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IPを生み出すレシピ

10年愛される作品になった『あの花』――その原点にあるクリエイターたちの思い【前編】

2021.09.30

「IPビジネス」の源泉となるオリジナルキャラクターや作品を生み出そうとする人たちに焦点を当てる連載「IPを生み出すレシピ」。

今回は2011年にオンエアされ、大きな注目を集めたオリジナルアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(以下、あの花)』で、チーフプロデューサーを務めたアニプレックス(以下、ANX)の清水博之と監督を務めた長井龍雪氏に話を聞く。

今年8月、作品の舞台、埼玉県の秩父で『あの花』誕生10周年を記念するイベントを開催。10年という長きにわたり愛されるIPを作りあげた当時の様子を改めて語ってもらった。

前編では、『あの花』の企画の成り立ちから、オリジナルアニメ作品を生み出す現場のリアルを聞いた。

  • 長井龍雪氏

    Nagai Tatsuyuki

    『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』監督

  • 清水博之

    Shimizu Hiroyuki

    アニプレックス
    執行役員

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』とは?

 
仲良しだった幼なじみの6人組は、いつの間にかお互いの距離が離れてしまっていた。彼らが高校生になったある日、ヒキコモリ気味の主人公・じんたん(宿海仁太)の前に、事故で亡くなったはずの少女・めんま(本間芽衣子)が現われる。彼女は「お願いを叶えてほしい」とじんたんに言うが……。再び集った幼なじみたちは、その“願い”が何かを探し始める。2011年、フジテレビの深夜TVアニメ枠「ノイタミナ」で放送されたオリジナルアニメーション作品。劇場版アニメ化、ノベライズ、TVドラマ化されるなど大きな広がりを生んだ。監督の長井龍雪氏、脚本の岡田麿里氏、キャラクターデザインの田中将賀氏は、その後『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』といった劇場版アニメ作品を手掛けている。

初めての経験だったオリジナルアニメの企画・制作

──『あの花』の企画者のひとりであり、監督でもある長井さんと、『あの花』のチーフプロデューサーを務めた清水さんが初めて出会ったのはいつごろですか?

長井:『あの花』がきっかけでしたね。

清水:最初に脚本家の岡田(麿里)さんと「オリジナルアニメを作りましょう」という話をしていたんです。そのなかで監督、キャラクターデザインを誰にお願いしようかと、A-1 Pictures(以下、A1P)の岩田幹宏プロデューサー(『あの花』アニメーションプロデューサー)も含めた3人で相談するなかで、岡田さんが「長井さん、田中(将賀)さんはどうですか?」と提案してくださったんです。

実は、長井さんのことは、岡田さんにお話を伺う前からご活躍を知っていて。アニメ『ハチミツとクローバーII』で監督としてデビューされたことや、アニメ『アイドルマスタ-XENOGLOSSIA』でも監督を務められたこと。あとは、アニメ『舞-乙HiME』でのオープニングやエンディングの演出も個人的に注目していたんです。その後、岡田さんや田中さんと組まれたアニメ『とらドラ!』も素晴らしかった。そんな流れもあって、是非このメンバーでやりましょう! ということになり、長井さんたちとお会いすることになりました。

――岡田さんが出会いのきっかけだったんですね。それでは、今お話しに挙がりました『あの花』の脚本を手掛けた岡田さんと、キャラクターデザイン、総作画監督を務めた田中さんについて、おふたりからご紹介をお願いできますでしょうか。まずは岡田さんから。

長井:そもそも清水さんは、岡田さんとアニメ『黒執事』でご一緒されていたんですよね。

清水:そうですね。アニメ『黒執事』は漫画が原作の作品ですが、アニメ化の企画が立ち上がった時点では、まだコミックスの巻数が少なかったので、オリジナルのエピソードを作ることになったんです。そのときに脚本をされていた岡田さんが、原作者の枢やな先生のご意見をうまく汲んで、オリジナルのストーリーを作ってくださった。すごい実力を持った脚本家だなと。この人とならオリジナル作品が作れるかもしれない、と当時から思っていました。

長井:当時から岡田さんが書く脚本には独特の魅力がありましたね。『true tears』というアニメ作品で注目を集めて、『黒執事』でも評価されて。彼女は、書くものも素晴らしいんですが、人としても面白くて魅力的なんです。

清水:そうですね。すごくチャーミングな方です。

――つづいて田中さんについてもお願いします。

長井:もともと僕が田中さんの絵のファンで。『とらドラ!』を制作するときに、田中さんと一緒に仕事がしたいなと思って、僕から声をかけさせてもらったんです。自分はそこからのお付き合いになりますね。

清水:田中さんは「週刊少年ジャンプ」で連載されていた漫画『家庭教師ヒットマンREBORN!』がアニメ化される際に、キャラクターデザインを担当されていて、注目を集めていました。

長井さんと組まれていた『とらドラ!』では、デザインの秀逸さ、斬新さはもとより、キャラクターの動きをとても丁寧に描かれていたのが印象的でした。加えて田中さんが生み出す絵は、日常芝居が素晴らしいんですね。アニメにおける日常芝居というのは、アクションシーンとは別の意味で難しさがあるんですが、そこを繊細にまとめてくださる方だと感じていました。

――『あの花』の企画の出発点に関して教えてください。どんなことがきっかけで企画を思いつかれたんですか。

長井:『とらドラ!』を作り終わって、岡田さんから「考えている企画があるので一緒にやらない?」と声をかけてもらったのが『あの花』の始まりです。その段階で、既に『あの花』の核になる設定を岡田さんが考えていて。そこからその物語の流れを話し合っていきました。

清水:岡田さんとオリジナルの企画を考えていくなかで、当時アニメのジャンルとしては珍しかった「青春物をやりましょう!」という話になりました。岡田さんが考えていたプロットが3本あったのですが、そのうちの1本、「メメントモリ」という仮題がついたものが、『あの花』の原型です。自分も岡田さんも岩田さんも満場一致で、これを進めていこうと。長井さんが『あの花』の核になる設定とおっしゃったのが、まさにそのプロットです。

――オリジナルアニメの企画が生まれた背景についても教えてください。

清水:アニメのカテゴリで、いわゆる“原作もの”や“オリジナルもの”と言われることがありますが、ANXとしてはどちらにも真摯に取り組み、常にクオリティの高いものをアニメファンの皆さんに見ていただきたいという思いで取り組んできました。

その上で、オリジナル作品はまさしくゼロから企画がスタートするので、知名度がなくヒットさせるのが難しかったり、ビジネス的なリスクやプレッシャーを背負わなければいけないことがあります。それと同時に、ゼロからのスタートだからこそ、アニメクリエイターの個性やアイデア、スキルといったものが存分に発揮され、そこから意欲的な作品が生まれたり、新しい映像表現が発明されたりします。

当時の状況で言うと、ANXではアニメ制作スタジオのA1Pが手掛けた『おおきく振りかぶって』や『黒執事』といった原作がある作品がヒットしていたので、オリジナル作品でもヒットを生み出したいという意見が、制作現場も含めて挙がっていました。

最初からブレることなく変わらなかった作品の骨子

――おふたりはオリジナルのアニメ作品を作ることに、どんな面白さ、難しさを感じていますか。

長井:純然たるオリジナル作品を作ることは、僕にとって『あの花』が初めての経験だったので、ゼロから作ることの難しさはやはり感じました。ただ、僕らには3人で手掛けた『とらドラ!』という作品があって。そこで追求していた“日常描写を丁寧に描く”という方向性を、もっと発展させたいという思いがありました。岡田さんが考えていた『あの花』の原型のアイデアには、それができそうな可能性があった。それもあって僕は「ぜひ、この企画をやりたい」と言ったんです。

清水:長井さんがおっしゃる通り、オリジナル作品を生み出す難度は高いのですが、新しいジャンルに挑むことができますし、自分たちがIPホルダーになることで大きな展開を作ることも可能です。この企画には、その可能性があると判断しました。

――長井さんは『あの花』の制作が正式に決まったことを、どのように感じられましたか。

長井:僕らはそれまで、原作がないオリジナルアニメを作った実績がありませんでしたし、年齢的にも30代そこそこでキャリアもまだそこまであるわけではない。それでも清水さんたちが僕らを信頼してくださって、「一緒にやりましょう!」と言っていただけた。そのことが、とてもありがたかったですね。

――企画の原案から、実際のフィルムとして完成するまでには、どれくらい肉付けされたり、変化があったのでしょうか。

長井:最初に提出した企画書は本当に簡単なもので、ペラ紙2枚くらいのものだったんです。そこから、ちゃんとした企画書にしようということになりました。

清水:長井さんが監修して、田中さんが絵の要素を足してくださって。物語の舞台となる秘密基地の原型になるようなイメージボードもだんだん足されていきましたよね。

長井:最初にあった物語の骨子の部分はずっと変わっていません。そこから“いかに面白くするか”、“美しくラストを迎えられるか”を試行錯誤していきました。脚本の打ち合わせが始まるころには、いろいろな人が参加してくださっていたんですが、ポジティブな話し合いができたので、ストレスなく制作をつづけることができました。

清水:アニメの放送も最終的に「ノイタミナ」(フジテレビの深夜アニメ放送枠)に決まり、フジテレビのプロデューサーの方にも入っていただいて、制作自体は順調に進んだと思います。

――物語の骨子はブレず、面白くするために肉付けしていった。それが『あの花』を生んだんですね。放送が「ノイタミナ」になったのは、どのような経緯があったのでしょうか。

清水:やはり多くの人に作品を見てもらいたいと考えたときに、地上波でのオンエアは何としても入れたいと考えていました。その上で、「ノイタミナ」はオリジナルアニメにも力を入れられていたのと、深夜帯に独自のアニメ放送枠のブランドを築かれていたので、もしご一緒できるのであればと思って、プロデューサーの方にご相談したんです。そうしたら、「ぜひ、一緒にやりましょう」とお返事をいただいて。ANXとA1Pだけで進めていたプロジェクトにフジテレビも加わってくださり、プロジェクトが加速していきました。

『あの花』でIPとして確立したかったもの

――当時、制作を進めるなかで、おふたりは目標のようなものをお持ちでしたか?

長井:目標……目標はそうですね、当時はBDやDVDのパッケージのセールスで何巻でも良いので一度は販売数が1万本に届いてほしいと思っていました。当時は、それがヒットの目安になっていたので。

清水:現在のように、サブスクリプションサービスがなかった時代ですからね。海外への展開もそれほど大きくなかったですし。

長井:当時、ヒットしている作品は数万枚も売れていた時代でしたから、そういうところにちょっとでも届いてくれれば“次のチャンスがもらえるかも”みたいな思いはありました。

清水:アニメのジャンルとして“青春物”は、鉄板として人気が出るジャンルではなかったですし、原作がある作品のように漫画や作家の方のネームバリューに頼るわけでもなかったので、非常に挑戦的な企画だったと思います。あくまで当時のモノサシのひとつでしたが、監督のおっしゃる通り自分も1万枚ぐらいは、売れたら良いなと思っていました。

――第1話の放送後の反応はどのように受け止めていましたか?

長井:10年前にもSNSは存在していましたが、今ほどダイレクトに反響が見られる状況ではなくて、ネットではブログを中心とした口コミが多かったように記憶しています。でも、自分では直接そういう評価をチェックする勇気がなかったので、制作の方たちから「こんな良い感想をあげてくれてるブログがあったよ」と教えてもらっても、「そんなの信じない」と言ってました(笑)。

正直なところ、制作中は本当に時間がなかったので、皆さんの感想をチェックしている余裕がなかったんです。最終回まで制作が終わってから、改めてファンの方々の声を見させていただきましたが、「ああ、本当に皆さんに届いたんだ。『あの花』を愛してくださる人がこんなにいたんだと」と実感しましたね。

――その後に発売されたパッケージの第1巻の初動売り上げも、目標を大きく超えて達成されましたね。

長井:目標ということで1万本という話をしましたが、個人的には“田中将賀の絵をひとりでも多くの人に知ってもらいたい”という思いもありました。当時はイラストレーターや漫画家の方の絵をもとにアニメーションを起こしていくという流れが主流だったんですが、アニメーターの絵が原作となり、看板になるという例は少なかった。

そこで田中さんの絵を前面に出して、世の中に知らしめたいと思っていたんです。田中さんが生み出す絵にはそれだけの力があると感じていました。

――作品のストーリー性や世界観だけではなく、田中さんが描く絵というIPを作りたかったということですか。

長井:アニメにおいて、絵が与える印象は非常に大きなものがあります。絵柄が変われば、同じ作品でも別の作品だと思われてしまうほどです。でも、『あの花』は、田中さんが描いていれば作品として生きつづける。もちろん、田中さん自身の筆も進化しているし、10年前に描いていためんまと、現在のめんまはきっと違うところもあるんだけど、それでも田中さんが描けばオリジナルなんです。

清水:そうですね。今回、10周年を記念して描いてもらったキャラクターたちは、彼らの10年後の姿が描かれているんですが、そこには10年という時間の流れを感じることができる。

長井:同時に、それを10年間つづけてきたことで、『あの花』と言えば“田中将賀の絵”というイメージが確立できたと思うんです。それぞれの作品、そしてそれを生み出すアニメスタジオの個性が絵になって表現され、認知されているんだと思いますが、僕らの作品には“田中将賀の絵”というものが、個性として確立できたと思っています。

 
後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:篠田麦也

©ANOHANA PROJECT

関連サイト

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』TVアニメ公式サイト
https://www.anohana.jp/tv/
 
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』10周年記念サイト
https://10th.anohana.jp/
 
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』公式Twitter
https://twitter.com/anohana_project/

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