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連載Cocotame Series

宇多田ヒカルのライブを語る

宇多田ヒカルのライブを詩人・最果タヒが語る

2018.12.20

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11月6日から12月9日にかけ、全6都市12公演で14万人を動員した、宇多田ヒカル12年ぶりの全国ツアー「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」。

Cocotameでは、「宇多田ヒカルのライブを語る」特集を展開。各方面で活躍するアーティストや作家が「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」を語る。特集第2回は、宇多田ヒカルの歌詞集『宇多田ヒカルの言葉』にも寄稿している、詩人・最果タヒが宇多田ヒカルのライブを綴る。

  • 最果タヒ

    Saihate Tahi

    1986年生まれ。2008年、『グッドモーニング』で中原中也賞を受賞。2015年、『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞。2017年、詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』が映画化される。新刊は、詩集『天国と、とてつもない暇』、最新エッセイ『百人一首という感情』。

詩人・最果タヒが綴る

声に、会いにいく。

ドキュメンタリーより音楽番組のトークコーより、目の前のステージで歌っている宇多田ヒカルがなによりも「人間」らしくて、そうか、歌手ってそうなんだな、と思った。気づくと涙が止まらなくなったのは、彼女がステージに現れ、歌い始めてからすぐのこと。小学生の頃、彼女のツアーチケットがとれなくて、それでも当日会場に行って、グッズの猫のキーホルダーを買って帰ったことを思い出していた。当時も会場はとても大きくて、外にいたって声なんて聞こえてきそうになかった。あのころのわたしは、どうしてライブというものに行きたいと思ったのだろう。テレビで彼女の歌を知り、CDをおこづかいで買って、たいせつに、たいせつに、そのケースを扱っていた。実際の歌を聞いたことはなかったのに、その姿を、その歌を、目の前で聴きたいと思うのはどうしてだろう。こんなにもCDに記録された彼女の声が好きなのに。それ以上のものをどうして求めているの? 聞いたことのない彼女の生の声を、どうして聴きたいと思ったのだろう? 12歳のわたしはその日、しばらくキーホルダーを握りしめて、会場の前に立ち尽くしていた。
その答えがわかったのは20年後の、今日だ。

宇多田ヒカルの声は、呼吸であって、商品としてパッケージされた「歌声」ではない。広く、多くの人に届くために作り込んだ「歌声」というより、彼女は届けようとしながらも、あくまで「肉声」でありつづけた。遠くから聞こえているのに、でも、どこか近くで囁いているように聞こえる。この声が、彼女の歌を、彼女の歌詞を、ただの言葉ではなくて、言葉になる手前の感情として、私たちに届けているのではないか。
時々、言葉が声になった途端、輝きを、鋭さを、失ってしまうように感じることがある。私たちは、つい、声にならなかった言葉、発言されなかった言葉のほうを「ほんとうの気持ちだ」と信じてしまうし、だからこそ発言するとき、それが本当の思いだと信じてもらいたくて、泣いたり、叫んだりもしてしまう。言葉を声にすることは「伝えようとする」こととも同義であって、だからどうしても作為的になってしまうし、そう聞こえてしまうのだ。でも。歌は? 歌は声だ。けれど、歌は、沈黙よりもさらに、本能的で、衝動的なもののように感じる。「ほんとう」よりもさらに深いところにある、本人ですら気づいていないなにかが、混ざりこむようにすら思う。感情が生まれたその勢いのままで、発することを求められているからだろうか。歌として完成度を上げていくほどに、むしろ、その声に乗せられた言葉は生々しく聞こえていた。宇多田ヒカルの歌を聴くたびに、そのことが強く印象に残った。「歌う」ということが、ただ「上手く歌う」ということではなくて、感情そのものとして、声を放つことだと、彼女の歌が教えてくれる。

ステージに彼女が現れて、歌い始めたとき、わたしは、その「肉声」の正体についにたどり着いたような気持ちでいた。彼女の歌の中にいる「わたし」や「ぼく」の感情に、命を与えていたその正体に、会えた、と思った。彼女の歌。ずっと、ずっとわたしの細胞の中に、溶け込んでいました。それらはわたしの一部として、そうしてそのうち、わたしの感情の一部としても、息をしたように思います。それらの「生」の源にいた、そのひとが、目の前で歌っている。憧れてきたひとだ、「うわあ、宇多田ヒカルだ」という気持ちもある。でも、それ以上に彼女がとても「人」らしくて、泣いてしまった。わかった。12歳のわたしが、彼女のステージを見たいと思った理由が、今なら、わかる。歌う、彼女を目にして、やっとわかった。あのころからわたしは、この人を見つめていたんだ。歌を、通じて。そして、今日やっと、会えたんだ。


特集3回目は、2018年にメジャーデビュー、2019年1月より舞台「Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア-」のマシュ・キリエライト役に、2017年に続き抜擢された、ナナヲアカリさんに、宇多田ヒカルのライブを語ってもらう。

写真=岸田哲平(12月9日千葉・幕張メッセ)

最果タヒ新刊

詩集『天国と、とてつもない暇』(小学館)

詩集『天国と、とてつもない暇』(小学館)

詩の世界に新風を吹き込み、現代を生きる若者たちを魅了した『死んでしまう系のぼくらに』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『愛の縫い目はここ』。この三部作を経て、若き言葉の魔術師、最果タヒが贈る最新詩集。

エッセイ『百人一首という感情』(リトルモア)

映画、展覧会、WEB、広告、音楽……あらゆる場所へことばを届け、 新しい詩の運動を生み出す詩人・最果タヒの最新エッセイ集。百首を扉にして読む、恋愛談義、春夏秋冬、生き生きとしたキャラ、人生論。そして、「最果タヒ」の創作の秘密。いちばん身近な「百人一首」案内エッセイ。

既刊

エッセイ『きみの言い訳は最高の芸術』(河出書房新社)

2016年発売、最果タヒ初のエッセイ集。「宇多田ヒカルのこと」をはじめ、「友達はいらない」「最初が最高系」など、著者が厳選した45本を収録する。

宇多田ヒカルの歌詞集『宇多田ヒカルの言葉』

宇多田ヒカルの歌詞集『宇多田ヒカルの言葉』

14歳から現在に至るまで。デビュー20周年を迎えた宇多田ヒカルが発表した全75編の日本語詞を執筆順に掲載。宇多田ヒカルとその作品にあてた文章を各界の8名が寄稿。石川竜一/糸井重里/小田和正/河瀬直美/最果タヒ/SKY‐HI/水野良樹(いきものがかり)/吉本ばなな(五十音順・敬称略)。

宇多田ヒカル最新情報

12月9日、幕張メッセで行なわれた「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」のライブの模様は、1月27日21:00より「BSスカパー!」にて放送。「MUSIC ON! TV」では、3月10日20:00よりツアードキュメンタリーも加えた完全版が放送される。また、宇多田ヒカルのPlayStation®4 VR向けコンテンツ「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018 - "光" & "誓い" - VR」として、「光」と「誓い」のライブライブパフォーマンスが配信決定。有料会員サービスPlayStation®Plusの加入者には「光」のVR映像の先行配信が12月25日にスタート。「誓い」は2019年に「光」とともに一般向けに無料配信が行なわれる。


1月18日にスクリレックスとのコラボ曲「Face My Fears」がシングル発売。同曲はゲームソフト「KINGDOM HEARTS III」のオープニングテーマとして使用される。このジャケットは、ディレクター・野村哲也が描きおろしたもの。同シングルに収録される「誓い」「Don't Think Twice」は配信中。3月6日にはシングル「Face My Fears」のアナログ盤の発売も決定。

 

関連リンク

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