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海外エンタメビジネス最前線

海外事業トップが語るアニプレックスの海外展開とファンベースの戦略【後編】

2020.10.16

“楽しむ”ことは国境を越え、文化を越え、言語を超える。グローバルに注目を集めるエンタテインメントビジネスを手掛ける人々にスポットを当てる「海外エンタメビジネス最前線」。

今、日本のアニメは世界中で愛され、大きなビジネス潮流を作っている。海外でも人気が高いアニメ「ソードアート・オンライン」や『鬼滅の刃』を手掛けるアニプレックス(以下、ANX)は、アメリカと中国に支社を設立。多くの国でビジネスパートナーを持ち、海外ビジネスの拡大に取り組んでいる。

今回はANXで海外事業を統括する後藤秀樹に話を聞いている。後編ではファンベースをサービスの理念としながら世界各国で展開されているANXの海外ビジネス、そして今後のビジョンについて語ってもらった。

  • 後藤秀樹

    Goto Hideki

    アニプレックス
    執行役員専務 ライツ事業第2グループ 本部長

同じ目線を持った世界各国のパートナーと協業することの重要性

――ここまではアメリカでのこれまでのANXの事業開拓についてお伺いしました。ここからは現在と今後の海外事業展開についてお話を伺いたいと思います。現在ANXは海外事業をどのようなエリアで区切って展開しているのでしょうか。

基本的には英語圏プラス中南米はアニプレックス・オブ・アメリカ(以下、AOA)、中国本土はアニプレックス上海(以下、ANS)が、ANXの現地支社として事業を管轄しています。欧州とその他のアジアの地域はANXの海外事業部が各地のパートナーにライセンスを行なって展開されています。

英語圏と中国本土は人口的な規模も大きいですし、世界的なヒット作品につながる波紋が生まれるエリアなので、支社を通じて直接作品の配信交渉やマーケティング活動を行なってきました。

欧州は国ごとに言語が異なるので、マーケティングも含めてその現地の言語で進めるのが正しいと考えており、そのため各国ディストリビューターとの協力関係は非常に重要だと感じています。

――各国でパートナーを決める際は、どのようなことに重点をおかれるのでしょうか。

作品をどれだけ評価していただけるかです。やはりビジネスである以上、作品購入にあたって適正価格を提示していただけるかどうかは大きな指標になります。それともうひとつ、我々と同じような目線で、ファンとのコミュニケーションや作品を届ける努力を行なっていただけるかも重要です。

アニメ作品は、いろいろなパートナー企業と製作委員会を組成し製作されます。世界各国のイベントに出展したりゲストを送り出すなど、海外で積極的に作品を展開・プロモーションしていくには、委員会はもちろんのこと、アニメーターや声優といった作品に参加しているクリエイターの皆さんの理解と協力が必要です。

ANXがそれらを実現する上で、日本側の関係各位とともにマーケティングに尽力し、事前の相談や申請をしっかりしてくれる現地パートナーと組むことが重要だと考えています。

ゲームビジネスはアニメシリーズのファンへの新しい還元手法

――現在ANXは『Fate/Grand Order(以下、FGO)』を始めとしてスマートフォン向けゲームも海外に展開されています。こちらのビジネスについてはどのようにお考えですか。

実は、我々にはあまり海外でゲームビジネスをやっているという意識はないんです。『FGO』を例に挙げるならば、ゲームビジネスとしてではなく、海外の「Fate」ファンに、新しいエピソードをお伝えしているという捉え方のほうがしっくり来ます。

「Fate」シリーズという素晴らしい世界観をより多くの方に知っていただくための方法として、アニメではなく、ゲームというメディアが選択されているのだと考えています。

アニメ『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア- 』英語版ポスター。『FGO』ゲームだけでなく、ゲームを題材にしたアニメも海外で展開されている。
©TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT

――ゲームにおいても各国でパートナーと組むことで、多彩な展開を行なっていますね。

昨今のモバイルゲームは、ゲームをリリースしてからも24時間365日運営を行ない、イベントや新しいストーリーを更新し続けないといけません。その上で、海外に展開するためには各国のパートナー企業と、現地のファンに納得していただけるようローカライズしたサービス運営やプロモーションを行なっています。

中国本土では現地の『FGO』パブリッシャーであるbilibili(ビリビリ)と組んで、2018年と2019年に大型リアルイベント「Fate/Grand Order EXPO Shanghai」を実施しました。

2019年に中国の上海で行なわれた「Fate/Grand Order EXPO Shanghai」の様子

アメリカでも2019年にAOAが主導して、アメリカ各地で開催されたアニメイベントに合わせて「Fate/Grand Order U.S.A. Tour」を実施しています。イベント毎に『FGO』単体のブースを出展したり、物販を行なったり、ゲームのキャラクターを演じる声優さんに日本からお越しいただいてトークイベントを開催するなど、さまざまな展開を行なってきました。

『FGO』のファンはもちろんのこと、「Fate」シリーズのファンの皆さんに、日本のファンと同じようなイベント体験を楽しんでいただけたのではないかと感じています。

2019年2月にアメリカのロサンゼルスで行なわれた「FGO U.S.A. Tour 2019」物販会場の様子

より良い作品をつくるためにファンとクリエイターを世界で繋げていきたい

――2020年は新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、世界的に大きな変化が起きました。ANXの海外戦略にどのような影響があったのでしょうか。

海外ではサブスクリプションによる正規のアニメ配信サービスで視聴をする人の数や視聴時間が大きく増えたと聞いています。リアルイベントの開催は難しくなりましたが、家にいる時間が増えた分、新しくアニメに興味を持つ人が増えただけでなく、元々アニメを好きだった人たちが、過去作品も含めてより多くのアニメを視聴するようになったのではないかと想定しています。

――これまでANXは海外のイベントにも積極的に出展されてきましたが、こちらはどのような影響がありましたか?

ANXは今夏に海外で開催される予定だった多くのイベントに出展を予定していましたが、新型コロナウイルスの影響で全てキャンセルになっています。楽しみにされていた各国のファンの方に対しては心苦しい思いを感じていました。そこでオンラインでイベントを実施して、世界中のファンと触れ合う機会を持ちたいと考えました。オンラインであれば、そもそも出展予定がなかった地域のファンも参加ができます。そこで発案したのが、7月に実施したオンライン海外向け配信イベント「Aniplex Online Fest(以下、AOF)」だったんです。

――「AOF」は初の試みでしたが、手応えのほどはいかがでしたか。

延べ30時間以上にわたる新規の映像コンテンツを各作品、関係者や出演者の皆さんのお力により作ることができました。「AOF」では、本来リアルイベントで見たいと思っていたクリエイターやアーティストと出会える機会を提供したいと考えていましたが、その点については、お客様から良い反響をいただけたと思います。今後も、より熱いオンラインイベントを実施していけたらと考えています。

「AOF」配信番組の様子。多くのクリエイターや声優が出演し、日本から全世界に配信された。

――海外でリアルイベントに出展することや、クリエイターや声優をゲストとして連れて行く意義はどのようにお考えですか。

新型コロナウイルスが流行する前までの話になりますが、ANXではアーティストや声優、クリエイターの皆さんにできる限り渡航をお願いして、海外イベントに参加していただいています。お忙しい皆さんに、ときには時差移動のご無理をお願いしているのですが、これは現地イベントに参加していただくことで、海外ファンが憧れの人に会う感動の場を作るためです。また一方で、ゲストの方が海外ファンの熱量を直接受け取ることで、作品づくりのプラスにも繋がっていくのではないかと信じています。

ANXは作品づくりにおいて「クリエイターファースト」を基本としていますが、我々は作品に込めたクリエイターの意思や思いを伝えるだけでなく、クリエイター自身にも現地のファンの存在を刺激として感じていただければ、それは同じく尊いことだと思います。

例えば劇場版作品を海外で公開するときも、日本のクリエイターや声優の皆さんに現地の劇場へ来ていただくと、ファンが喜んでいる姿を直に見ていただくことができます。世界中にファンがいるということを肌で感じてもらうことで、続編へのモチベーションにしてもらったり、今後もANXと一緒に仕事をしたいと感じていただけるのであれば、それは素晴らしいことだと思います。

もちろんオンラインイベントでもそういった感じ方をしてもらえる仕組みを提供していきたいと考えていますが、新型コロナウイルスの状況が落ち着いて、海外でもイベントが再開されるようになれば、これからも現地に行けるような機会を作っていきたいと考えています。

2019年2月にアメリカのロサンゼルスで行なわれた『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]II.lost butterfly』北米プレミアでは、声優の下屋則子が渡航してゲスト登壇した。

まだまだ世界は広い――アニプレックスのアニメをより多くの人に届けたい

――後藤さんご自身が、海外ビジネスを進められるなかで、印象に残っているエピソードなどはありますか。

最近の話ですが、昨年11月に、サウジアラビアのアニメイベント「SAUDI ANIME EXPO 2019」に視察へ行きました。そこの会場で「紅蓮華」(『鬼滅の刃』の主題歌)が流れたのですが、驚くことに現地の方が皆さん日本語で歌ってくれたんです。

初めて行った国で現地の方が日本語でアニソンを合唱するところを見て、鳥肌が立ちましたね。同時に、まだANX作品をしっかりと届けられていないエリアがあり、伝えられていないことが多いなとも感じました。まだまだ世界は広いなと思いますし、今後の課題にもなりました。

「SAUDI ANIME EXPO 2019」の様子

――後藤さんは“ご自身が体験したこと”をビジネスの手掛かりにもされているんですね。

そうですね。海外に実際に赴くことで、実感できることは多いと感じています。海外でイベントがあるときは、クリエイターに帯同して社内の宣伝担当やプロデューサーも現地へ行っています。海外のファンの存在や熱意を知ることは刺激にもなりますし、そのあとの仕事へのアプローチも変わってくる。そうやって世界中にいるファンの存在を知ることは大事だと考えています。

――それでは渡航が難しい現状は、歯がゆいですね。

振り返ってみると去年は世界各国のアニメイベントを飛び回って、合計90日ぐらい海外にいましたから。でも、今年は一度しか海外に行けていない。各支社のスタッフや各国パートナーとフェイス・トゥ・フェイスで会いたいと思うのですが、それができないのはやっぱり悔しいですね。

――最後に、海外展開における今後のビジョンをお聞かせください。

ANSが立ち上がったばかりなので(2019年1月に設立)、もっともっと中国の皆さんにANXを知っていただきたいと考えています。AOAも設立から知名度が浸透してきまして、現地で上映会をするとANXのロゴが表示されたときに観客が一緒に「♪アニプレックス!」と叫んでくれるようになったんですね。中国でも積み重ねていくことで、作品とブランドの認知度を上げていきたいと思います。ほかの地域に関しては、配信も含めて正規で作品を届けられるエリアを拡大していきたいと考えています。

文・取材:志田英邦

※インタビュー取材は、リモート会議アプリケーションを使用して行なった。

関連サイト

アニプレックスオフィシャルサイト
https://www.aniplex.co.jp/
 
Aniplex of America
https://aniplexusa.com/
 
Aniplex Online Fest(英語)
https://aniplex-online-fest.com/
 
Aniplex Online Fest(中国語)
https://www.bilibili.com/blackboard/activity-aniplex-online-fest.html

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