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連載Cocotame Series

オープンイノベーションを実現するために必要なこと――ロケーションベースエンタテインメントを推進したキーマンが語る

2017.11.17

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米国テキサス州オースティンで3月に開催された大規模な祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2017」に出展し、大きな話題を呼んだ最新のVRアトラクション『Gold Rush VR』。昨今、注目を集めている屋内や限られたスペースでも、VRを活用することでリアルな体験が可能になるロケーションベースVR(以下、 LBVR)のアトラクションである。

ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、 SME)は、この『Gold Rush VR』を始め、複数のVRコンテンツの制作やVRコンテンツの配信プラットフォームの立ち上げを、その技術やノウハウを持つ企業と提携するオープンイノベーションで成立させた。

今回は、このロケーションベースVR事業に初期から携わり、オープンイノベーションを実現させたキーマンであるSME デジタルコンテンツグループVRチームのチーフプロデューサー 田中茂樹さんに、オープンイノベーションを成立させるうえで重要な交渉術や、ベンチャー企業とビジネスをする際に大切にしていること、そして今後の抱負などを聞いた。

SMEデジタルコンテンツグループVRチーム チーフプロデューサー・田中茂樹さんSMEデジタルコンテンツグループVRチーム チーフプロデューサー・田中茂樹さん

ロジックで交渉が成立した相手とは一生付き合える

SMEがVRに取り組み始めたのは、2015年2月。アーティストの360度動画を配信したことがきっかけだった。

その後、同年8月に、田中さんはVR配信プラットフォーム「Littlstar」を提供する米国のベンチャー企業・Little Star Mediaと交渉を重ねて業務提携を実現。共同で日本版VR配信プラットフォーム「LittlStar Japan」を立ち上げ、スマートフォン用日本版アプリの提供をスタートさせる。

次いでPlayStation®VR向けのサービスも開始し、ソニーミュージックのアーティストによるVR映像などを配信してきた。

Little Star Mediaとの提携交渉は、今思うとなかなかタフなものでした。というのも、先方が当初提示してきた開発費の負担金と月額のオペレーションフィーは、マネタイズの方法が見えていないオンラインサービスにおいて、快諾できない投資額を提示されたからです。

ただ、Little Star Mediaは質の高い豊富なコンテンツを揃え、ビジネスモデルも興味深かったので、僕は提携を実現させたかった。そこで、先方と粘り強く交渉し、開発費もオペレーションフィーもギリギリのラインで納得してもらい、契約に至りました」

新卒で大手メーカーに入社し、その後、ソニー、SMEとキャリアを重ねる中で、常にITや新規ビジネスの立ち上げに携わり、交渉を担ってきた田中さん。その経験から、「交渉で大切なのは何より“ロジック”。テクノロジーやサービス、インターネットが絡む場合は、それがより顕著です」と語る。

例えば、Little Star Mediaとの開発費における交渉の場面では、「今後、各国で展開するときにいつも開発費を負担してもらうのか、FacebookもGoogleもそういうことはしていない」という事実を理路整然と話したという。

その交渉哲学は、「Gold Rush VR」を共同開発したVRアトラクション制作会社、「Hashilus(ハシラス)」との提携の際にも発揮された。

Gold Rush VR

「出資額や利益の分配についても、すべてロジックで交渉しました。もちろん先方の状況を聞いて、こちらが譲歩しなければならない部分もありますので、お互いにwin-winになれるように関係を築いてくことが大事です。

お互いが納得してスタートできれば、その後がスムーズに進みますし、感情的にならずにロジックで交渉が成立した相手とは一生付き合えると、私は考えています。逆に言えば、感情論が先走ってしまう交渉相手とは仕事が噛み合わないことが多いですね。これは今までの経験で培ったことです」

Gold Rush VR」の開発についてもっと詳しく

他社と組むときに最も大切にしているのは“人の情熱”

「ロジックで話せるようになったのは、やはり仕事でさまざまな経験をしたことによるところが大きいと思います」と自身のキャリアを振り返りながら、ターニングポイントとそこで得たことを語ってくれた。

「会社の場合、自分の企画をプレゼンして、上司や役員から承認をもらわなければなりませんが、若い頃はなんでわかってくれないんだ! と私自身が感情的になっていたこともありました。

でも、感情的になったからといって承認が下りるわけではありません。また、自分がプレゼンを受ける立場も経験して、ロジックで攻めていかなければ話が進まないということを学んだんです。その経験が新たなビジネスを立ち上げるときにも役立っているのだと思います」

そして田中さんには、もうひとつ新たなビジネスを立ち上げる際に重視していることがあるという。

「スタートアップで大切なのは、95%“人”だと思っています。

大きな会社と組むときはもちろんファイナンスも見ますが、それだけでは事業性まで判断できないことがあるので、その人たちがどれくらい本気でやる気があるのか、勝つノウハウを持っているのか、仲間がいてビジネスを動かしていく推進力があるのかも重視します。

それは、ベンチャー企業と組む場合や社内におけるコラボレーションでも同じで、大丈夫かなと思う企画でも、現場の人たちがやる気満々で、絶対にやりたい! という熱い想いを持っているのであれば、挑戦するべきだと思っています。

先日アメリカに出張し、次なるビジネスの展開に向けてミーティングを行なったのですが、そこで会った人たちも、みんな志があって起業しているから、元気だし、面白いし、チャレンジャーだし、会って話しているのはとても楽しかったです。やはり大切なのは“人”だと改めて感じました」

質の高いエンタテインメントを求められる時代にすべきこと

 そんな田中さんが今、注目しているのが、世界各国で始まっているオープンイノベーションだという。それも自社ビルを持たずコワーキングスペースで他社と共存するオープンイノベーションだ。

「コワーキングの考え方が進化していて、自社内のリソースだけで企画、開発、制作を行なうのではなく、企業規模の大小に関わらず、他社やフリーランスのクリエイター、エンジニアなどとコミュニケーションを図りながら面白いものを生み出していく。その為に自社ビルに閉じこもるのではなく常に外と接点を持つコワーキングスペースに大企業すらも身を置く時代になりつつあります。

そして、それが本当のオープンイノベーションだという考え方からなんです。

エンタテインメント業界も、いろいろな事務所のアーティストや演者、スタッフが集まって音楽や映像を作るように、自社で完結するのではなく、どこかと連携して一緒にコンテンツを作り上げていくケースが多いですよね。

その意味では、ソニーミュージックグループもコワーキングのスタイルが適した会社であると考えています。ですから、Little Star MediaやHashilusでもそうであったように、今後も他社と組んでオープンイノベーション的なことができたらいいなと。

良質なエンタテインメントが求められるこれからの時代に、ソニーミュージックグループが持つコンテンツ開発力をいかんなく発揮できる場を、もっともっと作っていきたいと考えています」
(コンフィデンス編集部)

【ロケーションベースVR協会】

LBVR事業の振興を目的とし、同事業に関する各種課題に対処するために本年5月に発足された、一般社団法人・ロケーションベースVR協会では、同協会の理事も務める田中さん。 ロケーションベースVR協会 理事長 田中さん
LBVRの一番の課題と挙げるのは、ヘッドマウントディスプレイの2眼立体視が13歳前後以下の若年層世代に影響を与える可能性を指摘する、いわゆる“13歳問題”。

LBVRで得られる、エデュケーションやトレーニング体験の機会損失にならないよう、専門家も交えた検証や、ハードウエアの改良、オペレーションの効率化などをLBVR協会が中心になって推進していくことになる。

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