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連載Cocotame Series

音楽ビジネスの未来

アニメ、ゲーム音楽とオーケストラの融合が生み出す音楽ビジネスの未来【前編】

2020.02.20

聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探るのが連載企画「音楽ビジネスの未来」だ。

連載1回目は、新しい風が吹きつつあるオーケストラ公演に注目する。クラシック音楽に留まらず、アニメ作品やゲームといったコンテンツの楽曲もオーケストラで公演することが幅広く行なわれているなか、ミュージカル学科に通う高校生たちを描いたTVアニメ「スタミュ」も、昨年末に二度目のオーケストラ公演を行なった。

Cocotameでは、この二度の公演で指揮を振り、世界で活躍する指揮者・中田延亮氏に、アニメ音楽とオーケストラの融合、そこで感じた手応え、そしてオーケストラのビジネス的可能性について話を聞いた。

  • 中田延亮

    Nakata Nobuaki

    筑波大学医学専門学群在学中に桐朋学園ソリスト・ディプロマコースに入学、コントラバスを専攻する一方で指揮を学び、在学中より活動を開始する。07年ブルガリアのスタラザゴラ歌劇場でヨーロッパデビュー後、ドナウ交響楽団主催の国際指揮者コンクールで第1位を受賞。ラトヴィア国立交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、九州交響楽団、群馬交響楽団、ブラショフ歌劇場(ルーマニア)などに客演。

オーケストラ「スタミュ」とは?


憧れの高校生を追って音楽芸能分野の名門校に入学した主人公・星谷悠太が、仲間たちと切磋琢磨しながら夢を追う青春ドラマと、バラエティに富んだ音楽が魅力のTVアニメ「スタミュ」。本作の劇中曲を生演奏するオーケストラコンサートが『オーケストラ「スタミュ」』だ。昨年の2月に、すみだトリフォニーホールにて1回目の公演を行ない、大好評を博して、昨年末に『オーケストラ「スタミュ」Vol.2』と題して、第2回公演が行なわれた。公演の企画・制作をソニーミュージックグループのソラシア・エンタテインメント(以下、SLE)が担当している。

音楽本来のポテンシャルを引き出す、オーケストラ公演

――昨年2月、中田さんが指揮を手がけられたTVアニメ「スタミュ」劇中曲を生演奏するオーケストラコンサート『オーケストラ「スタミュ」』についてお話を伺いました。改めて、アニメ音楽をオーケストラで公演することをどのように捉えられていますか?

中田:アニメ音楽を演奏する機会というのは、普段クラシック音楽の演奏会に足を運ばない方にもオーケストラの魅力を知ってもらえる、間口を広げられるという意味でも、とても意義のあることだと考えています。

――そして昨年末には、第1回公演と同じく新日本フィルハーモニー交響楽団(以下、新日本フィル)の演奏による『オーケストラ「スタミュ」Vol.2』が開催されました。中田さんは、『オーケストラ「スタミュ」』を指揮するとき、どんなことを意識されていますか?

中田:アニメ作品を観るとき、僕らは「この先どうなるの?」「あのキャラクターはどうなるの?」と、まずはストーリーを追っていますよね。視聴者はゲームやアニメの音楽(BGM)を、あくまでストーリーを彩るひとつの要素として捉えていると思います。じっくりと音楽に耳を傾けることはないですよね。ですが、「スタミュ」という作品は、高校生たちのミュージカルがテーマの作品なので、音楽も実によく作り込まれています。

登場する曲の歌詞一つひとつにもキャラクターの想いやストーリーが反映されていますし、アレンジなども本当にカラフルでバラエティに富んでいる。でも、テレビで放送されるときは、ストーリーの演出として楽曲が使われるので、尺も短くなり、フルサイズで聴くことができません。それが非常にもったいない。

そういうクオリティの高い音楽は、ちゃんと味わえる場所があるべきだと僕は思います。『オーケストラ「スタミュ」』の指揮をさせていただくにあたって、そこが一番意識していることですね。楽曲の魅力を余すことなくお客様にお伝えすることが使命だと考えています。

すべてのアニメ音楽がオーケストラ公演に向いているわけではない

――楽曲のクオリティが担保されているからこそ、演奏会の価値が高まるのですね。

中田:「スタミュ」の音楽は、特にですね。楽曲自体も多彩なので、音楽を主役として聴いていただいても、充分なクオリティがあると思います。それと同時に、昨今はアニメ音楽のオーケストラ演奏会がかなり増えていますが、アニメなら何でもオーケストラで演奏すればいいという単純な発想は良くないと感じています。

――作品によっては向き不向きがあると?

中田:作品のなかで「あえて存在感を消して黒子に徹する音楽」と、「作品の顔になる音楽」の違いではないかと思います。わかりやすく例えると、『スター・ウォーズ』のテーマは「作品の顔」と言えますよね。そういった音楽は、オーケストラだからこそ出せるスケールの大きな音に適していると思います。逆に「存在感を消している音楽」は演奏会などで表に出すのではなく、黒子として作品のなかに埋めておいたほうが良いということ。適材適所という考え方ではないでしょうか。

――何をオーケストラ公演で聴いてもらうか、やはり選曲と公演のコンセプトが大事なんですね。

中田:そうですね。『オーケストラ「スタミュ」』の第1回目は、選曲の良さもさることながら、日本でも屈指の実力を持つ新日本フィルが演奏を行ない、すみだトリフォニーというクラシックホールを使うことで、さらに公演の魅力を広げてくれました。そこに、アニメの声優さんやミュージカルの俳優さんも迎えるというSLEのアイデアがあったからこそ、企画が成功したのだと思います。

演奏者冥利に尽きる、オーケストラ「スタミュ」のステージ

――“アニメ×オーケストラ”のビジネスモデルには、どんな印象をお持ちですか?

中田:演奏家にとって一番うれしいことは、やはり僕らの演奏を心待ちにしてくださっていたお客さんの前で演奏することなんです。

僕は、指揮者としてステージに立つときはもちろんですが、自分が観る側にまわったときも、周りのお客さんの様子はしっかり観察するようにしています。そうすると、客席の全員が必ずしも最初から最後まで熱心に聴いてくれるわけではないことがよくわかるんです。どんな方々の前でも僕らは最高の演奏をめざして頑張りますが、「自分はクラシックに興味ないけど、パートナーが聴きたいから連れてこられた」というようなお客さんは公演中に集中力が途切れてしまうことがあります(笑)。

でも『オーケストラ「スタミュ」』を観に来てくださる方たちは、「今日はどんな曲が聴けるんだろう!」「私が好きなあの曲は、どんな風にオーケストラでアレンジされるんだろう?」と、1回の演奏会をくまなく楽しもうという熱意が感じられます。

そういうお客さんの前で演奏できることは、やっぱり演奏者冥利に尽きるんです。「この曲を聴けて良かった」「チケットを手に入れられて良かった」という人たちが客席を埋め尽くしている場所は、とても刺激になります。ただ、同時に絶対に期待を裏切れないというプレッシャーも存分に感じていますが(笑)。

――ファンの皆さんとの喜びの連鎖があるわけですね。

中田:自分たちの演奏を全力で受け止めてくださるお客さんと出会える喜びは、何にも代えがたいですね。演奏家なら誰しも、ひとりでも多くの人に自分の音を届けたいと思うもの。ゲーム、アニメ音楽の演奏会は、クラシック音楽業界、オーケストラ業界にとっても大きな扉になり得ると思います。

オペラ、歌舞伎に続く「大衆のための音楽」としての可能性

――新しいファンの獲得は、オーケストラという音楽ビジネスにおいても、大きな可能性となりそうです。

中田:僕自身がビジネスに疎い人間なので、上手くは言えないのですが……(苦笑)。まず、今の日本のオーケストラは、国や地方自治体からの補助金があって成り立っている部分もあるので、演奏会という純粋な興業だけで成立しているのはごくわずかであるという実情があります。

その上で、例えばオペラは一般大衆に向けた興業として進化していった歴史があります。それは歌舞伎などでも同じですね。

結局のところ、オーケストラにしろ、クラシック音楽にしろ、お客様がお金を出したいと思えるコンテンツとして音楽を発信できているかどうかが大事なことなのではないでしょうか。そしてそれが、エンタテインメントとしての正しい音楽の在り方だと思います。

――そのエンタテインメントを実現するコンテンツのひとつとして、アニメ音楽は歓迎されると。

中田:そうですね。我々はやはり、いろいろな聴き手に演奏をアピールしたいんです。もし料理番組で演奏会が成り立つのなら、それもありですし、役者さんとコラボレーションするのもありです。いろんな間口があって良い。そのなかでも、「スタミュ」のようにクオリティの高い音楽を有するアニメとのコラボレーションは、より大きな意義があって、大事にしていきたいものだと思います。

――今後も“アニメ×オーケストラ”の取り組みは、拡大していくと思いますか?

中田:オーケストラ側としては、こういう機会が続いてくれるのは歓迎します。最近は音楽を題材にしたアニメやゲームも、以前より格段に増えていると思いますから、音楽のクオリティもどんどん上がっています。『オーケストラ「スタミュ」』のようなアニメのスピンオフ的な音楽会がもっと業界に根付けば、オーケストラにとっても良い循環になるのではと思います。

オーケストラにとっても大きなビジネスの種になる

――オーケストラ音楽をアニメファンがより身近に感じる良い機会でもありますね。音楽業界とアニメ業界の双方にプラスが生まれる組み合わせです。

中田:アメリカのオーケストラには、クラシックの定期演奏会のほかに、ポップス演奏会を定期的に開いている楽団もあります。演奏曲の権利関係でお金もかかるのですが、やはりポップスコンサートのほうがお客様は多く、ビジネスとしても成立しやすい。その収益をふだんの事業に回し、順調に経営している楽団も多いそうです。オーケストラでも「こういうジャンルも我々は演奏できるんです」という強みを持つことは、大事なことだと思います。

それとクラシック以外の演奏会が発展すれば、その演奏技法もどんどんスマートになっていくと思うんです。今現在は、アレンジが難しいと思う音楽も、定期的に演奏することで、新しいアイデアが生まれるはず。そうすれば、より音楽性も高められると思います。

“アニメ×オーケストラ”の定期演奏会が実現したら、オーケストラの良い環境作りに一歩近づけるかもしれないですね。何と言ってもアニメファンの皆さんは、作品愛が非常に強いですから。

『オーケストラ「スタミュ」』もそうですが、映像とともに聴いていた音楽が、オーケストラで演奏されると「こんなにリアルに聴こえるんだ」という感動を、多くの人に味わっていただきたい。『ゴジラ』の伊福部昭さんの音楽が今も世界中で愛されているように、日本のアニメ、映像作品の胸躍る音楽がたくさんの人に届けられたら、うれしいですね。

後編はこちら

インタビュー・文/阿部美香
撮影/増田 慶
演奏写真/新日本フィルハーモニー交響楽団

「スタミュ」関連サイト

オーケストラ「スタミュ」公式サイトはこちら
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©ひなた凛/スタミュ製作委員会  ©Solasia Entertainment Inc.

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