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連載Cocotame Series

アーティスト・プロファイル

芸術選奨受賞! 旧家電を楽器に転生させるアーティスト和田永の世界

2018.04.10

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今後さらなる注目を集めるであろう、気鋭のアーティストの実像に迫る新連載企画「Artist Profile(アーティストプロファイル)」。連載第1回はソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)に所属するアーティスト・和田永。旧式家電を楽器として復活させる取り組みが評価され、第68回芸術選奨メディア芸術部門 文部科学大臣新人賞を受賞した彼をインタビュー。その原点を探る!

役目を終えた旧い家電に棲む「妖怪」に魅入られて

旧式のオープンリールデッキやブラウン管テレビ、扇風機など役目を終えた旧式家電を楽器として甦らせ、それらによるパフォーマンスを展開するアーティスト、和田永。その活動のひとつの集大成であるプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」が、このたび平成29年度(第68回)芸術選奨メディア芸術部門 文部科学大臣新人賞を受賞した。

「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」は、大勢の仲間や開催地の一般住民を巻き込み、持ち寄られた旧い家電を楽器に仕立てて壮大な「電子のお祭り」を開催するというイベント。テクノロジーとプリミティブな人間の情動が融合した、不思議な空間がそこに出現する。

過去の家電に新たな価値を見出す和田永とはどのような人物なのか。インタビューでその世界を探っていこう。

和田永

── まずは、芸術選奨 文部科学大臣新人賞受賞おめでとうございます。

和田:ありがとうございます。

── 受賞の報が伝えられて、どのような反響が?

和田:いろいろな反響があったんですが、なによりもまず僕自身が驚きました。突然、文科省から言われたので。このプロジェクトはプロからアマチュアまで多くの人たちとともに、数年間かけてつくってきているので、まずは関わっているみなさんに感謝とご報告の連絡をしまして。みんなも「まさか!」と驚いていました。

── 芸術選奨新人賞はこれまでの受賞者を見ても、そのジャンルで最も先端的な、エポックをつくった人に与えられる印象ですが。

和田:そうですね、僕なんかは一種の「妖怪」に取り憑かれて、都市の廃棄物から新たに生まれる土着的な音楽やお祭りとはなんだろう? ということを日々夢見ながら創作活動をやっているので、それをエポックとして見ていただけたのならうれしいですね。パラレル・ワールドを覗いてみたいというのも衝動の根源にあって、それをまず自分たちでつくって覗き見る(笑)。

平成29年度(第68回)芸術選奨 贈呈式
和田永


── 和田さんはソロやユニットでも活動されていますが、それを「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」のような大きなイベントに拡げていった動機は?

和田:もう、そういうファンタジーがスパークしてしまったと言うしか。僕はもともとソロで美術作品をつくったり、年代物のオープンリールテープレコーダーを演奏する "Open Reel Ensemble(オープンリールアンサンブル)" という音楽グループをやっているんですが、わりと小さい頃から、電気と電波の音楽祭みたいなものが夜になると何処かの場所で開かれているという妄想を抱いていまして。

そんなとき、以前からOpen Reel Ensembleの活動やライブで関わっていた清宮さんから、なにか多くの人を巻き込んだプロジェクトをやってみないかというお話をいただいて、やはりここは長年燻ってきた、その奇妙な音楽祭を実現させたいなと思い立ちました。以前から僕はいろいろな楽器のイメージ図を絵に描いていたんですが、そういうのを見せている間にいろいろな人が関わってきて、どんどんモノづくり、音楽の即興セッションが起こってきて、これはもう「奇祭、つくらざるを得ないでしょう!」ということになってきたんです。

和田永

Photo by Mao Yamamoto

── 旧い家電を楽器にするという着想自体は子どもの頃からあったと?

和田:具体的なものがあったわけではないんですが、ブラウン管テレビの砂嵐の中に妖怪が潜んでいて、怖くも妖しくもあり、でも惹かれるという感じで取り憑かれ続けています(笑)。至近距離でブラウン管の砂嵐をじっと見つめていたら、「ああ、ここに電気の妖怪がいるな」って。

それから10年後くらいに、ブラウン管から出てくる静電気を手で拾って、足にコイルを巻きつけてギターアンプにつないだら、音が出てくるというのを発見しました(Braun Tube Jazz Band 第13回文化庁メディア芸術祭 アート部門優秀賞受賞)。これを「電化製品の中から妖怪の声が聞こえてきた」と感じたんです。

あらゆる電化製品から「彼ら」の声を拾って、その先には、彼らを弔いながらも転生させるという現代の奇祭が待っているんじゃないかという妄想がどんどん膨らみました。

── でもその場合、ブラウン管と和田さんとアンプがつながっているわけだから、和田さんも楽器の一部ということになりますね。

和田:そうですね。自分の身体も電気を通して楽器の一部になります。さらに人とつながることで音を鳴らすこともある。「通電の儀」って呼んでます(笑)。家電と人と人とがつながるんですよね。それと、テクノロジーを使いながらも全身で音を奏でる実感というか、いい汗をかきたいなって。

── ただ、「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」のような大規模なイベントになると、旧い家電を集めるというのがまず大変だったのでは。

和田:大変でしたね(笑)。大変なんですけど、集まってくるんですよね、呼びかけると! 口コミやSNSを見た人から、引っ越しで要らなくなったとかそういう家電が続々と集まってきて。ブラウン管は捨てられずに残っていたりして、集まってきた数十台を一堂に並べてガムランのように合奏しました。まあ、すべてを楽器にすることは難しいんですけど、いじっていくと「これはこういう風に使える」というのが見えてきたり。寄付で集まった扇風機やエアコンは、その後メンバーとともに知恵を注ぎ込んで魔改造し、「扇風琴(きん)」や「エアコン琴(きん)」になりました(笑)。

Photo by Mao Yamamoto

── お子さん方とのワークショップも行なわれているそうですが、子どもたちの反応や発想を見てどうお感じになられますか?

和田:それがホント面白いんですよ! まったく昔の家電を知らない世代の子たちですから、その機械の本来の使い方を知らない未来人が触っているような感覚で、さらに「これは楽器だよ」って言うと、またテクノロジーに対するピュアな反応が出てくる。プリミティブなわけですよ。特に、叩くとか、「動作」に対する発想はみんな面白いですよね。たとえば電話のベルを叩いてテクノビートを奏ではじめた女の子がいたり、電気的なノイズを出しながら、トランスするようにヘッドバンギングをはじめた子、音の出る換気扇をスクラッチしながらラップのようなことを叫びはじめた子も衝撃でした。音楽が生まれる瞬間に立ち会っている感覚でしたね。

高松でワークショップを開いたときは、うどん製造機で楽器をつくりたいと言い出した子がいました。なにしろ高松はうどん県なんで、うどん系の家電が彼らのスケッチの中でみんな電子楽器になっていくんですよ(笑)。子どもたちの絵は、どれもぶっ飛んでいて面白いですね。

和田永

少年・和田永と「家電の異界」との出会い

── 和田さんご自身の幼少期の家電体験というのはありますか?

和田:僕の場合はやっぱりカセットテープですね。物語をつくって曲にして録音していました。カセットテープのピンポン録音というのを知り合いのおじさんから教えてもらったんです。つまりカセットで演奏を録音して、それを別のカセットデッキで流しながら次の楽器を演奏して……というのを繰り返して、音を重ねていくんです。MTR(マルチトラックレコーダー)なんていうものはとうてい買えなかったので、2台のラジカセをつないで。それを小学校5年くらいからずっとやってました。

で、めちゃくちゃ面白いのは、そうやって音を重ねていくうちに、先に録った音がどんどん劣化して、遠くなっていくんですよね。新しく録音した音が一番良くて、旧い音にはもやがかかっていく。それがなんか、異界に吸い込まれていくようで。

── なにか付喪神(つくもがみ)を操る人みたいですね。

和田:さっきから変なことばかり言っていると思いますが(笑)、やっぱり砂嵐の向こうに行くかのように、カセットテープの霧の中に音たちが包み込まれていくような……そういう、異界を想像するというのが今もずっと続いていて、つながっているんです。

── 機械いじりがお好きというわけではないんですか?

和田:好きですよ。その症状も持っています(笑)。ただ、以前カセットテープを水に落としてしまったことがあって、乾かしてから聞いてみたら、ビロビロの音になっちゃったんです。それを聞いたとき「あ、音が水に濡れた」と感じたんです。

──「カセットが濡れた」のではなくて?

和田:そうそう。それとゲルマニウムラジオ(無電源のラジオ)をつくってかすかな音を拾って「目には見えないけど音が飛び交ってる」というのを感じたりとか。そういう感覚的な原体験の方が印象に残っているのは確かだと思います。

── 先ほどのカセットのピンポン録音のお話にしても、「旧くなった家電に妖怪が宿る」という考え方にしても、和田さんの作品には「時間」という要素が色濃く見えるのですが。

和田:確かに「時間」と「空間」は重要なキーワードですね。時間と空間の結びつきを、家電を通じて実感したときに、新たな発見を感じることが多いですね。Open Reel Ensembleで使うオープンリールにしても、空間に時間が巻かれているというか、あれを回したとき、空間から時間をいじっているという実感がものすごくあるんです。それは人間がつくったものというよりは、この世界自体の成り立ちに深く関わっていて、それを覗かせてくれる窓のようなモノとして電化製品があると、感じています。

和田永

Photo by Mao Yamamoto

──「家電を楽器につくり替える」ことと、「それでパフォーマンスを行なう」ことには、それぞれ別のカタルシスがあると思うんですが、和田さんの中でそれはひとつになっているんでしょうか。

和田:これは深い質問が飛んできましたね(笑)。僕の中にはあらゆる人格というか、憑依してくる人格がいて、たとえばモノをつくるときにはフラモンド博士というものづくりが大好きな人が憑依してきて、ある種サイエンティフィックなカタルシスが爆発しまして。そして音楽を奏でるときには、ときにジミ・ヘンドリックスが降臨してきて楽器を掻き鳴らしたり。

でも、音色を突き詰めていくと、楽器からつくることで今までにない音色が聞こえてきたりするわけですよね。するとそれを演奏したいというミュージシャン魂につながっていくというのはあります。

── 和田さんの作品はオリジナリティ溢れるものですが、あえて影響を受けたと感じるアーティストやミュージシャンについてお聞かせ下さい。たとえば私はナム・ジュン・パイク(ビデオアートの祖と言われる韓国系アメリカ人アーティスト)を想起したんですが……。

和田:ナム・ジュン・パイクはもちろん大好きですね。現代美術だと彼やクリスチャン・マークレー(既存のレコードを即興でコラージュする手法を編み出したサウンド・アーティスト)も、もちろん尊敬しています。

ミュージシャンで言うとローリー・アンダーソン。この方は、これまた大好きなルー・リードの奥さんですけど、ミュージシャンでありながらアーティスティックなパフォーマンスをする人なんですよね。

あとはテクノが生まれるあたりのドイツの音楽とか。そして近年、電化している各国の民族音楽や伝統音楽。サハラ砂漠やトルコのサイケ・ロック、インドネシアでDJが伝統音楽を早回し再生して生まれたという謎のダンス・ミュージック、奇怪に変形したベトナム製エレキギターやインドの電気大正琴が奏でる音楽、タイの農村部で奏でられているトリッキーな出家の音楽などなど……ああもうこのへんの話をしたら止まらないです! すいません(笑)。

みんなのクリエイティブの「スイッチ」をオンに

── 芸術選奨新人賞を受賞されて、これからますます影響を与える側になっていくと思うんですが、和田さんのようなパフォーマンスを自分でもやってみようというフォロワーも増えてくるのでは。

和田:それはもう、どんどんやってほしいですね。そして集まってビッグバンドみたいなのをやりたいです! 実際、、今は70人くらいのプロジェクトメンバーが参加していて、その中には、普段は電機メーカー勤務のエンジニアの人もいて、独自に楽器をつくったりしていますね。それをみんなでガッと持ち寄って、妖怪たちの合唱をそのうちやりたいです。

── 家電のビジュアル、形状に対するこだわりはありますか?

和田:こだわりというか、独特の魅力を感じますね。かつての家電のデザインって、独特の丸みを帯びてるとか、木枠で出来てるとか、そういったものに興味を引かれます。それは僕の中ではノスタルジーとはまた違って、過去という一種の異国へのエキゾチシズムというか、自分たちとは違う文化圏の人たちが、かつて愛していたデザインへの独特の味わいといった感じですね。

── やはりそのときはストーリーも浮かんでくるんでしょうか。

和田:そうですね。たとえば京都に集まったみなさんが昔のパーマ機を楽器にした「釜鉾」のときはこんな感じでした。廃れた美容室に残されたおばあさんの形見のパーマ機が冥土に行くための乗り物になって、お盆の日におじいさんがそれに乗っておばあさんに会いに行き、いっしょに踊り、またパーマ機に乗って帰ってくる。そういう話が浮かんで、楽器づくりが波に乗りました。

釜鉾

Photo by Mao Yamamoto


── 和田さんの元に人々が集まってそれが祭になる、その原動力はなんだと思われますか?

和田:僕は、周りの人々のスイッチをオンにしていく役割だと思うんです。僕自身は、きっとそれが常時オンになってるんですけど(笑)、みなさんも持ってると思うんですよね、スイッチを。それはけっこうオフになっていることが多いと思うんですけど、オンにしたとき出てくるエネルギーってすごいんですよ。一度スイッチが入ると、ドバドバとイメージが溢れてくるんですよね。今、「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」には様々な分野の人たちが参加しているんですけど、日常的に妄想や試作のアイデアが行き交っていますね。

── これから、こんなもので演奏したいというアイデアはありますか?

和田:この前、香港に行ってきたんですけど、あらゆるところに室外機が大量に取りつけられていて。いつか合法的に雑居ビルごと室外機の轟音を奏でたいと思いました。

あとは東京タワーも楽器化してみたいですよね。電波を再送信したりして。

── 壮大ですね。

和田:できないものは絵本かなんかにした方がいいですかね。もしくは映画化!(笑)。

── 今後の展望、あるいは野望について教えていただけますか。

今回賞をいただいたきっかけが、盆踊り大会だったんです。家電で祭り囃子を奏でて踊る供養と転生のための「電磁盆踊り大会!」。そういった「集う場」はこれからもつくっていきたいですね。怪電波を発する山車とかつくりだいです。

── 百鬼夜行のようですね。

和田:そう、百鬼夜行。一瞬の夢のような光景に、突如迷い込むみたいなことをやりたいですね。

── 街全体を鳴らす、みたいな。

和田:街全体を鳴らすし、電波塔をジャックするし、踊り狂う(笑)。できなければ、やっぱり映画化(笑)。

「電磁盆踊り」の時も最後フリースタイルにしたら、みんなわけのわかんない踊りを踊り出すんですよ。人工知能に知能で負けてもアホなら負けぬ! 踊らにゃ損、損! って歌ったら、謎のクリエイティビティが爆発しはじめる(笑)。でもそれがひとつの「祝祭」だと思うんです。謎の価値が渦巻く場を今後もつくっていきたいですね。

Photo by Mao Yamamoto

旧い家電に住まう「妖怪」たちの声を聴き、彼らと人間たちが交わる「異界」をつくりだすアーティスト・和田永。その実像は、テクノロジーを愛し、音楽を愛し、そして祝祭を愛する、人間的魅力に溢れた人物だった。家電と人、人と人を結びつけるその活動は、これからも多くの人を巻き込みながら増殖してゆくだろう。

和田永 公式サイト(新しいタブで開く)
エレクトロニコス・ファンタスティコス! 公式サイト(新しいタブで開く)

インタビュー・文:藤井浩
インタビュー撮影:松浦文生

和田永 プロフィール

1987年東京生まれ。学生時代より旧式のオープンリールテープレコーダーをコンピュータと組み合わせることで新しい「楽器」としての価値を見出し、吉田悠、吉田匡とともにオープンリールを演奏する音楽グループ”Open Reel Ensemble”(ソニー・ミュージックアーティスツ所属)の活動を続ける。その不思議な音色と楽曲性は高く評価され、ISSEY MIYAKEのパリコレクションの音源を実現するなど、注目を集める。

さらにブラウン管テレビから出る電磁波を応用して演奏するパフォーマンス”Braun Tube Jazz Band”は、2009年の第13回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞を受賞。第17回ではテープが落下してできる景色が交響楽とともに巻き上げられるインスタレーション作品「時折織成―落下する記録―」が審査委員会推薦作品を受賞、大きな話題となった。

2015年より、その着想をさらに拡張。旧式家電を新たな電子楽器として蘇らせ、あらゆる人々を巻き込みながらオーケストラ化し、祭典をつくり上げていくプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」を始動させ取り組んでいる。

© 2017 ELECTRONICOS FANTASTICOS!

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