甲田まひる――ジャズ・ピアニストとファッショニスタ、ふたつの顔を持つ16歳の実像<前編>
2018.05.23
ソニー・ミュージックアーティスツ 他
今後さらなる注目を集めるであろう、気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「Artist Profile(アーティストプロファイル)」。連載第2回では、4月25日に宇多田ヒカルのプロデュースによってアルバム『分離派の夏』でデビューを果たす26歳の新人アーティスト、小袋成彬をクローズアップ。インタビューの後編では、彼のキャリアに影響を与えた作品、そして5月1日に行なわれる初のワンマンライブへの思いを語ってもらった。
目次
──これまでの人生を振り返って、自分の土台になったと感じる作品はありますか。
小袋 いろいろありますけど、ケンドリック・ラマーの「To Pimp a Butterfly」はすごく聴きましたね。ケンドリック・ラマーと僕は全然違う人生じゃないですか。僕の周りにギャングスタはいないし、僕の友だちはみんなちゃんと学校に行って、大学も出てるし。なのに、なんかグッとくるんですよね。ごく個人的なこととリンクさせて、その意図がどうであれ、これは僕の歌だと感じたりして。
──何か通じるものがあるのですね。
小袋 ひとつの共通項として、彼はマッド・シティーのグッド・キッドだった。僕が生まれたのはマッド・シティーじゃなくて、埼玉の教育熱心な街ですけど、僕もグッド・キッドだったんです。あんまり荒れた時期がなかった。
で、優等生過ぎると生まれる疎外感っていうものもあって、「おまえマジメだな!」とか揶揄されたりすることが結構あったんです。そういうところに通じるものを感じて、ホロッとくるときはありますね。
──小袋さんはレーベルオーナーやプロデューサーをやっているぐらいだし、もともと社会性とか全体を見通す力があるんでしょうね。
小袋 それは両親のおかげです。親父はサラリーマンで、母親は教師なので、真面目な一家でした。反抗期もあんまり自覚してない。あったのかもしれないけど、僕が覚えてる範囲では、暴言を吐いたとかっていう記憶もほとんどないですね。
──反抗期を逃したという感じですか。
小袋 どうなんでしょうね。いろんなことがうっとうしいなと思う時期はあったけど、思っても口に出さないんで。分かりやすくはなかったと思います。
──でも、周囲からグッド・キッドだと思われていることに「なんだかなあ」と思っていた?
小袋 そう、今回のアルバムづくりはそれを紐解いていく作業でした。僕はもともとはぐれものではないし、自分では社会性が高い方だと思っていますし、およそミュージシャンらしいミュージシャンではない。そういう僕がつくったということが大きいんだと思います。
──協調性があって、うまく立ち振舞うこともできる。だけど気持ちが周囲からはぐれていくような感覚もある。そんなことを感じている人って案外多いような気がしますね。
小袋 いっぱいいると思いますよ。同調圧力とかもありますしね。
──そういうものを作品にしようと考えたとき、まずはなにから生まれました?
小袋 言葉も音楽も全部一緒に出てきました。きっかけでいうと「Daydreaming in Guam」を書いて、あの曲ができたときに、作品にしなきゃという強烈な使命感にかられましたね。
──地名とか人物とか、歌っているモチーフは実体験に基づくものなのですか。
小袋 それは僕の口からは言わないでおきます。もちろん、あくまで自分にまつわるものなんですけど、書いているうちにどこかで観た映像が浮かんできて、それがあたかも自分のことのように思えて歌詞に落とし込むこともあります。
だから、ある部分では100%真実だし、100%嘘なこともあるし、どっちもどっちですね。特定の人を思い浮かべて書いていたはずなのに、集中しているうちに全然違う思い出が入り交じってきて、何について書いているんだっけ? って思うこともあります。書きながら思い出すこともあるし、つくり終わったあとに思い出すこともある。あとから思い出したときは、チッと思うんですけどね。
──記憶の隅においやられた、取るに足りないような出来事がテーマになったり?
小袋 そういうものが多いですね。でも結果的に、わざわざ曲にしたってことは、なにかあったんでしょうね。これを言わないと、歌にしないと前に進めないような気がしたんだろうなと思います。
──制作中、過去と向きあっているときの心境や時間の流れはどのような感じだったのですか。
小袋 普段とそれほど変わらなかったです。制作だけに没頭していたわけじゃなく、Tokyo Recordingsのプロデュースワークも同時並行で続けていたので。主軸に自分のアルバムづくりがあって、クライアントワークは仕事としてやっていました。今も変わらずそうやっています。
──クライアントワークには時代性が求められますよね。そういう時代性と自分の作品を結びつけて考えることは?
小袋 まったく意識してないです。同時代的だから良い作品だっていう論調は、意味が分からないと思うんですよ。とは言え、時代を反映したものには知らず知らずに影響を受けてしまうし、そこは避けられないですよね。あと、僕は単純に新しいものが好きなので、新しい音楽を聴いて「そういう音の使い方があるんだ」って分析的な見方をして、知的な操作として盛り込むことは往々にしてあります。
──ハッとするようなアレンジを探る作業と、過去を深く掘っていく作業は、重なるものなのですか。
小袋 過去を掘っていくと、メロディが出てくる。そこからはプロデュースワークと一緒で、どうすればその思いが正しく表現されるかっていうのを、いろんな知識を使いながら紐解いていくんです。だからそこは知的な操作と言えます。
──なるほど。ピアノやストリングスのクラシカルな音色がフィーチャーされていますが、クラシック音楽に惹かれる要素があるのですか。
小袋 それはあります。クラシックはこの1年、めちゃめちゃ聴いていました。しょっちゅう聴いていたのが、バッハとラヴェル。あと、現代音楽家のヤニス・クセナキスとか。
──ラヴェルはちょっと意外な感じがします。
小袋 ラヴェルとかドビュッシーとか、100年ぐらい前の音楽をよく聴いていたですけど、ラヴェルが一番好きですね。ラヴェルって、まったく違う分野からインスピレーションを受けてクラシックをアップデートしたという側面があって、コーラスとか楽器の使い方も斬新なんですよ。「ボレロ」の最後までクレッシェンドして終わる構成とか、ああいうアレンジの発想って、僕らとそんなに変わらない気がする。そこに惹かれたっていうのがあります。
──それ、おもしろいですね。100年前の音楽家と通じるアレンジ術。
小袋 ラヴェルは、自然とかそんなものにインスピレーションはないと明言しているんですよ。誰かの作品を聴いて、それをピアノで真似てみて、そこからじゃないとインスピレーションが沸かなかったらしくて、ああ近いなって思います。
僕も他人のメロディを口ずさんで、僕なりにアレンジして、メロディの核ができあがってくることが多いから。ドビュッシーはもっと破天荒で、女にも金にもだらしなくて、自然や海がどうこうっていうロマンチストな面がある。僕はそれがめっちゃ苦手で。ラヴェルみたいな人間くささや、知性のあるところが好きなんです。
──なんか今、ラヴェルが身近に感じられたような(笑)。
小袋 人の言ってることって変わらないですよ、100年前も今も。マジで変わらない。最近、種田山頭火という日本の詩人の伝記を読んでいるんですけど、彼もちょうど100年前に、東京専門学校(旧制)、今でいう早稲田大学に入学したときにドビュッシーに影響を受けていて。自然主義的なものに影響を受けていくつか句作しているんですけど、彼はのちに葛藤しているんです。
それから旅をして人間くさい詩を書くようになる。それって僕がトラップ(ヒップポップのジャンルのひとつ)から影響を受けて曲づくりを始めるようなもので、言ってることは変わらないじゃないですか。ちょっと流行り廃りのスパンが短くなったくらいで、舶来信仰的な日本の文化も全然変わらないし。
──確かにそうかも。では、最近、自分の中で変化を感じる部分はありますか。こうして作品をつくり上げて、顔や名前も大々的に世に出るようになって。
小袋 全然変わらないです。いつも通りの生活で、なにも変わってないし、なんの自覚もない。これまでもずっとそうでした。N.O.R.K.もTokyo Recordingsの仕事も、目の前にあるやるべきこととしてやってきて、今26歳の時点で自分のアルバム『分離派の夏』をつくるに至ったという感じです。
──本当に、自分の道を淡々と歩いてるんですね。
小袋 そう、ただ楽しんでるだけです。
──小袋さんはN.O.R.K.で登場したときからずっと、“平成生まれの新世代クリエイター”として注目されてきましたよね。
小袋 そう言われてましたね。でも平成、もう終わりますから。僕、平成最後の日、4月30日(2019年)に誕生日を迎えるんですけど。
──おお、それはなかなかドラマチック。何か思うところはありますか。
小袋 いやあ、別に。新世代なんて、いつの時代もいますから。YMOも電気グルーヴもみんな新世代だったわけだし、人類生まれて、みな一度は新世代になるんです。
──確かに。今回『分離派の夏』をつくり終えて、一旦出し切った感があると思うのですが、今後の展望は?
小袋 今はまだ見えてないです。
──5月にワンマンライブがありますね。どのような構想ですか。
小袋 僕のライブは、双方向のコミュニケーションじゃないっていうところが特長的だと思います。MCも煽りもなく、ひとつの完成されたショウとして表現する。それも、あくまで自分のためにやっている。
先日コンベンションライブをやって、初めて僕がライブをやる意味みたいなのが分かったんです。自分の曲を改めて歌ってみると、つくったときとは違う思い出がリンクしてくる瞬間がけっこうあって。
「あれ、あの恋愛を思い出して書いたのに、今歌っているのは違う恋愛についてだな」とか、そんなことを考えながら歌っていたんですよ。それで、もしかして、まだ消化しきれてない思い出があるんじゃないのかなって思い始めて、次のインスピレーションになり得そうだなっていう思いはあります。そういう場を与えられたんだと思ってます、ライブは。
──表現というより、制作の場に近い。
小袋 そうです。目の前に何人いようと、猫がいようと、関係ないんですよね。場をいただいて、イタコのようにやっているというか。
──小袋さんにとって音楽は、ごく個人的なものなのですね。
小袋 そうですね。今のところ、誰かと一緒に音楽をやるっていうことにもあまりよろこびを感じてないですし。制作するときも家で誰にも邪魔されず、ずっと黙々と書いていたい。
──だから『分離派の夏』は、ひとりで聴きたくなるのかもしれません。孤独や寂しさっていうのは、ときに心地良いものでもあるし、必要なものでもあると教えてくれるから。
小袋 でもやっぱり、嫌なものでもあるし。そういうものがごちゃまぜになっているんだと思います。
5月1日(火)に行われる初のワンマンライブ(渋谷WWW)が、LINE LIVE、スペシャアプリでの生中継が決定!
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小袋成彬、2018年夏フェス情報!
◆4月28日(土)ARABAKI ROCK FEST.18
◆5月 3日(木)VIVA LA ROCK 2018
◆5月26日(土)GREENROOM FESTIVAL '18
◆7月28日(土)FUJI ROCK FESTIVAL '18
◆7月22日(日)NUMBER SHOT 2018
インタビュー・文/廿楽玲子
撮影/樋口涼
2018年4月25日リリース
01. 042616 @London
02. Game
03. E. Primavesi
04. Daydreaming in Guam
05. Selfish
06. 101117 @El Camino de Santiago
07. Summer Reminds Me
08. GOODBOY
09. Lonely One feat. 宇多田ヒカル
10. 再会
11. 茗荷谷にて
12. 夏の夢
13. 門出
14. 愛の漸進
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