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連載Cocotame Series

海外エンタメビジネス最前線

アルファミュージックを世界へ発信するSNS施策と世界の音楽マーケットのリアル【前編】

2021.05.10

“楽しむ”ことは国境を越え、文化を超え、言語を超える。グローバルに注目を集めるエンタテインメントビジネスを手掛ける人々にスポットを当てる「海外エンタメビジネス最前線」。

今回は、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のニューヨークオフィスに駐在する駒﨑絵里に、4月からアメリカでスタートしているSNSを活用したアルファレコード(以下、アルファ)のデジタルマーケティングプロモーションについて話を聞く。

YMOや荒井由実といった日本を代表するアーティストを数多く抱えたアルファミュージック。その魅力をより深く世界に向けて発信するために始まったSNS施策とは、どのような取り組みなのか。

前編では、世界最大の音楽マーケットである米国を中心とした、海外における日本の音楽の実情とアルファの評価について語ってもらった。

  • 駒﨑絵里

    Komazaki Eri

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

アルファミュージック

 
1969年に、作曲家だった村井邦彦が設立した音楽出版社がアルファミュージック。そして、海外進出を目的に1977年に立ち上げた音楽レーベルがアルファレコードである。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)、荒井由実(現・松任谷由実)、カシオペア、ティン・パン・アレーらが所属し、不世出のアーティストや唯一無二の楽曲を数多く世に送り出した。

カレンダーは2020年3月のまま――閑散としたニューヨークオフィス

──駒﨑さんが勤務されているSMEのニューヨークオフィスでは、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

ニューヨークオフィスでは日本から派遣された2名と現地採用の1名の計3名が勤務しています。ニューヨークでの私たちの主な業務は、現地でネットワークを広げて新しいエンタテイメントビジネスを生み出すことと、日本のアーティストを向こうで売り出すためのサポート、加えて、海外のトレンドをいち早く掴み、分析して、日本と共有することなどです。

ニューヨークオフィスは、管轄がソニーミュージックグループのヘッドクオーターであるSMEになるので、派遣元の会社もSMEになりますが、私自身は主務となるSMEの業務のほかにグループ内の音楽出版会社であるソニー・ミュージックパブリッシング(以下、SMP)とマネジメント会社のソニー・ミュージックアーティスツに兼務という形で籍(インタビュー当時)があるので、それぞれの立場で業務を行なっています。

今回は、アルファのことを中心にお話しをさせていただきますが、これはソニーミュージックグループのヘッドクオーターであるSMEとして、海外でのビジネス促進を図る目的と、現在はアルファの権利者であるSMPの業務の一環として行なっているという状況です。

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──確かに海外でお仕事をされるなら、複数にまたがった業務体系の方が、仕事がリンクして作業効率がアップしますし、ビジネスのネットワークも広がりますよね。

そうですね。ただ、新型コロナウイルスの感染が拡大してしまい、人に会ってネットワークを広げていくとは言っていられない状況になってしまったので、現在はいったん帰国して、オンラインで向こうとコミュニケーションを図りながら、ソニーミュージックグループのIPを海外でどう活用していくかを考えつつ、アメリカで次に成功しそうなプラットフォームビジネスのリサーチなども行なっています。

──アメリカではコロナ禍でほぼオフィスに出勤できていないとニュースなどでよく目にしますが、やはりそういった状況だったのでしょうか。

どうしても出勤しなければいけない場合を除いてはリモートワークになっていました。私も一度、オフィスに行かなくてはいけない用事があったのですが、同僚の机にあったカレンダーが2020年の3月からめくられていなくて切なかったですね。ソニーミュージックに限らず、どのレコード会社でも同じような光景が広がっているのではないでしょうか。

──アメリカのスタッフとのやり取りは時差の関係で大変そうですね。

日本で行なわれるオンライン会議に午前中から出席して、23時を回ったくらいからアメリカとオンラインで打ち合わせということも珍しくないですね。最近では、海外でのリリース案件で、アメリカ、ヨーロッパと深夜までマーケティングのやり取りをしています。

そんな状況でありつつ、昨年春から始めているのが、海外でビジネスのポテンシャルがあるアーティストを、デジタルマーケティングを活用しながら、アメリカのマーケットに紹介していくことです。SNSを通して、どれだけ海外にファンがいて、どこにファンがいるのかを可視化させ、海外のレーベルやブッキングエージェントにピッチング(売り込み)するだけでなく、自分たちでもSNSを使ってデジタルマーケティングを行ない、海外でファンベースを作ってみようという施策です。

ファンの数や場所が可視化できれば、アメリカのレーベルやエージェントに話を持っていきやすくなるはずです。また、そのデータを元にSNS上でバズを起こすような施策も考えています。

──アメリカのSony Music Entertainmentでは、日本の音楽をどのように評価しているのでしょうか。

残念ながら話題にのぼることはほとんどありません。でも、それはイギリスの音楽に関してもほぼ同様ですね。アメリカはアメリカで、自国の音楽をファーストプライオリティとしてセールスしていく。これについては、どの国や地域でも変わらないと思います。

ただ先日、YOASOBIに関しての問い合わせはありました。日本のビルボードチャートの動きを見てYOASOBIに興味を持ったメディアに紹介するということで、写真や資料を送ってほしいというリクエストでしたね。

盛り上がりを直に感じたのは細野晴臣のNY公演での光景

──いっぽうで、2000年代にYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)が再評価されてから、細野晴臣を筆頭にした関連アーティストへの注目が高まり、そこからシティポップ、アンビエントブームへとつながっていきました。1970年代、1980年代の日本の音楽は、海外で特にインディのミュージシャンや熱心なリスナーの間で大変盛り上がっていますが、駒﨑さんがこの盛り上がりを肌で実感したのはいつごろでしょうか?

ヒップホップのアーティストがサンプリングしたり、インディロックのミュージシャンたちが影響を口にしているのは認識していたのですが、リアルに感じたのは2019年に細野晴臣さんがソロとして初めてニューヨークでライブを行なったときですね。マンハッタンにあるグラマシー・シアターというコンサートホールだったんですが、会場に行ってみるとその一角をぐるりと人が囲んでいて驚きました。

並んでいるのは、みんなブルックリンから来ているようなオシャレな人たちで、しかも大半が若者なんです。あまりに人が集まっているから、通りすがりのおじさんが気になったのか、「この列は何だ?」って聞いてて、若者たちが「Haruomi Hosonoだよ」ってボソッと答えたら、そのおじさんが「Oh! Haruomi Hosono!!」ってメチャメチャ反応してたんですよ(笑)。日本人の名前は、向こうだと発音として聞き取りづらいはずなので、おそらくおじさんも知っていたんでしょうね。

それで私も気になって、彼らに「どこで細野晴臣を知ったの?」って聞いたら、怪訝な顔をされながら「え!? YouTubeだけど」って返されました。「当たり前のことを聞くなよ」という感じでしたね(笑)。

でも、ニューヨークでミュージシャンの取材に立ち会っていると、“Haruomi Hosono”の名前がよく挙がって、みんな知っているんですよ。そして話を聞いていると、日本の音楽に興味を持っているというよりも、純粋にクオリティの高い音楽だから聴いているということがだんだんとわかってきました。

矢野顕子さんもゲストで登場した、そのときの演奏が本当に素晴らしくて、これだけの熱量を持って聴いてもらえるなら、アルファ自体ももっと知ってほしいと思うようになったんです。

熱心に日本の音楽を深堀りする海外アーティストたち

──彼らが日本の音楽を知るようになったのは、アメリカの中古レコードショップのスタッフが日本で大量に買い付けしたものをお店でレコメンドして、ミュージシャンや音楽マニアに広まっていったという背景があります。特に最近は海外のミュージシャンからの日本の音楽に対する支持がかなり目立ってきていますよね。

そうなんです。2017年にブレイクしたクレイロも矢野顕子さんのことが大好きで、彼女がライブをしたときに矢野さんをお連れして、すごく喜ばれました。

あと、ヴァンパイア・ウィークエンドが2019年に発表した楽曲「2021」で細野さんの音源をサンプリングしているんですが、それがレコードやCDでリリースされた音源ではなく、1984年に発売されたカセットブック『花に水』に収録されている「TALKING あなたについてのおしゃべりあれこれ」というアンビエントトラックなんです。その時点ではSpotifyなどで配信もされていませんし、かなりレアな音源だったはずです。

また、カナダのシンガーソングライター、マック・デマルコも細野さんを敬愛していて、「Honey Moon」をカヴァーしています。それも日本語で。それほど熱心に聴かれているんだと驚かされました。ミュージシャンたちが夢中になるくらいですから、早耳のリスナーたちに細野さんの音楽が浸透していくのは当然のことかもしれないですね。

ただ、Spotifyのようなワールドワイドでサービスを展開するDSP※(Digital Service Provider)の日本上陸に時間がかかったので、日本の音楽が手軽に聴くことができるようになったのはあとになってのことでした。

それよりも前に魅力に気づいていたミュージシャンやリスナーは中古レコードを探したり、もしくは、ネットに公開されたUGC(User-Generated Contents:一般ユーザーが公開したコンテンツ)の音源を聴いて、そこからのアルゴリズムでどんどん深堀りしていったんだと思います。

※音楽業界ではデジタル音楽配信事業者を意味する。

──彼らが夢中になる音楽や作品にはアルファのものが多く含まれていると思いますが、まだまだ氷山の一角という印象がしますね。

そうなんです。小坂忠さんや中西俊夫さんのMELON、コシミハルさんといった、海外ではまだまだ知られていないアルファのすばらしい音楽がたくさんあります。

小坂忠『ほうろう』

コシミハル『パラレリズム』

メロン『Do you like Japan?』

DSPのアルゴリズムに引っかからなかったようなアルファのミュージシャンや楽曲にスポットを当てるには、そもそも“アルファのレガシーとは何なのか”を伝える必要がありました。YMOや細野さんたちの音楽が、改めて評価されている今こそがチャンスで、SNSを使ったデジタルプロモーションをスタートさせようと考えたんです。

ただ、アルファのデジタルマーケティングをスタートさせるにあたり、ニューヨークでは資料がありませんでした。例えばInstagramで紹介したいと思うような当時の資料などはすべて日本にあって、でも頻繁にそれを取り寄せるわけにもいかないですし、そもそも何があるのかわからない。

そういう状況のなかで、日本に戻ることになったので、このタイミングを逃す手はないと、倉庫にある大量の資料やアルファミュージックから受け継いだ貴重なグッズなどを確認することができました。この作品にはどんなミュージシャンが参加しているのかというようなクレジットもレコードなどの現物を見ないとわからないので、すぐに手の届く場所にあるというのは作業するにあたってとても良いことでしたね。

加えて英語の資料もまったくなかったので、作品の参加ミュージシャンやプロデューサーなどのクレジットも現物とにらめっこしながら、今は手打ちでデータ化していたりします。

アルファミュージックから引き継いだ貴重なマスターテープ。

──それは果てしなく、そして地道な作業ですね。

はい、まるで大学で研究しながら論文を書いているような気持ちになっています(笑)。

 
後編へつづく

文・取材:油納将志
撮影:干川 修

関連サイト

ソニー・ミュージックパブリッシング公式サイト
https://smpj.jp/
 
アルファミュージック公式Instagram(英語)
https://www.instagram.com/alfamusic1969/
 
アルファミュージック公式Facebook(英語)
https://www.facebook.com/alfamusic1969

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