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Creator Profile(クリエイタープロファイル)

“はっげっしっくっ”動く大人気スタンプ「えっびっ」の作者「#GIFの伊豆見」誕生物語【後編】

2020.05.15

えびやレモン、魚のキャラクターが、ブルブル動くシュールなLINEスタンプを見たことはあるだろうか。その生みの親が、「#GIFの伊豆見」ことクリエイター・伊豆見香苗だ。

話題のクリエイターにスポットを当て、その感性や思考プロセスを掘り下げる連載企画「クリエイタープロファイル」。今回も、シュールに動くLINEスタンプ「えっびっ」「れっもっんっ」などで人気の「#GIFの伊豆見」こと伊豆見香苗をクローズアップ。

インタビュー後編では、キャラクターを生み出すヒント、伊豆見香苗が感じる“かわいい”の原点について、彼女の創作活動に密着したドキュメンタリームービーとともにお届けする。

※このインタビューは2月26日に行なったものです。

  • 伊豆見香苗

    Izumi Kanae

    1993年、沖縄生まれ。横浜美術大学卒業。『えっびっ』『れっもっんっ』など、ユニークなキャラクターが激しく動くLINEスタンプで話題を呼ぶ。

    アニメーション、イラスト、漫画など幅広く活動中。2019年、ソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)とエージェント契約を結び、キャラクターグッズの商品化、企業セールスプロモーションなど展開を拡大させている。

キャラクターのヒントはスーパーマーケットに!?

伊豆見香苗が、「#GIFの伊豆見」として一躍名を轟かせたのは2018年のこと。激しく動く犬のGIFアニメをTwitterに投稿したことがきっかけだった。

「私、実家で犬を2匹飼っていたんですが、この子たちが本当に落ち着きがなくて(笑)。その様子がおもしろいので、GIFアニメにしてみました。そうしたら、ネットの友達が『なにこの犬、かわいい!』って反応してくれたんです。それでうれしくなって、この犬で動くLINEスタンプを作ってみようと思いました」

そこから生まれたのが、動くLINEスタンプ「いっぬっ」。スタンプが一覧になったGIFをSNSにアップしたところ、小刻みに素早く動くシュールさがウケて、瞬く間に拡散されていった。手応えを感じた伊豆見は、次なるスタンプの制作にとりかかることに。

「次は何を作ろうかと考えたとき、ふと『魚が二足歩行で歩いたらかわいいな』と思ったんです。私は水族館が好きで、しょっちゅう足を運ぶのですが、その影響もあったかもしれません。そこで動くLINEスタンプ『さっかっなっ』をリリースしたら、LINEから『特集させてくれませんか?』とご連絡をいただいて。それまでキャラクターのことは右も左もわからず、適当に描いていたんですけど、『いっぬっ』の2倍近い反応があってびっくりしました」

続いてリリースした動くLINEスタンプ「えっびっ」は、2018年5月のLINEスタンプ月間MVPを獲得。さらに「れっもっんっ」「ぎょっうっざっ」「おっばっけっ」など、新キャラクターをぞくぞくと生み出していく。

伊豆見は生き物や食べ物など身近でありながらユニークなモチーフを選んでいるが、そのヒントはどこから得ているのだろうか。本人に尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「スーパーマーケットです。スーパーって、何でも売っててすごくないですか?(笑)。家の近所にスーパーがふたつあるので、いつもはしごしています」

とは言え、スーパーマーケットで「これを描こう!」とピンとくるわけではないという。食材を買って帰り、冷蔵庫に入れているときに、キャラクターとして意識するというのが独特でおもしろい。

ノートには作品のアイデアがぎっしり書き込まれている。

「形を見て、『これ、キャラクターにしたらかわいいだろうな』と思うことはあまりなくて……。興味を持つのは、値段の安いもの(笑)。スーパーで『これ、安いな』と思って買って帰ったものを冷蔵庫にしまうとき、なぜかシルバニアファミリーの人形を家に入れるような感覚になるんです(笑)。スーパーの売り場では感じないのですが、家の冷蔵庫に食材をしまうときにはキャラクターのお家に思えるんですよね。そのなかから、動かしてみてかわいいもの、おもしろいもの、見たことがないと感じたものを描いています」

街を歩きながら、イラストやGIFアニメのヒントを見つけることもあるという。

「ずっと家にいると圧を感じてくるので、そんなときは散歩に出かけて人や物を観察することもあります。ほかには水族館も好きです。動物園と違って、室内でゆっくりできるじゃないですか。一番好きなのは、すみだ水族館。それと新江ノ島水族館も好きで、映画館に行くような感覚で遊びに行ってます」

「かわいい」の原点は「何だこれ、おもしろい!」

えび、さかな、レモンといったモチーフを、キャラクターとしてデザインする際のデフォルメも独特だ。例えばえびの場合、横を向いているなら、本来片目しか見えないはずだが、伊豆見のイラストでは両目とも描かれる。立体物を複数の視点から捉えて平面に再構成する、キュビスムのような大胆な描き方だ。2本の腕、足のようで足ではない尻尾の形状もおもしろい。

「モチーフが何か、ギリギリわかるところを狙っています。心掛けているのは平面的に描くこと。キャラクターデザイナーの方に言わせれば、“キャラクターはぬいぐるみになることを想定して立体的に描くのがセオリー”だと思いますが、私の場合、GIFアニメから入っているので動きを重視するんです。GIFで動かしたときにどうおもしろく見えるかを考えて、キャラクターをデザインしています。なので、最初にぬいぐるみ化のお話をいただいたときは、『どうしよう』って。上がってきたものを見て『こうなるんだ!』と、作った本人が一番びっくりしました(笑)」

えびがえびフライを揚げたり、小えびとオセロをしたり、三点倒立をしたり……。描かれるシチュエーションも、思わずクスッと笑ってしまうものばかりだ。

「イメージしているのは日常生活。人間みたいなことをしているえびがいたら、かわいくないですか? お布団で寝るえびがいたらおもしろいし、かわいいかなと思って。水族館で魚を見ながら『変な動きをするな』と思ったら、それをえびやさかなにやらせてみることもあります。ちなみに、描いているえびはひとつの個体ではないんです。特定の1匹ではなく、人格もそれぞれ違うたくさんのえびを描いているんです。世界にいろんな人がいるのと同じで、いろんなえびがいる。ちなみにえびも魚も、種類はあえて特定していません!」

「おもしろいし、かわいい」──伊豆見が考える“かわいい”は、“おもしろい”と常にセットになっているようだ。“おもしろい”がベースにあるからこそ、かわいいだけではない、おかしみにあふれたキャラクターが生まれるのだろう。

「不思議なものを見ると、おもしろいなと思うんです。例えば魚が二足歩行で歩いていたら、不思議だしおもしろいですよね。キャラクターを生み出すときも、最初は“おもしろい”から入ります。犬が素早く動いたらおもしろい。それが“かわいい”につながっていく。『かわいいものを描こう』というより、『こうなったら不思議だし、おもしろいだろうな』と思うものを描いていったら、結果としてそれが“かわいい”になる。“かわいい”に正解はないので、日々『何だこれ』と思うようなものを見つけたり、考えたりしています」

『北斎漫画』に心奪われて

伊豆見のこうした感性に影響を与えたのは、なんと江戸後期の浮世絵師・葛飾北斎! 北斎と言えば、『冨嶽三十六景』をはじめとする風景画のイメージが強いが、伊豆見が惹かれたのはスケッチ集『北斎漫画』だった。なかでも、おもしろおかしい表情を見せる百面相のイラストに心奪われたという。

「高3のとき、予備校の友達から葛飾北斎の画集を借りたんです。そのなかに、人間の顔がいっぱい描かれているページがあって、それがめちゃめちゃポップでおもしろくて。目の表現を参考にしたり、よりわかりやすくするためにデフォルメもしました」

アイデアの源泉にするため失敗したと感じたイラストも消さずに残しておくという。

伊豆見自身も、『北斎漫画』よろしくノートに日々イラストを残している。本人いわく「落書きみたいなもの」とのことだが、ペンで描かれた線には迷いがなく、失敗を消した跡もない。

「日々自分が感じたこと、『きれいだな』『おもしろいな』と思うものを描いています。とりあえず1回描いてみて、『違うな』と思ったらまた隣に描いて。失敗したものも全部残すようにしています。後から見ると、どれが失敗作だったかわからないものもありますし、意外といいなと思うものもあるので」

気になったことはともかくイラストで描き留めておく。これが伊豆見香苗の創作活動の原点となる。

「仕事」と「作品づくり」の両立を目指して

日々の生活のなかで不思議に思うもの、おもしろいものを見つけ出し、イラストに落とし込んでいる伊豆見。心が動き、喜怒哀楽が湧き上がるのはどんな瞬間だろうか。

「自分の作ったもの、描いたイラストを『かわいいね』と褒めていただくと『作ってよかった!』とうれしくなります。反骨心がパワーになるタイプではないので、なるべく穏やかに、嫌いな人は作らないように、できるだけ好きなところを見つけるようにと心がけているつもりです。とは言え、穏やかな世界をそのまま描くのではなくて、ちょっとずらして表現するのが私らしさなのかもしれません」

今後は、クライアントワークと作品づくりを両立させていく予定。SCPとともにキャラクターグッズの商品化や企業セールスプロモーションを展開しつつ、彼女の世界観を表現した作品制作も続けていく。

「お仕事となると、クライアントの方々の意向もありますよね。それはそれで割り切るところは割り切って、でも自分の意見はきちんと持ちつつ、いろいろな表現にチャレンジして、ベストなモノづくりをしていきたいと思います。お母さんからも『絶対に天狗にはならないように!』ときつく言われているので、謙虚な気持ちで頑張ります! その上で、自分の作品づくりもしっかり続けていきます。自分の作品も制作しつつ、グッズ展開などを広げていくのが理想ですね。多くの方々に『#GIFの伊豆見』の世界を楽しんでいただけたら、うれしいです」

#GIFの伊豆見の頭の中

独特の世界観で、作品を生み出し続ける「#GIFの伊豆見」。彼女のユニークな創作活動に密着したドキュメンタリー映像をお届けしよう。

© IZUMI KANAE

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