は、サンリオのLBE事業室に所属しており、今回の『ホテルフローリア トーキョー』では、クリエイティブチームとの調整、ビジネス面での折衝、プロモーションの統括を担当しました。また、韓国での『Hotel Floria』を実現させた現地法人のSanrio Koreaとの連携も行なっています。
中野:私が所属するサンリオエンターテイメントは、サンリオグループのなかで『サンリオピューロランド』と『サンリオキャラクターパーク ハーモニーランド』のテーマパーク運営事業を軸にしながら、そこで得たノウハウをいかした新規の外部事業の開発なども行なっています。
私はそのなかで、テーマパーク以外で展開する体験型イベントやエキシビションの監修とデザインを担当しており、『ホテルフローリア トーキョー』でもデザイン監修を担当しました。d'strictとSanrio Koreaが作り上げた展示をいかしながら、日本のお客様により伝わりやすい演出方法やプラスアルファの空間表現を提案する役割でした。
吉岡:私はSCPのLBE事業を統括しています。本プロジェクトでは、d'strict、サンリオグループの皆さんとの協業に関する意思決定や開催場所の選定、加えて来年の5月まで開催する『ホテルフローリア トーキョー』を、今後どのように盛り上げ、事業としてさらに発展させていくかを検討する役割を担っています。
所:私はSCP側のプロジェクトリーダーとして、ビジネス面の調整をはじめ、広報、プロモーション、運営を担当しています。展示内容に関してはd'strictの皆さんが中心になって作り込んでいただきましたが、実際の建て込みや内装では、国内のパートナー企業に依頼し、多くのスタッフが携わって空間を作り上げているので、その調整役も担っています。
──2025年7月、d'strictとSanrio Koreaは韓国・汝矣島(ヨイド)のMPXギャラリーで、『ホテルフローリア トーキョー』の原作と言える『Hotel Floria』を開催しましたが、このエキシビションは、どのような経緯で企画されたのでしょうか。
イ:d'strictは、これまで没入型メディアアート施設「Arte Museum(アルテミュージアム)」を世界各地で展開してきました。いっぽうで、新たな常設施設を運営するには大規模な空間と多額の投資が必要になります。
そこで、私たちが得意とするデジタルテクノロジーと、多くの方に愛されているIPをかけ合わせることで、さまざまな場所で展開できる新しいLBEのかたちを模索しました。
そのなかで着目したのがサンリオキャラクターズです。サンリオキャラクターズは、世界中で世代を超えて愛されるIPであることは、皆さんもよくご存じだと思います。そんな世界的なIPと、私たちの表現技術をかけ合わせることで、新しいLBEビジネスが実現できるのではないかと考え、Sanrio Koreaに企画を提案させていただきました。
──『Hotel Floria』の実現に向けて、Sanrio Koreaとd'strictが共通して大切にしたことは何でしょうか。
イ:従来のキャラクターエキシビションの延長線上ではなく、まったく新しい体験型エキシビションを目指しました。というのも近年のエキシビションでは、体験そのものに加え、限定グッズを楽しみに来場される方も少なくありません。
ですが、革新的な体験の創造を目指している我々としては、展覧体験そのものに価値を感じていただき、その感動が自然とグッズ購入へつながるような流れを生み出したかったんです。だから、Sanrio Koreaの皆さんとも、体験そのものを主軸にしたイベントにしたいという考え方を共有したうえで、『Hotel Floria』の展覧内容を設計していきました。
──サンリオグループとSCPの皆さんは、韓国で『Hotel Floria』を観て、どのような感想を持ちましたか?
澤出:『Hotel Floria』がオープンしたときには、Sanrio Koreaのチームと「本当にいいものができたね」と話したことを覚えています。
これまでサンリオグループでは、キャラクターの歴史や魅力を紹介するエキシビションを数多く行なってきましたが、本格的な体験型エキシビションは、世界的に見ても大きな挑戦だったんです。それをd'strictの皆さんと高い完成度で実現できたことに、大きな意義を感じました。
中野:私が感じたのは、d'strictの皆さんの圧倒的なクリエイティブ力です。サンリオのキャラクターたちのアイデンティティは崩さず、それでいて空間全体のトーン&マナーがしっかりと統一されていて、『Hotel Floria』という新しい世界観が作り出されていることに驚きました。一つひとつのお部屋が、キャラクターの外見やデザイン的な要素だけに寄せるのではなく、性格や世界観までしっかりと表現されていて、とても新鮮でしたね。
空間そのものが美しく、このエキシビションをきっかけに新たな視点でサンリオキャラクターズを好きになってくださる方もいるのではないかと感じたほどです。
所:私が驚いたのは、会場に入る前からこのイベントに強く惹きつけられたことです。会場がビルの1階だったんですが、吹き抜けにドーンと巨大なビジュアルが掲出されていて、そのグラフィックがとても洗練されていたんです。それを観た瞬間、“なんだろう、この空間は……”と感じて、自然となかへ入りたくなりました。
吉岡:私は、“知っているはずのサンリオなのに、今まで観たことがない”というのが最初の感想でした。キャラクターのエキシビションを海外で行なうと、ローカライズの壁などがあって、クオリティに差が生まれてしまうケースが少なくありません。
しかし『Hotel Floria』は、d'strictなりの解釈がサンリオキャラクターズの世界観にしっかり溶け込んでいて、日本でもなかなか見ることができないレベルの完成度でした。
ホテルというコンセプトに絞り込み、キャラクターだけでなく世界観そのものを体験できる設計になっている。その大胆さが、見慣れたサンリオキャラクターズの世界を新しいものに感じさせていたのだと思います。
さらに印象的だったのが、写真を撮る行為そのものが体験として設計されている点です。来場者が世界観に入り込み、キャラクターと一緒に存在している感覚まで丁寧に作り出す。その点にも驚かされましたね。
──このプロジェクトのスキームについても教えてください。外部から見ると、それぞれが独自にキャラクタービジネスを展開しているサンリオとSCPはコンペチターであって、協業していることを意外に感じる人も多いのではないかと思います。
吉岡:サンリオとSCPは、ときにはライセンサーとライセンシーという立場、ときにはキャラクター同士のコラボレーションという関係で、長年にわたりパートナーシップを築いてきました。キャラクタービジネス業界で切磋琢磨する同志のような関係性ですね。
──そういえば以前、Cocotameで「リサとガスパール」について取材をしたとき、ハローキティの担当デザイナーと「リサとガスパール」の作者がコラボレーションした企画について話してもらったことがありました。
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澤出:そういった事例がさまざまありつつ、サンリオとしても、SCPの皆さんと“一緒にキャラクター業界を盛り上げたい”という思いがあって、今回のスキームも実現しました。
所:実際の制作過程でも、チャットツールを活用して3社が常にコミュニケーションを取れる状態で進めていました。契約上の役割分担はありつつも、3社がひとつのチームとなって展示を作り上げているプロジェクトという感覚でしたね。
──『ホテルフローリア トーキョー』の開催にあたり、最初に検討したのは、やはり会場でしょうか。
吉岡:そうですね。LBE事業は、場所ありきでエンタテインメントを設計していくものです。今回は既に韓国でパッケージ化された企画だったので、“日本のどこで開催するか”が最初のテーマになりました。
そのうえで、国内はもちろん海外からの観光客も数多く訪れる新宿・東急歌舞伎町タワーに、ちょうどいいサイズのスペースが期間限定で空いていると聞き、この場所での開催を検討し始めました。
──日本開催の提案を、d'strictの皆さんはどのように受け止めましたか。
イ:とてもうれしかったです。実はソウル開催の時点から、“このエキシビションはグローバルツアーを行なうべきだ”と考えていました。そして、海外展開するなら最初は日本で開催したいとも思っていました。
実は、ほかからもオファーを受けていたのですが、日本で先にお披露目したいという思いが強く、最終的に日本開催を優先しました。
所:東急歌舞伎町タワーにはホテルも併設されているので、『ホテルフローリア トーキョー』のコンセプトとの親和性も良かったというご縁もありましたね。
──『ホテルフローリア トーキョー』では、チェックインからチェックアウトまでをひとつの旅のように体験できる構成になっています。各部屋をどのように設計したのでしょうか。
イ:それぞれのキャラクターのアイデンティティが直感的に感じられ、キャラクターと同じ空間で過ごしているような体験ができることを意識しました。例えば、ハローキティなら赤とリンゴ、シナモロールはスカイブルーとふわふわ感、クロミは黒を基調に紫色のネオンが輝くなど、キャラクターの個性を直感的に感じられるように設計しています。
──韓国で生まれた『Hotel Floria』を『ホテルフローリア トーキョー』として展開するにあたり、ローカライズやアレンジは行なわれたのでしょうか。
澤出:基本的には、韓国で完成した展示内容から大きな変更はありません。とはいえ、会場の広さや動線が異なるため、レイアウトの調整は行ないました。また、日本の“かわいい”の流行に合わせたかたちにしたり、細かな遊び心を加えたりしています。
中野:そのときに驚いたのが、d'strictチームの対応力です。例えばミーティングの場で、エレベーターエリアに「ボタンがあったらかわいいですよね」と何気なく話したところ、次の打ち合わせのときには、もうボタンを用意してくださっていて……。
澤出:“こうしたらもっとかわいくなるかも”といった些細な会話でも、すぐにかたちにしてくださるので驚きました(笑)。こちらの要望を柔軟に受け止めてくださり、そのなかで新しいアイデアを提案してくださることもあって、一緒に『ホテルフローリア トーキョー』を作り上げている感覚がありました。
中野:日本での開催にあたり新たに加わったのが、各部屋の前に設置したキャラクターからのメッセージサインです。韓国の『Hotel Floria』は、来場者が部屋を訪れ、世界観を感じ取るという能動性の強い構成でしたが、『ホテルフローリア トーキョー』では“キャラクターの部屋に招かれた”という受動性が強めの構成になっています。
所:展示内容に関しては制作をd'strict、監修をサンリオグループの皆さんにお任せしましたが、我々からも“日本のお客様はミニチュアが好きなんです”と何気なくお伝えしたところ、各部屋にジオラマが設置されまして。
韓国では展示の最後にミニチュアコーナーとして、ジオラマがまとめて設置されていましたが、各部屋に配置されたことで、それぞれのコンセプトやテーマがよりわかりやすく伝わるようになったと思います。
吉岡:「Ballroom」での万華鏡のようなミラー演出も、『ホテルフローリア トーキョー』ならではですよね。こうした日本版独自の演出も魅力ですが、何より感動したのは、韓国で体験したもののクオリティがそのまま日本に持ち込まれていることです。我々が韓国で味わった驚きや感動を、日本でも体験してもらえると思います。
後編では、3社がどのように協業しながら『ホテルフローリア トーキョー』を作り上げたのかに迫る。
文・取材:野本由起
撮影:冨田 望

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