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連載Cocotame Series

音楽ビジネスの未来

名物アイドルフェスがオンラインになったら――日本初の試みに挑戦した「@JAM」で見えたもの【後編】

2020.10.01

聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探るのが連載企画「音楽ビジネスの未来」。

今回は、日本初の開催となったオンラインアイドルフェス『@JAM ONLINE FESTIVAL 2020』をクローズアップ。その裏側を、アイドルライブのブランド 「@JAM」シリーズを立ち上げ、自ら陣頭指揮を執る総合プロデューサー、橋元恵一が語る。

後編では、ライブ開催の喜びや葛藤、そして今後のアイドルシーンについての見解を聞いた。

前編はこちら

  • 橋元恵一

    Hashimoto Keiichi

    ライブエグザム

オンラインは、演者とカメラマンとの駆け引きが面白い

――ライブ当日は、橋元さんはどちらにいたんですか。

初日は6会場のライブハウス、すべてを回ってました。2日目はZeppの2会場で、ライブをできるだけ観ました。

――アイドルライブとしては、客席からのコールがないのはやっぱり寂しいですよね。

そうですよね。ただ、オンラインはオンラインで、カメラワークや、演者とカメラマンとの駆け引きが面白いんじゃないかなと感じました。カメラを駆使するカメラマン、そして演者が彼らと対峙しながらパフォーマンスするという、リアルライブとは違う楽しさというか、面白さはありました。

ライブ自体は、出演者の皆さんがしっかりと対策を取りながら粛々とやってくださいましたが、ただやっぱり、盛り上がってる様はわからないですよね。何をどういうふうに受け止めたら良いのかが難しい。視聴者数で考えれば良いのか、コメントの数なのか……。やり切ったっていう体感や、このフェスに対する評価が見えないまま終わるっていう、ちょっと気持ちが悪い感じのフィニッシュでしたね。あとは、新型コロナウイルス感染を含め大きな事故はなかったんですけど、クラウドサービス側のサーバーによる配信トラブルが少しありました。

――オンラインライブでは多少は仕方ない部分もあると思いますが、今回はRakuten TV、Hulu、Streaming+、PIA LIVE STREAM、ZAIKO、ミクチャ、Thumvaと複数のプラットフォームを使ってましたね。

東京パフォーマンスドール 8月30日 Greenステージ(Zepp Tokyo)

できるだけ多くのプラットフォームを用意したので買ってくださいねっていう思いがあったんですけど、進めている途中で、それをやるのはお金と手間がかかるっていうことに気づきまして(笑)。1社であれば、送出先と受信側が1社ずつで話が済むんですけど、受信側が複数いる場合、間で管理する役割の人が必要になるんですね。その方々が、どこのプラットフォームでトラブルが起きているかを随時チェックしなければいけなくて。割と思いつきで言ったことが、結果周りの皆さんの負担になってしまったということはありました(笑)。

――プラットフォームが複数に分かれたぶん、チャットも分散しましたし、もし1社であればマルチビューも可能ですよね。

最初はそういう話や企画もあったんですけど、そうすると「1日チケット」のみになってしまうとか、技術的にはできるけど、時間と費用がかかるとか。思いつきで言うことに対して、答え合わせの時間がなかったっていうのもありますね。

目指すは、リアルライブとオンラインのハイブリッド

26時のマスカレイド 8月29日 Greenステージ(Zepp Tokyo)

――配信環境には悩まされたんですね。

そうですね。送出側にも受け手側にも問題がないのに音と画がズレる現象が起きて。結局クラウドサービス側のサーバーの問題だったのですが、「サーバー側の問題なので」って言っちゃうと、対策もできないですし、謝る理由にもならない。本来のライブであれば、お客さんに何か不満や不便があったら、僕らがその場で対処できることが多いけど、サーバの話になってくると何もできないから、対応が不誠実に見えてしまう。かと言って、責任がないとも言えない。

とにかく、コロナ対策から配信環境まで、いろんなことが初めてすぎて、本当に勉強になりました。だからと言って、学習して来年にいかそうとは今の段階では正直1mmも思ってないです。

――今回の開催は、次には繋がらない?

オンラインフェスを次に繋げようとは思ってないです。正直に言うと、二度とやりたくないっていう思いでやってました(笑)。

来年はリアルなフェスができるだろうと思ってます。もちろん、今まで通りじゃない部分が出てくると思うけど、オンラインだけで開催するのはもう懲り懲りです(笑)。配信は、確かに会場に来られない方が見られる環境としては必要なことですし、これまでも「@JAM EXPO」はニコ生で配信したり、SHOWROOMなどでも無料配信したりしてきました。

配信とライブの親和性はあると思います。でも、オンラインだけというのはちょっと違うなって。目指すはハイブリッドですかね。リアルライブとオンラインライブのハイブリッドとして、どう進化させていくかってことかなと思います。

NGT48 8月29日 Purpleステージ(Zepp DiverCity(Tokyo))

――配信の良さはどこにあると思いますか。

収容人数のアッパーがないことかな。会場キャパの何割が埋まれば採算が取れるかっていうのがライブの作り方なんですけど、配信ならいくらでもいけます。ただ、そのぶん最低数というのもないんですよね。数字が見えないっていうところは読みが難しいですね。

“夏のアイドルフェスをなくしてはいけない”という意地

――アイドルライブでは、チェキを撮ったり握手をしたりする特典会も重要な位置を占めてますが、オンラインでの特典会についてはどう見てますか。

コロナ禍のライブができない間に各事務所さんが知恵を絞って、さまざまなオンライン特典会が展開されています。この数カ月でオンライン特典会のいろんなサービスが台頭し始めましたね。そのサービスのことだけで言うと非常に盛り上がってるし、オンライン特典会だけでビジネスが成立しているアイドルグループも多いです。

ライブはできないけど、今までより収入が上がったって言う事務所もあるくらいですし、ライブ以外の特典会ビジネスは、オンラインのほうがむしろ強い気がしてますね。

オンラインだと会場の制約も時間の制約もないので、これからもっと伸びていくんじゃないかなと思います。それが事務所さんのビジネスの基盤になっていくのであれば、それはそれでアイドルシーンの存続と未来に向けた、ひとつの武器になっていくんじゃないかなと。ただ、僕自身は音楽を届ける仕事をやってるつもりだし、「@JAM」の使命も音楽を届けることなので、ライブと特典会は切り分けつつも、今後はどのようにマネタイズしていくかを考えてますね。

=LOVE 8月30日 Greenステージ(Zepp Tokyo)

――先ほどは「もう二度とやりたくない」とおっしゃってましたが、今年に限って言えば、やって良かったなと感じたのはどんな部分でした?

今年は、「@JAM」の10周年イヤーっていうのもそうですし、本来であればオリンピックがあった年で、そんなときにアイドルフェスがいつもと違う流れになりました。毎年、夏のアイドルフェスは、7月の「アイドル横丁」から始まって、8月頭に「TOKYO IDOL FESTIVAL」(以下、「TIF」)があって、8月末に「@JAM EXPO」があった。いつもアイドルフェスのしんがりをうちがやってて、皆さんに、「夏の終わりは『@JAM EXPO』だよね」って言っていただいてきました。

それが、今年は10月開催になった「TIF」に僕らがバトンを渡す役になったので、“うちがやめちゃうと今年の夏のアイドルフェスがなくなってしまう、夏のアイドルフェスをなくしてしまってはいけない”っていう、半ば意地のようなものでやったんです。でも結果、「フェスがあって良かった」と出演者やファンの皆さんから多くの評価をいただけたので、やった意味はあったかなと思ってます。

――アイドルの皆さんもMCで「『@JAM EXPO』に出ないと夏が終われない」と言ってました。

そうですね。大義として、ブランドのひとつとして、皆さんに認知していただいているので、そういう意味では、形は違うけどやって良かったなと思いました。

イベント自体をどんどん進化させていく

――10年間続いた「@JAM」は、今後どうなっていきますか。

「@JAM 」は2010年に始まって、ここに来るまで本当に紆余曲折があったんですね。始めた当初はまだアイドル創成期で、時代のスタートのタイミングだった気がするんです。AKB48やハロー!プロジェクトがいるなかに、ももいろクローバーやでんぱ組.incが出てきて、アイドル戦国時代と呼ばれるようになっていった。

その後過渡期を迎えて、今は成熟期だと思うんですけど、10年経った今も、ももクロやでんぱは活躍している。「@JAM」の一番最初のイベントに出演してくれたのが、ももクロとでんぱと、私立恵比寿中学だったんですね。以降、でんぱとエビ中は「@JAM」にずっと力を貸してくれていて。

でんぱ組.inc 8月30日 Purpleステージ(Zepp DiverCity(Tokyo))

私立恵比寿中学 8月29日 Purpleステージ(Zepp DiverCity(Tokyo))

今年は本当は、この2組に感謝の意味を込めて、総括の年にしたかったんです。「@JAM EXPO」のテーマ曲を歌ってもらうアイドル選抜期間限定ユニット、“@JAM オールスターズ”には毎年でんぱのメンバーが入ってるんですけど、今年のぺろりん(鹿目凛)が最後のひとりだったんです。なので、でんぱとの関わりも10年目で良い意味でひと区切りをつけて、ここからまた10年、新たに取り組んでいきましょうっていうつもりだったんです。そういう意味でも、この10年の感謝の気持ちを込めて、その2組はとにかく大切にしたいっていうのはあるんですね。そこはまた来年のお楽しみにしようと思ってます。

それと、イベント自体の話で言うと、「@JAM」の10年は僕が作った10年でもあって。会社員で、こんなにひとつのプロジェクトに長く関わらせていただくっていうのは、ソニーミュージックグループのなかでもありそうでなかったりする。

もちろん、変わらないことの良さもあるし、変わることの良さもきっとあると思うんですね。今後は、これまでのように自分が先頭で旗を振って前面に出ていくのが良いかどうかも含め、これからの未来は少し違うかもしれないと思っています。この10年、頑張ってルールを作ってきたことがひとつ花開いたので、そこを継承しながら新しいスタッフの意見も取り入れて、イベント自体をどんどん進化させていきたいなと思います。

――では、今、成熟期を迎えているというアイドルシーンの未来はどうなりそうですか。

2000年の半ばくらいにアイドル氷河期みたいなことを言われていた時期があったけど、そこには戻らないような気がしています。これから先も同じような流れが作れていくと想像してますね。と言うのも、アイドル戦国時代といって盛り上がっていた2015年ころから比べると衰退したとも言われてますが、「@JAM」にしても、「TIF」にしても、売り上げと集客数は右肩上がりなんです。だからきっと、既にアイドルっていう文化は確実に根づいていて。

48グループや坂道グループのおかげも多分にありますし、ほかアイドルの皆さんが頑張ってるからだと思うんですけど、若い人のアイドル好きに対する偏見もなくなって、社会的にも地位が確立されていることを考えると、向こう10年も同じように続いていくと思っています。

もっと言うと、どう興味を持ってもらえるかを作り手側が提案していく時代になっていくのかなと思うんですよね。マネジメントをされている皆さんとイベントを作っている僕らが一丸となって、このシーンを継続して盛り上げていく形を創造していかないといけないと思います。

――近年の「@JAM EXPO」は私立恵比寿中学とでんぱ組.incがトリを務めてきましたが、この先の10年で2組に代わってトリを張るようなグループは出てきますか。

今年のフェスでは、=LOVEや26時のマスカレイドにもトリをやってもらいました。今後もこうやって多くのグループが出てくると思ってます。逆に、出てこないと困っちゃうので(笑)。そこはみんなで盛り上げて、みんなで作っていきたいって思いますね。ぜひ、より多くの人に、今後のアイドルシーンにも注目してほしいです。

文・取材:永堀アツオ
撮影:塚原孝顕

関連サイト

@JAM公式サイト
https://www.at-jam.jp/

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