イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

キャラクタービジネスの心得

おしゃれでかわいくてちょっと不思議――フランス生まれの「リサとガスパール」が愛される理由【前編】

2023.06.07

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

キャラクタービジネスを手掛ける上で、知っておきたい心得をその道のプロたちに聞いていく連載「キャラクタービジネスの心得」。

今回取り上げるのは、フランス生まれのキャラクター『リサとガスパール』。アン・グットマン、ゲオルグ・ハレンスレーベン夫妻の絵本から生まれたリサとガスパールは、2000年代に百貨店や製パン会社のイメージキャラクターになり、一躍人気キャラクターに。今年3月からは、新訳版の絵本シリーズが河出書房新社から刊行され、注目を集めている。『リサとガスパール』のこれまでとこれからについて、ソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)の担当者とともに深く掘り下げていこう。

前編では、SCPと『リサとガスパール』の関わり、原作者のおふたりの人柄や日本に対する想いについて話を聞いた。

  • 高橋プロフィール写真

    高橋美里

    Takahashi Misato

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

  • 齋藤プロフィール写真

    齊藤 亮

    Saito Ryo

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

2008年から築いてきた原作者との信頼関係

──はじめに、高橋さんと齊藤さんの『リサとガスパール』のキャラクタービジネスにおける役割を教えてください。

高橋:私はマーケティング担当として、IPの魅力が最大限引き出されるよう、さまざまな企画をファンの皆様にお届けしています。企画を展開するにあたり、毎年マーケティングテーマを設定するのも私たちの仕事で、今年のテーマは「ようこそパリへ」。来年、パリの街はスポーツで注目されることになりますが、リサとガスパールが暮らすパリと作品の親和性をより一層高めていきたいと考えています。

リサガス1

齊藤:私は『リサとガスパール』の商品、キャンペーンのビジュアル、イベントやグッズ売り場などのデザインを監修するクリエイティブディレクションを担当しています。『リサとガスパール』の世界観が正しく表現されているか、ファンの方々に喜んでいただけるデザインになっているのかという観点で、IPのクオリティコントロールを行ないます。

また、商品などに使われるイラストのラフスケッチを描いて、原作者に提案して実際に使用される絵を描いていただくのも私の役割です。さらに、届いたイラストが商品に馴染むよう、原作者の意向に沿って加工なども行なっています。

原作のイラストを担当するゲオルグ・ハレンスレーベンさんが描くのは、油絵や水彩画なので、キャラクターの輪郭が滲んだり多彩な色の線で描かれたりすることがあります。1枚の絵として見れば、それがイラストのタッチになっていて素晴らしいのですが、商品に印刷などするときは絵で見たときとイメージが変わってしまうこともあるので、そういう部分を確認して、修正や加工をするのも私の仕事になります。

リサガス2

ゲオルグ氏が描き下ろした実際のイラスト。 こちらを元に、さまざまなクリエイティブやグッズが制作される。

高橋:修正や加工もやりすぎてしまうと原作者の意図から離れたものになってしまうので、非常に繊細で難しい作業なんですよね。その点を齊藤さんはよく心得ていて、原作のおふたりからも信頼されています。

キャラクタービジネスを手掛ける上で、原作者の方からの信頼というのはなくてはならないものです。もし信頼を得られなければ、「すべてのデザインをチェックしたい」などと言われてしまい、結果、グッズの制作などに長い時間がかかることになってビジネスとしてのスピード感を失ってしまいます。SCPでは会社全体でその点の注意を徹底しているので、『リサとガスパール』でも原作のおふたりとは良い関係が築けていると思います。

──日本では、2000年から『リサとガスパール』の絵本が発売されるようになりましたが、SCPはいつごろから関わり始めたのでしょうか。

高橋:2008年から国内のライセンスビジネスを手掛けています。その後、2012年に全世界におけるマスターライセンス権を取得しました。

──2008年当時、『リサとガスパール』の国内での認知度はどのようなものだったでしょうか。

齊藤:絵本が売り上げを伸ばし、認知度が急速に高まったころですね。

高橋:2006年から敷島製パンが発売されているPascoのCMやプレゼントキャンペーンに『リサとガスパール』が起用されたことで、認知度が高まりました。阪急百貨店のキャンペーンキャラクターを務めたりしたこともあって、2008年ごろには既に多くの方がご存じだったと思います。

──つづいて、高橋さんと齊藤さんの『リサとガスパール』との出会いについても教えてください。

高橋:私の場合は、最初の出会いがいつだったかというのをはっきりとは覚えてなくて……気付いたら国内でもキャラクターとしての人気が確立されていました。

ただ、仕事に関して言えば、2008年にSCPで『リサとガスパール』のライセンスビジネスを手掛けるようになったときに、初代の営業担当を任されて。そのころには私も『リサとガスパール』が大好きだったので、携われることがすごくうれしかったのをよく覚えています。

その後、一度担当を離れましたが、今度はマーケティング担当として再度『リサとガスパール』の仕事ができることになり、改めてやりがいを感じています。

齊藤:私は、10年以上前に何気なく入った書店で、平積みされた『リサとガスパール』の絵本を手に取ったのがきっかけです。

内容は子ども向けでわかりやすく、絵もおしゃれでかわいらしいと感じました。動物のような見た目なのに小学校に通っているという設定や「ここで終わっちゃうの?」という不思議な世界観も、とても面白いと思いました。富士急ハイランドに「リサとガスパール タウン」がオープンしたときにはプライベートで訪れたこともあります。

リサガス6

河出書房新社から発売された新絵本シリーズ。

──社内異動ではなく、別会社からの異動だったんですか!?

齊藤:はい(笑)。自分は、もともとソニーミュージックグループのソニー・ミュージックソリューションズに入社してアートディレクターをしていたのですが、キャラクタービジネスに興味がありましたし、好きな『リサとガスパール』をSCPが手掛けていたので、異動願いを出し、現在に至ります。

犬でもうさぎでもない不思議な魅力のキャラクター

──改めて『リサとガスパール』という作品について伺います。リサとガスパールは、アン・グットマンさんとゲオルグ・ハレンスレーベンさんの絵本から生まれたキャラクターです。動物のように見えますが、犬やうさぎではないそうですね。どんな存在なのでしょうか。

リサガス8

アン・グットマン氏(写真左)とゲオルグ・ハレンスレーベン氏(写真右)。

齊藤:公式では「パリの住人」と言っています。人間の学校に通い、言葉をしゃべり、周囲の人たちも普通に接しているので、おそらく人間?……なのでしょうか。なぜこういう曖昧な答えになるのかというと、原作のおふたりも「リサとガスパールがなんなのか、設定は特に考えていない」とおっしゃっています。

私もそこが気になっていて、アンさんとゲオルグさんにお会いしたときに「人間なのでしょうか?」「どうして洋服を着ていないのに、プールに入るときは水着を着るのでしょうか?」と聞いたことがあるのですが、「よくわからないし、当時どんな考えだったかは覚えていないな。気にしなくていいんじゃない?」と。

何か質問をすると一生懸命考えて答えてくれるおふたりなので、はぐらかしているわけではなく、本当にそれが答えなんですよね。なので、読み手側、一人ひとりの想像にお任せするということかなと捉えています。

リサガス9

──原作を読んでいないと、リサとガスパールが人間の学校に通っていることもわからないですよね。

高橋:5月に河出書房新社から発売された絵本『リサとガスパールのであい』は、まさにそこを描いた作品なんです。もともとガスパールが人間の小学校に通っていて、リサが転校生としてやってくるんですね。自分にそっくりな子が転校してきたと思い、ガスパールは最初少し嫌な気持ちがします。

でも、けんけん走がとても速いリサを見直して、ふたりの距離が縮まっていくんです。ふたりが仲良しになるまでが描かれた、シリーズのなかでもとても人気のある作品なので、ぜひ読んでいただきたいです。

リサガス書影

──原作のおふたりからは、このキャラクターが生まれた背景をどのように聞いていますか?

齊藤:キャラクターの原型はゲオルグさんが、アンさんにクリスマスプレゼントとして送った手帳に描いた生き物だそうです。当時、既に絵本の仕事に携わっていたゲオルグさんが 編集者から新しい絵本の製作を依頼されたのがきっかけで、その絵をモデルにしたリサが生まれたそうです。そして、その編集者から「男の子もいた方が良いのでは」というアドバイスがあってガスパールが生まれたそうです。

高橋:内容も道徳的な教えや小難しい考えはなく、おふたりのなかから自然と生まれたストーリーを絵本にしているそうです。「子どもたちへの教育的な効果は考えていますか?」と質問したこともありますが、そういうものは特になく、「ただ子どもらしい物語を描いているだけよ」とおっしゃっていました。

齊藤:私は、それこそが『リサとガスパール』の魅力だと思うんです。一般的な児童向けの絵本は、“嘘をついてはダメ”とか“悪いことをすると罰があたるよ”といった教訓がテーマになっていることが多いですが、『リサとガスパール』にはそれがなく、むしろ子どもたちには真似してほしくない行動がいっぱい(笑)。

ふたりはよくいたずらをしたり、家のものを壊しちゃったりもするのですが、リサとガスパールは反省するのではなく、「うまくやれば隠せたね」「次はもっとうまくやろう」という終わり方をするお話が多いんですね。

自分にも年ごろの子どもがいるのですが、『リサとガスパール』の絵本を読んで「そうか、隠せばいいんだ!」と納得しているので、「いやいやいや、それじゃダメだよ」とたしなめています(笑)。

でも、よくよく考えると子どもって、悪いことをしても反省しないときとか、何が悪かったのかわかってないことばかりですよね。

「これを教えないといけない」とか「こうあるべきだ」という考えばかりにとらわれずに「子どもってそうだよね」と、等身大の子どもらしいお茶目なふたりを見て癒されるのも魅力のひとつだと思います。

リサガス11

日本のファンを第一に考える

──原作者のおふたりの気取らない人柄が伝わってくるエピソードですね。

齊藤:そうですね。おふたりは、今でも「この絵本がこれほど人気になるなんて信じられない」とおっしゃっています。自分たちが描きたい物語を絵本にしたら、結果的に多くの方々に受け入れられたという認識なのでしょう。ストーリーはアンさんが考え、絵はゲオルグさんが描いているのですが、おふたりのやりとりから生まれたナチュラルな作風も魅力のひとつではないかと思います。

また、『リサとガスパール』の最初の絵本が発売された年に、おふたりに長女となるお子さんが生まれたそうなので、子育てをしつつ、ときにはご自身の子どものころの実体験なども思い返しながら、夫婦二人三脚で絵本を製作していたら、いつの間にかこういう世界観ができていったという感じなのかもしれません。

高橋:実際にお会いすると、おふたりとも飾らない人柄で、いつも優しく穏やかに接してくださる本当に素敵な方々なんです。ゲオルグさんはドイツ出身で、イタリアでも20年ほど暮らしたあと、フランスでアンさんと出会い、ご結婚されたとのことです。長年一緒にいるせいか、おふたりが醸し出す空気も似ているんですよね。

アンさん、ゲオルグさんポートレート

齊藤:作品の権利をお預かりする私たちにとって、原作者と接する機会というのは貴重でありながら、非常に緊張する場でもあるんですね。「大切な作品をお預かりするのだから、粗相があってはいけない」という気持ちが常にあります。でも、おふたりがフレンドリーに接してくださるので、我々も過度な緊張をすることなく取り組めています。

また、おふたりは日本のファンの方々をとても大切に考えていて。私が「新しいビジュアルを作りたい」と要望を出すと、「日本のファンに喜んでもらうためにはどうすれば良いか」と一生懸命考えてくださるんです。もちろんすべてを引き受けていただけるわけではありませんが、こちらの要望に最大限寄り添ってくれるのが、本当にうれしいですね。

──「日本のファンを大切にされている」という話がありました。おふたりは、日本のファンに対して、どのような印象を抱いているのでしょう。

高橋:今年の4月、久しぶりにフランスでお会いしたときに、「『リサとガスパール』で何か作るときは、まず日本のファンのことを第一に考える」とおっしゃっていたのが印象的でしたね。

確かに『リサとガスパール』のキャラクタービジネスにとって、日本は世界のなかでもトップクラスのマーケットであるということもありますが、日本のファンの方たちのファンエンゲージメントが非常に高いというのが、アンさんとゲオルグさんのおふたりに届いているからなんです。

富士急ハイランドにある「リサとガスパール タウン」に届いたお手紙などもおふたりに送ってくださっているので、日本で『リサとガスパール』がどれだけ愛されているかをご存じなんですね。日本での展開をいつも喜んでくださっています。

「ハローキティ」とのコラボレーションも実現

──SCPがキャラクタービジネスを手掛けるIPは数多くありますが、「PEANUTS」が73年、「きかんしゃトーマス」は78年、「ピーターラビット」に至っては120年以上の歴史を持つキャラクターなので、原作者の方に会うことができないケースも多いですよね。そんなななか『リサとガスパール』では、原作のおふたりと直接やりとりができます。それが高橋さんと齊藤さんの、お仕事上のやりがいにもつながっているのではないでしょうか。

齊藤:そうですね。やりがいがありますし、同時に責任も感じています。

高橋:アンさんもゲオルグさんも、一緒に『リサとガスパール』を盛り上げていこうという気持ちがとても強いんですよね。公式Instagramをチェックして、「いいね」やコメントをくださることもあって、私たちの励みにもなっています。

──2012年からワールドワイドでのマスターライセンスに切り替わったのも、原作のおふたりのSCPに対する信頼感の表われではないかと思います。高橋さんと齊藤さんはもちろん、歴代の担当者と良い関係が築けたんでしょうね。

齊藤:原作者としては、当然ながらキャラクターが人気になり、ビジネス的な成功につながることを願っていると思います。ただ、同時に自分が生み出した作品の世界観を壊したくないという想いも強くあるので、そこを大事にしないと今の関係性は築けなかったと思います。歴代の担当者も、今、作品をお預かりしている私たちも、そこは絶対に忘れず大切にしていきたいと考えています。

リサガス12

──先代の担当者から引き継ぐときに、『リサとガスパール』を扱う上でのルールや教えなどはありましたか?

齊藤:教えやルールといったものは特にはありませんでしたが、原作のおふたりの気持ちの変化もあると思うので、細やかにコミュニケーションを取り、きちんと本音と意向を確認した上で仕事を進めるようにしています。

──日本の市場に向けた企画を提案する際に、原作者のおふたりの意向と合わないということもあると思いますが、そういった場合は、どのようなディスカッションをしていますか。

高橋:もちろん、そういったケースもあります。しかし、SCPは長年キャラクタービジネスに取り組んできたので、ほかのIPを例に挙げ、「日本ではこういう取り組みを行なうと、これだけ人気が広がりました」と丁寧にご説明します。

そのときに大切にしているのは、可能な限り現地に行って、対面で直接コミュニケーションをすることです。やはり人と人なので、直接会って話をするかしないかで、先方の理解度や信頼度が全然違ってきます。ここ数年は、コロナ禍でなかなか直接お会いすることができませんでしたが、ようやくそれもできるようになり、また一層関係を深められるようになりました。

齊藤:作者ご本人と直接やりとりができるということで実現できた例としては、サンリオの「ハローキティ」とのコラボレーションがあります。企画の話が持ち上がってサンリオの皆さんも意欲的に取り組んでくださって、最終的にアンさん、ゲオルグさんとハローキティのデザイナーである山口裕子さんが油絵を共同制作することになったんです。

リサガス14

山口裕子氏とゲオルグ氏の作業シーン。

ゲオルグさんが描いた油絵に、山口さんがキティちゃんを描き足すという流れになったんですが、現役の作者同士でなければできないコラボレーションでしたし、お互いがリスペクトしあっていないと絶対に実現しない企画ですよね。

普通に考えたら、自分の絵にほかの人が絵を描き足すなんて、クリエイターにとってはハードルが高いはず。企画に対する信頼感、お互いのキャラクターに対する愛情を感じました。この企画が好評だったこともあり、第2弾では両IPがコラボした絵本も制作することになりました。

リサガス15

©️2023 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. 23060602

後編につづく

文・取材:野本由起
撮影:冨田望

関連サイト

『リサとガスパール』オフィシャルサイト
https://www.lisagas.jp/(新しいタブで開く)
 
『リサとガスパール』公式Instagram
https://www.instagram.com/gaspardetlisa_official/(新しいタブで開く)
 
『リサとガスパール』公式オンラインショップ
https://www.gaspardetlisa-shop.jp/(新しいタブで開く)
 
河出書房新社『リサとガスパール』新絵本シリーズ
https://web.kawade.co.jp/column/60590/(新しいタブで開く)
 
リサとガスパール タウン
https://www.fujiq.jp/area/lisagas/(新しいタブで開く)
 
ソニー・クリエイティブプロダクツ
https://www.scp.co.jp/(新しいタブで開く)

©2018 Anne Gutman & Georg Hallensleben / Hachette Livre
©2018 Sony Creative Products Inc.

連載キャラクタービジネスの心得

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!