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連載Cocotame Series

IPを生み出すレシピ

シュールでかわいい恐竜ショートアニメ『ダイナ荘びより』ができるまで【後編】

2021.04.24

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“知的財産権”を意味するIP(Intellectual Property)。キャラクタービジネスの世界では、グッズやゲームなどさまざまな形で知的財産を販売、貸与する「IPビジネス」が定着している。その「IPビジネス」の源泉となる新規IPの創出は、今やエンタテインメントビジネスの要と言っても過言ではない。

連載企画「IPを生み出すレシピ」では、オリジナルキャラクターや作品を生み出そうとする人たちに焦点を当て、IP創出の難しさや喜びを聞いていく。

連載1回目は、2021年4月3日よりTOKYO MX、BS11でオンエアを開始したオリジナルショートアニメ『ダイナ荘びより』をフィーチャー。本作は、ソニーミュージックグループのIP創発プロジェクトに参画する、ソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)とアニプレックス(以下、ANX)の2社が共同制作で生み出した作品だ。

後編では、アニメの制作過程や見どころ、今後の展開についてをプロジェクトメンバーが語る。

  • 江川昌宏

    Egawa Masahiro

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

  • 佐村大侑

    Samura Daisuke

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

  • 小田桐成美

    Odagiri Narumi

    アニプレックス

  • 松永友喜子

    Matsunaga Yukiko

    アニプレックス

SNSの話題性につなげる“かわいい×シュール”なシナリオ

――『ダイナ荘びより』の制作過程や見どころについて具体的に聞いていきたいと思います。本作は1話90秒のショートアニメですが、ストーリーはどのように作っていったのでしょうか。

江川:脚本家の細川(徹)さんを交えて、関係者で打ち合わせをしました。ただ、もうそのときはコロナ禍でリモートワークに移行していたので、対面での打ち合わせはできませんでしたね。

松永:打ち合わせが始まった当初は、細川さんからかなりふんわりかわいい路線のシナリオをご提案いただきましたよね。

江川:『DinoScience 恐竜科学博』で公式キャラクターを務めることもお伝えしていたので、細川さんが得意にされているシュール路線を抑えてくれたんですよね。でも、我々からのオーダーは「もっと細川さんの世界観でお願いします!」だったので、そのようにフィードバックしました。

小田桐:そこからすごくシュールになって、これこそ細川さんの世界観という内容になっていったんですよね。

佐村:今はSNSで話題になることが大事な時代なので、視聴者が作品を観たときに初見のイメージ通りだと盛り上がらない。良い意味で裏切っていくことが必要だと思っていたんです。キャラクターはかわいらしいもので、ストーリーはシュールで毒っけがあるものにすると、とても良い組み合わせになるなと思いましたね。

普通では考えられないスピード感ある制作体制

――今回、“ダイナ荘”で共同生活をすることになる恐竜は、ティラノサウルス、トリケラトプス、ステノニコサウルスの3人(?)です。ティラノサウルスとトリケラトプスは、子どもたちの間でも人気の、みんなが知ってる恐竜ですが、ステノニコサウルスはマイナーですよね?

松永:ステノニコサウルスは、もともとトロオドンという恐竜と同じ種だと言われていたんですが、最近の研究で実は固有の種だと確認された恐竜です。名前はティラノサウルスやトリケラトプスほどメジャーではないですが、トロオドンとしては恐竜映画や恐竜アニメで知っている人も多いと思います。

ちなみに、ステノニコサウルスを登場させたのは細川さんからの提案でした。「名前が言いにくいのが、逆に良い」と。見ている人に「ステノニコ」と言わせてみたい、ということでした(笑)。

佐村:あえて『DinoScience 恐竜科学博』でフィーチャーされないレアな恐竜を出したいというのもありました。

松永:ティラノサウルス、トリケラトプスに比べて……誰なんだお前は? という感じですよね(笑)。

――アニメ制作スタジオのファンワークスと仕事をするのは今回が初めてというお話がありました。これまでのアニメ制作との違いはありましたか?

小田桐:今回は手描きの作画アニメではないので、作業工程が違うなとは思いました。うさぎメンさんのキャラクター原案を、ファンワークス側で動かしていただいて、そこで野中(晶史)監督も描き足しを行なう。V編(ビデオ編集作業/納品前の最終工程)では、監督にPCの前で待機していただいて、何か修正が出たら、その場で監督がデータを直して、すぐに送ってもらうという流れを組んでいただき、私が今まで経験したことのない制作のスピード感でした。

声優は強面恐竜顔おじさん3人でミスマッチを狙う

――今回、ティラノサウルス役に松重豊さん、トリケラトプス役に田中要次さん、ステノニコサウルス役に小峠英二さんがキャラクターボイスのキャストとして選ばれています。このキャスティングはどのように決められたのでしょうか。

江川:当初はトリオの芸人さんというアイデアもありましたよね。

松永:そうでしたね。3人の掛け合いが重要なので、そういうのも面白いんじゃないかという案も出ました。

小田桐:何度か打ち合わせを行なっていったなかで、脚本の細川さんが「松重さんはどうかな?」と、会議でぽろっとおっしゃったんですよね。細川さんは、別の映画で松重さんとお仕事をご一緒されていて、ピンと浮かんだそうです。そこから松重さんを軸に検討してみて、次に田中要次さんのお名前が挙がりました。

松重豊(ティラノサウルス役)

田中要次(トリケラトプス役)

小峠英二(ステノニコサウルス役)

佐村:最初は、主要キャストが全員おじさんで良いのかという議論がありましたよね。若い人もいたほうが良いんじゃないか? と。

小田桐:私と一緒にANXで『ダイナ荘びより』の制作に携わっている山田(温美/アシスタントプロデューサー)に意見をもらったんです。彼女は20代で、本作でメインにしていきたいターゲット層にぴったりだったので、ポイントごとで彼女の意見を参考にさせてもらっていたんですが、彼女は「ドラマなどでも、おじさんはブームになったし良いと思う」と言っていて。その流れで、小峠さんも面白いんじゃないかという話になりました。

佐村:そうこうしているうちに、松重さんにオファーができそうだという情報が入ってきて。そこから、どこか恐竜を連想させる強面のおじさんたちがキャラクターボイスを務めるというミスマッチが良いだろうということで固まりましたね。

――松重さん、田中さん、小峠さんのアフレコはいかがでしたか?

松永:皆さんそれぞれ声優経験もお持ちだったのでスムーズでしたね。松重さんがティラノサウルス役が2回目(映画『アーロと少年』)だということを現場でおっしゃっていて、ご縁を感じました。

小田桐:田中さんは、しっかりと役作りしてアフレコにのぞんでくださいました。特にトリケラトプスはセリフが少ないキャラクターなので、その分、存在感を出すのが難しい。だから、いろんなパターンの声を用意してくだっさんです。

江川:でも、田中さんっぽさがなくなってしまう感じがあったので、最終的には田中さんの地の声を中心にディレクションされてましたね。そして小峠さんは、アフレコでも小峠さんでした(笑)。

小田桐:そうですね。ステノニコサウルスのお芝居というよりも、小峠さん自身がしゃべっている感じ。

松永:すごくなごやかでしたよね。松重さんと小峠さんはともに福岡ご出身で、おふたりはご当地トークで盛り上がっていましたし、田中さんがその話に入れずにいると、松重さんが田中さんにその話を振るといった感じで。松重さんは本当に現場を柔らかくしてくださる方なんだなと思いました。

多くの人に愛されるキャラクターに

――さて、『ダイナ荘びより』のオンエアが始まりました。今後の展望をお聞かせください。

小田桐:『ダイナ荘びより』は全26話で、9月までの2クールで放送しますが、実はBlu-ray、DVD BOXの発売が既に決まっています。7月14日に発売予定なんですが、BOXにはその時点でテレビ未放送の回も含めて全話収録します。

江川:テレビ未放送分を先にパッケージで発売するなんて、あまりない試みですよね。

小田桐:放送局の皆さんのご理解とご協力もあって実現できました。ショートアニメで物語に連続性がある作品ではないというのが要因ではありますが、パッケージビジネスのひとつの方法論として、発売後の動きを注目したいと思っています。

江川:あとは『ダイナ荘びより』の恐竜たちが『DinoScience 恐竜科学博』の公式キャラクターに決まったので、こちらでも認知拡大に活躍できるように頑張っていきたいと思います。もちろん、当初からの目的だった新規IPとしてキャラクター単体で愛してもらえるものにしていきたいと思っています。

まずはアニメを多くの方に見ていただいて、ビジュアルやシュールな世界観に興味を持っていただければと。グッズの展開や、できればイベント的なものもやっていきたいと考えています。

――プロモーション面ではどのようなアプローチを考えていますか?

佐村:見た方が話題にしてくださって、SNSを中心に口コミで広まっていくと良いなと思っています。

松永:毎日、描き下ろしの新規イラストをSNSに出しているので、こちらも注目していただきたいですね。放送が始まってからは、エピソードの行間を感じさせるようなイラストになっています。Instagramではぬいぐるみを使って、恐竜たちがいろいろな場所を巡るコンテンツにもなっているので。

『ダイナ荘びより』公式Instagramより

佐村:毎日の投稿が必須のSNSを中心とした宣伝は、基本的にANXが中心になって進めてくれています。これには、本当に我々SCP側は助かっています。

江川:ANXは作品ごとに宣伝担当者がしっかりとついてくれるんですよね。専任の担当者が『ダイナ荘びより』のことを深く考えてくれているので、とてもありがたいです。

『ダイナ荘びより』公式Twitterより

――最後に『ダイナ荘びより』のアピールと視聴者の方たちにメッセージをお願いします。

松永:この『ダイナ荘びより』にはワニ先輩が登場するんですけど、恐竜とワニの関係が面白いんですよね。ワニは、恐竜と同じ時代(白亜紀、ジュラ紀)から地球に存在する爬虫類なんですけど、絶滅しないで現代まで生き残っています。ワニは絶滅せず、恐竜は絶滅というか、そのままでは生き残れなかった。その違いは何だったのかなと……。私は、恐竜を知れば知るほどワニが気になってしまって(笑)。『ダイナ荘びより』に登場するワニ先輩は、『ダイナ荘』に住む恐竜3頭の憧れの存在で、ティラノサウルスがワニ先輩の強さを知りたがったりするんです。そういう、生物の進化と淘汰のダイナミズムも、この作品で見つけていただけたらと思っています。人間だって絶滅しないとは限りませんし(笑)。

小田桐:ショートアニメを作るのは、私は今回が初めてでしたし、恐竜という男の子たちが好きそうな題材を、幅広い人に向けて作るという試みが面白いなと思っていました。ANXがこれまでやったことのない要素もたくさん詰まっていて、このチャレンジをやってみたいなと感じていたんです。このプロジェクトに携わることができて良かったなと思います。

それと作品としては、かわいい恐竜たち、渋めの声優陣、シュールな世界観、そして、結構、本気の恐竜知識をベースにした裏設定があるので、いろいろな角度で楽しんでいただけたらなと思います。

佐村:オリジナルアニメを作るということも、ANXと委員会を組んで制作するということも、初めてのことばかりで戸惑うことも多かったですが、滅多にない機会に関わることができて良かったなと思っています。

僕は、うさぎメンさんが生み出してくれた恐竜たちのキャラクターが大好きなので、多くの人に共感していただけるよう、これからもいろいろ仕掛けられればと考えています。

江川:作品については、松永さんと小田桐さんの言葉でバッチリ決まったので(笑)、私の方からはプロジェクトのまとめを。

やはり新規IPを創発するということは、本当に難しいということを改めて実感しました。おそらく10のプロジェクトのうち、9.9以上、長つづきさせるのは難しいものだと思います。しかも、自分がやっていることが正しいのかどうか、作っている最中はわからないし、他者からの評価も得られません。

そのなかで、今のメンバーはみんな楽しみながらプロジェクトに臨んでくれていて、それがすごく良かったなと思います。生みの苦しみというのはやっぱりあったし、リアルで全員が顔を合わせることができたのはたったの一度だけ。それ以外はリモートで打ち合わせという大変な状況でしたが、プロジェクトが挫折しなかったのは、皆さんの楽しんでいる空気感があったからだと思います。

同じソニーミュージックグループでも、やっぱり文化は違う2社の混合チームでしたが、面白いものを作ろうという意識だけは、全員ブレずに取り組めたので、そこは大きな成果だと思います。次がどうなるのかは、まだ決まっていませんが、『ダイナ荘びより』としても、チームとしても、まだまだ先を目指していければと考えているので、引きつづき頑張っていきたいと思います。

 

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

©ダイナ荘管理組合

関連サイト

オリジナルアニメ「ダイナ荘びより」公式サイト
https://dinosaur-biyori.com/(新しいタブで開く)
 
ダイナ荘びより 公式Twitter
https://twitter.com/dinosaur_biyori(新しいタブで開く)
 
ダイナ荘びより 公式Instagram
https://www.instagram.com/dinosaur_biyori/(新しいタブで開く)
 
「Sony presents DinoScience 恐竜科学博 ~ララミディア大陸の恐竜物語~」公式サイト
https://dino-science.com/(新しいタブで開く)

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