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連載Cocotame Series

ザ・プロデューサーズ~感動を作る方程式

王道で勝負する――アニプレックスで作る実写映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の挑戦【後編】

2021.06.26

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エンタテインメントの分野で、さまざまな作品やプロジェクトの原動力を担う制作担当者に、ユーザーの元に届くまでの道のりや指針にしている思いを聞き、クリエイティブの方式を解く連載。

今回登場するのは、『鬼滅の刃』など数々のアニメ作品の制作で知られるアニプレックス(以下、ANX)が、製作・配給する実写映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』のプロデューサー、村田千恵子。ANXが実写映画製作の分野に踏み出した経緯や狙いを聞く。

後編では、『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』製作の裏側へ踏み込みつつ、ANXの実写映画製作を担うプロデューサーとしてのこれからのビジョンを語る。

  • 村田千恵子

    Murata Chieko

    アニプレックス
    映画事業グループ 映画事業部
    プロデューサー

スター性がある役者に主人公を演じてもらいたい

──(前編からつづく)では、『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』が大作となる手応えを得たというキャスティングをどのように進められたのか聞かせてください。

以前、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(以下、SPE)で『斉木楠雄のΨ難』という映画を担当したんですが、その作品で主人公の斉木楠雄を演じられたのが山﨑賢人さんでした。そのあとに、『キングダム』でもご一緒させていただいて。大規模な中国ロケも行なった大作ですが、「作品を背負う力がある役者さんだな」と改めて思いました。

『キングダム』公開時は25歳という若さでしたが、私たち製作陣は「山﨑さんが信を演じてくれるのなら、この作品は実現できる」と思うことができた。そういうスター性をお持ちの方なんです。

山﨑賢人演じる高倉宗一郎。

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』も、脚本を練っている段階から小川真司プロデューサーと、「スター性がある役者に主人公を演じてもらいたい」という話をしていました。ハリウッドスターのようなマッチョなスターではなくて、繊細で内向的でも、愛されるようなタイプですね。そういう人物を嫌味なく演じられる人はなかなかいないよねと話をしていたんです。そんななかで、山﨑さんはどうだろうという話があって。彼の、スターなのにピュアで清潔感のある感じは、まさに『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』の世界観にぴったりだろうと。

――相手役は清原果耶さんです。現在、朝のNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』の主演を務めている、注目の若手女優ですね。

清原果耶演じる璃子と猫のピート。

原作ではヒロインはもっと幼くて、そのまま現代に置き換えると、ふたりのバランスが気になってしまうんじゃないかなと思っていたんです。ただし、年の離れた男女の物語を描くことは、本作にとって重要なポイントでもあったので、そこを丁寧に見せていこうと思いました。

そこで候補になりそうな女優さんをリストアップしてプロデューサー陣と監督で議論をしていきました。そのときに満場一致で、清原さんにお願いすることになったんです。とても組み合わせが難しいキャスティングだったのですが、撮影を開始してみると、山﨑さんと清原さんは良いキャスティングだったなと感じました。

――原作はSF作品であり、1950年代に執筆された作品です。現代人が持つ感覚にも配慮してキャスティングをされていたんですね。

キャスティングだけでなく、脚本面もかなり配慮しています。今回の脚本家が菅野友恵さんだったことも大きくて、女性から見ても違和感のない関係性として描けていると思います。

――菅野友恵さんの脚本の魅力は、どういったところでしょう。

三木監督と組まれていた『陽だまりの彼女』では、男性目線と女性目線の両方から登場人物を魅力的に描いていらして、素晴らしい脚本家だなと思っていました。今回も原作の時代的な描写をしっかり現代に置き換えて、違和感のないように調整してくださいました。特にヒロインである璃子の意思をしっかりと描いてくださったのが、現代に置き換える上で膨らんだところですね。

──ロボットを登場させているのも映画ならではだと思います。そこにはどんな経緯があったのでしょうか。

原作にはロボットは出てこないのですが、そのまま映画にすると、主人公が心のなかで決断して行動を起こすことが多くなる。そうすると、一つひとつの行動の意味が観客に伝わりにくくなってしまうと考えました。それを解消するには、主人公が動機や悩みを吐露する第三者が必要だろうと。そこで相棒としてロボットを出すことにしたんです。

──ロボットを演じているのは藤木直人さんです。このキャスティングも意欲的ですね。

藤木直人が演じるロボット。

ロボット役のキャスティングはすごく悩みました。山﨑さんが演じる主人公の宗一郎がなんでも話せるような相手にしたかったんです。だとしたら、ちょっと年上の男性なのではないだろうかと。自分よりも年上のロボットに接することで、宗一郎のナイーブさが前面に出ると良いなと思っていました。

ベストを出せる環境さえ整えたら、あとは見守るだけ

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』

──撮影が始まってからは監督をはじめとするスタッフとキャストが主軸になって作品を作っていくことになると思いますが、撮影の現場でプロデューサーとして意識していることはどんなことですか?

撮影が始まり、現場が動き出すと、私のすることはほとんどなくて(笑)。“監督が撮りたい画(え)をちゃんと撮れること”“監督のビジョンが撮影現場で形になっていること”“役者が、足枷なく、やりたい芝居ができていること”だけを気にかけるようにしています。

映画の撮影現場では、スタッフもキャストもアスリートのようなものだと私は思っていて、試合で自己ベストを出すかのような仕事だなと。ベストを出せる環境さえ整えたら、あとは見守るだけです。もちろん、現場に行って状況を把握しないと判断できないこともあるし、予測不能なことがあるので、基本的には目を離すことなく、みんながベストを尽くすことができる現場作りを目指しています。

──2019年末ころから新型コロナウイルス感染症が拡大し、さまざまな業界で影響が出てきていました。今回の現場にも影響がありましたか?

撮影はギリギリ影響を受けることなく終えることができました。ただ撮影が終わってから、感染症が拡大し始めたので、撮影後のポストプロダクション作業の一部をオンラインでやらなければならなかったり、劇伴のオーケストラのレコーディングが延期されることもありました。やはり、作品全体への影響は大きかったと思います。一番大きかったのはなかなか公開日が決められなかったことですね。

──映画館での公開はとても厳しい状況になっていましたね。当初は2021年2月19日からの封切りが延期されました。

もともと、お客さんに映画館へ足を運んでいただくということは、とても難しいことだと思っていました。しかも、コロナ禍にオンデマンドによる映像配信サービスが急激に普及して、家庭でも高クオリティの映画やドラマシリーズが楽しめるようになりました。アメリカのメジャースタジオも新作の劇場公開をやめて、配信に切り替えるということも増えてきました。そのなかで、私たちは劇場公開する価値のある作品を提供しなくてはいけない。そこはすごく大変な状況になったなと痛感しています。

『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』

――その状況下で、村田プロデューサーはどんな想いで『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』を製作し、劇場公開をされるのでしょうか。

そこは岩上(敦宏/ANX代表取締役執行役員社長)と話していた「映画を作るなら、大きな作品を」という考えに通じるところだと思いますが、映画館で見る価値のある作品とは、スペクタクル感や強いメッセージを持つ映画だと思うんです。『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』は、明るい未来を求める物語です。このコロナ禍でこそ、ポジティブなメッセージを感じていただける、映画館で鑑賞する価値が十分にある作品になったのではないかと思っています。

ANXは“ものを作る”“作品を生み出す”会社

──改めて、ANXで製作を手掛けて良かったと感じる点はどんなところでしょうか。

一番大きいのは、ANXという会社自体が“ものを作る”“作品を生み出す”ところから始まっている会社だということです。 “まず作る。作ってから、その作品を一番良い形で見てもらう方法を考える”という社風があると感じています。「この作品を作りたい」という想いをすごく大切にしています。どのクリエイターと組むか、どんな魅力的な原作を手掛けるか。そして、その作品をベストな形で作るにはどうしたらいいか。

そういった条件をクリアしてから、お客さんに届けるベストな方法を模索していく。そういう考え方をしているから、作品ごとにしっかりとクオリティを追求できるんだと思います。そういうマインドは、実写映画という新しい事業をANXで始める上で、すごくやりやすかったところでもありますね。

――『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』は、実写映画の製作・配給に踏み出したANXにおいても、大きな意味を持つ作品になるかと思います。今後についてはどのようなビジョンをお持ちですか?

実写映画は本当にたくさんの会社が手掛けているので、新しく参入するのは難しい面もあると思っています。そういうなかで、新規事業として挑む以上は、業界に良い影響を与えないといけない。まずは何よりも良い作品を作ることを考えていきたいと思っています。

――現在、温めている企画はありますか?

ありがたいことにANXのなかには、アニメだけでなく実写もやっていきたいというスタッフもいるので、今はそのスタッフたちと、企画を何本か進めています。

――村田プロデューサーがいつか撮りたいと思っている、理想の映画のイメージはありますか? 

そうですね……すごく美しい映画を作ってみたいです。バズ・ラーマン監督(『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャッツビー』)やウォン・カーウァイ監督(『恋する惑星』『天使の涙』)の作品のような、1フレーム1フレームをそのまま切り取って美術館に展示できるような、映像美豊かな作品と言いますか。あと、VRの作品はやってみたいですね。過去にも考えたことがあるんですが、VRは壮大な準備が必要で。でもいつかはやってみたいと思っています。

 

文・取材:志田英邦

関連サイト

映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』オフィシャルサイト
https://natsu-eno-tobira.com/(新しいタブで開く)
 
映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』公式Twitter
https://twitter.com/natsu_doormovie(新しいタブで開く)
 
映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』公式Instagram
https://www.instagram.com/natsu_doormovie/(新しいタブで開く)

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