『LINE MUSIC』でカラオケを実現させた「音源分離技術」は過去と現在の音をつなぐ夢の技術だった【前編】
2020.12.01
ソニー・ミュージックエンタテインメント 他
聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。連載企画「音楽ビジネスの未来」では、その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探っていく。
ストレスの多い日常のなかで、チルアウト(安らぎ、くつろぐこと)することの重要性が増している。今回は今年3月からYouTubeで24時間365日、チルアウトミュージックを全世界にライブ配信しているチャンネル『Tokyo LosT Tracks -サクラチル-(以下、サクラチル)』に注目。心地良いサウンドとループするアニメーションが織りなす独特の世界観。日常生活に溶け込むこの新しい音楽サービスが作り出すコミュニティの可能性に迫る。
後編では、ソニー・ミュージックレーベルズ(以下、SML)でチャンネルの企画を担当する渡辺タスクと、望月俊輔のふたりに、サービスを始めて気づいた音楽コミュニティの可能性と、ブランドの今後の構想についてを聞いた。
目次
渡辺タスク
Watanabe Task
ソニー・ミュージックレーベルズ
望月俊輔
Mochizuki Shunsuke
ソニー・ミュージックレーベルズ
――3月21日に『サクラチル』はローンチしましたが、その直後にコロナ禍が大きくなりました。前回、プロモーション戦略で変更を余儀なくされたとお話されていましたが、他に影響を受けたことはありますか?
渡辺:コロナ禍で人々が家にいる、いわゆるステイ・ホームの時間が増えたことで、YouTubeの視聴が増えたということはあるかもしれませんが、『サクラチル』としてはコンセプトのひとつである“ディストピアの世界観”に現実が近づいてしまったような気がして、何とも言えない気持ちになりました。もちろん音楽もイラストもそれを直接的に表現しているわけではないんですが、現実社会の空気感がチャットのコミュニティにも連動しているような気がしたんです。
『サクラチル』の映像のなかに出ている女の子が、部屋でハンダ付けをしている姿が在宅で仕事をしている自分の姿にリンクしているような、ちょっと変な感じがありましたね。
望月:家から出られない日々が続きましたからね。でも、面白い出会いもあって、『サクラチル』をアウトドアのメディアの方が注目してくださって、紹介記事を掲載していただきました。ステイ・ホーム時間が長くなるなか、家で聴く音楽として最適だと。個人的な考えとして、アウトドアで焚火をしているときに、チルアウトミュージックはすごく合うなと思っていたので、わかってもらえたなと(笑)。
渡辺:あとはまるで出勤報告のように「おはようございます」とチャットであいさつをしてくれる方もいたね。
望月:いましたね。まるで日記を付けるように「今日は雨ですね」とか書いてくださる方もいて。コロナ禍ではあったんですけど、『サクラチル』がユーザーの方々の生活と一体になったコミュニティスペースになってるんだなと実感しました。
渡辺:『サクラチル』は日本だけでなく、海外のユーザーも多いので、いろいろな言語がチャットに出てくるんですよ。ただ、まだまだ言語の壁があるのが残念ですね。
望月:時差のため、時間帯によってスペイン語が多かったり、英語が多かったりしますしね。違う言語の人たちが一体になって盛り上がるみたいな瞬間はまだ観れてないので、そこはAIなどによって、言葉の壁がなくなってくれたら良いなと思います。
lofi beats 24/7,Tokyo LosT Tracks -サクラチル- ,chill,relax,study to,radio,
――海外の反響についても伺いたいです。海外のユーザーに届いたという感覚があったのはいつごろからでしょうか。
渡辺:7月4日、5日にかけて、ソニーミュージックグループのアニプレックスが主催した海外向けのオンライン配信イベント「Aniplex Online Fest(以下、AOF)」がありましたが、そのときにお声がけいただいて、あまり告知もしないまま『サクラチル』としてDJパフォーマンスで参加したんです。
イベントの配信中は、海外の視聴者から「What's this?」みたいな反応が多かったのですが、そこから検索して、チャンネルにたどり着いてくれたようで。そのころから時間帯によってポツポツと英語、ロシア語、ヘブライ語のチャットが増えるようになりました。
最新のアナリティクスでは海外からのアクセスが5割程度まで増えていて、これには自分たちも驚いています。地域的なことで言うと、やっぱりアメリカのユーザーが多いですね。「AOF」がひとつのきっかけになった印象があります。
『サクラチル』YouTubeチャンネルのチャット欄では時間帯によってさまざまな言語で会話が繰り広げられている。
――海外ユーザーはどんなリアクションをされますか?
渡辺:海外のユーザーは、インターネット上でもサブミット(投稿)文化が強いんですね。僕らのチャンネルの問い合わせ欄やSNS、Discordに「俺の作ったチル曲を聴いてくれ」ってMP3ファイルの楽曲を送ってくれたり、イラストを送ってくれる方もいます。
我々が『サクラチル』をメディアとして扱う以上、こういったアクションもしっかりキャッチしていかないといけないなと思うし、それをコンテンツ化するところまで持っていければもっと面白くなると思うのですが、特にインターネット上では権利関係が複雑化するので……。海外の方からのそうしたアクションはありがたいことと感じていますし、個人的にもうれしいんですが、なかなか反応することができずにいるのが現状ですね。
望月:ユーザーの反響という意味では、チャットの書き込みも面白いですよね。
渡辺:ポエムをずっとつぶやいている人がいたり、ほかの“Lo-fi Hip Hop”チャンネルで出会ったふたりが、『サクラチル』に場所を変えて恋愛チャットしていたこともありました。
望月:ありましたねえ!(笑)。匿名なのでその方たちの素性は一切わからないんですけど、カップルが『サクラチル』で夜中にチャットデートをしていて、僕らがそれをずーっと見ているっていう。
渡辺:あれは夜のクラブめぐりのような感覚なのかな。出会ったふたりが、ちょっと静かな店に行かない? みたいな(笑)。ちなみに僕は『サクラチル』のチャットで女の子に振られている人を見たことがあります!
望月:そういうことが多いんですよね。匿名だから、包み隠さず、自分の思いを吐露している。悲しいとか、愛してたのに……とか。そんな落ち込んでいる彼をコミュニティにいる人たちで慰めたりして。
渡辺:僕らはそういうユーザーの方も温かく見守っています。
望月:海外のユーザーはきっとこういうコミュニティを使い慣れているんでしょうね。日本語ではまだこういうケースは見たことがないので、これからが楽しみです。
kensuke ushio - parkside in bloom
――運営についても伺います。24時間365日ライブ配信を続けるには、どんな体制を敷かれているのでしょうか。
渡辺:スタッフの規模的には、かなり小規模ですね。また、24時間配信を続けるシステムを組んでいるので、システム側を常時監視しているわけではありません。ただ、先ほどの話の通り、チャットのコミュニティではちょくちょく面白いことが起きるので、それは可能な限り見るようにしていますが(笑)。あとは、単純にいちユーザーとしてチルアウトミュージックを聴きながら仕事してます。
望月:自分もずっと聴いていますね。あとは夜眠れないときは、聴きながらチャットを見るのが日課になりつつあります。
――『サクラチル』は、楽曲制作でAIの技術を活用しているとも伺いました。
渡辺:ソニーコンピュータサイエンス研究所が開発したAIアシスト楽曲制作プロジェクト「Flow Machines」を使っています。もともとチルアウトミュージックはAメロ、Bメロ、サビといった音楽構成ではなく、歌もないので、AIによる作曲とすごく相性が良かったんです。
望月:ヒップホップカルチャーはサンプリング文化がベースにあると思うんですけど、「Flow Machines」が作った音の素材をトラックメーカーが音楽として制作していくという流れは未来的でもあり、『サクラチル』のプロジェクトとの相性も良いなと感じました。
渡辺:その関係で、ソニーのオンラインショウル―ムのBGMに使いたいという依頼もいただいたり。これからも連携して、広がりを作っていければと考えています。
――今後『サクラチル』をどのように発展させていきたいと考えていらっしゃいますか。
渡辺:『サクラチル』では世界観を作り込むことができたので、ここから横軸にも展開していければと考えています。例えば別のメディア、アニメやマンガ、小説も良いと思うのですが、キャラクターを増やしたり、この世界観のストーリーを紡いでいくことができればと考えています。
このチャンネルをベースにチルアウトミュージックや“Lo-Fi”の世界を、違うメディアにつなげていきたいですね。実際、既に小説の企画は進んでいるので、来るべきところで皆さんにお披露目できればと考えています。
望月:横軸展開ということなら、そのアウトプットの場をラップや歌詞にして、言葉を使って表現することにもチャレンジしてみたいですね。言語、タイミング、どんなアーティストなのか、構想はまだこれからですが、『サクラチル』が制約なくいろいろなトライができる場になれば良いなと思います。
渡辺:それにはコミュニティ自体をもっともっと大きくしなければいけないですね。言語の壁は同時翻訳のチャットが導入されれば一番良いと思います。
望月:『サクラチル』の世界観に触発されているのかもしれないですが、チャットでそれぞれの死生観が語られたりすることがあるんです。「for what purpose」とか「meaning of life」と。そういうチャットを見ていると、世界中の誰かのメンタルへルスに役立つコンテンツを作っているんだなと実感します。今後もアーティストやクリエイターの方々と一緒に、世界中の人にチルアウトミュージックを届けていきたいです。
渡辺:あとは……先ほどもお話ししましたが、ゆくゆくはユーザーが作ってくれたイラストや動画、音楽をうまく『サクラチル』に組み込めるような流れを作りたいですね。『サクラチル』は極端な話、僕らがいなくなっても回り続けるような場所にしていきたいんです。
Kabanagu - faulty
Nami Sato - KAERU
Tokyo LosT Tracks -サクラチル-
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