『宇多田ヒカル「PINK BLOOD」EXHIBITION』レポート&MV監督・谷川英司インタビュー

2021.06.11

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
イメージ画像

『宇多田ヒカル「PINK BLOOD」EXHIBITION』を体験レポート

2021年6月2日(水)、宇多田ヒカルの新曲「PINK BLOOD」のデジタル配信がスタートした。この曲は、NHK・Eテレにて好評オンエア中のアニメ『不滅のあなたへ』(大今良時原作、「週刊少年マガジン」にて連載中)の主題歌として、既に大きな話題を呼んでいる。

「PINK BLOOD」ミュージックビデオ

同楽曲のリリースに合わせて、6月5日(土)から6月18日(金)までGinza Sony Park (銀座ソニーパーク)B2フロアにて特別展示会『宇多田ヒカル「PINK BLOOD」EXHIBITION』を開催中。事前予約(先着順/ひとり1回、2枚まで)をすれば、無料で入場できる。

会場では、映像ディレクターの谷川英司氏(Creative Lab.TOKYO)が監督したミュージックビデオ(以下、MV)「PINK BLOOD」を大画面で鑑賞できる。さらに、このMVで宇多田ヒカルが実際に着用した3点の衣装を展示。黒を基調とした無機質な空間にスタイリストの山田直樹氏がデザインしたドレスがほのかに浮かび上がり、崇高な美しさを感じさせる。

キャンドルオブジェの中心には、MVでも鮮烈な印象を与えた白いドレス。繊細なドレープが美しく、宗教画の女神のような気高さにあふれる。なお、総重量が約150kgというオブジェもMVで実際に使用されたもの。

水面に横たわるシーンで使用された、ラバー製の黒いミニドレス。素材のゴムは劣化するのが早く、刻々と状態が変わっていくため、この展示会でしかお目にかかれないものになりそうだ。

森の草花や蜘蛛の巣を思わせる衣装。MV冒頭では植物と同化しているためドレスの全体像がわかりにくいが、展示では細部まで確認できる。植栽や装飾は、MVと同じく花屋西別府商店が手がけている。

世界的フォトグラファーTAKAY氏による、幻想美あふれる写真もひときわ目を引く。なかでも鮮烈な印象を与えるのが、鏡の前に立った宇多田ヒカルが何重写しにもなったアーティスト写真だ。会場では、このカットを再現できるフォトブースを設置。スタッフが写真を撮影し、その場で自分のスマートフォンに転送してもらうことができる。来場の記念にもなるので、ぜひ利用してみては?

TAKAY氏による撮りおろし写真パネルを展示。今回のエキシビションのアイデアも、写真をハイクオリティなプリントできれいに見せたいという思いから生まれたという。

鏡を使ったアーティスト写真を再現できる、フォトブースを設置。ひとりしか入れないスペースなので、恥ずかしがらずに宇多田ヒカルになりきることをおすすめしたい!

ほかにも、ハイレゾ音源の視聴コーナー、MVの世界観を現わした森のようなスポットも。「PINK BLOOD」の楽曲の世界観に心ゆくまで浸ることができる展示内容だった。

ハイレゾ音源の視聴コーナー。場内でも常に楽曲が流れているが、ヘッドホンを装着することでより深い没入感を味わえる。

事前予約制なので通りすがりにふらっと立ち寄ることはできないが、平日ならまだ予約枠が空いている時間帯も。スマートフォンから手軽に予約できるので、銀座に立ち寄る機会のある方はぜひ足を運んでほしい。

『宇多田ヒカル「PINK BLOOD」EXHIBITION』の事前予約申し込みはこちら

「PINK BLOOD」MVは全スタッフの愛の結晶──谷川英司監督インタビュー

  • 谷川英司氏

    Tanigawa Eiji

    Film Director

    従来の映像表現のみならず、プログラミングなどの新しい表現手法を取り入れた演出が全世界的に評価を受け、Cannes Lionsのフィルム部門でGOLDを受賞するなど、国内外の広告賞を多数受賞。クリエイティブプロダクションCreative Lab.TOKYOのCEO兼ディレクター。
    http://lab.tokyo.jp/creative/eiji-tanigawa/(新しいタブで開く)

「PINK BLOOD」のMVを通じて、楽曲の世界観、宇多田ヒカルの神々しい美しさを表現したのは、映像クリエイターの谷川英司監督。楽曲から得たインスピレーション、映像のコンセプト、撮影の裏側について話を伺った。

讃美歌、宗教画、菩提樹…… 楽曲から広がるイメージを映像に

──谷川監督が、「PINK BLOOD」のMV制作に携わることになった経緯を教えてください。

谷川:監督候補は複数の方がいらっしゃったそうなんですが、僕がこの曲を初めて聴いたときの感想として、「宗教画のような絵が浮かぶ」とお話ししたところ、宇多田さんのプロジェクトチームの皆さんのビジョンと合致したようで、監督を任せていただくことになりました。

──曲を聴いて、具体的にはどのようなインプレッションを受けたのでしょうか。

谷川:初めて聴いたときは、いろんな感情があふれてきて泣きそうになってしまいましたね。癒されているんだけど、内臓をかき回されているような感じもあって、自分でも怖いくらい映像のアイデアがブワーっと一気に出てきました。

それをいったんノートに書き出して、「この感じは、なんだろう」と自分のなかで整理して言語化したところ、讃美歌や宗教画のようなイメージ、菩提樹のように求心性を持つものではないかと思ったんです。

──最初に浮かんだのは、どんな映像でしたか?

谷川:暗部の中心に、宇多田さんがスッとたたずんでいる画が浮かびました。そのイメージを自分で紐解いていったところ、カラヴァッジョ(16世紀末~17世紀初頭に活躍したバロック絵画の名匠)の宗教画のようだと感じたんです。

あくまでも僕の個人的な解釈ですが、カラヴァッジョの絵は暗部のなかに物語が隠されているように感じるんですね。一見すると幸せそうな絵でも、全く違う視点から観ることができて、観る者に考えるきっかけを与えてくれるような、余白が訴えかけてくるような絵だと感じます。そういったイメージを映像にしたいと思いました。

また、庵野秀明監督が手がけた前作「One Last Kiss」のMVでは日常性が描かれていたので、今回はできるだけそういったものを排除しつつ、心の機微、揺れを映像に定着させたいという考えもありました。

少女が大人になっていく成長過程を、迷いや痛みとともに描写

──宇多田ヒカル本人とは、どのようなやりとりがありましたか?

谷川:初期段階で映像コンセプトをお話ししたところ、宇多田さんから「成長の過程を描いている」「成長とは自己を知るプロセスである」というヒントをもらいました。その成長とは、宇多田さんご本人の成長であり、もっと抽象的なものでもあるはず。そこで、女性の成長、少女が大人になっていく過程を、そこに伴う迷いや痛みを匂わせつつ描いていきました。

丸い月のようなものの下で歌うシーンは、月に周期を支配されているイメージ、月と対峙する女性を描こうとしています。ただ、そういった理由は全部後づけでしたね。先ほど言った通り、楽曲からインスピレーションを受けすぎて、どんどんイメージがあふれ出てしまったというのが正直なところです(笑)。

そのあふれてしまったものを整理して、できるだけ削ぎ落とし、宇多田さんを中心に楽曲のメッセージを伝えようとしましたが、この点については今回のMVの制作でもっとも苦労したことかもしれません。

──監督の脳内からあふれたイメージを、どのようにスタッフの皆さんと共有していったのでしょうか。

谷川:プレゼンボードを作り「こういう世界観を描きたい」と伝えた上で、「このシーンでは自身の葛藤を描いています」「鏡のシーンは、自問自答しながら過去の自分と対峙するようなイメージを描きたいです」と言葉で補足していきました。

──そもそも、監督は宇多田ヒカルというアーティストにどんな印象を抱いていましたか?

谷川:僕が所属するCreative Lab.TOKYOの母体となる会社が、実は「First Love」のMVを制作していたんです。僕はそれを学生のころに見て入社した世代。「First Love」のMVを制作した穴見文秀監督のアシスタントに2年ほどつかせてもらっていたというご縁もあり、多大な影響を受けていると思います。

その上で僕のなかでは、宇多田さんはずっと中心にいる人というイメージです。昨今、多様性がうたわれるようになり、世の中に“中心”がなくなってきたと感じることがあります。いろいろな価値が見出されるのは大変素晴らしいことですが、一方で求心力のある“中心”がなくなりつつあるのではないかと思うんですね。

例えば昔で言えば、歌謡界の中心に美空ひばりさんがいて、そこから派生していく方がたくさんいましたよね。宇多田さんも、間違いなく音楽界の中心となる存在。日本の音楽をけん引して、新たなフィールドに連れていってくれたアーティストだと思っています。すべてを背負いきれないくらい中心にいる、そんなイメージですかね。まぁ、ご本人はそんなことを言われるのを、絶対に嫌がると思いますし、否定されると思いますが(笑)。

──そのイメージが、今回のPVにも表われているのでしょうか。

谷川:どうでしょう。影響はあるかもしれませんね。今回の「PINK BLOOD」を聴いたときに浮かんだのも、中心に宇多田さんの歌詞と音楽があり、それが発信されて広がっていくようなイメージでした。菩提樹のように中心にたたずむ宇多田さんがいて、そこから生まれるものによって彼女自身が立ち上がっていくさま、ひいてはみんなも立ち上がっていきたくなるような波動を描きたかったんです。

本質をつかまえ、内面に光を当てたい

──谷川監督が画づくりにおいて、大切にされたのはどんな点でしょう。

谷川:カメラがグルグル動いたり、ドローンを飛ばしたりという流行りの画にはしたくなくて。もっと本質をつかまえたもの、内面に光を当てるような映像にしたいと考えました。こうした思いを突き詰め、小手先のコミュニケーションを廃した結果、完成したのがこのMVです。

衣装に関しても、時代に左右されない服とは何か、服の本質とは何かをスタイリストの山田直樹さんと一緒に考えていきました。森のなかで着ている服は、飾り立てるための衣服ではなく、寒さから身を護るためという衣服の原点を意識しています。月のシーンの白いドレスは、フィッティングの時点で狙い通りだなと感じましたね。時代を超越した女性らしさ、媚びない美しさが表現されていると思いますし、遠い過去にもこういう女性は存在しただろうという、時代に左右されない姿を描き出すことができました。

それとフィッティングの段階から、ライティングに関しても細かく詰めていました。ここでもカラヴァッジョの影響を受けているのですが、セオリー通りではないライティングにしていて。これも個人的な解釈ですが、カラヴァッジョの絵画は自然光でありつつ、見せたいところから少しずれたところに光を当てているんですよね。意外なところが浮き彫りになっていたり、逆に大事なところが浮き彫りになっていなかったりする。視点をずらすことで、余白が生まれ、考える隙を与えてくれているように感じるんです。そういったライティングにすることにより、少し違和感のある世界観が生まれたのではないかと思います。

──なかでも、月の下での立ち姿がとても美しいですよね。贅肉が削がれた、今の宇多田ヒカルの無駄のない美しさが表われていると感じました。

谷川:衣装のフィッティングのとき、白いドレスをまとった宇多田さんを見て彫刻のような身体だなと思いました。ボディラインも腕のラインも、とても美しいんですよね。実際の撮影でも、息を呑むくらい美しかった。その世界観に立っていただくと、醸し出されるエネルギーに圧倒されて、NGも出せませんでしたね(笑)。

もともと僕は最初にふっと出たものが美しいと思うほうので、テイクを重ねないタイプなのですが。いろいろな経験を重ねた上での宇多田さんの今を、自己を肯定してまさに今進んでいこうとする空気をつかみとりたいと思いました。

──監督からはあまり演技指導などは行なわず、あるがままの宇多田ヒカルを切り取ったというイメージでしょうか。

谷川:そうですね。最後のほうでふっと柔らかくなる表情が欲しいということは、お話ししましたがそれぐらい。どんどん撮っていくので、宇多田さんも困っていました(笑)。

──制作に関わった宇多田チームの印象はいかがでしたか?

谷川:やはり、プロフェッショナルの集団だなと思いましたね。こちらも、覚悟を決めて本気で向き合わなければいけないと感じさせる空気があって、ほかの作業をしてる場合じゃないぞ、これはと思いました。そして、そんなプロフェッショナルな方たちと真剣勝負の仕事をするのは、そのヒリヒリする感じも含めてとても楽しかったです。

それに、僕が言うのも生意気ですが、全スタッフが音楽に対して愛を持ってクリエイトをしていますよね。大人なのにみんなで無邪気に粘土をこねて、「良いものを作ろう!」と興奮している感じがあって。それでいて、プロ意識も高いのが面白いなと思いました。

──今回のMVに限らず、谷川監督が映像制作において大切にしていることを教えてください。

谷川:僕の原点にあるのは“切なさ”だと思います。コマーシャルでは使いづらい表現なのですが、切ないものに感銘を受けることが多くて。その切なさを突き詰めていった結果、結局は“愛”みたいなものが伝われば良いのではないかと、言葉にすると恥ずかしいですけどね(笑)。とは言え、別にラブロマンスを描きたいわけではありません。醸し出される愛、そこはかとなくあふれる感情をつかまえられたらと思っています。

「PINK BLOOD」のMVもそうです。宇多田さんが抱く愛、僕が抱く愛が、デジタルでも滲み出てくるようにしたい。なぜかわからないけれど、じわじわ泣いてしまうような映像にしたいと思っていました。「これは愛なのかのしれない」と思っていただけたら、監督冥利に尽きますね。

 

文・取材:野本由起
撮影:冨田 望
画像協力:Ginza Sony Park Project

宇多田ヒカル「PINK BLOOD」EXHIBITION

場所:Ginza Sony Park(PARK B2/地下2階) 東京都中央区銀座5-3-1
期間:6月5日(土)~6月18日(金) 時間 11:00~19:00
事前予約に関する詳細はこちら(新しいタブで開く)
 
※ご来園いただくお客様に密を避けて安心してお楽しみいただけるよう、事前予約制とさせていただきます。
※園内では感染予防および拡散防止策を実施しております。お客様のご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします。なお、体温が37.5度以上ある場合、体調不良や風邪の症状がある場合、新型コロナウイルス感染症陽性と判断された方との濃厚接触が疑われる場合はご来園をお控えください。
※予告なくイベントを休止する場合があります。また、今後の状況によりましては、イベントを中止させていただく場合があります。

リリース情報

「PINK BLOOD」
【配信シングル/アニメ『不滅のあなたへ』主題歌】
配信日:6月2日(水)
配信・再生はこちら(新しいタブで開く)

インスタグラム生番組『ヒカルパイセンに聞け!on Instagram』

配信日:6月配信予定
配信元アカウント:宇多田ヒカル Instagram アカウント(新しいタブで開く)

関連サイト

オフィシャルページ:http://www.utadahikaru.jp/(新しいタブで開く)
Instagram:https://www.instagram.com/kuma_power/(新しいタブで開く)
 
【アニメ「不滅のあなたへ」】
NEP公式サイト:https://anime-fumetsunoanatae.com(新しいタブで開く)

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

ニュースソニー・ミュージックレーベルズ

ソニー・ミュージックレーベルズの関連記事Stories

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!