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連載Cocotame Series

ヒットの裏方

「Creepy Nutsがやりたいこと」を実現させる――2020年の大躍進の裏でマネージャーが描いたロードマップ【前編】

2021.01.19

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ヒットした作品、ブレイクするアーティスト。その裏では、さまざまな人がそれぞれのやり方で導き、支えている。この連載では、そんな“裏方”に焦点を当て、どのように作品やアーティストと向き合ってきたのかを浮き彫りにする。

今回話を聞くのは、2020年にメディアへの露出が激増し、初の日本武道館公演も成功させたCreepy Nutsのマネージャー/A&R(アーティストの発掘、育成、楽曲制作など、幅広く担当する音楽業界特有の職種)、森重孝。メジャーデビュー前からともに歩んできた担当者の、アーティストとの向き合い方とは。

前編では、2020年11月に行なわれた初の日本武道館公演の舞台裏から遡って、Creepy Nutsとの出会い、そして実際に手掛けるようになるまでを語る。

  • 森 重孝

    Mori Shigetaka

    ソニー・ミュージックエンタテインメント
    次世代ロック研究開発室

Creepy Nuts (クリーピーナッツ)

(写真左から)R-指定/大阪府出身。MC、ラッパー。中学2年のときにリリックを書き始め、高校2年でフリースタイルラップでバトルやライブ活動を開始する。2012~2014年、日本最高峰のMCバトル『ULTIMATE MC BATTLE』の全国大会『UMB GRAND CHAMPIONSHIP』で3連覇する。DJ松永/新潟県出身。DJ、トラックメイカー、ターンテーブリスト。2019年、世界最大のDJ競技会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019』で優勝。

2017年、シングル『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。』でメジャーデビュー。最新ミニアルバム『かつて天才だった俺たちへ』発売中。2021年1月9日から、『Creepy Nuts One Man Tour「かつて天才だった俺たちへ」』がスタートした。

日本武道館公演は瞬発力で決めた

――森さんが担当されているCreepy Nutsの初の日本武道館公演『Creepy Nuts One Man Live 「かつて天才だった俺たちへ」』は、2020年11月11日、12日の2日間で行なわれ、大盛況でした。

日本武道館公演『Creepy Nuts One Man Live 「かつて天才だった俺たちへ」』より  Photo by @kouhey0622/Retouched by @hiroyabrian

コロナ禍という状況もあり、ライブ当日はもちろん、終わってから2週間は気が抜けなかったんですが、クラスターが発生するといったことはなかったので、一安心という感じでした。

――ライブの開催を決めたのはいつごろですか?

日本武道館の会場抽選は1年前から始まるので、2019年の秋ぐらいですね。武道館は、Creepy Nutsのふたりとスタッフ側との間で、ひとつの目標地点という共通認識はあったんですが、これからの活動のロードマップを考えた上で「2020年の11月に武道館をやる」と決めたというよりは、ふたりからの「武道館でやってみたい」というアイデアをもとに瞬発力で決めた部分はありますね。

R-指定  Photo by @kouhey0622/Retouched by @hiroyabrian

DJ松永  Photo by @kouhey0622/Retouched by @hiroyabrian

――Creepy Nutsは2020年にメディア露出が非常に増えましたが、それは日本武道館公演の布石というわけではなかった?

そうですね。そういった露出も含めて多くの人にCreepy Nutsの存在が知れ渡ったことによって、多くの人に観ていただけたというのはあるんですが、根本的な活動の流れやライブ構成は以前から何も変わっていないので。武道館公演というのは人によっていろんな考え方や捉え方があると思うんですが、Creepy Nutsの場合は、格好つけたり、虚勢を張ったりするのではなく、そのままの人間性を出して……というか、“出てしまう”彼らのスタンスは変わらなかったし、それは出会ったときから変わってないところでもありますね。

――今までいろんなヒップホップ・アーティストが日本武道館に立ちましたが、Creepy Nutsの武道館公演は大掛かりな舞台装置や特効もなく、大型ビジョンもほぼふたりの姿を映すだけという、非常にシンプルな形でした。あの構成はどのように決まったんですか?

Photo by @orz_____rio/Retouched by @hiroyabrian

基本的にはふたりのアイデアですね。僕らスタッフとしてもシンプルに見せたい、シンプルでも格好良くなるという勝算はあったので、それが擦りあったのが今回の舞台演出でした。

これは僕だけの意見かもしれないんですが、彼らはラジオをやることで新たなリスナー層を開拓したと思うし、最近はバラエティ番組などにも出ているけど、逆にこの武道館という場は、音楽に集中したライブにしたかった。もっと言えば、音楽以外の演出は今のふたりの武道館には似合わないんじゃないかなって。だからあれくらいシンプルな構成で良いと思ったんです。

――つまり、あえてシンプルなライブを見せることでこそ、成り立つものがあるという信頼があった?

そうですね。もしかしたら大写しするビジョンすら必要なかったかもなって思います。

――ふたりの衣装もシンプルでしたね。特にR-指定さんは、普段目にしているのと変わらない真っ黒の上下という。

Photo by @umihayato/Retouched by @hiroyabrian

あれも一応新調してるんですけど、スタイリストさんじゃなくて僕が買ってきた服ですから(笑)。

――DJ松永さんは両日ともライブ終了後に号泣していたとのことですが、森さんはいかがでしたか?

いや~、まったく(笑)。

Photo by @umihayato/Retouched by @hiroyabrian

――「まったく」というのもどうなんでしょう(笑)。

正直、個人的には2018年に初めてCLUB CITTA’でワンマンができたときのほうが胸に迫るものがありました。僕らからすると、ヒップホップの聖地である“チッタ”でワンマンができるというのは称号ですよね。1音目が鳴った瞬間のお客さんの反応を鮮明に覚えてます。

ただ、武道館公演を観たお客さんからは泣けたっていう声もいただきましたし、(DJ)松永が泣いたように、武道館で泣けるライブができたというのは本当に良かったですね。でも僕としては、当日もほとんど本人たちに会えないぐらい、普段のライブよりやることが10倍ぐらいあったし、終わってもまだまだ仕事があり、新型コロナウイルスの問題もあったので、感動に浸ってる暇もなかった(笑)。それに、ふたりも僕らも、武道館は通過点だと思っているというのもありますね。

Photo by @umihayato/Retouched by @hiroyabrian

レコード会社のなかでもヒップホップ好きは希少

――Creepy Nutsのふたりに出会ったときへと話を遡っていきたいのですが、その前に森さん自身が音楽業界に入られたきっかけを伺います。もともとヒップホップには興味があったんですか?

そうですね。中高一貫の学校に通ってたんですが、半分インターナショナルスクールのような学校で、高校のころはアメリカに留学しまして。そういった環境だったので、自然にヒップホップに出会いましたね。ソニーミュージックへは新卒で入社しました。もともと活字中毒だったので出版社希望だったんですが、出版不況もあってうまくいかなくて。それで最後に受けたのがソニーミュージックだったんです。業界的にスーツ着なくていいし、モテそうだなって(笑)。それが2006年でした。

――入社してからの配属は?

まず当時のキューンレコードに配属になって、プロモーターとして働き始めました。ただ、正直たいして調べてもいなかったので、入ってから、「え! RHYMESTERやPUSHIMがいるの!?」って(笑)。(※RHYMESTERは現・CONNECTONE、PUSHIMは現・徳間ジャパンコミュニケーションズ)

――NeOSITEレーベルがあった時代ですね。

シングル『I Say Yeah!』(2006年/PUSHIM、RHYMESTER、HOME MADE 家族、マボロシ、May J.)を出した時期でしたね。だから楽しそうなところに来たなって。

シングル『I Say Yeah!』(2006年)

それでRHYMESTERの武道館公演や『メイドインジャパン〜THE BEST OF RHYMESTER〜』『ベストバウト 〜16 ROUNDS FEATURING RHYMESTER〜」(ともに2007年)のプロモーションの手伝いをするようになって。RHYMESTERは一時活動休止するんですが、その活動再開後にリリースされた『POP LIFE』(2011年)からは、A&Rとして制作に関わるようになりました。ヒップホップが好きな人って、レコード会社のなかでも実はそこまで多くはないから先輩A&Rから声を掛けてもらって。

アルバム『POP LIFE』(2011年)

ただRHYMESTERは大好きなグループだったし、あこがれもあったので、それが仕事をする上でネックになってしまう部分もありましたね。僕もまだ駆け出しで若かったんで、一本気で押し切ろうとして、メンバーからロジックで論破されたり(笑)。

それと『POP LIFE』はリリースの直後に東日本大震災が起こってしまったので、プロモーションがすごく難しかった記憶があります。東日本でのプロモーションはもちろんできないし、西日本で決まってるプロモーションは果たしてやるべきなのか、とか。当時からメンバーの宇多丸さんがやってたラジオ番組『ウィークエンド・シャッフル』もそうでしたね。震災翌日の放送の現場に立ち会ったんですが、何をするべきなのか、何をしゃべるべきなのかをみんな悩んだし、そこでの宇多丸さんの「人間なめんな!」っていう第一声は素晴らしいメッセージとして印象深いですね。

――A&Rとしてほかに手掛けたアーティストは?

同時期に担当していたのは、ゴスペラーズ、FLOW、 NICO Touches the Wallsでした。 みんなジャンルの違うグループでしたが、全員男っていう(笑)。ゴスペラーズのように昔からリスナーとして楽曲を聴いていたグループ、最初に僕の名前をアルバムのクレジットに載せてくれたFLOW、一緒にいろんな活動を作り上げていった印象があるNICO……四者四様の関わり方と大変さ、楽しさがありましたね。

ふたりが腹を割って話してくれたことが大きかった

Creepy Nuts(2019年)

――Creepy Nutsとはどんな形で出会ったんですか?

キューンレコードのあとにいくつかの部署を経験して、そこから今の「次世代ロック研究開発室」に配属になったんですが、配属後に初めてライブを観たアーティストがCreepy Nutsだったんです。渋谷のO-WESTで対バンイベント(2016年4月11日「DISK GARAGE presents 震撼コンパ」出演:Creepy Nuts/lyrical school/Y.I.M)があって、『ULTIMATE MC BATTLE』で3連覇して、テレビの『フリースタイルダンジョン』でもモンスターを務めてる子のグループが出るっていうので観に行ったんです。新人開発の部署に入ったので、新人をチェックしないと会社から怒られるかなっていう(笑)、最初はそれぐらい軽い感じでしたね。

そのイベントは、ヒップホップのお客さんよりもロック系のお客さんのほうが多い印象でした。だからCreepy Nutsのことも、ほかのヒップホップ・アーティストとはちょっと違う部分でウケてるのかな、と感じました。短いライブだったんでそこで全体像は掴めなかったですが、これからもライブを観ることになるんだろうなという予感はなんとなくありましたね。ただ、そのときは当時のマネージャーとも、本人たちとも挨拶はしませんでした。

――では、実際にコンタクトを取ったのは?

営業の引き継ぎ仕事で静岡に行く用事があったんですが、ただ行って帰るだけというのもつまらないので、その日に静岡でやっているイベントを探したら、ちょうどCreepy Nutsのクラブイベントがあったんですよ。それで観に行ったら、クラブの人が彼らを紹介してくれたので名刺を渡したんですよね。そしたら後日、彼らから「相談したいことがある」というメールが来て、それで会うことになりました。

ただ当時、Creepy Nutsは別のマネージメント会社に所属していたので、こちらとしては契約とか仕事の話は抜きにして、ひとまずその相談だけ聞きます、っていうスタンスでした。

――どんな相談だったんですか?

彼らもまだ駆け出しだったので、自分たちが思っている業界のしきたりやルールが正しいのかどうなのかっていうのがよくわかってないので、それを普段自分たちが関わってる人以外にも聞いてみたいと。

――セカンドオピニオンのような。

そうですね。僕以外にもいろいろとリサーチしてたようでした。

――確かにヒップホップの世界は音楽業界のなかでも特殊なルールやしきたりがあったりして、いわゆる音楽業界との乖離がありますね。そういった部分を確認したかったんでしょうか。

本人たち的にも活動に手応えを感じてきていたタイミングだったと思うので、改めて置かれてる状況を再確認したかったのかもしれないですね。

――ちょうど、『たりないふたり』(2016年)がヒットし、『みんなちがって、みんないい。』(2016年)、『助演男優賞』(2017年)のMVがバズるなど、ユニットとしての注目度も高まっている時期ですね。

『みんなちがって、みんないい。』MV

『助演男優賞』MV

そんななかで、“腹を割って話してくれた”っていうのがすごく大きかったんですよね。僕はライブを2回しか観たことがなかったし、ふたりとしてもこちらが信頼できるかどうかなんてわからなかったと思うんですよ。僕としても他社のアーティストだから、ルール違反にならないように慎重にならざるを得ない部分もあって。

だからあくまで第三者として、少しだけ彼らよりこの業界を知ってる人間としてアドバイスしたり話をしたりしたんですが、そんな僕に対して、猫が仰向けになってお腹を見せるかのように無防備に腹を割って話してくれて、それだけで信用に足るふたりだと思って。それで会社の新人発掘会議で「Creepy Nutsを手掛けたいです」って言ったんです。

後編につづく

文・取材:高木“JET”晋一郎

<ライブ情報>

2021年1月9日~3月17日『Creepy Nuts One Man Tour「かつて天才だった俺たちへ」』
詳細はこちら(新しいタブで開く)

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