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ザ・プロデューサーズ~感動を作る方程式

王道で勝負する――アニプレックスで作る実写映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の挑戦【前編】

2021.06.25

エンタテインメントの分野で、さまざまな作品やプロジェクトの原動力を担う制作者に、ユーザーの元に届くまでの道のりや指針にしている思いを聞き、クリエイティブの方式を解く「ザ・プロデューサーズ~感動を作る方程式」。

今回登場するのは、『鬼滅の刃』など数々のアニメ作品の制作で知られるアニプレックス(以下、ANX)が、製作・配給する実写映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』のプロデューサー、村田千恵子。ANXが実写映画製作の分野に踏み出した経緯や狙いを聞く。

前編では、村田とANXの出会いと、『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の企画の始まりについて語る。

  • 村田千恵子

    Murata Chieko

    アニプレックス
    映画事業グループ 映画事業部
    プロデューサー

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』

2021年6月25日公開
 

 
ロバート・A・ハインラインが1956年に発表した名作SF小説『夏への扉』の実写映画化。物語の舞台を現代の日本に翻案している。1995年の東京で科学者・高倉宗一郎(山﨑賢人)は、愛猫ピートと妹のような存在の璃子(清原果耶)と過ごしながら、ロボットやプラズマ蓄電池の開発に勤しんでいた。しかし研究の完成を目前に、宗一郎は共同経営者と婚約者の裏切りにあい、すべてを失ってしまう。さらに人体を冷凍保存する装置に入れられ、2025年の東京で目を覚ますのだった。監督は、映画『ソラニン』や『フォルトゥナの瞳』を手掛けた三木孝浩。主題歌はLiSAの「サプライズ」。

アニメ作品と同じビジネスを実写映画でできたら面白い

――6月25日公開の映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』は、アニメ作品を数多く手掛けてきたANXが、実写映画製作に取り組んだ作品となります。この作品のプロデューサーを務めた村田さんの経歴を改めて教えてください。

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』

私は昔から映画がとても好きだったので、日本で大学を卒業したあと、アメリカに留学して映画製作を学びました。そのままアメリカに残ってワーナー・ブラザーズ・スタジオやサンダンス映画祭の事務局などで働いていたのですが、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を機に帰国しました。帰国後はNHKエンタープライズでアジア映画の共同製作と、“サンダンス・NHK賞”という若手映像作家支援事業を担当していたのですが、そのなかで日本の若手監督と関わる機会が多くあり、邦画製作の道に進むようになりました。

ANXに入社する前は、韓国のCJエンターテイメント、20世紀フォックス、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(以下、SPE)で邦画のローカルプロダクションを担当していました。そういう意味では、外国資本の会社で邦画製作をしてきた期間が長かったですね。

――ANXはアニメの劇場版映画をたくさん手掛けています。外からはどんな会社に見えていましたか。

ANXがアニメーションを手掛ける会社だということは当然理解していましたし、その始まりがSPE・ビジュアルワークスという、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント ジャパンとソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)との共同事業だったということも認識していました。

そこから年月をかけてソニーミュージックグループでじっくりと成長し、今では数多くのアニメ作品を製作し、海外戦略や劇場公開までを自分たちの手で手掛けるようになっている。私がSPEに在籍していたときから、ANXは自分たちでものを作る会社で、クリエイターとユーザーに向き合っている、ある種の“スタジオ”的な会社だと思っていました。ANXがアニメ作品を作り、そこから国内外へ多彩な展開をしているように、同じことを実写映画でできたら面白いだろうなと思っていました。

──ANXは過去にも何本か実写映画を製作されてましたが、2020年から映画事業部として継続的に実写映画製作に取り組むようになり、その第1弾が大友啓史監督作品『影裏』でした。本作にはどのように関わられたのでしょうか。

『影裏』 監督:大友啓史/出演:綾野剛、松田龍平ほか/配給:ソニー・ミュージックエンタテインメント/配給協力:アニプレックス

私がANXに入る前から、『影裏』は既にプロジェクトとして存在していました。『るろうに剣心』シリーズなどの大友啓史監督が、五十嵐(真志)プロデューサーと、よりパーソナルな作品として作ろうとされていて。最初は「配給をやりませんか?」というご提案をいただきました。

私自身も大友監督とはいつか一緒に仕事をしたいとお話をしていましたし、『影裏』の脚本を拝読したら本当に素晴らしい作品で。監督にとって大切な作品を世に出すお手伝いをさせていただきたいと引き受けました。そのタイミングで私がANXに入ったので、結果的に、ANXがこの作品の配給に関わることになりました。

――その後、ANXは行定勲監督の映画『劇場』にも関わっています。

『劇場』 監督:行定勲/出演:山﨑賢人、松岡茉優、寛一郎、伊藤沙莉ほか/配給:吉本興業

ANX入社後に、SME経由で「共同配給で宣伝を担当しませんか」というご提案をいただきました。企画を拝見すると、『キングダム』でご一緒した山﨑賢人さんが主演で。その時点で、『夏への扉』の映画化が山﨑さん主演で動き始めていたこともあり、我々のチームで宣伝をさせていただいて、何か力になれるならと思ったんです。『劇場』は、企画からの関わりではなかったのですが、ANXのスタッフが行定監督の現場にアシスタントプロデューサーとして参加させていただくこともできて、映画事業としてもとても意義のある作品となりました。

センチメンタルで心温まる、原作の良いところを大切に映画化

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』

──『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の企画はその時点で既にあったんですね。

はい。本作で企画・プロデュースを務めている小川真司さんとは、いろいろな映画企画の話を、長年にわたって意見交換をしてきた間柄で。小川プロデューサーが「小説『夏への扉』を映画化したい」とずっとおっしゃっていたんです。

ただ、初版は1956年の小説ですし、原作の映画化権の権利者がわからなかった。著者のロバート・A・ハインラインは既に亡くなっているし、過去に映画化されたこともない作品でしたから。まずは原作権をあたるというところから参加しました。

――原作はハインライン作の古典的SF作品です。映画化するにあたり、どんなところを大事にしようと考えていましたか。

『夏への扉 ─キミのいる未来へ─』は、ハインライン作品のなかでも、特に日本で人気がある作品です。時間を行き来するという意味でSFではあるのですが、ストーリーそのものはセンチメンタルでナイーブなお話で、“SF”でイメージするような、宇宙を舞台にしたCG満載のバトルがあるような作品ではない。

だからこそ、この作品を実写化するときも、センチメンタルで心温まる、原作の持っている良いところを大切にしようと。現代の人たちが感情移入できるものにしようと考えました。その上で、三木孝浩監督にお願いしたんです。

――観客がリアルに感情移入できる人間ドラマとして描くということですね。

そうですね。なので、SF作品ではありますが、未来の世界をじっくり見せるといったようなスペクタクルな描写がこの作品の根本ではないんです。以前、小川プロデューサーが『陽だまりの彼女』(2013年)という映画を製作されたのですが、それがすごく優しくて素敵な作品で。男性が見ても、女性が見ても楽しめるラブストーリーになっていた。それで、『陽だまりの彼女』のチームで作れたら良いんじゃないかという話になり、三木監督と脚本の菅野友恵さんにお願いしました。

最初から全国300館以上での上映を目指す映画として作った

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』

――『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の企画が立ち上がったのが2015年、6年越しの映画化なんですね。村田プロデューサーはこれまで数多くの実写映画作品に携わっていらっしゃいますが、通常これくらいの製作期間がかかるものなのでしょうか。

製作期間は長い部類に入ります。脚本ができあがるまでに、とにかく時間がかかりました。

原作の物語は、執筆された当時は近未来だった1970年と2000年を舞台にしていますが、設定を現代に近づけようと考えました。原作のセンチメンタルな情感をかき消さないように、ちょっと懐かしい1990年代の日本と、派手な未来描写が必要ない近未来の日本に置き換えていったんです。でも、そうやって作品の舞台を変えると、おのずと登場人物の感情や行動が変わっていくんですね。そうやって、ひとつずつ整理しながら脚本を作っていったので、どうしても時間がかかりました。

――作品の公開規模などは、早い段階から想定されていたんですか。

最初から全国公開で300館以上を目指す映画として作ることを考えていました。この作品に限らずなのですが、ANXに入るときに岩上(敦宏/代表取締役執行役員社長)とも「いわゆる、映画の王道路線で勝負できる作品を作っていきましょう」と話していました。

『キングダム』でご一緒して、東宝の配給の力を実感しましたし、ANXも『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を東宝と共同配給しました。結果として、実写映画で300館規模を目指すために東宝とご一緒しようという方向になりました。

――共同配給というのは、具体的にどんな役割分担があるのでしょうか。

配給とは、劇場営業と宣伝の両方を指す言葉なのですが、映画館に作品をかけてもらうように営業する劇場営業と、映画を広く知らしめる配給宣伝の両方の業務があるんですね。

今回の場合は、劇場営業は東宝で、宣伝はANXが担当しています。ほかの作品では共同配給の会社と協力して、ANXの劇場営業チームがかなり稼働する場合もあったり、いろいろな形があると思います。

――長い時間をかけて脚本を仕上げ、新天地で大作を作る。熱量を保ったまま地道な積み重ねが必要だと想像しますが、この企画への確信はどんなところから来るのでしょうか。

答えるのが難しい質問ですね(笑)。でも、やっぱり山﨑賢人さんの主演が決まったことは大きかったと思います。三木監督と山﨑さんのふたりが組むのが、山﨑さんの映画デビュー作『管制塔』(2011年)以来10年ぶりという縁もありましたし、脚本が本当に良い形になったというのもありました。実際に撮影に入ってからは、山﨑さんと清原果耶さんのふたりのシーンを見たときに、「ああ、このふたりで良かったな」という手応えを感じましたね。

 
後編へつづく

文・取材:志田英邦

関連サイト

映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』オフィシャルサイト
https://natsu-eno-tobira.com/
 
映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』公式Twitter
https://twitter.com/natsu_doormovie
 
映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』公式Instagram
https://www.instagram.com/natsu_doormovie/

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