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連載Cocotame Series

海外エンタメビジネス最前線

世界で絶賛された中国アニメ『魔道祖師』の魅力とは? 日本版を実現させたプロデューサーに聞く【前編】

2021.07.27

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“楽しむ”ことは国境を越え、文化を超え、言語を超える。グローバルに注目を集めるエンタテインメントビジネスを手掛ける人々にスポットを当てる「海外エンタメビジネス最前線」。

中国でアニメ化、実写ドラマ化が行なわれ、大きな注目を集めているファンタジー作品『魔道祖師』。架空の古代中国を舞台にした時代劇でありながら、キャラクター同士のドラマチックな関係が話題となり、現在もなお、作品の世界は広がりつづけている。

本作のアニメ日本語吹替版(以下、日本版)が、2021年に放送、配信され、こちらも大きな話題を集めた。そして、その日本版の制作には、ソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)とアニプレックス(以下、ANX)のふたりのプロデューサーが関わっている。『魔道祖師』の魅力にどっぷりとハマり、愛情をもって日本版を手掛けた彼女たちに、その思いを存分に語ってもらった。

前編では、『魔道祖師』との出会いと、SMS、ANXの2社で日本版を制作することになった経緯を聞いた。

  • 黒﨑静佳

    Kurosaki Shizuka

    アニプレックス

  • 時墨悠希舞

    Yukizumi Yukimai

    ソニー・ミュージックソリューションズ

『魔道祖師』とは?

 
『魔道祖師』は中国の作家・墨香銅臭(モーシャントンシウ)が2015年に発表した小説。中国のオンライン小説サイト「晋江文学城」で連載し、ラジオドラマ、アニメ、実写ドラマ『陳情令』などのメディアミックスを展開した。物語の舞台は仙術を使う者が妖魔を退治する架空の古代中国。夷陵老祖(いりょうろうそ)と呼ばれていた魏無羨(ウェイ・ウーシエン)が討たれて13年。呪術によって蘇った魏無羨は、かつての友である藍忘機(ラン・ワンジー)と再会する。なぜ魏無羨は蘇ることになったのか。彼らの物語が紐解かれていく。アニメ版は中国で配信が始まってからわずか3日で視聴回数4,000万回を突破。日本においても日本語吹替版が2021年にTVアニメとして放送、主要な動画配信サービスで配信されている。Blu-ray BOX全2巻(前塵編、羨雲編)が発売中。

中国のファンの熱を受けて取り組んだ日本版

――『魔道祖師』は中国で小説が人気を集め、同名ラジオドラマ、同名アニメ版、ドラマ版『陳情令』が作られるといった、メディアミックスを展開している作品です。おふたりが『魔道祖師』と出会ったのは、いつごろでしたか。

黒﨑:2019年にプライベートで中国にフィギュアスケートの大会を見に行ったんですね。そのときに中国のアイスダンスのペア(シーユエ・ワン&シンユー・リウ)がエキシビションで、『陳情令』の衣装と音楽でパフォーマンスを披露したんです。そしたら会場の反応が熱狂的で(笑)。アニメやマンガに親和性の高い20代ぐらいの女性たちが本当に喜んでいる姿を見て、「彼女たちをこれほど夢中にさせるこの作品は何だろう?」と思ったのが最初の出会いです。

夷陵老祖と呼ばれる主人公・魏無羨(ウェイ・ウーシエン)。

礼節を重んじる主人公・藍忘機(ラン・ワンジー)。

調べてみたら、原作の小説がネットで連載されていたことがすぐにわかりました。既にアニメやドラマ化もされていたので、まずはアニメを見て、そのあとドラマも見ています。この時点で、私も作品の熱烈なファンになっていましたね(笑)。当時は、毎日のように夜を徹して、映像を見たり、原作小説を読んだりしていました。日本語ではないタイトルにここまでハマったのは初めてでしたね。

時墨:私は原作小説がネットで連載をしていたころに出会い、そのときからずっとハマっています。小説は、2015年10月から連載がスタートしているんですけど、私が読み始めたのは連載が始まって1カ月ぐらいしてからだったと思います。読み終わったときには壮大な物語とキャラクター同士の関係性に大きく感動しました。当時はまだメディアミックスの展開がされていない時期でしたが、同人のイラストや小説が早くも盛り上がっていましたね。

それまでも同ジャンルの作品はサブカルチャーのひとつとして人気を集めていたのですが、主役ふたりの関係を中心に描かれている作品が多かったんです。でも、『魔道祖師』は主人公キャラクターの魏無羨(ウェイ・ウーシエン)、藍忘機(ラン・ワンジー)が魅力的なだけでなく、周りのキャラクターも個性的で。善人、悪人とひと言で括れない魅力がそれぞれにありました。

――中国では『魔道祖師』のような作品性のジャンルが大きな注目を集めているようですが、おふたりはその状況をどのようにご覧になっていますか。

黒﨑:エンタメとしても、ビジネスとしても、大きな可能性を感じましたね。日本国内でも『魔道祖師』と同様の作品性を持つものが多数ありますが、最近ではライトなものや直観的でわかりやすい作品、キャラクターが人気を集めることが多いんですね。

でも、現在のアジア圏では『魔道祖師』のような群像劇でありながら、テーマとプロットがしっかりと作り込まれた骨太な作品が人気を集めている。アニメビジネスをやっている立場の人間から見ても、とても興味深い状況だと思っています。

時墨:ブロマンス仕立てで作られた映像作品は、もともと原作の段階で中国では同人活動が主流にあったので、ジャンルとして成熟しているわけではないんです。でも、本当に熱いファンが付いているジャンルでもあって、5年ぐらい前から作者の許諾を得てコミュニティ感覚で制作されていたラジオドラマの商業化が展開されるようになってきました。

ここにきて多くの映像制作会社が、人気作品を映像化しようと動き始めているので、まだまだこれから広がっていくジャンルなのではないかと思っています。

世界に広がる“ドンホワ”ブランドの可能性

──中国のアニメ作品についてはどんな印象をお持ちでしたか?

黒﨑:『魔道祖師』には驚かされました。中国のアニメは日本のアニメ制作の技術やノウハウを取り入れながらも、日本のアニメとは異なる文法で作品が作られているということを感じました。

例えば、背景の書き込みもリアリティのあるタッチで、実写的なレイアウト(構図)になっている作品が多いんですね。中国はアニメよりもゲーム市場のほうが先に発展していて、3DCGの技術がベースにあるからなのかもしれませんが、立体的に空間を捉えた作品が多い印象があります。

時墨:アニメ版の『魔道祖師』を見たときは、前例のない作品だと感じました。「ついに中国でも、これだけのクオリティのアニメが立ち上がった」と、現地のファンのみんなも言っていましたね。

黒﨑:それと、最近面白いなと思っているのは“ドンホワ(动画/dòng huà)”という言葉が世界中のアニメファンのなかで定着しつつあるということです。

時墨:“ドンホワ”つまり中国語で動画、アニメということですね。

黒﨑:日本のアニメ作品は、海外では“アニメーション(Animation)”ではなく“アニメ(Anime)”と呼ばれています。それと同じように、特に北米では最近の中国アニメ作品を“ドンホワ”と呼ぶようになっています。“アニメ”と同じく、“ドンホワ”がひとつのジャンルとして認識され始めているんですね。

時墨:その知識をツイッターで布教していた海外ファンもいましたね。中国のアニメは、既にいろいろな国で受け入れられています。「MyAnimeList.net」というアメリカのランキングサイトでは、『魔道祖師』も上位にランクインするようになっていたり。これまで中国アニメはなかなか上位ランクインしなかったので、これは快挙と言えます。

また、同人界隈でもよく使われているマイクロブログサービス「Tumblr」の2020年世界ドラマランキングでは『陳情令』が9位を獲得しました。配信開始から1年が経過しているなかで、初ランクインの36位から大きく順位を上げる。こういった状況を見ても、『魔道祖師』は世界各国で共感を得られる作品で、長く支持されているのではないかと思います。

SMSとANXが同時に動き出した日本版へのアプローチ

――『魔道祖師』を日本版として展開することになったのは、どういった経緯だったのでしょうか。

時墨:当時、私はドラマ版『陳情令』の日本でのローカライズプロデューサーとして、プロジェクトに取り組んでいました。日本での放送も決まって、プロモーションも始めるにあたり、作品のさらなるシナジーを生むために、アニメ版『魔道祖師』の日本での放送、配信の権利も取得するべきだと考えたんです。その契約が締結したすぐ後に、ANXの黒﨑さんたちからご連絡をいただきました。

黒﨑:当時、時墨さんたちはソニーミュージックグループのソラシア・エンタテインメント(以下、SLE、2020年4月にSMSと合併)で、アジアの映像コンテンツを日本で展開するビジネスを行なっていたんですよね。

そのころ、私は単純に『魔道祖師』にハマって、アニメ版を「ローカライズしたい!」と思ったんですね。そこで上司に「『魔道祖師』をローカライズしたいんですけど、権利を取得することはできませんか?」とわりとカジュアルに相談して。そうしたら「その実写ドラマ版をSLEがやってるらしいよ」と教えてくれたんです。そのときは「ソニーミュージックグループで良かった!」と、本当に思いました(笑)。初めてお会いしたのは、ちょうど最初の緊急事態宣言の前でしたよね。

時墨:そうですね。それまでアニメを日本で展開した経験が、私たちにはなかったのと、アニメのビジネス展開に関しては、ANXが圧倒的な知見を持っているので、ぜひ一緒に取り組んでグループのシナジーを最大化しましょうという話になりました。

黒﨑:ANXは基本的に、すべての部署が新しいものにチャレンジすることに積極的ですし、各セクションの人たちが作品の内容も見て、勉強してくれて。「面白いし、新しい試みだからやってみよう」と後押しをしてくれました。それもあってプロジェクトをスムーズに進めることができましたね。

――SMSとANXの共同制作において、おふたりの役割分担はどのようにされていたのでしょうか。

黒﨑:中国の権利元との交渉や監修は時墨さんにお願いして、宣伝やプロデュースをANXが担当しています。具体的には、従来のアニメ作品のようにターゲットを定めて、プロモーションをしていくこと、放送用の映像やパッケージ制作などのトータルなコーディネイトを行なっています。

時墨:宣伝物や制作物……日本版のビジュアルやPV、台本から現場のアフレコの監修にも全部入らせていただいています。ファンが多い作品ですから、皆さんの期待を裏切らないように、センシティブな作業も丁寧に取り組みました。中国特有の表現、文言の使い方、また記事などの媒体露出で内容の食い違いがないよう細かく監修しています。

黒﨑:ANXはアニメ制作においては経験豊富ですが、中国のネイティブな表現や作法についてはまったくの素人なので時墨さんたちとチームを組めて良かったです。ソニーミュージックグループのなかで、それぞれの会社、セクションが特化している部分を上手く組み合わせる複合的なプロジェクトになったと思います。

ファンだから守りたかった原作へのリスペクト

――『魔道祖師』の日本版を制作するにあたって、どんなところに注意をはらって、ローカライズをされたのでしょうか。

黒﨑:『魔道祖師』はアニメ作品としてのクオリティは素晴らしいのですが、表情やシルエットが似ているキャラクターがいて、初見の方にはキャラクターがわかりにくいと思ったんです。そこで日本語版のセリフの語尾や言い回し、一人称などでキャラ付けをするようにしました。記号化することでキャラクターやストーリーがわかりやすくなるだろうと考えたんです。

それから中国語のセリフをそのまま日本語に翻訳すると、どうしても言語の違いから不自然になったり、オウム返しのように聴こえてしまったりする会話もあったので、そういったところは日本語用の台本を作る際に、微調整しています。

アニメ版の日本語翻訳を担当してくださったのは、『陳情令』の字幕翻訳をしてくださった翻訳者の本多由枝さんで、1度翻訳していただいたものを時墨さんにもチェックしてもらって、我々の意見も加えていきながら調整させてもらいました。

時墨:アニメ作品ならではの見せ方については、ANXが豊富な経験を持っているので、黒﨑さんの意見を取り入れつつ、原音から違和感のないようにニュアンスを整えていきました。

私がこの作品で最初に翻訳監修に関わったのはドラマ版の『陳情令』からだったのですが、地名などの固有名詞は日本語読みにして親しみやすいようにしながら、キャラクターの名前を中国語読みにしたんですね。家名(一族の名前)は地名と苗字が混ざっているので、ひらがなとカタカナのルビを振って分けるようにしました。そういうルールは『陳情令』で本多さんに相談して決めていたので、アニメでもそのルールを適用しています。

――家名は姑蘇藍氏、呼び方は“こそランし”と日本語読みと中国語読みが混ざっていて、魏無羨の読みは“ウェイ・ウーシエン”と中国語読みになっているわけですね。

時墨:日本のファンでも、中国語の原音でキャラクター名を覚えている人が多いんですね。欧米のファンもキャラクターの名前をピンイン読み(中国語をアルファベット表記したもの)をされている方も多い。

日本で中国のドラマやアニメを初めて見る方は、名前や漢字を自然と日本語読みをされる方も多いとは思うのですが、国際的な統一感があるほうがキャラクターのアイデンティティも尊重できるだろうと思いました。

黒﨑:名前の読み方については、時墨さんたちと初めて会ったときに話題になりましたね。その場にいた上長たちは「名前は日本語読みにしたほうが良いんじゃないか?」という意見だったんです。

でも、私は『魔道祖師』の原作小説を読んでいたし、中国語読みであることが重要な伏線にもなっているキャラクターがいることを知っていたので、「いやいや、中国語読みでしょう」と譲らなかったんです。そうしたら時墨さんが「そうそう、わかる!」と同意してくれて。それが私たちふたりの意思が通じた瞬間でした。

時墨:黒﨑さんがそう言ってくれたので、私から詳しく説明する手間が省けました(笑)。作品のことをちゃんとわかってらっしゃることも伝わってきて、一緒に作品を展開していくことに安心感を覚えましたね。

黒﨑:ドラマ『陳情令』だと、主人公ふたりがお互いの名前を呼ぶシーンがすごく印象的に使われていて、ドラマを見て既に音でインプットされているファンも多いと思うんです。

時墨:そうですね。それと、私が中国のドラマのローカライズに関わるときに、翻訳者の方からよく言われることが「ひとりの人物に対しては、ひとつの呼び方で統一した方が良い」ということなんです。もちろんそのほうがキャラクターを認識しやすくなるんですが、『陳情令』と『魔道祖師』はひとりのキャラクターでもそれぞれ意味のある呼び方が複数あるので……。

黒﨑:名、字(あざな)、号(通り名)と3つですね(笑)。

時墨:今回は、そこも全部残すようにしました。

――主人公の魏無羨(ウェイ・ウーシエン)は、名で呼ばれるときは魏嬰(ウェイ・イン)、家族や親しい間柄の人からは阿羨(アーシェン)とも呼ばれています。

黒﨑:ひとりのキャラクターに対して呼び方が全部違うのはやはり混乱するところで、私も最初はすごく混乱しました。

時墨:そうですね(笑)。特に日本の方だと、例え日本語読みにしたとしても、登場人物が多い作品ですし、最初は誰もが苦労するところかと思います。でも、中国の古風作品では、当たり前の言い回しなんです。

黒﨑:歴史もののお作法なんですよね。

時墨:『三国志』でも諸葛孔明とか諸葛亮とか、言い方がいろいろありますよね。それと同じことです。

黒﨑:今回、日本版の声優さんも最初は「誰が誰だかわからない」とおっしゃっていたんですけど、木村良平さん(魏無羨役)が「最初は混乱したけれど、慣れるとその呼び方だけで、キャラクター同士の距離感や立場がわかるから便利だよね」とおっしゃっていて、確かにそうだなと思いました。

――おふたりが作品のファンだったからこそ、すぐに通じ合えたし、ローカライズの方向性も一致したんですね。

黒﨑:ローカライズの難しさはやはりあります。どうしても変えなくてはいけないところが出たときに、元の言語で作品を見ていた方には「なんで変えてるんだ」と感じてしまうこともあると思うんです。

でも、時墨さんも私も原作の大ファンなんです。原作への愛情を込めてローカライズをしているので、それがファンの方たちに届いたらうれしいですね。少なくとも、最初の打ち合わせで「上長たちが言ったから、日本語読みにしよう」と考えなくて良かったなと思っています(笑)。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

©2020 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

関連サイト

アニメ『魔道祖師』公式サイト
https://mdzs.jp/anime/(新しいタブで開く)
 
アニメ『魔道祖師』公式 Twitter
https://twitter.com/mdzsjp(新しいタブで開く)
 
ドラマ『陳情令』公式サイト
https://mdzs.jp/drama/(新しいタブで開く)
 
ドラマ『陳情令』公式Twitter
https://twitter.com/TheUntamedJP(新しいタブで開く)

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