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連載Cocotame Series

音楽ビジネスの未来

アニメ、ゲーム音楽とオーケストラの融合が生み出す音楽ビジネスの未来【後編】

2020.02.21

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聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探るのが連載企画「音楽ビジネスの未来」だ。

連載2回目は、前回に引き続きアニメ音楽とオーケストラの融合をテーマに、その興行スタイルやビジネス的可能性について、業界のエキスパートに話を聞いていく。

今回話を聞くのは、TVアニメ「スタミュ」や『アイドリッシュセブン』、ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』といった強力コンテンツのオーケストラ公演を企画し、制作も手掛けた、ソラシア・エンタテインメント(以下、SLE)の担当者たち。彼らの想いから生まれたアニメ、ゲーム作品とオーケストラの化学反応が、音楽ビジネスの未来にひとつの道しるべを作る。

  • 大塚美南海

    Otsuka Minami

    ソラシア・エンタテインメント

  • 新林英二

    Shinbayashi Eiji

    ソラシア・エンタテインメント

  • 岡野麻里絵

    Okano Marie

    ソラシア・エンタテインメント

一夜限りのお祭りに全てを注ぎ込む

新林がプロジェクト・マネージャーとして企画全体を統括、岡野と大塚で企画と構成を進めた。『『刀剣乱舞』宴奏会』『オーケストラ「スタミュ」Vol.1』は岡野を中心に、『オーケストラ「スタミュ」Vol.2』は大塚を中心に企画が進められた。

──『オーケストラ「スタミュ」Vol.2』の公演が昨年末に開催されました。『オーケストラ「スタミュ」』としては2回目の公演となりますが、1回目との違いや変化をどのように出そうと考えましたか。

新林:『オーケストラ「スタミュ」』は、『Vol.1』を2019年2月に3回公演し、2019年12月に『Vol.2』を1回公演でやることになりました。『Vol.2』の公演の時期は、ちょうどTVアニメシリーズの『スタミュ』第3期が終わった直後だったので、熱量を一番詰め込んだものにしようと。とにかく音楽に浸ることができる内容を目指していました。

岡野:『Vol.1』のときはTVアニメシリーズの第1期と第2期の放送が終わったあとだったので、第2期までのストーリーの流れに沿った構成にしようと、劇伴や劇中曲から選曲をしていきました。今回は一夜限りのスペシャル公演ということで「歌モノ(劇中曲)」メインで構成しました。集大成を感じていただきつつ、生の音の響きを楽しんでもらえたらと考えていましたね。

大塚:『Vol.1』では、キャストの方に登壇していただいたり、キャラクターのボイスを使った演出をしていたんですが、今回は映像とのシンクロを見せながら演出していくことで、音楽を通してキャラクターを感じてもらえるような演出を心がけていました。

新林:そうやって考えた結果、『Vol.2』のセットリストは全20曲……ちょっと詰め込みすぎましたね(笑)。

岡野:当初、全体の半分くらいは前回(『Vol.1』)で演奏した曲にする方針だったんですけど……オーケストラで聴きたい曲を挙げていったら、どんどん曲数が増えてしまいまして……(笑)。

大塚:メドレーで演奏している曲も多いので、実際には40曲ぐらい披露しています。

新林:新曲が多くなると予算面にも響いてくるので難しい部分があるかもしれないよ、という話はしていたのですが、公演のコンセプトと楽しみにされているファンの方々のことを考えて、お腹一杯になるくらいのボリュームをご用意しました。

まずは自分たちがコンテンツを好きになるところからスタート

──そもそもSLEがゲーム、アニメを題材としたオーケストラ公演を始めたのは、何がきっかけとなったんですか?

新林:我々が最初に開催したオーケストラ公演は、ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』を題材とした『『刀剣乱舞』宴奏会』でした。我々はそれまで『アジアドラマチックTV』という、アジア諸国のテレビドラマを中心に放送している専門チャンネルを運営していまして、その活動の傍ら、『刀剣乱舞』のサウンドトラック(「刀剣乱舞-ONLINE-近侍曲集」)が素晴らしいということを聞きました。そこで和楽器との本格的な共演のオーケストラコンサート企画をご提案したところ、思いのほか反響があって。それが最初の取り組みです。

岡野:入社当初は、私は韓国アーティストのマネジメントを担当していました。だから、コンサートの演出や制作についてはほとんど知識がなくて、最初はかなり戸惑いました。今までオーケストラを聞いたこともなかったですし。そこで、まずはゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』をプレイすることから始めて、ゲームを好きになっていったら、音楽の良さにも自然と気が付きました。

──まずはコンテンツを好きになることから始めたんですね。

岡野:そうですね。ありがたかったのは、権利元の方から「編曲に関してはお任せします」と言っていただけたことです。『『刀剣乱舞』宴奏会』は、音楽監督を三宅一徳さんに依頼しました。私は素人目線、ファン目線でいろいろなリクエストをさせていただいて、そのリクエストを受けて、三宅さんがオーケストラと和楽器を使って音楽で表現してくださる。オーケストラ編曲に関してはその流れができたことが、このプロジェクトにとって大きかったと思います。

生のオーケストラ音楽の倍音の良さを感じてもらいたい

──プロフェッショナルな音楽監督とのやり取りで、みなさんの印象に残っていることはありますか?

岡野:鶯丸(ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』のキャラクター)の近侍曲で「ホーホケキョ」と鳥の鳴き声が入るところがあります。最初、三宅さんからは「シンセサイザーでホーホケキョを入れようかな」というお話をいただいていたのですが、私はこの「ホーホケキョ」はファンの方が楽しめるポイントのひとつになるかもしれないと思ったので、「できれば楽器で表現したい」とリクエストを出したんです。そうしたら「ピッコロ奏者にホーホケキョと自由に吹いてもらおう」ということになりました。楽譜にも、音符ではなくて「ホーホケキョ」と文字で書いてあるんですよ(笑)。

新林:演奏ごともそうですが、楽団(奏者)によってもこの「ホーホケキョ」の表現が違っていて、すごく印象的なパートになりました。「今日のホーホケキョ良かったよね」と反応してくださる、ファンの方々もいて。そこは生演奏のおもしろさだなと感じました。

──生演奏の魅力がファンに伝わったんですね。そういった手応えは『オーケストラ「スタミュ」』でもありますか?

岡野:『オーケストラ「スタミュ」』では、加藤みちあきさんに音楽監督をお願いしましたが、ポイントごとにリクエストをすることがありました。例えば、主人公たちがセリフの掛け合いのように歌うシーンでは「同じ金管楽器のトランペットとトロンボーンで掛け合いをしてほしい」とお願いをして、取り入れていただきました。

大塚:アレンジしていただいたものを、実際にオーケストラで演奏すると、全然違うものになるんですよね。

新林:そうですね。音楽監督はまずデモ(仮曲)をシンセサイザーで作ってくださるのですが、デモは音数も少ないので、オーケストラが演奏する本番はかなり違うものになります。生演奏はその場でしか体感できないもの。ファンの皆さんは、それぞれ作品に思い入れを持ってくださっているので、そこに一度きりの生演奏を聴いていただくことで、さらにオーケストラの良さが伝わるのだろうと思っていました。

演奏者によって変わる、楽曲の魅力と可能性

──『『刀剣乱舞』宴奏会』では指揮者として角田鋼亮さん、三ツ橋敬子さん、楽団としては東京フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団(他5楽団)と組まれています。また、『オーケストラ「スタミュ」』では指揮者として中田延亮さん、楽団としては新日本フィルハーモニー交響楽団と組まれています。それぞれ違いがあるものですか?

新林:もちろんそれぞれの指揮者、楽団によって個性が全く異なると感じています。とくに各地方の楽団は個性が強いと感じます。京都市交響楽団は市が運営しているので地域に密着していたり、九州交響楽団が漢気が強めの演奏だったり、地域ならではの個性が不思議と演奏から感じられます。

岡野:指揮者は基本的に同じ方にお願いするのがベストなのですが、スケジュールの都合上2名体制になったのが『『刀剣乱舞』宴奏会』でした。ただ、角田さんと三ツ橋さんは同級生(東京藝術大学出身)だったこともあり、事前にお互いでコミュニケーションを取ってくださって、そこは大きな混乱が起きずに済みました。ただ、いざ本番になると、やはりそれぞれ違う演奏になりました。角田さんはすごく柔らかくてゆったりとされていて、三ツ橋さんはガンガンと前に出ていくタイプ。同じ曲を演奏していても、違う曲に感じるくらいの演奏になりました。

新林:それがオーケストラならではのおもしろさだということも改めて実感しましたね。ちなみに、『オーケストラ「スタミュ」』の指揮者・中田さんはもともと新日本フィルのご出身なので、オーケストラの皆さんとの息もぴったりでした。

岡野:演奏者のメンバーには中田さんの大先輩もいらっしゃるので、大変そうなところもありましたけど(笑)。

──普段クラシック音楽の公演をされている、指揮者の方や楽団からの反響はありますか?

新林:中田さんもインタビューでおっしゃっていましたが、「今までオーケストラの演奏を生で聴いたことのない人たちに、聴いてもらえる」という良さがあって、それは楽団の方たちからも言っていただけます。

岡野:「会場が女性で満席になっているのを初めて見た」とおっしゃっている方はいました。やはり最近は通常のオーケストラ公演でも満席になることが多くないと聞いていますので、ステージから見る満席の光景は圧巻なんでしょうね……テンションが上がっている奏者は結構いらっしゃると思います(笑)。

お客さんとともに成長させていきたいプロジェクト

──次のオーケストラ公演は『アイドリッシュセブン』(『アイドリッシュセブン オーケストラ』2020年2月6日、7日/パシフィコ横浜国立大ホール、2020年3月14日、15日/神戸国際会館こくさいホール)。こちらの作品もゲームが元になり、アニメも展開されてビッグヒットになったタイトルです。

新林:『アイドリッシュセブン』は挑戦をしていますね。原作のバンダイナムコオンラインや楽曲を制作するバンダイナムコアーツの皆さんがものすごくアイデアをくれます。アニメ第2期に向けて、第1期を一挙放送してくださったり、オーケストラ公演を行ないながら、アニメ第2期を一緒に迎えるような形で公演ができそうです。映像面でもLEDパネルを導入したり、グッズもオーケストラっぽいデザインを意識してシックにしたり、オーケストラ公演ではあまり開催されないライブビューイングも予定したりと、新しいことにも意欲的に取り組んでいます。

岡野:『アイドリッシュセブン』の次は男性ファン向けの作品のオーケストラ公演企画を進めています。ついに新林さんの意見が重要になってきます(笑)。

新林:すでに発表されていますが、『ご注文はうさぎですか??』のオーケストラ公演『ご注文はオーケストラですか??』ですね。これまで『刀剣乱舞-ONLINE-』『スタミュ』と女性ファンの多い作品を手掛けてきたので、例えばグッズの企画においても、我々男性の企画はなかなか通らなかったんです(笑)。ですが、今回は僕もグッズ付チケットの企画を提案できたらなと思っています。

大塚:『オーケストラ「スタミュ」』では“感動”をテーマにしていましたが、もしかしたら『ご注文はオーケストラですか??』では「癒し」をテーマにしてみて、新たなオーケストラ公演を体験してもらうのもおもしろいかなと考えています。

──毎回、新しい試みに挑まれていますね。

新林:まだまだ温めているアイデアがあって。オーケストラ公演をやってみたい作品もたくさんありますが、演出面でも、ポップスのライブで行なわれるような演出を取り入れるなど、ソニーミュージックグループのグループ各社も巻き込んで、ファンの方に喜んでいただける公演を作っていきたいと考えています。

──まだまだゲーム、アニメ音楽のオーケストラ公演には可能性があると。

新林:我々はまず、我々自身がコンテンツをとことん好きになることから始めて、そこから音楽の可能性を見出しています。『ご注文はうさぎですか??』も観たらきっとあの世界観にハマりますし、『刀剣乱舞-ONLINE-』もプレイすればおもしろい。我々はオーケストラやクラシック音楽の専門家ではありませんが、よりファンに近い目線、立場で選曲し、楽団を選定し、アレンジや演出を考えているので、敷居の高すぎない公演ができているんだと思います。

岡野:オーケストラに編曲しやすそうなタイトルを選んでいるわけではなくて、コンテンツとしておもしろいものをオーケストラ公演にしたいなと思っています。例えばラップのように、楽曲がどんなにオーケストラ向きじゃなかったとしても、それをどう表現するかがまた新しい挑戦になったりしますしね。

大塚:オーケストラ公演でコンテンツの新しい魅力を見つけてもらえればうれしいですね。

岡野:オーケストラ公演に来てくださったお客さんが、その作品をもっと好きになってもらえたら成功だと思っています。作品の音楽の良さを改めて感じてもらって、より作品に愛着を感じてもらえたらうれしいです。そしてそれが、オーケストラやクラシック音楽への興味にもつながり、新たなファンを生むのではないかなと思います。

文・インタビュー:志田英邦(編集部)
撮影:冨田 望(インタビュー)/増田 慶(コンサート、リハーサル)



『アイドリッシュセブン オーケストラ』
【神戸公演】
会場:神戸国際会館こくさいホール
日程:2020年3月14日(土)17:00開場/18:00開演
:2020年3月15日(日)
<昼公演>13:00開場/14:00開演
<夜公演>17:30開場/18:30開演
指揮:粟辻聡
音楽監督・アレンジ:三宅一徳
アレンジ:加藤達也
演奏:日本センチュリー交響楽団

お問い合わせ:サウンドクリエーター
06-6357-4400(平日12:00~17:00)

『アイドリッシュセブン オーケストラ』公式サイトはこちら(新しいタブで開く)
『アイドリッシュセブン オーケストラ』公式Twitterはこちら(新しいタブで開く)
ゲーム『アイドリッシュセブン』公式サイトはこちら(新しいタブで開く)
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『ご注文はオーケストラですか??』
【京都公演】
会場:京都コンサートホール
日程:2020年5月2日(土)18:00開場/19:00開演
:2020年5月3日(日)16:00開場/17:00開演
指揮:中田延亮
出演:徳井青空/村川梨衣
演奏:京都市交響楽団

お問い合わせ:サウンドクリエーター
06-6357-4400(平日12:00~17:00)

【東京公演】
会場:昭和女子大学 人見記念講堂
日程:2020年6月13日(土)
<昼公演>13:00開場/14:00開演
<夜公演>17:30開場/18:30開演
指揮:中田延亮
出演:徳井青空/村川梨衣
演奏:東京フィルハーモニーごちうさ交響楽団

お問い合わせ:キョードー東京チケットセンター
0570-550-799(平日11:00~18:00/土日祝10:00~18:00)

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©ひなた凛/スタミュ製作委員会
©︎Solasia Entertainment Inc.
©BNOI/アイナナ製作委員会
©Koi・芳文社/ご注文は製作委員会ですか??

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