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連載Cocotame Series

IPを生み出すレシピ

シュールでかわいい恐竜ショートアニメ『ダイナ荘びより』ができるまで【前編】

2021.04.23

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“知的財産権”を意味するIP(Intellectual Property)。キャラクタービジネスの世界では、グッズやゲームなどさまざまな形で知的財産を販売、貸与する「IPビジネス」が定着している。その「IPビジネス」の源泉となる新規IPの創出は、今やエンタテインメントビジネスの要と言っても過言ではない。

連載企画「IPを生み出すレシピ」では、オリジナルキャラクターや作品を生み出そうとする人たちに焦点を当て、IP創出の難しさや喜びを聞いていく。

連載1回目は、2021年4月3日よりTOKYO MX、BS11でオンエアを開始したオリジナルショートアニメ『ダイナ荘びより』をフィーチャー。本作は、ソニーミュージックグループのIP創発プロジェクトに参画する、ソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)とアニプレックス(以下、ANX)の2社が共同制作で生み出した作品だ。

前編では、プロジェクト立ち上げの経緯から2社の協業による『ダイナ荘びより』の企画展開についてプロジェクトメンバーに話を聞いた。

  • 江川昌宏

    Egawa Masahiro

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

  • 佐村大侑

    Samura Daisuke

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

  • 小田桐成美

    Odagiri Narumi

    アニプレックス

  • 松永友喜子

    Matsunaga Yukiko

    アニプレックス

自由な発想で考える2社共同のIP創発プロジェクト

――今回はオリジナルアニメ『ダイナ荘びより』について話を伺っていきます。この作品は、ソニーミュージックグループ内のSCPとANXの2社共同による「新規IP創発プロジェクト」から生まれたものだと伺いました。まずは、このプロジェクトが始まった経緯を教えていただけますか?

江川:ANXとSCPの2社は、2018年以降、ソニーミュージックグループ内のセグメントで“ビジュアル&キャラクター”という同じビジネスグループに属しており、交流を活発に行なってきました。そのなかで、「両社ともにキャラクターを使ったライセンスビジネスを展開しているので、それぞれの得意領域をいかして、自由な発想で新しいIPを考えよう」という話が挙がり、2019年から2社共同でのIP創発プロジェクトが始まったんです。

ここに集まっているメンバーでは、私と松永さん、佐村さんはプロジェクトチーム発足時から参加しているメンバーで、小田桐さんはアニメ制作の即戦力として途中から参加してくれているメンバーですね。

――プロジェクトにテーマのようなものはあったのでしょうか。

松永:発足当時から“エバーグリーン”というのがテーマのひとつになっていました。

――“いつまでも色あせない”という意味ですね。

松永:はい。プロジェクトは“両社の強みをいかして何ができるか”を手探りするところから始まったので、まだ、そのころは“どんなキャラクターを作るのか”というのが明確になっていなかったんです。

ただ、何をするにしても長くつづくことが大事であるという共通認識はあって。瞬間的に終わってしまうプロジェクトにしないために、そして多くの人に永く愛される何かを生み出すために、このテーマが設定されました。

江川:始まってから1年くらいは隔週ペースで集まって、ブレスト的に意見交換を行ない、いくつかの企画が具体化に向けて動き始めていたんですが、2019年末くらいに『DinoScience 恐竜科学博』の話が我々のところにも降りてきました。

『DinoScience 恐竜科学博』はソニーグループが総力を挙げて開催する恐竜展で、ソニーミュージックグループもエンタメ領域におけるコンテンツの制作やアーティストの参加が決まっていたので、「新規IP創発プロジェクト」からもイベントを盛り上げる何かを考えてほしいというオファーが社内から提示されたんです。

■「Sony presents DinoScience 恐竜科学博 ~ララミディア大陸の恐竜物語~」の公式HPはこちら(新しいタブで開く)

松永:その上で、恐竜は男性層に人気のコンテンツであることが過去の統計からわかっていたので、私たちのチームには、老若男女を問わず、幅広い層に向けてPRできるものを考えてほしいというオーダーがありました。

そこで『DinoScience 恐竜科学博』の担当者たちも含めた検討会を行ない、“かわいい恐竜のキャラクターたちによるショートアニメ”のアイデアがまとまり、『ダイナ荘びより』のプロジェクトがスタートしたんです。

作品の世界観に合ったキャラクターデザイナーを抜てき

――『ダイナ荘びより』の企画立ち上げ時、皆さんは恐竜に関してどれくらいの知識をお持ちだったのでしょうか?

松永:スタート時点では、私たち4人を含めてプロジェクトメンバーは全員ほぼ知識ゼロでしたね。

佐村:恐竜の本を買って、みんなで回し読みをしましたよね(笑)。

小田桐:サイエンスコミュニケーターで、『DinoScience 恐竜科学博』の企画・監修も行なっている“恐竜くん”こと田中真士さんに講義も開いていただきました。

江川:恐竜くんの講義は“そもそも恐竜とはなんぞや”から始まり、“現在、恐竜の研究がどこまで進んでいるのか”まで詳しく解説していただいて、大変勉強になりました。「恐竜は学術的には鳥類に分類されるんですよ」と言われて、「え、爬虫類じゃないの?」というのが僕らのリアクション。つまり、我々の恐竜に対する知識レベルは、その程度のものだったということです(苦笑)。

松永:恐竜ファンの方が世の中に多くいらっしゃるなかで、『ダイナ荘びより』の作品内でも恐竜に関する事実誤認があってはいけないので、検証が必要であることを改めて実感させられましたよね。もちろん作品としての演出はありますし、この見た目とファンシーな世界観なので、学術レベルでの整合性を追求しているわけではありませんが、それでも恐竜を扱う上で、ベースとなる知識は大事にしようと心がけました。

江川:松永さんはこの4人のなかで、誰よりも熱心に恐竜について勉強してましたよね。プロジェクトをスムーズに進める上で、かなりの推進力になりました。

――“恐竜”をかわいいキャラクターにして、オリジナルアニメ作品を作るという発想について、当時、皆さんはどのようにお考えでしたか。

小田桐:ANXでは、ファンシーなキャラクターの作品を手掛けた実績が少なかったので、制作が始まった当初はかなり手探りな状態でした。特に恐竜たちのキャラクターデザインを作るときは、SCPの皆さんの知見によるところが大きかったです。

今回は、アニメ系のクリエイターの方ではなく、かわいくゆるいキャラクターを描けるイラストレーターの方にお願いしようということになったので、そのジャンルに精通している江川さん、佐村さんにフォローしていただきました。

佐村:SCPは、普段からかわいらしいキャラクターやシュールなキャラクターなどを描けるクリエイターの方を探す仕事をしているので、キャラクターデザイナーの候補になる方を何名か挙げさせてもらったんですよね。そこからコンペになり、候補の皆さんに恐竜のキャラクターを描いていただいて、最終的に今回はうさぎメンさんにお願いすることになりました。

昭和感あふれるアパートに住む現代に生きる恐竜たち

――それでは、作品の内容についても伺っていきます。まずは、ダイナ荘という昭和感あふれるアパートを主な舞台として、恐竜たちによるゆるいテンションの掛け合いが描かれるという内容にした経緯を教えてください。

江川:ブレストでアイデアを出し合っているときに、ゆるかわのキャラクターたちがシュールなやり取りをしていたら面白いんじゃないか、という話が出て全体の方向性が定まりました。そしてグループメンバーのなかで、一番、恐竜について勉強して詳しくなった松永さんが“絶滅”にこだわり、本編のなかでも結構キーワードとして出てくることになったという(笑)。

松永:恐竜のことをいろいろ調べて勉強していくうちに、のめり込んでいったんですが、「でも、結局、恐竜は絶滅しちゃうんだよなぁ」という思いにふけるようになってしまって。制作の方たちにも、切ないんですが“絶滅”というキーワードを盛り込んでいただきたいとお願いしたんです。

佐村:松永さんのアイデア自体がすごくシュールでしたよね(笑)。あの世界観でありながら“隕石が落ちてきて絶滅”するっていう。でも、その案がちゃんと本編にも残りましたからね。

松永:『ダイナ荘びより』に登場するキャラクターたちは、絶滅の運命を内包したまま現代にいる恐竜たちという設定なんですよね。“恐竜たちがアパートに住んでいる”というアイデアは江川さんだったと思います。

江川:まぁ、見ての通りダジャレですよね。“ダイナソー”だから“ダイナ荘”……(笑)。みんなでワイワイやってるときに、たくさんの恐竜たちが住んでいるアパートがあれば面白いんじゃない? みたいな流れだったと思います。

小田桐:電車の路線でいうと、東京のどの沿線に住んでいるか? という話もしましたよね。

松永:そうそう(笑)。「中央線沿線の安いアパートが良いんじゃない?」みたいな流れになりましたね。これは裏設定ですけど。

佐村:この辺の大枠が決まったところで、アニメ制作スタジオのファンワークスの皆さんに入ってもらって、意見をいただいたんですよね。それで最終的な詰めを行なっていきました。

江川:ファンワークスの皆さんとはこれまでお仕事をしたことはなかったんですが、以前からご一緒したいと考えていて、今回オファーをさせていただきました。結果、引き受けいただけて監督に野中晶史さん、脚本家に細川徹さんのご推薦があって、スタッフィングが固まりました。それが2020年の3月くらいでしたね。

佐村:当時は1年後のオンエアってだいぶ先の話だなと思っていましたけど、いざ始まってみるとあっという間でしたね。

■アニメ【ダイナ荘びより】ダイ1話「レジと絶滅」

■アニメ【ダイナ荘びより】ダイ2話「おひな様とシュークリーム」

SCPとANXの得意分野をいかしたオリジナルアニメ制作

――SCPとANXが共同でオリジナルアニメ作品を制作し、IPを生み出すのは今回が初めての試みですが、『ダイナ荘びより』を通じて両社の違いをどんなところに感じましたか。

小田桐:“かわいい”を売りにするキャラクターの作品は、もっとチャレンジしてもいいなと感じるジャンルでした。そのため『ピーナッツ』や『ピングー』、『リサとガスパール』などのかわいいキャラクターのライセンスビジネスを多く手掛けるSCPのビジネススタイルや売り出すときのやり方を間近で見させていただいて、すごく勉強になりましたね。

松永:ANXでは、作品がオンエアや劇場公開されて、ファンの方たちの熱量が高まっているタイミングを逃さず、パッケージやグッズを展開してビジネスを拡大させていく、どちらかと言うと期間集中型が主流です。いっぽうで、SCPは『きかんしゃトーマス』や『ピーナッツ』で70年以上、『ピーターラビット』にいたっては100年以上の歴史を持ち、世界中で長年愛されているキャラクターでIPビジネスを展開しています。

この時間的感覚の違いは、IPビジネスのアプローチの仕方として違いがあるなと感じました。どちらが良い、悪いということではなく、IPの原点となるキャラクターの特性なので、それぞれにスタイルがあるのだとわかりました。

佐村:松永さんが言った通り、どちらが良い悪いじゃないんですよね。ANXは新しいものを作りながら進むスタイルで、SCPは歴史を守りながら進むスタイルなんですよね。僕らが「IPのライセンスビジネスとは、そういうものだ」と考えていたことに、違うやり方があるというこを改めて気づかせてもらえました。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

©ダイナ荘管理組合

関連サイト

オリジナルアニメ「ダイナ荘びより」公式サイト
https://dinosaur-biyori.com/(新しいタブで開く)
 
ダイナ荘びより 公式Twitter
https://twitter.com/dinosaur_biyori(新しいタブで開く)
 
ダイナ荘びより 公式Instagram
https://www.instagram.com/dinosaur_biyori/(新しいタブで開く)
 
「Sony presents DinoScience 恐竜科学博 ~ララミディア大陸の恐竜物語~」公式サイト
https://dino-science.com/(新しいタブで開く)

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