“螺旋丸が撃てる”アトラクションはどうやって生まれた? IP×楽曲×テクノロジーの可能性②
2026.07.31


アニメ映画の存在感が高まるなかで、配給のあり方にも変化が求められている。そうしたタイミングで、アニプレックス(以下、ANX)とKADOKAWAが共同出資で設立したのが、アニメ映画配給会社・アニメックだ。
両社がそれぞれ培ってきたノウハウとカルチャーをかけ合わせることで、アニメ映画の配給のあり方にどのような変化が生まれるのだろうか?
アニメックを設立した背景と同社の具体的な役割、そしてアニメ映画配給の現在地について、設立メンバーの5人に聞いた。
目次

堀内 啓
Horiuchi Kei
アニメック
執行役員社長

髙橋 優
Takahashi Masaru
アニメック
執行役員副社長

福田 順
Fukuda Jun
アニメック
執行役員
宣伝部 部長

福田信紘
Fukuda Nobuhiro
アニメック
営業部 部長

海老原雅美
Ebihara Masami
アニメック
業務推進部 部長
──まずは、ANXとKADOKAWAがアニメ映画配給会社・アニメックを設立した背景と立ち上げの経緯を教えてください。
堀内:アニメ映画の存在感がここ数年でより一層高まっていることが前提にあります。その流れを受けて、アニメ製作とアニメ映画事業に強みをもつ、ANXとKADOKAWAが連携することで、より継続的かつ安定的に作品を届けていく体制を作ることができるのではないかという考えのもと、設立に至りました。
映画マーケットは、コロナ禍を経て大きく構造が変化しています。劇場版『鬼滅の刃』シリーズのヒットなどを象徴的なできごととして、近年はアニメ映画がより広く多くの人に届くようになりました。
実際、日本映画製作者連盟によると、2025年には国内の劇場公開作品1,305本のうち、興行収入10億円を超えるヒット作は50本、そのうち邦画アニメ作品が14本という結果でした。ヒットと作品数の両面で、アニメの比率は無視できない状況になってきています。
そういった市場動向を背景に、両社が連携することで、これまではそれぞれ年間5本前後だった配給体制を大きく拡充していきます。アニメックの設立と市場への参入によって、市場の活性化をさらに加速させたいというのが、一番の狙いになります。
──ANXとKADOKAWAの2社が共同で取り組むことで、どのようなシナジーが生まれるのでしょうか。
堀内:配給や宣伝という領域において、両社には共通する部分もありますが、それぞれが積み重ねてきた考え方や進め方には、当然、違いがあります。その違いをいかしながらひとつの体制として組み上げることで、足し算ではなくかけ算の考え方で、配給事業のベース自体を広げていけると考えています。
──会社ごとに、アニメ映画配給の進め方には違いがあるのでしょうか。
福田(順):私はKADOKAWAに籍を置き、アニメ作品の宣伝領域の責任者を務めているのですが、KADOKAWAは昭和に創業した角川映画、大映映画を起源として長年の実績と知見があり、各業界団体に所属するなど文化としての映画やこれまでの伝統を重んじて着実に展開していくための基盤があると感じています。
いっぽうでANXは、映画を鑑賞されるお客様と、お取引先である興行会社の双方に対して意欲を向上させる取り組みに長けていると思います。来場動機を促進させるための入場者特典の工夫はもちろん、劇場にお越しになったお客様がより楽しんでいただけるよう、作品ならではの装飾やコンセッションでの展開など、興行会社と二人三脚で環境を作り上げていく姿勢や関係値に強みがあると感じています。
海老原:ANXとKADOKAWA、どちらかのやり方が正しいというわけではなく、両方の考え方や進め方があることで、作品ごとに“どの引き出しを使うか?”、それを選べる状態になる。その選択肢の広さこそが、アニメックを設立した意義だと思っていますし、強みにもなると考えています。
堀内:最終的には、映画配給事業をひとつのアウトプットとしてどうまとめていくかが重要になりますし、そのプロセス自体が、アニメックの価値につながっていくと思っています。
そのうえで、アニメックではアニメ映画の配給営業と配給宣伝に特化することで、それぞれの領域における知見を継続的に積み重ね、磨いていける体制を目指しています。自分たちの領域に集中することでアウトプットの質をさらに高め、劇場に向けてどのように作品を届けるかという部分を徹底的に追求していきたいと考えています。
そうした取り組みを通じて、“アニメ映画の配給営業、宣伝と言えばアニメック”と思っていただけるような、わかりやすい立ち位置を築いていきたいですね。
──社名の“アニメック”は、“Anime”と“Cinema”をかけ合わせた造語。“アニメ映画の魅力をファンに届け、業界の発展に貢献する”という理念が込められているそうですが、この社名に決まった経緯を教えてください。
堀内:当初は2社の要素を取り入れた名称も検討していましたが、どうも決め手に欠けていました。そんななか、現在はソニー・ミュージックエンタテインメントの代表取締役社長で、ANXの代表取締役会長でもある岩上(敦宏)さんから “アニメックはどう?”と提案があったんです。
“アニメック”は、1980年代まで刊行され、アニメファンに愛されてきたアニメ雑誌の名前であり、“Anime”と“Cinema”をかけ合わせた意味合いもあります。アニメファンの方々にとってなじみもあり、会社の立ち位置をわかりやすく表現できる名称として、この社名に決まりました。
プレスリリースにも記載していますが、社名の決定にあたり、同誌の副編集長を務められていた元KADOKAWA代表取締役執行役員CAO(Chief Anime Officer)の井上伸一郎さんにもご報告し、社名にすることの了承もいただきました。
──アニメックは、アニメ映画の配給営業と配給宣伝に特化した企業です。そもそも配給営業、配給宣伝とは、どういった事業を指すのでしょうか。
福田(信):配給営業は簡単に言えば、映画という商品を映画館に“卸す”仕事です。
例えばCDショップで音楽商品を取り扱ってもらうのと同じように、映画も作品ごとに上映される場所やタイミングを決めていく必要があります。劇場と連携しながら、どうすれば作品をより良いかたちで皆さんに届けられるかを考え、準備を進めていくのが配給営業の役割です。
髙橋:配給営業の中心になるのは、“その作品を、いつからどこの映画館で上映するか”を設計していくことですね。
当然、すべての作品を同じ規模で展開するわけではありません。例えば、地域性のある作品なら特定エリアで重点的に展開するなど、作品ごとに適した規模や展開方法を組み立てていく必要があります。
上映館数を封切から全都道府県に広げるのか、最初はエリアを絞るのか、あるいはイベントや公開前、公開中のさまざまな施策を通じて訴求していくのか。そういった複数の選択肢を踏まえて、最適なかたちを設計していきます。
──配給宣伝については、どうでしょうか。
堀内:アニメックにおける配給宣伝では、劇場での見せ方を含めたシアターマーケティング全体を担っています。作品が劇場という空間のなかでどのように届くかを設計しています。
作品そのものの宣伝プロモーションはANX、KADOKAWAがそれぞれ担いますが、劇場でどのような体験を提示するか? その部分を専門的に扱うのが配給宣伝の役割です。
福田(順):劇場という空間のなかで、どのように作品を見せるかという点は、一般的な映画宣伝とは少し考え方が異なります。装飾や動線、施策の出し方ひとつで体験の質が変わるので、そこに特化した視点やノウハウが求められます。
──実写映画とアニメ映画では、配給営業や配給宣伝の施策などに違いはあるのでしょうか。
髙橋:大きな枠では共通していますが、アニメ作品の場合は既に熱いファンが存在しているケースが多い点が特徴だと思います。
原作があったりテレビアニメシリーズを経て映画化されたり、さらには監督を中心としたアニメクリエイターに熱心なファンがついていることもあるので、作品に対する期待値が明確化されていて、それにどう応えていくかが重要になります。
そのうえで、劇場という場で何を観てもらうのか、どうすればよりファンの方々に届くのかを考えていく。届ける相手が明確である分、観客層に応じた施策を組み立てやすい反面、期待を裏切れないというプレッシャーがありますね。
──配給会社として作品を届ける立場にあるアニメックですが、そのなかでどのような価値を生み出していきたいと考えていますか。
髙橋:映画事業は、作品があり、それを上映する劇場があり、その間に私たち配給会社が入ることでお客様に届いていくというスキームがあり、それらが有機的につながることで初めて成立するものです。
だからこそ、お客様、コンテンツホルダー、劇場関係者、そして配給会社と、それぞれにとって同時に価値のある状態を作っていくことが大切です。
そして、完成した作品をお客様が劇場で観賞した体験の熱量が、次の展開につながっていく。そうした関係性の循環を生み出していくことが、配給会社としての役割だと考えています。
──作品単体だけでなく、劇場ならではの楽しみ、体験そのものが価値になっていくイメージでしょうか。
髙橋:はい。グッズやパンフレット、劇場限定のフードやドリンク、ノベルティなど、その場所でしか手に入らない、味わえない体験があることで、作品との関係もより深くなりますし、それがファンの方々に“また来たい”と思っていただけるきっかけにもなります。
さらに、そうして劇場に足を運んでいただくなかで、別の作品と出会うこともありますよね。作品、劇場、お客様をつなぐ広がりを作っていけるのが、映画配給の面白さでもあると思っています。
──作品ごとに届け方が変わるという話もありましたが、実際に配給戦略を設計するうえで、アニメックとしては、どのような点を重視しているのでしょうか。
福田(信):アニメ作品もジャンルの幅が広いので、まずはその作品がどこの層に熱を持っているのかを見極めることが重要だと考えています。
ファミリー層に届く作品もあれば、特定のファンに強く支持される作品もあります。その違いによって、どの層にどの規模で展開していくのかという前提が変わってきます。
──規模の決め方も含めて、かなり戦略的な設計が求められるわけですね。
福田(信):そうですね。例えば広い層を想定する作品であれば、大規模での公開を前提に設計しますし、ターゲットが明確な場合は、まずはコンパクトにスタートし、反応を見ながら拡張していく選択肢もあります。
また、劇場公開では、ポスターやチラシ、来場者特典など、コストが伴うさまざまな施策を展開するため、想定される動員とのバランスを踏まえた判断が必要になります。どこまで投資し、どう回収していくか、その見極めも重要なポイントです。
──配給事業を手がけていくラインナップとして、“アニメックらしさ”を打ち出していく考えはあるのでしょうか。
福田(信):あくまで中心にあるのは作品だと考えています。配給会社であるアニメックは、その特性を踏まえてどのように届けていくかを考える立場なので、まずは一つひとつの作品と、その内容に向き合うことが重要だと考えています。
結果としてラインナップに幅が出ることはあると思いますが、意図的にアニメックの色を出すというよりは、それぞれに適した判断を行なっていくことが大切だと思っています。
──ここまで作品の届け方や戦略について聞いてきましたが、その点に大きく関わってくることとして、冒頭にも少し話に挙がった、アニメ映画市場の変遷があります。昨今の市場動向をどのように感じていますか?
髙橋:大きく違いを感じるのは、アニメ作品の公開本数が増えたことです。映画館に行くと、常に何かしらのアニメ映画が上映されている状態になっていますよね。
もともと一定のファン層によって市場が構築されていたなかで、ここ数年はより幅広い層にアニメ作品が届くようになってきた印象がありますし、劇場側もアニメ作品に対して積極的に向き合っていただいていると感じています。
福田(信):市場の変化としては、大きく3つの傾向があると感じています。
ひとつ目は、髙橋さんが指摘された通り、コロナ禍以降、上映作品数が増えているために、スクリーンの確保も含めた競争が激しくなり、公開初期の設計がさらに重要になってきたこと。
ふたつ目は、劇場における体験の変化です。以前は映画そのものを見る場という一面が強かったわけですが、現在はグッズや劇場限定の施策、コラボ企画なども含めて楽しむ傾向が強まっています。人気アーティストのライブ配信なども増えていますし、IMAX、Dolby Cinema、4DX、MX4Dといったラージフォーマットの拡大もあって、劇場自体が体験型アトラクションに近づきつつあります。
最後に、海外マーケットの変化ですね。『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』以降、作品の公開が始まると、国内とほぼ同時に盛り上がるケースも増えており、日本のアニメ映画が海外で受け入れられるマーケットは整ってきています。
──ビジネスの現場では、その変化はどのようにとらえていますか。
海老原:私が感じているのは、“どのタイミングで広がるか”が以前よりも読みづらくなっているということですね。
これまでは公開初週から2週目ぐらいまでの動きで、ある程度ビジネスとしての着地点や規模が見える傾向にありましたが、最近は3、4週目以降から話題が広がるケースも増えています。やはりSNSをはじめ話題になっているから見にいくというお客様もかなり増えていて、その方々がさらに感想を発信することで拡散して広がっていく。この循環の起き方が、以前とは変わってきていると感じています。
そうした動きも含めて、どう初速を作るかだけでなく、どう持続させるかまで見据えた設計がより求められている印象があります。
福田(順):私はKADOKAWAで海外宣伝にも携わってきたので、福田(信)さんが挙げられた海外マーケットの変化を肌で感じています。
以前の劇場版アニメは、海外では一部の作品を除き、限定上映やイベント的な展開が中心でしたが、『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』が転換期を作った作品だと感じています。上映形態や公開エリアが広がり、日本のアニメ映画が海外でも広く展開される土壌が整ってきたのではないでしょうか。
アニメックとしては、現状、国内配給に特化していますが、日本市場での広がりがそのまま海外にもつながっていく流れを意識して、仕かけを作っていけるようにしたいですね。
──アニメックとしてこれから組織を拡充していくなかで、どのような人と一緒に取り組んでいきたいと考えていますか。スキル面も含めて、会社として大切にしている姿勢を教えてください。
海老原:やはり前提として、作品が好きで愛情があることは大切だと思っています。一ユーザーの目線で、その作品をどう受け止めるか、どこまで入り込めるかという感覚は、仕事をするうえでも重要になってくると感じています。
今いるメンバーも、好きな作品やジャンルは違いますが、それぞれの視点で作品に向き合いながら取り組んでいます。そうした意味でも、作品に対して自然と熱量を持てる人と一緒に仕事ができるといいなと思っています。
いっぽうで、現時点ではまだ採用を積極的に進めている段階ではありません。設立したばかりなので、まずは現メンバーで会社としてのカルチャーをしっかり作っていくことが先になると考えています。そのうえで、ご縁があれば少しずつ仲間を増やしていく、という流れになると思います。
──中長期的な展望やその先に向けて、アニメックをどのような存在にしていきたいと考えていますか。
堀内:現状はANXとKADOKAWAの作品を中心に配給していますが、将来的には両社以外の作品にも携わりたいと考えています。
また、宣伝についても現在は劇場展開に特化したシアターマーケティングを主軸にしていますが、今後は広義の配給宣伝を担える体制に拡大させていくことも検討していきたいです。最終的には、アニメ映画の製作会社やスタジオから“アニメックと組みたい”と指名していただける存在になることが目標です。
そのためにも、まずは目の前の作品をしっかり届けることが重要。そうした成果を着実に積み上げることによって業界内での信頼を勝ち取っていきたいですね。一つひとつの作品に丁寧に向き合いながら、その結果としてアニメックが選ばれていく。そういった状態を実現していきたいです。
文・取材:野本由起
撮影:干川 修
アニメック コーポレートサイト
https://www.animec.co.jp/

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