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クリエイター・プロファイル

“はっげっしっくっ”動く大人気スタンプ「えっびっ」の作者「#GIFの伊豆見」誕生物語【前編】

2020.05.14

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えびやレモン、魚のキャラクターが、ブルブル動くシュールなLINEスタンプを見たことはあるだろうか。その生みの親が、「#GIFの伊豆見」ことクリエイター・伊豆見香苗だ。

キャラクターグッズの商品化、大手企業のプロモーション案件や『うんこスクワットたいそう』(フジテレビで放送中の子ども向け番組『じゃじゃじゃじゃ〜ン!』内で登場)のキャラクターデザインなどで広く活動をしていた本人に対して、2019年からソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)がエージェント契約を結び、さらに活躍の幅を広げるべくサポートをしている。

話題のクリエイターにスポットを当て、その感性や思考プロセスを掘り下げる連載企画「クリエイタープロファイル」では、そんな伊豆見香苗に密着。インタビュー前編はGIFアニメ「えっびっ」がSNSでバズり、一躍人気クリエイターになるまでの道のり、彼女のクリエイティビティの原点を紐解いていく。

※このインタビュー取材は2月26日に行なったものです。

  • 伊豆見香苗

    Izumi Kanae

    1993年、沖縄生まれ。横浜美術大学卒業。「えっびっ」「れっもっんっ」など、ユニークなキャラクターが激しく動くLINEスタンプで話題を呼ぶ。アニメーション、イラスト、漫画など幅広く活動中。2019年、SCPとエージェント契約を結び、キャラクターグッズの商品化や企業セールスプロモーションなど展開を拡大させている。

沖縄出身でインドア派だった幼少期

ビチビチと激しくしっぽを振るえび、小刻みに震える魚、高速で反復横跳びをするレモン──。生き物や食べ物がブルブルと激しく動くシュールなGIFアニメで、SNSを中心に高い人気を得ている「#GIFの伊豆見」こと伊豆見香苗。2018年5月には代表作とも言える「えっびっ」が「動くLINEスタンプ」でダウンロード数1位を獲得し、一躍その名が知られることに。1993年生まれ、27歳の気鋭のクリエイターだ。

生まれは沖縄県那覇市。街の喧噪と豊かな自然がほど良く同居する環境で育ち、幼いころは、緑のなかを駆けめぐるよりも、家で絵を描くのが好きな子どもだったという。

「どちらかと言えば、人前に出るのは苦手な子どもでした。お兄ちゃんがひとりいますが、一緒に遊ぶよりも部屋で絵を描いてることが多かったかな。空と海と魚、みたいな絵をよく描いていた記憶があります」

子どものころの夢は「毛糸屋さん」。カラフルでかわいいものが好きだったが、お姫様ごっこや人形遊びなどいわゆる“女の子らしい”遊びにはあまり興味を示さなかった。

「人形遊びとかも苦手で、むしろ怖かった記憶が……(笑)。でも、シルバニアファミリーは好きで、お兄ちゃんが持っていたLEGOと一緒に遊んでいました。子どもだったからかな、世界観が違うものを組み合わせても何の違和感もなくて」

小学校に上がってからは、モノづくり全般に関心を抱くようになる。デジタルネイティブ世代だけあって、パソコンを覚えたのも早かったという。

「小学校6年生でお兄ちゃんのパソコンを奪って、それで絵を描くようになりました。と言ってもWindowsのペイントツールを使ってマウスでポチポチ描くぐらいでしたけど。でちょこちょこと描いたものは、お絵描き掲示板に投稿していました。はっきりとは覚えていませんが、萌え系の女の子のイラストだったかな? あとは、親のデジタルカメラで、写真や動画を撮るのにもハマってて。無料の動画編集ソフトを使って、撮ったものを編集して遊んでいましたね。私が特別だったわけではなく、周りの子もパソコンを使える子は多かったです」

写真、映像、イラスト、音楽…… モノづくりへの関心高まる中高時代

中学に進むと、両親に買ってもらったペンタブレットを使い、より本格的に絵を描くようになる。だが、“イラスト一筋”というわけではなく、音楽や映像、写真などクリエイティブ全般に興味が拡がったという。

伊豆見が常に持ち歩いているというアイデアノート。

「部活は中2まではソーイング部、中3からは美術部と軽音部の掛け持ち。私が通っていたのは、1学年が30人くらいの中高一貫校で、途中で部活を変えるのも日常的なことだったんです。美術部や軽音部に友達がいたので部を移り、高校も同じ部活を続けてました。バンドで担当していたのはドラム。ギターやベースはめちゃめちゃ人気があって私もやりたかったんですけど、細かい作業だから難しいかなと思って(笑)。その点、ドラムなら叩けば鳴るじゃないですか。流行っていたASIAN KUNG-FU GENERATIONの曲とか、沖縄出身のMONGOL800、HYなんかのコピーバンドをしていました。あのころハマっていたNUMBER GIRLやZAZEN BOYSは、今も大好きです」

軽音部に入ったことでアクティブになったと語る彼女だが、持ち前のオタク気質にも磨きをかけたという。

「バンドを始めて外に出る機会も増えましたけど、やっぱり根がオタクなんですよね。音楽をやりながら、pixiv(イラストコミュニケーションサービス)のイラストをチェックしたり、ボーカロイドの動画を見たりしていました。日常風景や公園の景色を10秒くらいの動画で撮ったり、写真を撮ることも続けていました」

制作した作品をコンテストに応募したところ、「第2回高校生デジタルフォトコンテスト」グランプリや「大阪芸術大学主催高校生アートコンペティション映像部門」で優秀賞を獲得。クリエイティブな才能は、着実に芽生えていた。

また、イラストに限らずさまざまなクリエーションにチャレンジしたのは、将来を見据えた結果でもある。モノづくりの道に進みたい。でも、イラストレーターとして身を立てるのは難しい。そこで創作活動の範囲を広げ、方向性を見定めることにしたという。

「絵を描くことは好きだけれど、母から『イラストだけで食べていけるの?』と言われて。自分でも自信がなかったので、いろいろトライしたんです。そのなかから選んだのが映像。母から『映像ならいろいろなジャンルがあるし、就職先も多そうじゃない?』と勧められたのも大きかったのですが、私自身もすごく興味があって。そこで、大学は映像系に進むことにしました」

挫折からの再出発

こうして彼女は、生まれ育った沖縄を離れ、横浜美術大学で映像を学び始める。在学中は風景をメインとした映像制作に取り組み、大学のパンフレットにもインタビューが掲載されるほど優秀な学生だった。

そのかたわら、趣味のイラストも継続して制作。このころ既にミュージシャンのCDジャケットや雑誌の表紙デザインも手掛け、活動の場をさらに広げていった。

「大学時代は、仲間に恵まれました。イラストやデザインとは関係ない仕事をしている友達とも、今でも仲が良くて。今やSNSで有名人になったアートアニメーション作家のしばたたかひろ君とも、大学時代に一緒に作品を作っていました」

卒業後は、在学中からアルバイトをしていた映像制作会社に就職。アニメーション作家のアシスタントとして働き始める。だが、半年ほど経ったところで退職。その後、故郷の沖縄に帰ることとなる。

「アニメーション作家のアシスタントということで会社に入ったんですけど、学生時代にバイトで入ったときは制作技術を学べていたのですが、いざ就職してみると事務作業ばかりが増えてしまって。つらかったですね、モノづくりが全然できなくて……。そうこうしてたら体調も崩しがちになってしまい、とりあえず一度沖縄に帰ることにしました」

23歳で経験した初めての挫折。だが、故郷で気持ちをリセットしたことで、またクリエイティブへの意欲も湧き上がってきた。

「大学時代、映像制作会社のほかにアートユニット・明和電機さんのところでもバイトをさせてもらっていました。映像を作ったり、鉄を削ったり、いろんなことを体験させてもらって(笑)。そこで知り合った方が『沖縄に帰るんだって?』と気にかけてくれて、そのつてで仕事をいただき、沖縄の自宅でちょこちょこ作業していました」

そうして徐々にクリエイティブへの意欲を取り戻したころ、大学時代の恩師から声がかかる。「新しい研究員制度ができたので、1年間大学で研究指導を受けないか」──伊豆見はこの誘いを受けて再び上京。デザインやアニメーションの研究をしながら、自分自身の創作活動にも力を入れ始める。

主な活動は、SNSへのイラスト投稿。大学時代からイラストをアップしていたが、投稿頻度を上げてフォロワー数も次第に増えていった。

当時、よく描いていたのは女の子のイラスト。「えっびっ」をはじめとする今の彼女のポップでカラフルな画風とは異なり、彩度を抑えた暗いトーンの作品が多い。ショートボブの女の子が、時にギターを抱え、時にはヌードになってアンニュイな表情でたたずんでいる。

彼女のアイデアノートからは、作品の多様性も垣間見られる。

「私の分身……なのかな? 分身と言っていいかわからないけれど、自分をモチーフにしています。でも、自分がどういうものになりたいか、女の子のイラストを描き始めた当時は考えていなくて。『自分の内面を表現しよう』という感じでもありませんでした。周りの友達からも『実際の伊豆見には、イラストのような暗さはあまりないよね』って言われていたのですが、でも当時描いていた絵は暗い雰囲気のものが多いんですよね。その辺りから少しずつ、『自分らしさって何だろう』と考えるようになりました」

SNSで多くの人に作品を見てもらうには

そんななか、出会ったのがGIFアニメーションだった。GIFとは、256色まで扱える画像ファイルフォーマット。複数の静止画をパラパラ漫画のようにコマ送りで表示し、動いているように見せたのがGIFアニメだ。

「たまたまネットでGIFアニメを見て、ループしてずっと動いているのが面白いなと思って。私もやってみたいと思い、作り方を検索したら自分でも簡単に作れそうだったんです。最初のころに描いていたのは、女の子のイラストがジリジリ動くGIFアニメ。ほんのちょっとでも動きが付くと、生きてるような独特の空気感が出るんですよね。それが面白いなと思って、女の子を震わせて動かしたり、桜を散らしたりしていました」

当時SNSに投稿していたGIFアニメは、ささやかな動きのものが多かった。「えっびっ」「れっもっんっ」のように激しく動くGIFアニメを作るようになった背景には、クリエイターとしての意識の変化があったという。

LINEの動くスタンプでダウンロード1位を獲得した「えっびっ」。

「女の子のイラストは、どちらかと言うと自分自身のために描いていました。でも、SNSのフォロワー数も増えて、“人に見てもらうこと”を意識するようになったんです。どうすれば目に留まるか、どうすればわかりやすく伝わるかなって」

“より多くの人に作品を見てもらうために”と考えた結果、表現方法や制作の頻度にも変化が生じた。

「GIFは256色しか表現できないので、はっきりした色のほうがわかりやすいんですよね。そこで白地に赤、黄、青などの原色を使うようになりました。さらに、Twitterのタイムラインはすごい勢いで流れていくので、GIFアニメの動きを早くして『何だこれ』って興味を引こう、より多くの方に見てもらうためにも数で勝負しようと考えるようになったんです。有名クリエイターや人気キャラクターのTwitterを見ると、毎日のように投稿しているし、コメントもたくさんついていますよね。それを真似しようと思って、コツコツGIFアニメを制作して“1日1投稿”を心掛けるようになりました。今は動画を作ったり日記を描いたりしているので、GIFアニメはあまり作れていませんが、それでも毎日モノづくりをすることはやめていません。1日ひとつは作っています、何かしら絶対に」

SNSにGIFアニメやイラストを投稿するたびに、じわじわと拡散され、フォロワーを着実に増やしていった伊豆見香苗。そして2018年、あるGIFアニメによって転機が訪れる──。

© IZUMI KANAE

後編につづく

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