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連載Cocotame Series

音楽ビジネスの未来

名物アイドルフェスがオンラインになったら――日本初の試みに挑戦した「@JAM」で見えたもの【前編】

2020.09.30

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聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探るのが連載企画「音楽ビジネスの未来」。

今回は、日本初の開催となったオンラインアイドルフェス『@JAM ONLINE FESTIVAL 2020』をクローズアップ。その裏側を、アイドルライブのブランド 「@JAM」シリーズを立ち上げ、自ら陣頭指揮を執る総合プロデューサー、橋元恵一が語る。

前編では、開催までの経緯から困難を極めた準備期間までの裏話を明かす。

  • 橋元恵一

    Hashimoto Keiichi

    ライブエグザム

開催しても「@JAM EXPO」にはならない

夏の風物詩となっているアイドルフェス『@JAM EXPO 2020』は新型コロナウイルス感染拡大の影響で2021年に延期されたが、代替イベントとして配信サーキットフェス『@JAM ONLINE FESTIVAL 2020』が開催された。Zepp Tokyo、Zepp DiverCity(TOKYO)、AKIBAカルチャーズ劇場、白金高輪SELENE b2、横浜MMブロンテ、Future SEVENという6つのライブハウスを舞台に、8月29~30日の2日間で約120組のアイドルが出演。

アイドルフェスとしては初のオンラインイベントを終え、橋元恵一氏はどんな手応えを感じているか。オンラインにおけるライブビジネスの可能性とアイドルシーンの未来について話を聞いた。

――改めて、配信サーキットフェス『@JAM ONLINE FESTIVAL 2020』の開催に踏み切った経緯からお伺いできますか。

2020年は、「@JAM」というイベントを始めて丸10年になるということで(前身イベント「ヲタJAM」が2010年11月に開催)、今年1年を10周年イヤーと銘打って、1年間、盛り上げていこうということで、いろんな展開を考えていました。そのなかで、2014年から開催してきた「@JAM EXPO」を、今年は3日間、横浜アリーナでやる予定をしてたんです。けど、開催の発表はしたものの、第一弾出演者を発表する間もなくコロナ禍に突入しまして。

その後5月25日に緊急事態宣言が解除されたので、もしかしたらやれるんじゃないかっていうことで協議し始めたんですけど、その時点でタイムリミットが1カ月だったんです。

――会場のキャンセル料やフェスの準備などを考えると、6月末が決断のデッドラインだったわけですね。

ただし開催できたとしても、数時間おきに換気しなくちゃいけないし、お客さんも入れ替えないといけない。ロビーにステージを設置してはいけないし、全ステージを着席形式にしないといけなかった。すべて鑑みると、それではもう「@JAM EXPO」じゃないんじゃないかってことになり、残念だけど開催をやめる決断をして。

でも、100組以上の出演者にもうオファーをして、スケジュールをキープしていたので、何か代替できることがないのかと思って、ライブハウスを使ったサーキットフェスをやろうって決めたんですね。

イケてるハーツ 8月29日 Redステージ(横浜MMブロンテ)

――ライブハウスだったのには何か理由がありますか。

ライブハウスは、ソニーミュージックグループの会場であるZeppも含めて、休業を余儀なくされてきました。そんななかで潰れてしまうライブハウスも出始めてた。「@JAM」シリーズはライブハウスにずっとお世話になってきたイベントでもあるし、とにかくライブハウスでやりたかったんですよね。

ライブハウスでやることが音楽業界の活気に繋がったり、未来に向けてという意味合いもあるなと思って、これまでお世話になってきたライブハウスに交渉しました。結局6会場でやったんですが、当初は、多少お客さんを入れる計画もあったんです。でも、刻々と変わる情勢やコロナ対策の問題で最終的には難しいということで、完全オンラインという形にしたんですけど。

――その時点で、準備期間が2カ月弱しかないですよね。

そうですね。その前に、横浜アリーナでの開催をやめてオンラインフェスをやろうっていう決断の期間が10日くらいしかなかったので、相当慌ただしかったんですね。発表した時点では、すべての会場も決まってなかったくらいでしたから(笑)。普通は、「@JAM EXPO」は1年間かけて準備するんですけど、2カ月たらずだったので、やりきれないことだったり、手が回らないこともかなりありました。何もかもが初めてだったので、そういう意味で言うと、試行錯誤というか、答え合わせができないまま終わるフェスになりましたね。

縦軸の流れを、横にも繋いでいくために

Lily of the valley 8月29日 Blueステージ(AKIBAカルチャーズ劇場)

Luce Twinkle Wink☆ 8月29日 Yellowステージ(白金高輪SELENE b2)

――やりきれなかったと感じているのはどんな部分ですか?

クラウドファンディングを初めてやって。その全額を出演者とライブハウスに寄付しようっていう志で始めたんですけど、リターンの設定を含めて、詰めきれないまま突入して。準備期間がないままやってしまったことによって、クラウドファンディングの内容自体は今でも素晴らしいものだと思ってるんですけど、それが伝わらないまま失敗に終わってしまったのが、ちょっと残念だったなって思います。

あとは、今回6会場に10組ずつ、1日計60組が出ていたんですね。いろんなステージにいろんなグループが出演するという意味合いではいつものフェスと同じなんですけど、会場も違うし、コロナ対策で各出演者同士の接触も控えてもらっていたため、フェスならではの交流とか、バックヤードの楽しさとか、いわゆる横の繋がりを十分に表現できなかった。そこは当初から意識していて、ライブ以外の2チャンネルを開設して、縦軸の流れを横にも繋いでいくようにはしたんですが。

――ライブステージ以外の、スベリー杉田さんのトークステージと、高見奈央さんによる実況チャンネルも好評でした。

スベリー杉田


高見奈央(元ベイビーレイズJAPAN)



トークステージはZoomを使って6会場を繋いだんですけど、120組全員がトークに参加してくれたので、そういう意味で言うと良かったです。回線の問題でお聞き苦しいところもあったんですけど、当初、懸念していたフェスならではの横軸は、なんとか繋ぐことができたかなって思います。

高見は、本当なら横浜アリーナで総合司会をやる予定だったので、彼女をどうにかいかせないかと考えましたね。本人がもともとアイドル好きなので、「私がオタク代表として、自分でタイムテーブルを組んで6会場全部回って、視聴してるみんなに擬似体験してもらいたい」っていう提案をしてくれて。

あのふたりが頑張ってくれたからこそ、今回の「@JAM」がフェスっぽくなったので、本当に感謝してます。トーク&実況チャンネルは想像の4倍くらい視聴者が入りましたからね。

配信で見るニーズに合わせて、チケットは会場ごとに販売

フィロソフィーのダンス 8月29日 Greenステージ(Zepp Tokyo)

――トーク&実況チャンネルは、ライブステージとは別チケットでした。今回のチケットの販売方法はどう考えてましたか? これまでのフェスでは、「CD付きチケット」「ロイヤルBOXチケット」「VIPチケット」「お試しチケット」など、さまざまなチケットが用意されていました。

今回は、目当てのステージを見てもらうための6会場分の「各ステージチケット」と、1日全ステージが見られる「ライブ1日チケット」、それと、「トーク&実況チャンネルチケット」は2チャンネルをセットにして販売しました。基本、全部バラで売ったんですよね。

それは、今配信で見る方のニーズを考えると、全部をまとめた1枚の高いチケットだけで売るのは難しいんじゃないかっていう判断がひとつ目にありました。あとは、それぞれのステージのチケットを基本的には2,500円(Futureステージのみ1,500円)で売ったんですけど、最初は、例えば、Zeppの2会場は3,000円で、他の会場は2,000円にするという案もあったんです。

でも、会場によって金額に差をつけたくなかったんですね。出演者の並びで価格に差がつくのはフェスとして違うかなと思ったので、特別協賛が付いていたFutureステージ以外は同じ金額にしました。正解はわからないですけど、結果としてはそういうふうにして良かったなって思います。

22/7 8月29日 Purpleステージ(Zepp DiverCity(TOKYO))

これまでのノウハウが通用しない難しさ

――10組のアイドルが見られて2,500円というのはお得感がありますね。

正直、それ以上の価格は難しいですね。単一のアーティストさんは高くても見てくれる傾向があると思うんですけど、オムニバスのイベントは、そこに対してはハンデがあると思います。

あと、これは終わってみてわかったことなんですけど、Zeppの2会場は僕らが想定していた2倍くらいの視聴があって、それ以外のステージは、逆に予想より大きく下回ったんですね。

オンラインでしかまだライブをやってないアーティストは非常にニーズがあるんですけど、一方で、既に観客を入れてライブをやり始めているグループなどは、今さらオンラインで見るのは意味がないっていうことなのかなと。そういうファンにとっては、2,500円は高かったっていうことなんですよね。最終的にはチケット代の目標は達成しましたが、ちょっと読みが難しいなと感じましたね。

夢幻クレッシェンド 8月29日 Futureステージ(Future SEVEN)

――これまで培ってきたライブ制作のノウハウが通用しない、と。

それはありますね。いつもはチケットの売れ行きを見ながら、厳しいと思った場合は、例えばLEDをプロジェクターにしたり、スクリーンを小さくしたりして経費を下げていくんですけど、オンラインではチケットが当日まで動かないので、読みが本当に難しい。調整も難しくて、配信やカメラなどで普通のライブよりも下手すると経費がかかる。

それと、プランニングの部分で、「@JAM」シリーズは年間でスケジュールを決めているんですけど、今年は春先から夏にかけてのイベントが延期になったことから全部ずれてしまって、準備が後手後手になってしまった。時勢を見ながらやっているので、ライブの発表も準備もできないっていうのがずっと続いているんですね。これまでの、ライブ開催に向けての準備のルールと券売のノウハウがリセットされちゃったことで、より難しかったです。

後編につづく

文・取材:永堀アツオ

関連サイト

@JAM公式サイト
https://www.at-jam.jp/(新しいタブで開く)

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