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海外エンタメビジネス最前線

アルファミュージックを世界へ発信するSNS施策と世界の音楽マーケットのリアル【後編】

2021.05.11

“楽しむ”ことは国境を越え、文化を超え、言語を超える。グローバルに注目を集めるエンタテインメントビジネスを手掛ける人々にスポットを当てる「海外エンタメビジネス最前線」。

今回は、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のニューヨークオフィスに駐在する駒﨑絵里に、4月からアメリカでスタートしているSNSを活用したアルファレコード(以下、アルファ)のデジタルマーケティングプロモーションについて話を聞く。

YMOや荒井由実といった日本を代表するアーティストを数多く抱えたアルファミュージック。その魅力をより深く世界に向けて発信するために始まったSNS施策とは、どのような取り組みなのか。

後編ではSNS施策の具体的な展開と音楽マーケットの今後、そして未来の可能性について聞いた。

  • 駒﨑絵里

    Komazaki Eri

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

アルファミュージック

 
1969年に、作曲家だった村井邦彦が設立した音楽出版社がアルファミュージック。そして、海外進出を目的に1977年に立ち上げた音楽レーベルがアルファレコードである。YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)、荒井由実(現・松任谷由実)、カシオペア、ティン・パン・アレーらが所属し、不世出のアーティストや唯一無二の楽曲を数多く世に送り出した。

SNSに人格を持たせるのは海外でも同じ

──アルファのSNS施策は、Instagramのアカウントを開設するところからスタートしたと伺いました。

2020年の春からスタートして、ちょうどThe 1975が最新アルバム『仮定形に関する注釈』に収められた「トゥナイト(アイ・ウィッシュ・アイ・ワズ・ユア・ボーイ)」という曲に佐藤博さんの「SAY GOODBYE」がサンプリングされたので、そのことを伝えるストーリーをアップしました。ただ、このころは投稿の連続性を確保できず、ほぼ手つかずの状態になってしまいました。

佐藤博『awakening』

そうこうしているうちに、アルファ関連で紹介したいものが日本でたくさん出てきたので、Instagramでこれからどんどんアップしていきたいと考えています。加えて、FacebookやRedditではシティポップのコミュニティがたくさんできているので、そこに参加されている各国の音楽ファンに届くようなコンテンツも作っていきたいですね。そのあとにアルファのYouTubeチャンネルも開設する予定です。

アルファミュージックのInstagramより

──日本ではTwitterやInstagramは人格というか、中の人のキャラクターを前に出したアカウントが支持されることが多いですが、海外でも同じなのでしょうか?

一緒ですね。あらかじめ人格というか、トーンを決めたほうが良いと言われています。アルファのアカウントも何かしらの指針をもってやっていこうと話しています。

──SNSで興味を持ってもらったら、DSP※(Digital Service Provider)で楽曲を聴いてもらうのが次のアクションだと想定されます。Spotifyではプロフィールなども閲覧できたり、アーティストや所属レーベルが作成したプレイリストも聴けたりしますが、そうしたアプローチも行なっているのでしょうか?

※音楽業界ではデジタル音楽配信事業者を意味する。

そうですね。アルファのアーティストのDSPアカウントは、もっと充実させることができるはずですが、ほかの多くの日本人レガシーアーティストと同様に、まだ、そこまで手が回っていないというのが実情です。

音源はDSP上でリリースされているのですが、そこで聴けるということが世界のリスナーにまだまだ浸透していません。SNS広告を細かく展開していき、DSPへの誘導を行なったり、広告から得られるデータで効果的なマーケティングが行なっていけるようにしたいと考えています。また、レーベルであるSMDRとも連携を取り、世界中で広く聴いてもらえるよう戦略を立てていくつもりです。

なので、まずはアルファのInstagramで興味を持ってもらえるような情報を発信して、プロフィールページのLink in Bio(SNSに訪問したユーザーを詳細な情報がある外部サイトに誘導するリンク)からプレイリストなどの音源に飛んでもらおうと考えています。

アルファミュージックのInstagramより

これも地道な作業ですが、そこから始めて、よく聴かれるようになったらアーティストサイドにご相談して、DSPアカウントも整備していくという道筋を取ることができるようになったら良いなと考えています。

──プレイリストはどのようなものになるのでしょうか。

2021年3月に発売されたアルファミュージック50周年記念ライブの模様を収めた『ALFA MUSIC LIVE-ALFA 50th Anniversary Edition』のセットリストをSpotifyでプレイリスト化したり、アーティストの記念日にベストヒット的なプレイリストを作成するというのは定期的にやっていきたいと考えています。

あとは、カフェやビーチなどシチュエーションに合わせたプレイリストも作ってみたいですし、プロデューサー、コンポーザー、ミュージシャンの切り口でまとめるのも面白いですよね。

2021年3月に逝去した村上“ポンタ”秀一氏を村井邦彦氏のコメントともに追悼した投稿。

日本のシティポップや環境音楽が評価されるきっかけを作ったアメリカ・シアトルに拠点がある音楽レーベルのLight In The Atticや、矢野顕子さん、坂本龍一さんのリイシューを手がけているフランスのWeWantSoundsにもプレイリストを作ってもらえないかとお声がけしようと思っています。

──アルファには細野晴臣さんと高橋幸宏さんが中心となって立ち上げたYENレーベルや、ゲームミュージック専門レーベルのG.M.O.(Game Music Organization)、さらにはファウンダーの村井邦彦さん、ミッキー・カーチスさんたちがアルファの前に立ち上げたマッシュルームといった財産もありますね。

まさに、その辺の掘り起こしも必要だと感じています。実際、そこまでたどり着けていないミュージシャンやリスナーが多くいると思うので、存在を知ったらきっと喜ばれるのではないかと思います。ちなみに、YENレーベルについては、既にアメリカのラジオDJから特集を組みたいという相談もいただいています。

それと、YouTubeチャンネルもどこかのタイミングで立ち上げたいですね。タイニー・デスク・コンサート(アメリカの公共ラジオ放送NPRの音楽部門の事務所で、大物から若手まで、さまざまなアーティストがライブを披露するYouTubeチャンネル)のようなシチュエーションや雰囲気で、アルファの名曲をアーティストにカバーしてもらったり、やってみた動画を企画してみるのも面白そうですよね。

あとは、倉庫にマルチテープも保管されていますので、ソニーが提唱する立体音響技術『360 Reality Audio』を使って、新たなリスニングスタイルに合う音源も提案していけたら……といった具合に、どんどん企画がスタッフ間でも出てくるのですが、やることが多すぎて手が追いついていないというのが現状です(苦笑)。

倉庫に保管されているマルチテープ。

いろいろな展開をさせていただくにはアーティスト、権利者の方々からご理解とご協力いただくということが何よりも大切ですので、アルファのレガシーをきちんとした形で世界に発信していくことから丁寧に進めていきたいと考えています。

──ところで、SMPが引き継いだアルファミュージックの財産というのは、音源以外にもあるのでしょうか。

ありますね。それこそアルファミュージックや各アーティストの未発表の写真が大量に見つかったりもしますが、それらは当然、権利関係をクリアにしてからでないと世に出すことはできません。

未発表の写真も多く発見された。

アルファミュージックがソニーミュージックグループに参画したからといって、そういった過去の財産とも言うべきクリエイティブを、私たちが好き勝手に扱って良いわけではないので、その点は時間がかかっても、しっかり取り組んでいくべきところだと考えています。そして、私たちのSNSの施策が実績を積み重ねたところで、権利をお持ちの方々にもご相談して、皆さんにも見ていただける環境を整えていきたいですね。

音源提供者と使用者のスタンスの変化

──DSPの普及によって、日本の音楽が世界に広まっていくいっぽうで、著作隣接権を明確にして守ってもらう必要性が出てきていると思いますが、その点はいかがですか。

ご指摘の通り、重要なポイントです。日向敏文さんが1986年にリリースしたアルバム、『ひとつぶの海』に収められている「Reflections」という楽曲に、印象的なヴァイオリンのメロディがあるんですが、これがサンプリングされて一気に広まり、Spotifyで「Reflections」を検索するとたくさんのカバーが出てきます。これがすべて許諾を得ているのであれば何の問題もないのですが、残念ながらそうでないものも見受けられます。

今後、サンプリング需要を見越して、音源のステムデータ(楽器ごとのパートのトラック)を公開するアーティストはどんどん増えていくと思われますし、そこから新しい音楽も生まれてくると思いますが、音源の出版管理をしている立場で言わせてもらうと、権利処理はちゃんとしていかなければいけないと考えています。そうすることで、逆に音源開放も進んでいくと思いますので。

──ステムデータを公開して、そこから新しい音楽が生まれていく。1980年代、1990年代前半のサンプリングは許諾を得ていないものが多かったですが、許諾を得た上で使えるとなると創作や表現の幅が広がりそうですよね。MELONの中西俊夫さんがご存命だったらすごく喜ばれそうです。

その通りだと思います。ひょっとしたらご自身でもステムデータを使われて、新しい音楽を作られていたかもしれませんね。

──昨今ではBeatStarsのようなオンライン上でビートを売買するサイトもできましたし、“音源を使ってもらうことが重要”なビジネススタイルが確立されつつあります。

そうですね。それは提供者と使用者の関係性にも変化をもたらしていて、昔なら使用者側が“お願いしている”という状況でしたが、今はサンプリングの対価も払っているし、さらにはその音源を“広めてあげている”という風潮もなかにはあるかもしれません。

権利で囲い込むのではなく、広く使ってもらうことで収益を上げて、新たなビジネスのきっかけになれば良いという考え方が、音楽業界にも浸透しつつあるのだと思います。

DSPが世界で普及したことで、音源が聴かれる機会と回数が増えて収益につながる可能性が拡大しました。いっぽうで著作権を処理するテクノロジーの進化や権利に対する啓発には、もっと取り組まないといけないとも思います。

その意味も含めて、SNSを通じてアルファが今なお注目を集めるレーベルであり、さまざまな取り組みを行なっていることを世界に発信していくのは効果があると考えています。

ロイヤリティを高めるには自らのスタンスを明確にする

──アーティストのSNSの活用法についても伺いたいのですが、海外では公式アカウントとしてスタッフが運営するということはあまり聞きません。

海外では、アーティスト本人が自分のアカウントで投稿を行なっていることがほとんどですね。だから、新譜リリースのアナウンスなどもアーティスト本人がSNSで解禁するまでは、ほかの誰も発信することはできません。

逆に言うと、リリースやライブ、ミュージックビデオなどの公開がないときはSNSでの発信が少なくなってしまうので、自然と音源のリリースが増えてくる傾向も見られます。アルバムをリリースする前に収録曲から7、8曲が公開されるなんていうことも珍しくなくなってきました。それだけトピックを発信することが重視されている表われとも言えます。

──日本ではアルバムのリリース前に公開されるのは2、3曲くらいで、欧米に比べるとかなり少ないですよね。

シングルというスタイルとフィジカルのビジネスモデルが、まだ残っているからではないでしょうか。日本ではリリース前に音源を多く公開してしまうと、アルバムとしての訴求力や魅力が損なわれてしまうと考えられがちなんだと思います。その点、欧米ではフィジカルからストリーミングに転換しているので、そうした考え方は後退しました。

実は、ソニーミュージックのアーティストでは、OKAMOTO'Sがいち早くこの欧米スタイルに取り組み、音源のリリースをつづけているところです。これは、ニューヨークオフィスで一緒に働いているペディ理(タダシ)という担当者が仕掛けているものなんですが、彼がOKAMOTO'Sの音楽を聴いて一発でファンになり、事務所やレーベルと協力して、2021年の1月から毎月リリースを行なっています。OKAMOTO'Sがグローバルで成功できるように、日本のリリーススタイルではなく欧米のスタイルでやっていきましょうと。

OKAMOTO'S

こちらもまだ始まったばかりですが、こういった担当者の熱量がなければ、世界に音楽を発信していくのは難しいというのも事実です。真剣に取り組む人がいなければ、どんな財宝も見つけられずに終わってしまいますので、彼の思いが結実するように、我々もサポートしていきたいと考えています。

OKAMOTO'Sの音楽に惚れ込み、ニューヨークオフィスから精力的に彼らの情報を発信するペディ理。自身もバンド活動を行なっている。

──OKAMOTO’Sではリリース以外に行なっている取り組みはありますか?

SpotifyのPitchを重視しています。Pitchとは音源の詳細をSpotify上で記録することで、公式プレイリストに取り上げられる際の参考資料になっていると言われています。メインジャンル、サブジャンルだけでなく、その曲のスタイルやムード、使用楽器の選択ほか、500字以内の英文で曲解説も記述します。

このPitchの作業は配信される4週間前に行なうのが海外では通常ですが、日本では2週間前くらいなんですよね。OKAMOTO'Sにはそのことも理解してもらって音源のデリバリーを早めてもらいました。

──メディアやSNSへのプロモーションも行ないながら、DSPの特性を理解して公式プレイリストに取り込まれることを狙う。日本ではTVの音楽番組やワイドショウに出演することがプロモーションのプライオリティとして重きを置かれていますが、今後は海外のようにそれがプレイリストに置き変わっていく日が来るかもしれませんね。そうした今後の動きを含めて、海外から見て日本の音楽業界に対して気づきなどがあれば教えてください。

昨今、エンゲージメントの重要性がよく話題に挙がります。アーティストに対してロイヤリティの高いファンをどれだけ獲得できるかというのは、日本でも同じように取り組まれていることだと思います。それでは、ロイヤリティの高いファンはどうやったら獲得できるのかというと、音楽の魅力はもちろんですが、アーティスト自身が自ら声を発するということも大事になってくると思います。

アメリカのSony Musicの担当者たちも、よく「声を持て」と言っています。その「声を持て」というのは、自分のスタンスをはっきりさせるという意味で、自分の考えや意見を自分の言葉でファンに伝えるということなんです。

海外では、アーティストのSNS上での発言が注目を集めますが、それはまさに自分の声を発しているから。社会的な問題に対してだけでなく、自分の考えやスタンスを明確にすることで共感や連帯が得られて、エンゲージメントが高くなっているように感じます。

日本人には日本人の気質や特性があり、SNS上でも空気を読むことが求められます。どちらが良い悪いではありませんし、国や地域によって違いがあることは確かです。でも、もし海外進出を視野に入れているアーティストなら、自分の声をしっかり持って、発信することがファンとのエンゲージメントを高めるひとつの手段であるということは認識したほうが良いと思います。

アルファのSNSでは、そこまで強いメッセージ性のある投稿を行なう予定ではありませんが、アルファにどれだけ素晴らしいアーティストがいて、どんな音楽があるのかを、しっかりアピールしていきたいと考えています。

英語での投稿になりますが、翻訳はSNS上で簡単にできますので、日本の音楽ファンの皆さんもぜひチェックしてみてください。

 

文・取材:油納将志
撮影:干川 修

関連サイト

ソニー・ミュージックパブリッシング公式サイト
https://smpj.jp/
 
アルファミュージック公式Instagram(英語)
https://www.instagram.com/alfamusic1969/
 
アルファミュージック公式Facebook(英語)
https://www.facebook.com/alfamusic1969

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