システムエンジニア:好きと向き合うために転職し、システム開発でエンタメをサポートする喜びを知る
2024.08.23


2024.07.25
さまざまなエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、専門的な知識とスキルを持って働く技術者(エンジニア)に話を聞く連載企画。
第7回は、データアナリストとしてストリーミングサービスやSNSなどのデータ分析を行なう玉尾琢治に話を聞いた。
目次

玉尾琢治
Tamao Takuji
ソニー・ミュージックエンタテインメント
──玉尾さんは、ソニー・ミュージックエンタテインメントのアナリティクス部に所属しています。この部署ではどういった業務を行なっているのでしょうか。
アナリティクス部は、ソニーミュージックグループのアーティストやIPに関するデータ分析を専門に行なう部署です。
コンテンツビジネスのデジタル化が進むなか、音楽でも映像でもストリーミングサービスやYouTubeの再生数を伸ばすことは重要なミッションです。そこで、施策を打ち出す際に必要となるストリーミングサービスの再生データ、アーティストやIPのSNSデータなどを分析することが我々の主な役割です。
データエンジニア、データアナリスト、データサイエンティストと職務が分かれているのが理想的ですが、現状は、データ収集から分析、集めたデータの集積場所の構築まで、すべて同じ部署で担っています。
──データ分析とは、具体的にどのようなことをするのでしょう。
例えば、レコード会社であるソニー・ミュージックレーベルズのスタッフから“アーティストの新曲に対して、こういう分析をしてほしい”という依頼を受け、相手が求めるデータについて適切なレポートを返すのが、業務の柱になります。
簡単なもので言うと、日々ストリーミングサービスから上がってくる再生数やユーザーのペルソナなどのデータを適切な切り口で可視化するといった分析ですね。具体的な例で言うと、レーベル側が新曲のプロモーション施策を行なったときに、そのプロモーションがどのような効果をあげたのかを検証するといった内容になります。
なので、今までこの連載に登場した、ネットワークエンジニアや開発エンジニア、システムエンジニアといった、いわゆるザ・エンジニアの職種とは毛色が違いますし、業務内容も異なります。私からはソニーミュージックグループにはITを活用したこういう仕事もあるということをお伝えできればと思います。
──玉尾さんは、学生時代にどういったことを学んでいたのでしょうか。
大学院で研究していたのは数学です。ですが、情報系に近い応用数学ではなく、紙とペンで定理を証明するような、純粋数学が専門でした。
──中途採用でソニーミュージックグループに入社したということですが、前職は何の仕事をしていたのですか。
証券会社の為替・債券のトレーディング部門に所属していました。デリバティブと呼ばれる、価格付けに数理モデルが必要な金融商品を売買する部門において、数学的な知識をいかして、モデルのシミュレーションや妥当性の検証といった分析業務を主に担当していました。
──ソニーミュージックグループに転職を希望した理由を教えてください。
学生時代に就活をしていたころから、“数学の知識をいかせる職業に就きたい”という思いが強く、証券会社に就職しました。ですが、毎日お金のことを考える生活をしているうちに、もう少し血が通っている、ロマンのある仕事をしたいと思うようになって。もともと音楽を聴いたりライブに行ったりするのが好きだったこともあり、2020年にソニーミュージックグループに入社しました。
──転職を考えたときにちょうどデータアナリストの募集があったのでしょうか。
私が応募したのは、アナリティクス部門が立ち上って約2年というタイミングで、“データアナリスト”と断言されていたわけではないですが、募集要項に“データ分析”と書かれていたので、データアナリスト的な業務もあるのではないかと予想していました。分析や統計の知識はありましたし、個人的に機械学習も勉強していたので、音楽の近くで自分のスキルを活用したいと思って入社しました。
──仕事でやりがい、面白さを感じるのはどういうときですか。
主にふたつあります。我々の部署では、相談内容に対して適切なデータ分析を行ない、結果を伝えるだけでなく、ときには施策の提案を行なうこともあります。こうした提案が肯定的に受け入れられ、アクションに結びつき、結果が出たときにやりがいを感じますね。
──データ分析だけでなく、それをもとに施策自体を提案することもあるんですね。
そうですね。データを分析してその解釈を伝えるだけでは、次のアクションに結びつかないことがありますし、我々としてもレポートを最大限活用してもらいたいので、分析結果からプラスになる取り組みが導き出せたときは、提案するようにしています。
──もうひとつのやりがいについても教えてください。
これまでアクセスできなかった情報に触れたり、そのデータを分析することで今まで見えていなかったものが見えたりしたときにも、楽しさを感じますね。
エンタメ業界では、分析が必要なデータがあちこちに散らばっています。どのデータからどんな情報が取れるのか、すべてを把握することは難しいのが現状です。
そのため、まずどういう情報が取得できるかから検証し、データをチェックして分析するという段階を踏むのですが、そうしたなかで“これまでは取れなかったデータが実は取れるらしい”とわかることがあるんです。そうやって、新たな知見が見つかる瞬間は楽しいですね。
──ここ数年、エンタテインメントビジネスにおいてもデータの重要性はますます高まっています。入社当時と今とで、時代の変化や担当者たちの意識の変化を感じることはありますか?
ここ数年で音楽も映像もストリーミング市場が急拡大し、今後もその状況は加速していくものと思われます。各担当者もデータ分析の重要性を認識しており、アナリティクス部への問い合わせもどんどん増えています。
さらに、以前なら“とりあえず新曲の状況を数字で見たいんだけど”といった漠然とした依頼でしたが、最近では、“いつ、どこで、どんな人が”という具合に、より詳しい要件を求められることが多くなりました。
もちろん、データ分析に対して関心が薄い担当者もいますが、「データを分析すると、こんなこともわかるようになります」と、その必要性を説いていくことも、我々のミッションだと思っています。
──データの分析は確かに重要ですが、それだけでヒットが生めるわけではありません。例えば、個性やカリスマ性が飛び抜けたアーティストやクリエイターが突然現われ、ヒットを生み出す例もたくさんあります。そういう視点も踏まえて、アーティストやクリエイター、作品によって、見るべきデータやアプローチは変わってくるのでしょうか。
そうですね。ひと口にデータ分析と言っても、いろいろなアプローチができると思っています。おっしゃる通り、既にブランドが確立しているアーティストや作品においては、“こういうブランディングをしましょう”という戦略ベースの提案は有効でない場合が多いです。
ただ、例えば新しい楽曲をリリースしたときに、どういう反響があったのか。それがベテランのアーティストであればリスナー層がどのように変化しているのか、もしくは変化していなのかを分析することはできます。
そのうえで、データに基づいてリスナー層に変化が起きているのであれば、それはなぜか? この楽曲がこういう人たちに聴かれているなら、今後こんな展開ができないか? と検討の種をまくことはできます。
いっぽう、まだデビューしたてのアーティストに対しては、その音楽性や見せ方などに基づき、過去に行なわれた近しい施策と照らし合わせて、ブランディングの大枠や取り組みに関するアイデアを提案することも可能です。
データ分析では、音楽もアニメも作ることはできません。しかし、アーティストやクリエイターが生み出す素晴らしい作品の数々を埋もれさせずに、好きな人たちに届けるサポートは可能だと考えています。
──玉尾さんは、データを用いることでヒットの再現性を高めることができると思いますか。
データを用いても、ヒットの方程式のような確実に正しいと言えるアプローチを提供することは難しいですね。それができれば、世の中はもっとヒット作品であふれていると思います(笑)。ただ、データ分析によってヒットの可能性を高めることはできると思います。
ある曲がヒットしたとして、その裏で何が起きていたのか、施策の内容にデータを重ね、統計学的に確率予測を行なうというアプローチは考えられると思います。なので、データ分析で何をすればヒットするかというわかりやすい答えを提示することは難しいですが、無駄を省いたり、別の角度でものごとを考えたりするヒントにはなります。ヒットを最大化するためのツールが、データ分析と言えるのではないでしょうか。
──逆に言うと、突然変異のようにヒットが生まれるエンタテインメント業界は、データアナリストによってやりがいのあるビジネス領域とも言えるのでしょうか。
データアナリストとしては、困った面もあり、楽しさもありという感じですね(笑)。エンタテインメント業界では予想外の事象が非常によく起きます。そのため、我々は数学的な解析力とともに、業界で今何が流行っているのかということにも常に目を向けなければいけません。
エンタテインメント業界の予想外の動きを捉え、自らの知見を貯め、その経験則に加えて統計的な処理も行ない新しい示唆を出す。非常に小さなヒットの種を探すのが大変であり、逆に面白いところかなと感じています。
──日ごろから、エンタテインメントや音楽業界の動向についてインプットをしているのでしょうか。
普段聴かないジャンルの音楽を意識的に聴いたり、SNSにもできるだけ気を配ったりしています。ただ、それ以上に大切なのが、自分の一番好きなものに熱中することだと思います。その結果、部署全体で多方面に対して深い知識を持つことにつながりますから。
データを分析してレポートを書くときにも、数字だけを示すよりは“このアーティストはこういう音楽性だよね”と解釈をしたうえで示唆を出せたほうが、具体性が増して良いですよね。
簡単な例で言うと、“Aのフェスに出演するアーティストとBのフェスに出演するアーティストは、こういう傾向の違いがあります”ということを、感覚的にわかっていたほうがより適切な提案を出すことができます。
──データアナリストがエンタテインメント業界で働く楽しさも、そこにありそうですね。
分析業務だけを行なうなら、データサイエンスやデータアナリティクスを専業とする企業もありますが、音楽やアニメ、キャラクターが好きで、数学的な知識や分析スキルに基づく仕事をしたい人にとっては、ソニーミュージックグループはしっくりくる企業だと思います。
──データアナリストになるには、どのようなスキルが必要でしょうか。
ベーシックな話をするなら、まず数字への抵抗感がないこと。個人的には、統計学的なものの考え方、自分からデータを取りに行き、加工する泥くささを持っていたほうが良いと思っています。また、分析業務においてはデータをバイアスなく正しく見る力も必要です。
──具体的に教えてください。
データを分析し、そこに解釈を与える際“数字はこう言っていますけど、自分はこう思います”と結果と矛盾したレポートをすると、分析業務は破綻します。分析結果は正しいものとして信じつつ、そのうえで音楽に関する知見、肌感を付与して示唆を出すのが我々の仕事です。分析結果にバイアスをかけず、論理とパッションを適切に使いわけることが大事だと思っています。
──アナリティクス部の今後について教えてください。現在は、音楽ビジネスを中心に国内のデータを分析しています。アニメやキャラクターなどデータ分析を行なうビジネス領域を広げたり、海外のデータを分析することも視野に入れているのでしょうか。
現在は、音楽ビジネスの対応件数が多いのですが、ソニーミュージックグループには、アニメを扱うアニプレックスやキャラクタービジネスを展開するソニー・クリエイティブプロダクツなど、さまざまな事業会社があります。今後は、その方面でのデータ分析も強化していくのが部門のミッションになっています。
海外に関しても同様です。現在は、国内の音楽ストリーミング再生を伸ばすことが最大のミッションですが、海外マーケティング部門との関わりを深め、グローバルに目を向けることが重要だと思っています。
──直近の目標、取り組んでみたいことを教えてください。
まず手をつけたいのは、リスナー傾向のモデル化です。先ほどお話したように、今はストリーミングサービスのデータが大量に入ってきます。それに対して機械学習の処理をかけ、どういうリスナーが存在するのかをモデル化できればと。
私自身、趣味で統計学や機械学習を勉強していますし、ソニーグループ内での分析連携も進んでいるので、リスナーのモデル化、特に海外でどのように音楽が広がっていくのか、データの観点から議論できるようにしてみたいですね。
文・取材:野本由起
撮影:干川 修
ソニーミュージックグループ コーポレートサイト
https://www.sme.co.jp/

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