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連載Cocotame Series

50年の歩み~meets the 50th Anniversary~

「ビッグコミック」の誌面テーマはプロフェッショナル! 体現するのはやっぱりあの人!?

2018.07.20

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2018年は、ソニーミュージックグループが生まれて50年という節目の年。本連載「50年の歩み ~meets the 50th Anniversary~」は、同じく50年目を迎える企業、商品、サービスを取り上げ、その歴史を紐解くことで、「時代」を浮き彫りにするという特別企画だ。

小学館の漫画誌「ビッグコミック」の歩みを紐解くシリーズ4。その第2回目では、漫画黄金期と言われる80〜90年代を、同誌がどのように駆け抜けたか、そして「ビッグコミック」で確立された誌面のテーマについて、引き続き、現編集長・由田和人氏が語る。

    • 由田和人氏

      Yoshida Kazuto

      株式会社小学館
      ビッグコミック編集部
      編集長

「ヤング誌」の登場で、より成熟した大人のための「成年誌」へ

──「ビッグコミック」が創刊されて10年以上が過ぎ、80年代になると、さらに漫画の人気が高まっていきます。この頃の大きな動きを教えてください。

由田:80年代の最も大きなできごとは「ヤング誌」の登場でしょうね。1979年に集英社が「ヤングジャンプ(現・週刊ヤングジャンプ)」を、1980年に講談社が「週刊ヤングマガジン」を創刊したことで、漫画誌が少年誌・ヤング誌・成年誌の3つのカテゴリーに分類され、ビッグコミックは、読者の成長に合わせて成年誌としての内容を求められるようになっていきます。より、「成熟した大人の鑑賞に堪える作品」を作って行かねばならなくなったのです。

──「成熟した大人の鑑賞に堪える作品」とは具体的にどういったものなのでしょうか?

由田:いろいろな考えがあるとは思いますが、我々は、キャラクターの魅力に加えて、よりリアルな情報量の多い作品だと解釈しています。その結果、ビッグコミックではこの頃から原作付きの作品が増え始めました。作・林律雄先生、画・高井研一郎先生の『総務部総務課 山口六平太』(1985年~2016年)、作・やまさき十三先生、画・芳谷圭児先生の『ボギー』(1986年~1989年)といった具合ですね。

『総務部総務課 山口六平太』作/林律雄 画/高井研一郎 ©林律雄、高井研一郎

『総務部総務課 山口六平太』
作/林律雄 画/高井研一郎 ©林律雄、高井研一郎

──原作付きの作品を増やしたのはなぜですか?

由田:やはり漫画家ひとりの力では大人の鑑賞に堪える、情報量を密にした作品を量産するのが難しかったからでしょう。『ゴルゴ13』のさいとう・たかを先生がおっしゃっていたのですが、「ひとりで全てを作れるのは一握りの偉大な天才のみ。それ以外の漫画家はそれぞれが得意とするところを分業でやるしかない」ということなんだと思います。

──その頃には漫画原作者という仕事は一般的だったのでしょうか?

由田:今ほどではありませんが、注目を集め始めていました。そういった状況を生み出したのは、『ゴルゴ13』の初期にも携わっていらっしゃった、小池一夫先生(『子連れ狼』『クライングフリーマン』など)の存在が大きかったと思います。そして、同時期に少年誌を中心に活躍されていた梶原一騎先生(『巨人の星』『あしたのジョー(朝森高雄名義)』など)。60~70年代に、このおふたりが出てきたことで、漫画原作者という職業にスポットが当たり、漫画原作者をやってみようという人が増えていったのだと思います。

「ビッグコミック」のテーマは「プロフェッショナル」

──ヤング誌と成年誌の違いについて、もう少し踏み込んで教えていただけますか?

由田:ヤング誌と成年誌は、少年誌と違って、性的な表現も含め、より自由な表現ができます。若い男性は「女性の裸」と「哲学」にしか興味がありませんからね(笑)。じつは私も新入社員で「ヤングサンデー」編集部に配属されたのですが、10代後半から20代の読者に向けた、ヤング誌には独特の熱いパワーがありました。若者にとっての、“俺たちの代弁者”的役割を担っていたんです。

ただ、30代、40代になってくるとそれだけでは飽きられてしまいます。そこで生まれてきたのが「成熟した大人の鑑賞に堪える作品」という言葉なんだと思います。大人はエロスや恋愛だけじゃないんです。実際、「ビッグコミック」にはいわゆるラブコメ作品、恋愛作品、女性が主人公の作品というのはほとんどありませんからね。

──なるほど。では、「ビッグコミック」にはそれを踏まえて、この時代、どういった作品が増えていきましたか?

由田:ビッグコミック掲載作品の多くに通底する大きなキーワードをひとつ挙げるとするならば、それはずばり“プロフェッショナル”。『総務部総務課 山口六平太』の山口六平太はプロの会社員ですし、石ノ森章太郎先生の『HOTEL』(1984年~1998年)はプロのホテルマンたちを描いた作品です。「ビッグコミック」にはそうした、プロフェッショナリズムを追求する作品が非常に多いですね。

『HOTEL』 石ノ森章太郎 ©石森プロ

『HOTEL』
石ノ森章太郎 ©石森プロ

それは現在連載中の作品でも変わっていません。さだやす圭先生の『フォーシーム』(2013年~)はメジャーリーグ、大谷アキラ先生の『正直不動産』(2017年~)は不動産業界、魚戸おさむ先生の『はっぴーえんど』(2017年~)は終末医療の現場で働くプロたちの姿を描いた作品です。

『フォーシーム』 さだやす圭 ©さだやす圭

『フォーシーム』
さだやす圭 ©さだやす圭

『正直不動産』 大谷アキラ 原案/夏原武 脚本/水野光博 ©大谷アキラ、夏原武、水野光博

『正直不動産』
大谷アキラ 原案/夏原武 脚本/水野光博 ©大谷アキラ、夏原武、水野光博

『はっぴーえんど』 魚戸おさむ ©魚戸おさむ

『はっぴーえんど』
魚戸おさむ ©魚戸おさむ

──そうした、言わば「ビッグコミック」のテーマのようなものは、やはり初代編集長がお決めになったのでしょうか?

由田:そういう面もあったかもしれませんが、漫画誌の色というのは、編集長が決めるものではないと、私は考えています。では、何がそれを決めるのかというと、雑誌のなかから誕生した人気作品なのではないかと。その作品が編集者や他の掲載作品に影響を与えていく。そして、「ビッグコミック」においては、それがやはり『ゴルゴ13』なんだと思います。プロフェッショナルのスナイパーであるデューク東郷の存在があったからこそ、「ビッグコミック」のテーマが“プロフェッショナル”になっていったのではないかと感じています。

『ゴルゴ13』 さいとう・たかを ©さいとう・たかを

『ゴルゴ13』
さいとう・たかを ©さいとう・たかを

「ビッグコミック」は100万部も売れてはいけない!?

──続いて、90年代の「ビッグコミック」について、お話を聞かせていただけますか?

由田:この時期の作品で、個人的にターニングポイントになったと考えているのが、1991年~1992年に不定期掲載された谷口ジロー先生の『犬を飼う』。派手なドラマはないにも関わらず、じっくり読ませる、極めて完成度の高い作品です。たとえて言うなら「文芸的」というか……。やっと「これが成年誌なんだ」というものを提示できたのではないでしょうか。「ビッグコミック」に限らず、成年誌全体として記念碑的な作品だと感じています。

『犬を飼う』 谷口ジロー ©パピエ・谷口ジロー

『犬を飼う』
谷口ジロー ©パピエ・谷口ジロー

このあたりから、テレビドラマの原作として成年誌作品が注目されるようになっていくのですが(編集部注:「ビッグコミック」掲載作品では、1994年〜1995年に連載された柴門ふみ先生の『Age,35』や、1999年〜2005年に連載された作・矢島正雄先生、画・引野真二先生の『ビッグウイング』がテレビドラマ化された)、それはそうした完成度の高い大人向けの作品がドラマ化に最適だったという側面があるのだと思います。

──90年代は漫画全体にとっても良い時代だったと思うのですが、当時の「ビッグコミック」の部数はどれくらいだったんですか?

由田:90年代半ばに120~130万部を記録して、それがピークだったと聞いています。当時は週刊少年ジャンプが600万部超えしていたような時代なので(編集部注:1994年末に653万部を達成)、それと比べると大したことないんですが(笑)、私はじつのところ、成年誌が100万部を超えるのはあまり良くないことだと思っています?

株式会社小学館 ビッグコミック編集部 由田和人編集長

──なぜですか?

由田:何百万部も売れるということは、より多くの人にウケる内容の漫画を掲載しているということですよね。でも、成年誌は、皆が面白いという幕の内弁当的なラインナップではなく、一部の人たちに、より深く刺さる作品を掲載すべき。そうでなければ本当の意味で「成熟した大人の鑑賞に堪える作品」にはならないと思います。それは、今でも「ビッグコミック」の編集方針のひとつになっています。

次回、「ビックコミック」シリーズの最終回は、成熟した大人の鑑賞に堪える作品を掲載し続けるために、今後「ビッグコミック」がどうあるべきかについて、由田編集長に語ってもらう。

「ビッグコミック50周年展」でその歩みを確認しよう!!

「ビッグコミック」の50周年を記念した展覧会「ビッグコミック50周年展 ‐半世紀のビッグな足跡‐」がこの6月よりスタート。京都府・京都国際マンガミュージアムでの展示(9月2日まで)を皮切りに、神奈川、宮城、新潟の各地を巡回する(入場無料)。会場では、「ビッグコミック」50年間の誌面を飾った約200点の名作原画(複製含む)など、さまざまな歴史的資料が惜しげもなく展示されるほか、ポストカードや複製原画など、ここだけの限定グッズも販売されている。

イベントの詳細(新しいタブで開く)

ビッグコミック50周年展

ビッグコミックの公式サイト(新しいタブで開く)

取材/文:山下達也(ジアスワークス)
撮影:増田慶

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