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海外エンタメビジネス最前線

海外事業トップが語るアニプレックスの海外展開とファンベースの戦略【前編】

2020.10.15

“楽しむ”ことは国境を越え、文化を越え、言語を超える。グローバルに注目を集めるエンタテインメントビジネスを手掛ける人々にスポットを当てる「海外エンタメビジネス最前線」。

今、日本のアニメは世界中で愛され、大きなビジネスの潮流を作っている。海外でも人気が高いアニメ「ソードアート・オンライン」や『鬼滅の刃』を手掛けるアニプレックス(以下、ANX)は、アメリカと中国に支社を設立。多くの国でビジネスパートナーを持ち、海外ビジネスの拡大に取り組んでいる。

今回はANXで海外事業を統括する後藤秀樹にインタビュー。前編ではANX海外事業部が現在のサービス理念を持つまでの歴史について後藤が語る。

  • 後藤秀樹

    Goto Hideki

    アニプレックス
    執行役員専務 ライツ事業第2グループ 本部長

自ら北米マーケットを切り開くべきと決断した理由

ANXは現在、アニプレックス・オブ・アメリカ(以下、AOA)とアニプレックス上海(以下、ANS)という海外支社を持ち、アニメやゲームなどANXのサービスをグローバルに提供している。現在の状況は10年以上の時間をかけ、海外の市場をじっくりと切り開いてきた成果によるところが大きい。この最前線で市場を模索してきた後藤に当時の状況を聞いた。

――後藤さんがANXで海外事業に取り組み始めたころ、海外のアニメ市場はどのような状況でしたか。

前職で日本のビデオパッケージメーカーに勤めていたのですが、1995年から2005年までアメリカに駐在して、現地ディストリビューターとしてアニメ作品の発売や普及の仕事をしていました。帰国後2006年にANXへ転職し、2010年からAOA事業立ち上げのために再度アメリカに赴任しました(2017年に帰任)。

前職当時は、北米でまだアニメが十分認知されておらず、アニメのVHSを販売店に置いてもらう市場開拓からのスタートでした。やがてアニメのビデオマーケットが活況となり、日系の会社も含め、日本のアニメ作品を取り扱う現地ディストリビューターの数が増えていきました。

そして人気作品を獲得するための購入価格が競争環境のなかで高騰していきましたが、一方でインターネット上での海賊版の蔓延の影響を受け、その投資を回収できない多くのディストリビューターが淘汰されていきました。

すると買い手企業が一転少なくなり、今度は作品を許諾する権利料が急落していったのです。自分は北米で高騰した権利料を払う立場と、日本帰国後に低迷する市場のなかでいかに作品を高く売るか悩む立場を、両方経験することになったのです。

そのような市場環境でANX海外ライセンス部(現海外事業部)としては、北米で本来期待される収入を得るために、寡占化された市場で買い手側がオファーする低い金額を飲み込むか、自らがリスクを取りビジネスを作っていくかという選択を迫られました。

私は「ANXは自ら北米マーケットを切り開いていくべきだ」と提言をしたんです。その提案がようやく通り、AOAの事業化を進めることになりました。

――後藤さんのなかで、自分たちで北米マーケットを切り開いていくと提言をする決め手は何だったのでしょうか?

やはりディストリビューターとのお付き合い、Business to Business (B to B) マーケットでは、作品をどの会社にいくらで買ってもらうかということが中心となります。作品獲得に手を上げてくれる企業が多いときは値段が上がりますし、企業が減れば値段は下がります。これは本来各作品がファンの支持を得て生み出す価値とは別の力学です。

また、買い手が少なくなり売値が低落すると、どこかで本来作品が持つべき価値を下回ることになってしまいます。ライセンス料が安すぎるとビジネスとして成り立たなくなりますし、優れた作品を作ることができなくなる。自らマーケットを切り開いていくことにリスクはありますが、作品の力を信じ現地でファンを増やしていくBusiness to Consumer(B to C)という中長期的なビジョンに立った上での判断だったと思います。

国内で培ったブランド力が海外でも通用する

――結果としてANXが北米で自ら販売・流通のルートを確保されました。当時のANXは北米向けにどんな作品を扱っていたのでしょうか。

最初の発売商品は劇場版「天元突破グレンラガン」の『紅蓮篇』と『螺巌篇』でした。その後、「デュラララ!!」『青の祓魔師』『魔法少女まどか☆マギカ(以下、まどマギ)』といった作品を北米で展開していき、少しずつ会社が成長していきました。私は前職で北米ビジネスの現地経験がありましたが、ANXが送り出す素晴らしい作品があったからこそ、AOAも成長し、また北米の市場に刺激を与えることができたのだと思っています。

ANXが北米で自社配給をはじめたころの作品のひとつ、劇場版『天元突破グレンラガン 螺巌篇』のキービジュアル
© GAINAX, KAZUKI NAKASHIMA/GURREN LAGANN-MOVIE COMMITTEE

――ANX自らがディストリビューターになったメリットはその他にもありましたか?

現地のアニメファンにとってはディストリビューターの会社名がその作品と紐づきます。例えば『鋼の錬金術師』という作品は、当時北米ではファニメーション(アメリカのアニメ配信・配給会社。現在はソニー・ピクチャーズ傘下)という会社がディストリビューションをしていました。だから当時、北米では『鋼の錬金術師』はファニメーションの作品だと捉えられていたんです(現在はAOAが権利を保有)。北米のファンにとってANXと『鋼の錬金術師』は十分リンクしていませんでした。

現在ANXが日本でプロデュースに参加している『鬼滅の刃』や「ソードアート・オンライン」などは、AOAが現地のディストリビューターになることで、日本でのブランドイメージを海外でも同様に得ることができるようになりました。ANXが数多くの素晴らしい作品に携わっているということを、各作品を通じて北米や世界に伝えるため、ANXブランドを掲げることはとても大切なことだと考えています。

『鬼滅の刃』の英語版ポスター。北米でもANXブランドで展開されている。
©Koyoharu Gotoge / SHUEISHA, Aniplex, ufotable

きっかけはサイマルキャストと『俺妹』――海外でも日本と同じサービス体験を同じスピードでファンに提供したい

――一般社団法人日本動画協会がまとめた「アニメ産業レポート2019」(2019年12月発表)によると、アニメの産業市場は世界で約2兆1000億円で、年々拡大傾向にあると言われています。成長途上にある海外市場の中でも、特に多くのアニメファンがいるアメリカの市場は、どのような特性があるとお考えですか。

例えば『AKIRA』や『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』のようなサイバーパンクな作品が欧米向けで、いわゆる「萌え系」のタイトルは日本向け、という意見があって、私もAOA立ち上げ当初は同じような先入観を持っていました。つまり、世界の市場(地域)によって好まれる作品が違うだろうと考えられていたわけです。

ところが、ネットの発達により、オンラインの配信サービスを通じて世界でアニメの同時配信(サイマルキャスト)が行なわれるようになり、その考えは先入観に過ぎなかったんだと、目からうろこが落ちたんです。

それを痛感したのはアニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(以下、俺妹)』(2010年放送)にAOAとして関わったときのことです。『俺妹』は、いわゆる萌え系の作品だと日本では捉えられていますが、北米で同時配信すると、ファンが大きな反応を見せてくれたんですね。日本にも『俺妹』が好きな人がいるように、北米にも『俺妹』が好きな人がいる。

もちろん作品によってファンのボリュームは違うかもしれませんが、どの作品にも必ず熱量を持って好きになってくれる人が世界各国にいる。お客様が好きなのは作品そのものであって、そこには地域や国の差異はないと、『俺妹』を通じて実感したんです。

オタクな日本の中高生を主役にした『俺妹』は北米でも多くのファンを持つ

――どのエリアでも、作品のファンがいて、そのファンを尊重していくということですね。サイマルキャストによって、そのファンの熱が見えてきたということですか。

そうですね。サイマルキャスト開始前は、海外ではアニメの違法配信が多く、我々が作品の人気を感じてもビジネスの展望が見えないところがありました。ANXは2009年の『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』から公式サイマルキャストに本格的に取り組んできました。

今では世界中でアニメのサイマルキャストは当たり前のように行なわれ、海外配信サイトからのライセンス料は作品制作に欠かせなくなっていますが、弊社はいち早くその取り組みを始めた会社の一社だと自負しています。

――「海外でも日本と変わらないアニメの楽しみ方ができること」が海外戦略のコンセプトのひとつということですね。

2011年に『まどマギ』を展開した際には大きな手応えを感じました。『まどマギ』では第3話で大きな展開が起きますが、その放送が行なわれたときに、世界中のファンが一斉に反応したんです。アメリカにいるファンも、日本にいるファンと変わらずに『まどマギ』を夢中になって楽しんでくれている。その尊さに違いはないなと感じました。

『まどマギ』はサイマルキャストにより世界中の視聴者から一斉に大きな反応を得た
© Magica Quartet/Aniplex, Madoka Partners, MBS

そういった経験を重ねたことで、現在我々は“日本で提供しているサービスや体験と同様のものを、海外のお客様へもできる限り同じスピード感で体験してもらえるようにしていく”ことを第一に考えています。ビデオパッケージの販売、劇場公開、グッズ販売など、日本のお客様が体験できることと同じものをできる限り海外のお客様にも届けていきたいと考えています。

もちろん地域によっては現地のディストリビューターとお付き合いする「B to B」のビジネスも展開していますが、やはりアニメは一人ひとりのファンが感動するものです。そのため、支社を置いていない地域でも我々は常に、ANXがプロデュースする作品のファンになっていただくことを意識し、現地ディストリビューターと共に作品のプロモーションに取り組んでいます。

海外のお客様と触れ合いながら、直接、作品の素晴らしさをお届けしていく。そこがANXの特徴と言ってもいいのかもしれません。

2019年2月にアメリカのロサンゼルスで行なわれた『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]II.lost butterfly』北米プレミアの様子

「日本で提供しているサービスや体験と同様のものを、海外で味わえるようにしていく」。後編ではこうしたコンセプトを掲げるANXが現在どのようなビジネスを世界中で展開しているのか、そしてこの先のビジョンについて語ってもらった。

文・取材:志田英邦

※インタビュー取材は、リモート会議アプリケーションを使用して行なった。

関連サイト

アニプレックスオフィシャルサイト
https://www.aniplex.co.jp/ 
Aniplex of America
https://aniplexusa.com/

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